赤ちゃんの言葉の発達と前言語期の音声・喃語

前言語期における赤ちゃんの音声発達

赤ちゃんの言葉を聴き取る能力の発達(音声知覚)

発達心理学のコンテンツ

前言語期における赤ちゃんの音声発達

産まれて間もない0歳~1歳6ヶ月までの乳児の言語発達は限定的なものであり、1歳の誕生日を迎える頃から『意味のある言葉』を発して本格的な言葉の獲得が始まります。赤ちゃんは1歳頃になるまでは『意味のある言葉』を発することがなく、反射的な音声や叫び、笑い、泣きが見られるだけなので、その期間は『前言語期(pre-verbal period)』と呼ばれます。前言語期は1歳以降に言葉を習得していくための準備期間としての重要な役割を持っていますが、赤ちゃんは6ヶ月~1歳頃になるまで『多様・複雑な言語の音』を出すための発声器官が十分に発達していないために、言葉を発することができないという要因もあります。

乳児期の赤ちゃんは音声を発するための器官である『咽頭部』の空間が狭く、その空間の狭さに対して『舌の大きさ』が大きいので、口内で舌を動かせる自由度が低く多様・複雑な音を出すには限界があると考えられています。赤ちゃんの前言語期の音声発達プロセスは以下のような段階で進んでいきます。

言語獲得の準備段階である『前言語期(0歳~1歳)』も、6~10ヶ月頃になると乳児の発声器官がより色々な音を出せるように発達してきて、『舌・唇・顎の筋肉』を連動させ協調させることによって『より高度な言語に近い音』を出しやすくなってきます。この時期は生後1年間の前言語期において、言葉を話せるようになるために最も重要とされる『規準喃語(きじゅんなんご)』が発声してくる時期でもあり、乳児は“子音+母音の規準喃語”の発声が少しずつできるようになります。

『子音+母音』というのは“ma(ま),pa(ぱ),da(だ),to(と)”などの音であり、乳児は自分が気に入った子音+母音の組み合わせの音を見つけると、『マ・マ・マ・マ……,パ・パ・パ・パ……,ダ・ダ・ダ・ダ……』といった多音節から構成されるリズミカルな規準喃語の発生をし始めます。多くの場合、乳児の育児段階では『ママ・パパ』という単語を母親や父親が必死に教えようとするので、マやパの連続発声が見られやすい傾向があります。

生後1年間の前言語期において、規準喃語の発声が重要だと考えられている理由は、『人類の持つ言語・ことばのほぼ全て』が複数の子音+母音の音節の組み合わせの構造で単語が作られているからであり、『子音+母音の規準喃語のリズミカルな発声ができるようになる事』は言語習得のために不可避の課題になっているからです。

親(大人)が赤ちゃんの言葉を聴いていて、『何となく意味がある言葉』を話し始めたなと感じ始めるのは大体11~12ヶ月頃(1歳前後)であり、その時には『異なる2つ以上の子音+母音の音節』を組み合わせて“バブ”などの音も出せるようになってきます。そして、1歳を過ぎる時期になってくると(赤ちゃんによってかなりの個人差はありますが)、『マンマ・バアバ・ブウブ・ナンデェ』など、その赤ちゃんにとって初めてとなる『有意味語』の発声が見られるようになってきます。

赤ちゃんの言葉を聴き取る能力の発達(音声知覚)

赤ちゃんの言語機能の獲得のためには、『発声器官の構造の発達・多様な発声の出現』だけでは不十分であり、『人間の言葉に対する注意や興味・人間の言葉を聴き取る能力の発達』も必要になってきます。簡単に言えば、『言葉を話す能力』『言葉を聴く能力』と相互に密接に関係しており、赤ちゃんは大人の言葉に注意を向けて聴き取り、その言葉の意味や言葉が指示する対象を少しずつ理解することで言葉を学んでいくという事です。

外界には人の言葉(話)以外にも、物音や音楽、車や工事の音、コンピューターや機械の音、動物の鳴き声などさまざまな音声が溢れていますが、言葉を習得していくためにはその中から『人間の言葉・発声』に特別な注意を向けて聞き取らなければいけません。しかし、人間だけに限らず動物の赤ちゃんには、『同種の大人(親)の発声に対する注意』が本能的に刷り込まれており、人間の赤ちゃんも生後わずか数日の時期から『外国語よりも母語に対する注意が強い・別の女性よりも母親の声に対する注意が強い』という傾向が見られます。そういった生得的な言語(母語)に対する注意の強さによって、乳児は半ば本能的・自発的に『言葉の学習プロセス』を進めていくことになるのです。

乳児(赤ちゃん)が自発的に好んで注意を向けて聴き取ろうとする音声の種類は、『母親の声・母語の言葉(周囲の大人が話している言語)・やや高めの優しい話しかけ・ゆっくりとしたスピードの声・抑揚のある声』などであり、これらの音声(声の質・話し方)に対する乳児の選好(好み)は生得的なものです。乳児はこれらの音声の弁別(音の違いの認知)を、リズムやイントネーション、音の高さといった音声が持っている『韻律的情報(いんりつてきじょうほう)』によって行なっていると考えられています。生まれたばかりの乳児期前半には、まだ『母語の音韻体系に合致した音韻知覚(音の弁別)』を行なっていないという実験結果があり、日本人の赤ちゃんでも乳児期前半までは、欧米諸国の赤ちゃんと同じように“LとRの音の弁別”をできることが知られています。

しかし、乳児(赤ちゃん)の音声知覚の発達は成長と音声刺激の増加に合わせて『母語の音韻体系』に最適化されていくので、日本人の赤ちゃんが潜在的にLとRの音を弁別する聴覚能力を持っていることは明らかですが、周囲の日本人の大人がそれらの音を弁別して使い分けていないので、生後10~11ヶ月頃になると赤ちゃんもその音の弁別が出来なくなっていきます。乳児の言語発達は進化論におけるラマルクの『用不用説の獲得形質』にも似ており、周囲の大人たちが発声する音を聴きながら、頻繁に使われる音の音声知覚(弁別能力)は発達していくが、全く使われない音の音声知覚(弁別能力)は衰えていくことになります。

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