マイケル・ポーターの『競争戦略』

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マイケル・ポーターの競争要因(5Forces)
マイケル・ポーターの3つの競争戦略

マイケル・ポーターの競争要因(5Forces)

アメリカの経営学者マイケル・ポーター(Michael Eugene Porter,1947-)はハーバード大学経営大学院教授を務め、1980年に主著『競争の戦略(Competitive strategy: techniques for analyzing industries and competitors)』を書き著しました。日本では1985年に邦訳の『競争の戦略』がダイヤモンド社から出版されています。

マイケル・ポーターは『競争の戦略』に続いて、『競争優位の戦略(Competitive advantage: creating and sustaining superior performance, 1985)』『国の競争優位(The competitive advantage of nations,1990)』を書いたことで、現代の経営戦略論の基礎的な概念と方針を確立した。マイケル・ポーターの戦闘的傾向を持つ経営戦略論は、『1980年代のアメリカ経済の国際競争力の低下・貿易赤字の拡大・国内雇用の減少(失業者の増大)』を受けることで、更に実践的な経営戦略としての評価と要請を高めていった。

ミシガン州アナーバーで生まれたマイケル・ポーターは、上級軍人の父親と共に世界各地を遍歴したとされますが、ポーターは『軍事モデルの戦略論(敵の攻撃の防御+自分の攻撃方法の工夫)』を経済競争(企業競争)の分野に持ち込むという独創性と連想性を発揮しました。マイケル・ポーターの経営学分野における功績は、『軍事的な戦略論の視点・行動』を企業経営(経済競争)の分野に応用したことであり、『企業競争・業界の対立の実態』を客観的に分析するための方法論と概念群を整理したことでした。

マイケル・ポーターは、企業と市場を巡る競争要因として、“5Forces(ファイブ・フォース)”と呼ばれる以下の5つの要因を指摘しました。5Forces(ファイブ・フォース)は、市場における自社の客観的な位置づけや競争環境を分析すると同時に、それらの要因に対応するための戦略立案に役立てられるとされています。

マイケル・ポーターの5Forces(ファイブ・フォース)
競合他社市場で同じ商品やサービスを売っている競合的な他社
新規参入業者新たに市場に参入してくる業者
代替商品自社の売っている商品やサービスの代わりになるもの
買い手商品・サービスの買い手で需要(値引き)の要因となる
売り手商品・サービスの売り手で供給(業者間の価格交渉・技術力のある企業の奪い合い)の要因となる

ポーターは『競争の戦略』において、競争戦略の目標について『業界の競争要因から上手く身を守り、自社に有利なようにその要因を動かせる位置を業界内に見つけることにある』としています。業界において、自社の有利な位置を見つけてそこに位置し続けることが成功の要因であるということから、ポーターの競争戦略論は『ポジショニング論』と呼ばれることもあります。

5Forcesの5つの要因が結集することで、『業界の究極的な収益率(長期的な投資収益率)』が規定されるという理論を提唱していますが、現代の企業競争・市場環境に適用するには『産業構造の境界線』があまりに固定的で明確過ぎるという批判もあります。

ポーターは自動車会社は同じ自動車会社だけと競争し、出版会社は同じ出版会社だけと競争するというように、『産業構造の各事業分野の境界線』をかなり明確なものとして仮定していますが、現代では有限の時間コストを巡る消費者の選好と競争が加熱しており、『自動車(ドライブする時間)』は『スマートフォン・アプリ(スマホを使う時間)』などとも競合するようになっているという大きな違いが指摘されます。

このように、『業界業種の境界線(垣根)の流動化・顧客の購買行動の多様化・時間資源を使う選択肢の急増』などの現代の変化によって、マイケル・ポーターの競争要因である5Forcesも一定以上の改変やバージョンアップを迫られていると言えるのかもしれません。現代では、顧客の選好と時間資源の使い方が、『企業の競争要因』として重要な役割を果たすようになっています。その結果、『顧客が自社の業界以外の商品・サービスとの比較』を行うのであれば、限定された業態業種の境界線の外側との競争環境(今まで競合するとは思っていなかった他社・業界・製品・サービス・時間の使い方)をイメージして対応する必要があるわけです。

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マイケル・ポーターの3つの競争戦略

マイケル・ポーターは1969年にプリンストン大学航空宇宙機械工学科を卒業したが、『経営戦略論の父』のような学者肌の印象が持たれている一方で、高校時代も大学時代も学問と同等以上にスポーツの分野にも力を入れていた文武両道の人物でした。高校時代にはアメリカンフットボールと野球をしており州の代表にも選出されたことがあり、大学に入ってからもゴルフで全米代表(NCAA)チームのメンバーに選出されるほどの腕前を誇っていました。

1971年にハーバード大学で『経営学修士号(Master of Business Administration)』を取得し、1973年にハーバード大学大学院で『経済学博士号(Ph.D.in Business Economics)』を取得しました。マイケル・ポーターは、ハーバード大で史上最年少で正教授に就任したという記録めいたエピソードも持っています。

ポーターが経営の基本戦略として想定したのは、大きく分けて『コスト・リーダーシップ戦略,差別化戦略,集中戦略』の3つでした。

コスト・リーダーシップ戦略……コストダウンによって他社に対する競争優位を確保しようとする基本戦略で、『原材料調達・製造販売・物流(ロジスティクス)・人件費』などの部門で思い切ったコストダウンを図ることで自社の市場シェアを伸ばすことができる。コスト・リーダーシップ戦略は、トップダウンの指示命令によってビジネスの各プロセスにおけるコストダウンを実現するという戦略だが、基本的に『大量生産・大量輸送・大量販売が可能な規格化された商品』にしか当てはまりにくく、『多品種・少量生産(あるいはオーダーメイド)の市場』ではこの戦略の競争効果は発揮しづらい。

差別化戦略……付加価値による高価格販売(高い利益率)によって他社に対する競争優位を確保しようとする基本戦略で、『高級品のイメージ・ブランディング(ブランド価値)・付加価値』などの部分で自社の製品やサービスに他社にはない独自性・唯一性を持たせようとする。アップル社のiPhoneやMacbook、メルセデス・ベンツやBMW、アウディなどの高級車などは『差別化戦略』によって、機能面の優秀さもあるがそれ以上にブランドイメージの独自性によって、他社よりも高い価格帯で類似の機能を持つ製品を売ることが可能になっている。

集中戦略……有利な事業(儲かっている事業)に経営資源を集中させることで競争優位を確保しようとする競争戦略で、『選択と集中(比較優位の原理)』などにも当てはまる部分がある。マイケル・ポーターは集中戦略を更に『差別化集中(得意で有利な事業だけに経営資源を集中)』と『コスト集中(コストカットを促進するための事業分野や製造工程の集中と削減)』の二つに分けている。

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