原泰久『キングダム 1巻』の感想

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古代中国の春秋戦国時代における秦を舞台にした歴史物語の漫画で、フィクションではあるが始皇帝の誕生と絡めたストーリーのようである。里典(集落の長)の家で、奴隷のような処遇を受けている戦争孤児の“漂(ひょう)”“信(しん)”には天下にその名を轟かせる最強の大将軍になるという壮大な野望があった。

家事や雑用でこき使われる毎日だが、漂と信は時間を見つけては剣の撃ち合いの修行に励み、その激しい剣の修行は『1253戦』という驚愕すべき仕合いの数になっている。平和で安全な現代社会で忘れられている『成り上がりのハングリー精神』と『下克上の壮大な野望』に満ち溢れているパワフルな作品で、古代中国の春秋戦国時代を知る人もその知識を下敷きにしながらワクワクしながら読むことができる。

漂と信の二人は燃え上がる野望を抱きながら、つまらない日々の雑用に追われていたのだが、突然、秦の王宮の有力な貴族・大臣である『昌文君(しょうぶんくん)』という高齢の男が、漂をどうしても身請けして王宮で働かせたいと申し出てくる。二度とはない立身出世の最大のチャンスに、漂は一つ返事で了承して王宮で働くことを決めるが、漂の身を思いがけない悲劇が襲うことになる。

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まだ幼い秦王を補佐して全権を掌握していたのは呂丞相(りょじょうしょう)であり、漂を雇い入れた昌文君も秦王派であったが、強力な暗殺者や軍勢を従える王弟の成キョウ(せいきょう)が反乱を起こした。王弟の反乱のクーデターによって王宮が制圧されたという噂が街に広まっていた頃、大量の血を流した漂が瀕死の重体で戻ってくる。

最期の力を振り絞って、漂は信に地図を与えて『黒卑村(こくひむら)』に行ってほしいという遺言を残す。全身がボロボロになっている漂は『俺達は力も心も等しい。二人は一心同体だ』という言葉を残し、信に天下最強の大将軍になるという夢の続きを託してこの世を去ってしまう。親友とも兄弟ともいうべき漂を失った信は、悲哀を抑えられず号泣して、漂を傷つけ殺した王弟派の者への激しい怒りを滾(たぎ)らせている。

漂が信に行ってほしいと頼んだ黒卑村は、全国から物取りや人殺しが流れてくる無法者が集う危険な村だが、漂と共に剣術を鍛え抜いてきた信は、待ち構えていたチンピラたちを右に左に蹴散らしながら前進していく。戦争に勝ち続け武功を挙げ続けて、歴史に名前が残るような大将軍になるという漂の夢を受け継いだ信は、恐れることなく地図にある目的地にあった掘っ立て小屋に着くのだが、そこに待ち受けていたのは漂と瓜二つの容姿をした『秦王・政(せい)』であった。

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王宮内での不穏な反乱の動きを感じていた昌文君は、漂を『秦王・政の影武者(替え玉)』として雇い入れた。漂は王弟派の暗殺者から秦王を守る形で身代わりになって死んでしまったのだが、漂を殺した最強の暗殺一族の末裔とされる『朱凶(しゅきょう)』の魔の手が再び秦王・政に迫ってきた。

漂の仇を目の前にして激しい怒りと復讐の炎を燃え上がらせる信は、最強の暗殺者である朱凶に真っ向勝負を挑むが、朱凶の剣術と格闘術は超人的な強さで押されてしまう。自分と完全に互角の漂を倒した朱凶に信が勝てるはずがないのが道理だが、漂は信について『自分と戦えが互角だが、自分よりも強い(伸びしろがある)』という評価を秦王・政に伝えていた。漂は自分が倒されてしまうような猛者が出現したとしても、信であればその猛者をきっと打ち倒すことができると確信してもいた。

厳しい戦闘の状況に追い込まれれば追い込まれるほどに、潜在的な剣術の能力・才覚を開花させていく信の果敢な戦いぶりが爽快であり、さしもの朱凶も強さの成長を続ける信の器の大きさの前では砕け散るより他はないといった感じになる。

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朝廷では秦王・政と右丞相・呂氏、昌文君に対する、王弟と左丞相・竭氏のクーデターが勃発した。朝廷で最大の実力者である商人出身の右丞相・呂氏が、魏への遠征で留守をしている隙をついたクーデターであった。王弟・成キョウと竭氏(けつ)が玉璽(王の印鑑)を偽造して大軍を差し向けてくるが、政と信は黒卑村の河了貂(かりょうてん)という山民族出身の少年の案内で洞窟の抜け道を案内してもらう。

政の弟である成キョウは相当に性格の悪い邪悪な差別主義者として描かれている。成キョウは王族の高貴な血統の純潔性や優位性にとことんこだわる純血主義者であり、商人・工人・農民といった庶民を徹底的に差別して見下している。賄賂政治で成り上がった商人出身の呂氏が朝廷の政治を牛耳っていることが気に食わないし、異母兄で秦王となっている政の母親が舞妓(まいこ)であったことに納得がいかないのである。成キョウの母親は、政の舞妓の母親とは違って公主(王族の娘)であったため、成キョウは『我こそが真の王なり』とする肥大した自尊心と優越感を持っていた。

秦王・政を身代わりになってでも守るという仕事に納得して就いていた漂について聞かされた信は、『里に帰って下僕を続ける』か『薄弱の王を援けて共に凶刃の野を行く』かの選択を迫られる。漂とした一緒に歴史に名前を残す大将軍になるという約束を果たすため、信は秦王・政に付いていくことを選ぶ。信は自分と漂の立身出世の路で政を利用してやる思いで、政に従っていくことにしたが、まずは昌文君の軍勢と合流して王宮に帰還しなければならない。

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だが『秦の怪鳥』と呼ばれる王騎将軍(おうきしょうぐん)によると、秦王派の昌文君は既にこの世にいないという……だがまだ昌文君の死んだ場面は直接的に描かれておらず2巻以降でどんでん返しが期待できそうな展開である。王騎将軍は微笑を浮かべた得体の知れない不気味な将軍として登場してくるが、左丞相の竭氏よりも人物として格上の雰囲気を漂わせている感じもあり、大人しく竭氏のコマとして動きそうにないのもある。

『キングダム』は古代中国の春秋戦国時代を舞台にした『漫画版の史記』のような感じで面白く読み進めることができる。最後は、秦王・政が昌文君との合流地点である『山中にある秦王の隠れ避暑地』を目指して進んでいくのだが、頼みの綱である側近の昌文君はまだ生きているのだろうか……秦王・政を追いかけてきている南方の毒矢を使う暗殺者との戦いも起こりそうな雲行きである。

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