ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が開発した『PPM分析』の前提
『PPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析)』による経営判断
企業経営は大規模化するにつれて、『複数の事業分野』を取り扱うようになって多角化していくことが多いが、その際に重要になるのが『どの事業に重点的かつ継続的に投資するべきか・どの事業から早期に撤退するべきか』という経営判断である。
重点的かつ継続的に投資していくべき事業というのは『続ければ利益が増える事業』であり、できるだけ早期に撤退したほうが良い事業、人員の人件費や諸経費をコストカットしたほうが良い事業というのは『続ければ損失が増える事業』のことである。
アメリカでは1960年代に企業の巨大化・多角経営化が進み、大企業の経営判断として“複数の事業の最適なバランス配分”を分析するための『事業ポートフォリオ分析』が求められるようになってきた。事業ポートフォリオ分析というのは、『市場全体の成長性・自社の市場シェア・自社の商品やサービスの競争力』などを総合的に勘案して、自社の抱える複数の事業の一覧表を作成し、それらの事業の優先順位(継続すべきか撤退すべきかの判断)を付けていくというものである。
アメリカの経営分野で最も良く知られている事業ポートフォリオ分析の手法が、大手経営コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が開発した『PPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析)』である。
BCGが開発したPPM分析の目的は、『複数の事業のバランスの良い組み合わせ』を作って『中長期的な利益の増大・損失の縮小』を目指すというものである。先行投資する価値のある事業、継続投資する価値のある事業、早期撤退したほうが良い事業、投下した資金回収を目指すべき事業など、複数の事業の中長期的な展望を描いて、それぞれの事業の最適なバランス配分を考えていくのがPPM分析である。
PPM分析はその理論の前提として、以下のような市場と商品・サービスの法則的な定義を行っている。
1.どんなに成長性のある商品やサービスであっても、時間の経過と共に市場が飽和してその成長率は鈍化していく。
2.一般に成長性の高い事業で高いシェアを獲得しようと思えば、投下資金を大量に必要とする。
3.『規模の経済効果』で、市場シェアの高い企業は市場シェアの低い企業よりも高い収益率を実現することができる。
BCGの『PPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析)』の構成要素は、二次元的図表である“マトリックス図”によって表現することができる。『市場成長率』と『相対的な市場シェア』の二軸で構成された以下のようなマトリックス図によって、企業の運営する複数の事業(商品・サービス)の分野は4つの種類に分類することが可能である。
スター 市場成長率=高い+相対的な市場シェア=高い | 問題児 市場成長率=高い+相対的な市場シェア=低い |
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金のなる木 市場成長率=低い+相対的な市場シェア=高い | 負け犬 市場成長率=低い+相対的な市場シェア=低い |
『スター』というのは、市場成長率が高くて相対的な市場シェアも高い『花形商品・花形分野』のことであり、将来性を見据えた競争の激しい分野であるが、資金や設備の大量投資をするだけの価値のある事業分野だと考えることができる。現在の時点ではまだ大きな利益を生み出せていない分野であるが、中長期的な経営目標を考えれば『現在の取り組みの維持・拡大をすべき分野』であり、『現在以上の市場シェア』を獲得していくことが課題となる。
『金のなる木』というのは、将来期待できる市場成長率が低いけれど、今の時点で相対的な市場シェアが高くなっている『既に儲かっている事業分野』のことである。既に市場全体の成長率が鈍化しているので、追加的な設備投資や人員の増員、広告費などが不必要であり、金のなる木の分野は安定的かつ継続的に利益を生み出すことが期待できる。しかし、どんなに人気のある商品やサービスであっても、いずれは売上・利益が縮小していくので、この事業で投下資金を回収して利益を積み上げながら、『次の金のなる木』を開拓していく必要があるのである。
『問題児』というのは、将来期待できる市場成長率が高いにも関わらず、自社の相対的な市場シェアが低い事業分野(商品分野)のことであり、市場シェアの大きいライバル会社に『生産コストの差』で競争に負けている状態がある。市場全体が成長しているのに、自社の市場シェアが低いためにその成長メリットを十分に享受できていないわけだが、市場シェアを現在よりも拡大するためには『大規模な追加的投資』が必要になり、劣勢な競争を放置しておけばいずれは市場からの撤退を迫られる恐れがある。問題児の事業分野は、経営戦略によっては『スター』や『金のなる木』へと成長してくれることもあるが、事業を継続すべきか投資を拡大すべきかの経営判断が一番難しい分野である。
『負け犬』というのは、市場成長率も相対的な市場シェアも低い事業分野(商品分野)のことであり、大きな利益の増加を期待できないが追加的な投資も必要ない分野である。負け犬に分類された不採算な事業分野からは通常、『早期の撤退』を求められることになる。
複数の事業の最適なバランスや将来性のある組み合わせを考える『PPM分析』では、各事業が経営的にどのような段階にあるのかといった以下のような判断を行っていく。
1.現在の事業を維持すべき段階
2.追加的投資はやめて投下資金を回収すべき段階
3.現在の事業に対する追加的投資を行って継続的に育成すべき段階
4.現在の事業から撤退すべき段階
ボストン・コンサルティング・グループが考案した『PPM分析』では、企業が競争的な市場環境において『現在の時点でどのくらい儲けられているか・将来の時点でどのくらい儲けられそうか・儲けるためにどのくらいの追加的投資が必要か』といった利益の増減を中心にした経営判断が行われる。だが、『企業の社会的責任(CSR)』が意識されるようになった現代では、単純な利益至上主義ではない『社会貢献・環境保護・慈善活動』などの観点からも企業経営や事業のバランスを考えていく必要が高まっている。