野田サトル『ゴールデンカムイ 1巻』の感想

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日露戦争(1904年)で大勢のロシア兵を殺戮し、無数の傷を受けながらも生き抜いた日本兵の杉元佐一(すぎもとさいち)『不死身の杉元』と呼ばれていた。お国のために鬼神の如き戦いぶりで多くの敵兵を倒した杉元佐一は、本来ならば金鵄勲章(きんしくんしょう)でも受けて悠々自適の年金生活を送れるはずだったが、元来の直情的な気質が災いして上官を半殺しにしてしまったため、帰国しての引退は不可能になった。

戦死した昔馴染みの戦友・寅次との約束(妻・梅子と子供の面倒を見る)を果たすために、杉元佐一はとにかく『お金』が必要だった。当てがないので、戦友が言っていた北海道の山奥で砂金さらいをして一攫千金を目指していた。そんな時に、砂金採りをしている酔いどれの老人から『アイヌの黄金』の話を聞かされる。日本人から搾取・略奪・虐待を受けていたアイヌたちが、日本人に反乱を起こすための軍資金として大量の砂金を貯めていたが、その黄金を一人の男がアイヌを皆殺しにして奪い取ったというのだ。

強奪された黄金の量は『20貫(75kg)』『八萬圓(現代の8億円相当)』にもなるという。その男は官憲に捕縛されて網走刑務所に送られたが、『アイヌの金塊の在り処』を外部の仲間に伝えるべく、同房の死刑囚たちの体に『埋蔵金の在り処を示す暗号の入れ墨』を入れた。不死身の佐一はアイヌの黄金を何としても手に入れたいと思うが、アイヌの黄金について話しすぎたと思って襲いかかってきた酔いどれ老人がヒグマに襲われて殺される。不死身の佐一は今度は、ロシア兵ではなく巨大なヒグマと死闘せざるを得ない状況に追い込まれるのである。

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日露戦争後の荒くれの軍人・ならず者が徘徊する貧しい日本という時代設定、不死身の日本兵と差別されていたアイヌの少女がコンビになって戦うというストーリーが漫画としては異色なのだが、いったん読み始めると流れるような物語の展開でページをめくる手が止まらない。人間関係の描き方や会話、北海道・野生動物・アイヌ語の豆知識、激しい戦闘シーンとどれをとっても非常に面白く、他に似たようなテーマを扱った漫画もほとんどないのではないかと思う。

ヒグマに襲われた杉元が、凛とした雰囲気のアイヌの美少女・アシリパ(正しくは小文字のリ)に毒矢で助けられるシーンは印象的で、アシリパが披露するヒグマ関連の知識もなるほどと思わせられる。トリカブトの根とアカエイの毒針から抽出した毒を塗った強力な毒矢は、ヒグマでさえ数歩しか歩けず短時間で絶命してしまうほどに強力なものである。

山には木の実やハチミツなど熊にとってのご馳走が沢山あるのに、ヒグマは一度人間を殺すと罰として人間しか食えなくなるという話は衝撃的だが、アイヌの人々は人間を殺した熊を凶暴・危険な『ウェンカムイ(悪い熊)』と呼んでその肉を食べてはならない掟があったそうである。アイヌ文化には、クマを神聖な動物や神の仮の姿とみなすクマ信仰が根付いてもいた。

『弱い奴は食われる』という北海道の大自然のルールの下で、不死身の佐一はウェンカムイと化した人食いヒグマの急襲を受けるが、アシリパと白いエゾオオカミの援護を受けて、必死にヒグマの腹にしがみついて仕留める機会を狙うが、もはやこの時点で人間離れした戦いぶりである。ヒグマの爪の一撃を喰らえば人間は致命傷を受けるか絶命せざるを得ないが、日露戦争で無数の修羅場と負傷を乗り越えてきた佐一は、偶然にもアイヌの人々の『捨て身のクマ殺しの戦術』を使って見事に巨大ヒグマを刺殺してしまうのである。

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北海道と本州の生態系の境界線となる『ブラキストン線』の説明がついているのだが、そこで明治期の北海道に棲息していたクマ・オオカミ・リス・キツネ・ウサギなどが本州のものより体が大きいというのは知っていたが、北海道にはサルとイノシシが棲息していないという知識は恥ずかしながら知らなかった。

