コンピテンシー(competency)と職務遂行能力

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コンピテンシー(competency)とは何か?

コンピテンシーの導入・活用と職務遂行能力との違い

コンピテンシー(competency)とは何か?

アメリカの人事管理・人材評価の戦略的概念として知られるようになった『コンピテンシー(competency)』は、簡単に『有能性・卓越性』と翻訳されることもあるが、『高い業績を上げる人材の行動特性』のことである。高い業績を上げる人材の行動特性としてのコンピテンシーは、『実際の成果を生む望ましい行動特性』にもつながっている。

働く人材の中核的な有能性・卓越性につながる行動特性のことを特別に、『コア・コンピタンス(core competence)』『コア・コンピテンシー(core competency)』と呼ぶこともある。コンピテンシー(competency)という英単語の意味は、シンプルに『能力・適性』というものであり、米国ではコンピテンシーの概念が『特定の職務への採用基準・組織内の任用基準(その職種の仕事にどういった知識・能力が必要なのかの採用要件)』といった非戦略的なリクルートメントの意味合いで用いられることも多い。

コンピテンシーは1970年代に、ハーバード大学の心理学のマクレランド教授(McClelland,1973)が提唱した人事管理上の概念で、外交官の業績格差(仕事ができる人とできない人)についての調査研究から編み出されたものだという。その研究から、“実際の業績”と“学歴・知能”にはあまり相関関係がないことが明らかになり、更に高い業績を上げる人たちには『一定の共通の行動特性』があることが分かった、この共通の行動特性のことをコンピテンシーと呼んでいるのである。

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コンピテンシーの戦略的な応用では、部署や職務ごとに高い業績を出した社員の行動を分析して、その共通特性を明らかにしていく。そこで分かった高業績者に共通する行動特性を、人事評価・人材採用などの基準にしていくが、コンピテンシーの人事管理では『実績・成果の数値』ではなく『人材のポテンシャル(潜在能力)』を評価していくという特徴がある。

アメリカでは1990年代にコンピテンシー概念を用いた経営学的な人事管理の戦略がブームになったが、2000年代にはそのブームも沈静化していった。日本企業ではこのコンピテンシーを『職能資格制度・人事評価制度の再設計』に応用する動きも一時活発化したが、『仕事ができる人がどのような行動を取っているか』のコンピテンシーの分析そのものは現在でも有効である。

コンピテンシーは行動主義的な概念であり、『仕事で高業績を上げている人の具体的な行動』や『仕事で成果を上げるためにどのような行動を取っているのか』を客観的に観察して、それらの成果につながる行動に共通する特性を見出していくことで発見されることになる。『コンピテンシー・マネージメント(competency management)』では、企業全体の業績や効率を高めるために、コンピテンシーの共通特性の抽出と体系化を行うことで、以下のような分野で活用されている。

1.それぞれの職務に求められる適性・能力の明確化

2.人事管理・能力評価の基準への採用

3.各従業員の能力開発・人材育成における参考情報

コンピテンシーというのは、仕事で必要とされる具体的な知識・技術そのものを指しているのではなく、その知識や技術を実際の仕事の中でどのようにして行動に反映しているのかという『成果を生み出す具体的行動のプロセス』のことなのである。『その知識・技術で何ができるのか』ではなく、『その知識・技術で何をしているのか』という具体的な行動レベルで考えていくところに特徴がある。

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コンピテンシーの導入・活用と職務遂行能力との違い

人事管理・能力評価の基準として応用されるコンピテンシーの強みは、『ストレス管理』『アカウンタビリティー(説明責任を果たす能力)』『対人交渉能力』『リスクテイクの判断』『重要事項の意思決定能力』『タイムマネージメント』などの評価項目を抽出することで、各人の能力や適性を客観的に評価しやすくなることである。

コンピテンシーを評価基準として採用することで、その人の仕事・業務の進捗プロセスを明確化することができるだけでなく、その人にどんな能力や行動が不足しているかを把握して改善しやすくなるのである。

コンピテンシーの人事管理以前の従来的な人事評価項目には、『数字だけの成果主義』『積極性』『責任感』『規範意識』『協調性』『思慮深さ』などの漠然とした抽象的な評価基準が多かったのだが、コンピテンシーに基づいた人事管理の評価項目はより客観的でありより欠点・短所を改善する気づきを得やすいものになっている。一方で、性格特性や人格構造とも関係する部分の多いコンピテンシーの人事管理戦略は、『業績評価・報酬決定の基準』として用いることには法律的・倫理的な問題があると指摘する一部の専門家の声もある。

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優れた業績を上げる社員の行動特性である『コンピテンシー』は、具体的な行動パターンに基づくスキルとして共有化されたりデータベース化されることで、より企業全体の利益に貢献しやすくなる。

かつて能力主義に基づく人事評価制度では『職務遂行能力』が重視されていた。コンピテンシーと職務遂行能力との違いは、コンピテンシーが『高業績を上げるために具体的な行動として何をしているのか?』を考えるのに対して、職務遂行能力は『知識・技能によってそれをすることができるのかどうか?』という可能性としての職務遂行(その知識・技能があればやればできるだろう)を考えているという違いである。

職務遂行能力の特徴は『曖昧な評価基準・可能性としてできるかどうか・潜在能力も含めた包括的評価』ということであり、それに対するコンピテンシーの特徴は『明確な評価基準・具体的にどういった行動をしてそれができているのか・顕在能力を中心とする目的的評価』ということで、職務遂行能力とコンピテンシーには明確な違いが認められる。

コンピテンシーの導入ステップは段階的なものであり、まずは多くの高実績者(ハイパフォーマー)に対して詳細なインタビューを行い、そこに共通する行動パターンとしてのコンピテンシーを抽出して整理していく。複数のコンピテンシーを分類整理して体系化・データベース化したら、それぞれの行動レベルを5~10段階に細かく分けて達成目標として定義していく。トップマネージメントが重要視する企業理念や目標達成の戦略も統合していく形で、その企業・組織の人事戦略に通用する『コンピテンシー・モデル』を構築して導入していくという流れになる。

コンピテンシーが応用されるビジネスや人事管理、教育活動の分野には以下のようなものがある。

1.個人の能力・適性・スキルの測定

2.成果・業績を向上させる行動基準

3.人事評価における具体的な評価基準

4.職務に必要な人員の採用試験

5.組織の機能性・生産性の診断

6.中長期の人材開発・人材教育・採用計画

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