清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。
『枕草子』は池田亀鑑(いけだきかん)の書いた『全講枕草子(1957年)』の解説書では、多種多様な物事の定義について記した“ものづくし”の『類聚章段(るいじゅうしょうだん)』、四季の自然や日常生活の事柄を観察して感想を記した『随想章段』、中宮定子と関係する宮廷社会の出来事を思い出して書いた『回想章段(日記章段)』の3つの部分に大きく分けられています。紫式部が『源氏物語』で書いた情緒的な深みのある『もののあはれ』の世界観に対し、清少納言は『枕草子』の中で明るい知性を活かして、『をかし』の美しい世界観を表現したと言われます。
参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)
[古文・原文]
26段
心ときめきするもの
雀の子飼(こがい)。ちご遊ばする所の前わたる。よき薫物(たきもの)たきて、一人臥したる。唐鏡(からかがみ)の少し暗き見たる。よき男の、車とどめて、案内し問はせたる。
頭洗ひ、化粧じて、香ばしうしみたる衣など着たる。殊に見る人なき所にても、心のうちは、なほいとをかし。待つ人などある夜、雨の音、風の吹きゆるがすも、ふと驚かる。
[現代語訳]
26段
心をどきどきとさせるもの
雀の子を飼うこと。赤ん坊を遊ばせている所の前を通る。高級な薫物を焚いて、一人で横になっている時。中国製の鏡の少し暗くなっているところを覗き込んだ時。高貴そうな男が、家の前に車を止めて、使いの者に何かを聞かせにやった時。
髪を洗って化粧をして、しっかりと良い香りが焚き染められてついた着物を着た時。その時には特別に見ている人がいない所でも、心がとても浮き立って楽しくなる。約束した男を待っている夜、雨の音や風が建物を揺らがすような音さえも、もう男が来たのだろうかと思って(驚き嬉しくて)胸がドキドキするものである。
[古文・原文]
27段
過ぎにしかた恋しきもの
枯れたる葵(あおい)。雛遊びの調度。二藍(ふたあい)、葡萄染(えびぞめ)などのさいでの、押しへされて、草子(そうし)の中などにありける、見つけたる。また、折からあはれなりし人の文、雨など降り徒然なる日、さがし出でたる。去年(こぞ)のかはほり。
[現代語訳]
27段
過去のことで恋しかったもの
祭りに使っていた枯れた葵。雛遊びの時に使った道具類。二藍や葡萄染めなどの切れ地が、押しつぶされて、本の中に挟まっているのを見つけた時。また、ふとした時に、かつて好きだと思っていた人の手紙(和歌)を、雨などが降っていて手持ち無沙汰な日に、たまたま探し出した時。去年使っていた夏扇。
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