ジョン・ガードナーの『リーダーシップの本質』とリーダーの役割・機能
ジョン・ガードナーの指摘する『リーダーの属性・条件』
アメリカの政治家であるジョン・ウィリアム・ガードナー(John William Gardner, 1912-2002)は、リンドン・ジョンソン政権で保健教育福祉長官を務め、政府系NPOの『コモン・コーズ』『インディペンデント・セクター』を創設したことで知られるが、アメリカ社会を主導する『リーダーシップ論』についても研究と執筆を勢力的に行った。
ジョン・ガードナーのリーダーシップ研究は5年間にわたる調査研究に裏打ちされたものである。J.ガードナーはリーダーの属性・特徴について『統計的な数字・機械的な定義』だけに陥らないように気をつけ、『複雑化する現代の大規模な組織・集団』を統率して主導するリーダーシップの本質について実践的な分析をしている。
長期間の綿密な調査研究と実際的なリーダーシップの分析によって、J.ガードナーは現代の大規模な組織・集団に対応できるリーダーシップ論として『リーダーシップの本質――ガードナーのリーダーの条件(1993年)』を書いた。『リーダーシップの本質――ガードナーのリーダーの条件』の基盤にあるリーダーシップの捉え方は、『リーダーシップというのは、個人あるいはリーダー的なチームが、リーダーの目的やリーダーが部下と共有している目的を追求すべく、集団を誘導していくプロセスである』というものである。
J.ガードナーがリーダーシップにおいて特に重要な任務として取り上げているのは『目標設定』と『モチベーティング(動機づけ)』である。優れた有能なリーダー(指導者)は、集団組織のメンバーが共有している信条や価値を再生するために、目標を設定して誘導したりその達成を支援したり、やる気を高める動機づけをしたりしているのである。リーダーに求められている役割と機能の本質は、『リーダーとメンバーに共有されている価値や信念をベースとした目標設定とその達成のための支援・促進・動機づけ』なのである。
ジョン・ガードナーは『リーダーシップの本質――ガードナーのリーダーの条件(1993年)』において、『リーダーの属性・条件(特徴)』について多面的かつ実際的に以下のような特徴を列挙している。
1.優れた直観力を持っている。
2.自己評価が高くて自分の信念・行動に自信がある。
3.集団の管理能力(適切な人員配置や部下の能力・貢献の査定能力)がある。
4.物事の優先順位の判断力とやるべきことの決断力がある。
5.バイタリティがありエネルギッシュである。
6.人々を行動へと導く説得力やカリスマがある。
7.達成欲求とモチベーションがある。
8.自発的に責任と目標達成を引き受ける。
9.はっきりした自己主張と論理的な議論ができる。
10.部下や自分の支持者を理解して、それらの人たちの自分に対するニーズを把握している。
11.情報整理が的確であり、情報処理能力に優れている。
12.部下の感情(気持ち)に共感して理解することができる。
13.人からの信頼を勝ち取って、その信頼を持続させるだけの行動力・能力がある。
14.すぐに諦めない粘り強さがある。
上記した『リーダーの属性・条件』は、理想的なリーダーが兼ね備えていることが望ましいと思われる属性・条件の特徴であって、実際の優れたリーダーが必ずしもこれらの属性・条件を兼ね備えているというわけではない。
J.ガードナーはリーダーシップの属性・条件の多様性と柔軟性について、『リーダーに必要な属性は、実際に発揮されるリーダーシップの種類、置かれている状況、部下の質といった条件によって異なる』と述べており、リーダーやそのリーダーシップの特徴は固定的・教条的なものではなく相手や状況、組織、目標によって柔軟に変化していくものなのである。
J.ガードナーは心理学を専攻しており、スタンフォード大学で1935年に心理学の学士号、1936年に心理学の修士号を取得している。更にカリフォルニア大学バークレー校の大学院博士課程に進んで、1938年に心理学の博士号を取得しており、心理学者としてのキャリアを地道に積み上げていた。
ガードナーというと、ケネディ政権で教育対策委員会の委員となり、ジョンソン政権で保健教育福祉省長官を務め、カーター政権で『80年代へのアジェンダ委員会』を務め、レーガン政権で民間部門イニシアチブ委員会のメンバーを務めており、政界でのキャリアや職務の歴任が目立っているのだが、その前半生は心理学者・教育者としてのキャリアが多くを占めていた。
1938年から1940年まではコネチカット女子大学、1940年から1942年まではマウントホールヨーク大学で、心理学の教授として働いていた経歴があり、スタンフォード大学のビジネススクールでも記念教授を務めていた。1942年から1943年までは外国放送諜報局のラテンアメリカ課で勤務する異色な履歴もあり、1943年から1946年まではアメリカ海兵隊に加わって戦略諜報局に配属されるなど軍隊所属の経験まであったのである。
1946年にガードナーはニューヨークの研究機関『カーネギー・コーポレーション』で働くようになり、1955年にはカーネギー・コーポレーションの社長にまで昇進して、政府が財政支援を行う大衆教育による教育水準の向上に尽力した。1964年には、ガードナーはこういった市民教育・教育行政への献身的な貢献を評価されて、文民としての最高栄誉である『大統領自由勲章』を授与されている。
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