社員(従業員)のオーナーシップ意識・当事者意識による業績向上
オープンブック・マネジメント(オープンブック経営)による達成・挑戦意欲の引き上げ
社員のモチベーションが高くて業績を伸ばしている企業は、『企業独自の価値観・経営理念・将来のビジョン』を経営者と従業員(社員)の間で共有していることが多い。企業の価値観やビジョンの共有には、従業員(社員)に『傍観者的な態度(機械的な作業者の意識)』ではない『当事者的な態度(自発的な仕事人の意識)』を持たせるという非常に大きな効果があるからである。
企業の価値観や経営理念、ビジョンの共有あるいはコミットメントによって、『社員のオーナーシップ意識(企業の経営と所有に自分も関わっているという当事者意識)』は高まることになる。
企業の経営と所有の当事者になったようなオーナーシップ意識を持つことができれば、『受動的・消極的な態度』がなくなって『能動的・積極的な態度』によって生産的な仕事を行いやすくなる。自発的な課題達成の意欲が生まれて、更に社員の主体的なチャレンジ精神(今まで以上の成果・売上を目指していく挑戦意識)が高まりやすくなるので、企業経営が順調にいって業績も上がりやすくなるのである。
企業の価値観やビジョンを社員全体に『現場レベル』で共有させるための画期的な経営手法の一つが、『オープンブック・マネジメント(オープンブック経営)』と呼ばれるものである。これは社員に企業の財務諸表のデータを公開して、そのデータの読み方を教育していくことによって、『社員のオーナーシップ意識・当事者としての責任感と達成意欲』を持ってもらうための経営手法としての特徴を持っている。
オープンブック・マネジメント(オープンブック経営)を初めて導入した企業は、アメリカの自動車部品販売会社『SRC(スプリングフィールド・リマニュファクチャリング・コーポレーション)』だと言われている。1983年に、SRC(スプリングフィールド・リマニュファクチャリング・コーポレーション)は業績不振に陥ったが、従業員がSRCの子会社を買収してそこからSRCの抜本的な経営改革が始まることになった。
SRCの新経営陣は従業員(社員)に自社の厳しい経営状況について、『客観的な数字』を通して知ってもらう必要があると考え、従業員に決算書を構成する貸借対照表・損益計算書といった『財務諸表の読み方』を教えたのである。オープンブック・マネージメントでいう『オープンブック(Openbook)』とは、財務諸表の財務データ(客観的な数字のデータ)の『公開』のことである。
SRCの経営者たちは、現場レベルの従業員にも『財務諸表(貸借対照表・損益計算書)のデータ』を公開(オープンブック)して、その数字のデータが持つ意味を教育することで、『自社の業績の良し悪し+財務状況』を正しく把握できるようにしたのである。
財務諸表のオープンブック経営の結果、現場レベルの従業員のグループでも『予算に対する結果(成果)』を意識するようになってきた。更に、『毎週・毎月の予算と実績の推移』を比較することによって、客観的な数字のデータに基づく『事業戦略(現状の改善案)』を立てて実践できるようにもなった。
SRCは社員の企業に対するオーナーシップ意識を高めるために、『毎年の会社の売上目標』を設定して、その目標を達成できた時にだけ全員に特別ボーナスを支給する制度を作ったが、この全体の目標設定に対する報酬は従業員の仕事のモチベーションを急速に高めたという。更に、SRCでは時代を先取りする形で、『社員の株式所有制度(ストックオプション制度)』を導入して、社員も企業を所有する一員であるというオーナーシップ意識と忠誠心を強化することに成功した。
SRCの売上は1983年には約1600万ドルだったが、『オープンブック・マネジメント』を導入してから、1999年には約1億5千万ドルにまで急激に売上を伸ばしている。オープンブック・マネジメント(オープンブック経営)では、『財務諸表の各種データ』が『自分の担当している部署・仕事』とどのように関係しているのかを従業員が正しく理解していることが重要であり、財務データと自分の仕事との関係性を知ることによって、『自律的な判断+主体的な責任のある行動』ができるようになるのである。
オープンブック・マネジメントの主要な流れは以下のようなものである。
1.社員に財務諸表(貸借対照表・損益計算書)の読み方を教育する。
2.会社の財務諸表のデータをオープンブック(公開)して、社員がアクセスできるようにする。
3.現場のグループ単位で予算と成果を比較して、グループの社員たちで事業戦略(仕事の効率的なやり方)を工夫していく。
4.『会社の売上目標達成に対するボーナス+社員が自社の株を保有できるストックオプション制度』でオーナーシップ意識を高める。