赤ちゃんのモノの永続性についての理解と物理法則

赤ちゃんはモノの永続性について理解しているか

赤ちゃんの落下の物理法則についての理解

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赤ちゃんはモノの永続性について理解しているか

『モノ(物)の永続性』というのは、物は捨てられたり破壊されたりしない限りは、ずっと同じ場所・空間に存在し続けるという概念です。特に発達心理学において『乳幼児期のモノの永続性の理解(認識)』という場合には、箱や布などでモノ(物)を視界から一時的に隠したとしても、そのモノ(物自体)が以前と変わらずにその場所(空間)に存在し続けているということを理解しているかどうかを意味する概念になっています。例えば、目の前にある“おもちゃ”を箱で覆って隠しても、そのおもちゃ(物)は消えたわけではなくその箱の下で今も存在し続けていますが、この事態や物の特性を指して『モノ(物)の永続性』と呼んでいるのです。

あるモノ(物体)が布切れや箱などの“遮蔽物”に覆われて隠された時に、乳児(赤ちゃん)はその場所に、まだそのモノ(物)が存在し続けていること(=モノの永続性)を理解しているのでしょうか。従来の通説では、『モノの永続性』の理解ができるようになるのは1歳頃からだと考えられていましたが、生後5ヶ月半の乳児に対するベイラージョンとグラバー(Baillargeon & Graber, 1987)『うさぎ(兎)のスクリーン通過実験』によって、生後5ヶ月半頃から既にモノの永続性をある程度認識している事が分かってきました。

ベイラージョンとグラバー(Baillargeon & Graber, 1987)が行なった『うさぎのスクリーン通過実験』というのは、背の高いうさぎの人形と背の低いうさぎの人形の二つを用意して、どちらのうさぎの背の高さでも隠れてしまう『紙のスクリーン』の後ろを、まず端から端まで何度か通過させます。イメージとしては、『透明ではない向こうが透けない下敷き』を立てて遮蔽物とし、その遮蔽物の端から端までうさぎの人形を通過させるという状況を思い浮かべてみてください。この時には、『スクリーンを通過する前』『スクリーンを通過した後』にしか、二つのうさぎの人形の姿を見ることはできませんが、この状況は当たり前なので赤ちゃん(乳児)は別に驚いたり注目したりすることはありません。

次に『スクリーンの中央の部分』を切り取って、『背の低いうさぎ』がスクリーンを通過する時はスクリーンでその姿が隠れてしまうが、『背の高いうさぎ』が通過する時にはスクリーンよりも背が高いのでその姿が見えるという状況を作ります。そして、人形の動かし方を工夫して、背の高いうさぎがスクリーンを通過する時にもその姿が見えないようにすると、その『起こり得ない状況(背の高いうさぎが自分の背より低いスクリーンを通過しているのにその姿が見えないという不思議な状況)』に、赤ちゃんは驚いた表情を見せてその状況をずっと注視し続けたのです。

この実験結果から、ベイラージョンとグラバーは乳児はうさぎの人形がスクリーンに隠されて見えなくなっても、その向こう側に存在し続けているということは知っていると結論づけました。なぜなら、『スクリーンの高さ』よりも背が高いうさぎの人形の姿が見えない状況に赤ちゃんが驚くという事は、『スクリーンの向こう側』をうさぎが進んでいるということを知っているからだと解釈できるからです。

しかし、1歳未満の赤ちゃんの『モノの永続性についての理解』は限定的なものであり、近くにあるおもちゃを布で覆って隠すと、自力でそのおもちゃを発見することは殆どできません。なぜ、『モノの永続性』をある程度認識できているはずなのに、『布で隠されただけのおもちゃ』を発見できないのかの理由については、『乳児の記憶力の低さ』が想定されており、モノが視界から隠されてしまった状況での『探索行動』にはある程度高度な記憶力が必要になるのではないかと考えられています。

赤ちゃんの落下の物理法則についての理解

赤ちゃん(乳児)は『一般的・常識的な物理法則』については、どのくらいの理解があるのでしょうか。赤ちゃんは『周囲の物(モノ)の世界』について、高度な知識・理解は当然持っていませんが、一般的な大人が考えているよりかは多くの物理法則(モノの性質)を知っているのではないかと考えられるようになってきています。

乳児(赤ちゃん)は物体がどのような場所に置かれていると安定しやすいか、反対にどのような場所に置かれていると不安定になって落下しやすいかということを大まかに認識している事が分かっています。物体(モノ)がどういった状況や場所で安定して存在しやすいかということを『物体の安定性』といいますが、ダンら(Dan et al., 2000-2001)が行った『物体の安定性についての理解を調べる実験』では、生後6ヶ月半の乳児でも『地面に置かれていない物体』は、それを支えられるだけの十分なモノの上に乗っていないと落下してしまうという物理法則を直感的に理解していることが分かりました。

生後6ヶ月くらいの月齢でも、重量のある一般的な物体(モノ)が空中には浮かないという常識的なモノの性質を知っており、『物体の安定性』を得るにはそれを支える十分な量のモノが下になければならないことを知っていたのです。更に生後10ヶ月頃になると、物体の安定性について『土台となるモノの幅の広さの違い』について理解するようになり、『幅の広い支えとなるモノ(土台)』のほうが『幅の狭い支えとなるモノ(土台)』よりも安定して上の物体を支えることができるということが分かるようになります。

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