アシリパの父親は金塊を貯めていた7人のアイヌの一人だったのだが、金塊の隠し場所を移動している途中で、網走刑務所に収監されていたある男に皆殺しにされてしまったのだという。杉元佐一はアシリパを金塊探しに誘うが、アシリパはその時に人を殺したり悪いことをした熊はウェンカムイ(悪い神)になってテイネポクナモシリという地獄に送られると語り、自分も人を殺したくないと言う。アイヌの人々の殺人禁忌の重たさを聞かされた佐一は、日露戦争で自分が生きるためとはいえ無数の人間を殺した自分などは『地獄行きの特等席』だと自虐気味に物思いに耽る。

アイヌの金塊が見つかれば、『国・軍にとって用無し』となった金塊強奪(アシリパの父親殺し)の犯人の死刑が執行されることをアシリパに告げた佐一は、『俺は金・アシリパさんは親の仇』のために金塊を一緒に探そうと持ちかける。人殺しが必要になれば自分がすべて引き受ける覚悟で佐一は話を持ちかけたが、逆にアシリパから『人を殺さない約束』をさせられてしまう。

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金塊の在り処を示す暗号の入れ墨が彫られた脱獄囚を探して罠にかけるが、その男の口から聞かされた入れ墨を彫った男の正体は『顔がないのっぺら坊』という不気味なものであった。1巻の終盤でその男の正体が明かされていく展開にはなるのだが、戊辰戦争の終盤(箱館戦争)で最後まで粘った有名な人物といえば、歴史好きな人には察しがつくかもしれない。

金塊を狙っているのは入れ墨を彫った男や入れ墨の囚人たちだけではなく、陸軍最強と謳われた北海道の第七師団も必死にアイヌの黄金の行方を追っているのである。脱獄囚を遠方からの狙撃で銃殺した第七師団の軍人(尾形)が杉元らに襲いかかってくるが、そのスピード感溢れる戦闘シーンも見ごたえがあり、漫画の描画技術そのものもかなり高い。ナイフで突き刺そうとしてきた軍人の腕を取って一本背負いのような投げ技をかけ、次の瞬間に関節をきめて骨を折るという一連の流れが、見事に絵で表現できている。

リスを生食するチタタプ(我々が刻むもの)というアイヌの食文化に触れることもできるが、こういったアイヌの人々の自然・野生動物と共生する文化・生活様式は現代人から見るとややグロテスクかもしれないが、自然の中で食べて生きていくということは『動物の生命を頂くこと』に他ならない。リスの脳みそを何とか生で食べた杉元だったが、さすがの不死身の杉元もリスの刺身には抵抗があるようで、アシリパがシサム(和人)でも食べやすいようにリス肉で出汁を取ったオハウ(汁物)にしてくれるのである。

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杉元佐一が恋人の梅子と別れなければならなかった悲しい一族の過去の回想部分もあるが、結核に限らず当時の感染症は『差別・隔離の原因』になることが非常に多かったし、隔離・不妊手術・堕胎の政策の負の歴史が残るハンセン病(ライ病)などもその典型ではある。

『脱獄王』の異名を取る囚人の白石由竹(しらいしよしたけ)を捕まえようとして、杉本は雪庇(せっぴ)を踏み抜いて冬の北海道の寒い川に落ちてしまうが、その時に運悪く『マイナス30度の強烈な寒気』が襲いかかってくる。川の水で濡れた体でまともにマイナス30度の強烈な寒気(アシリパは木が割ける音という意味のニプシ フムと呟いた)を受ければ凍死することになるが、杉本と白石は協力して必死の努力で火を起こすことに成功し一命を取り留めることになる。

こういった北海道の容赦ない大自然・野生動物の猛威との戦いも『ゴールデンカムイ』の魅力につながっているが、何より『不死身の佐一のサバイバル能力・生命力』『アシリパの自然の中で生き抜く知恵・勇気』のコンビネーションが絶妙である。

絵柄としては残酷な描写も多いのだが、それらの絵柄にはすべて生きるためと戦うための必然性があるし、明治期を生きた軍人とアイヌの交流を通して歴史・文化について(各情報の正確さまでは分からないが)学べることも多い。最後は、顔面に戦傷なのかひどい火傷を負っている鶴見中尉なる人物が登場しているが、この先、アイヌの黄金を巡ってどのような冒険物語が進められていくか楽しみだ。

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