ベンチマーキング(benchmarking)とは、他社の優れた『製品・サービス・業務プロセス・経営手法・社風や慣行』を探し出して、継続的に測定しながら自社の変革・改善に役立てることである。
優れた競合他社や参照すべき優良企業の最も優れた実践方法である『ベスト・プラクティス』を探し出して比較検討を行うことがベンチマーキングであり、他社の優れた製品・ノウハウと自社の製品・ノウハウとを比較・分析する手法は『スマートフォン・自動車・カフェチェーン・パソコン・コンビニ』などの業界でも頻繁に行われている。
ベンチーマーキングで測定する尺度は、『企業のパフォーマンスに対する顧客の評価』に直接的・間接的に影響を与えるものである。優良企業である他社の事例から『自社の製品・サービス・方法などとのギャップ』を特定・分析して、そのギャップを埋める業務プロセスの変革を進めながら、他社の優れた部分をキャッチアップしていくのである。
ベンチマーキングは、他社のベスト・プラクティスな事例と比較することによって、自社のビジネスのパフォーマンスに関するスナップショットの作成に役立つものである。ベンチマーキングの語源は、靴修理の職人が靴の修理の際に客の足を測定することである。靴職人は客の足をベンチに載せて足の形をなぞってベンチに印(マーク)を付けることで、靴の型(パターン)を作っていたのである。
自社と他社を比較するパフォーマンス測定では、『単位あたりのコスト・生産性・サイクル時間・不良品数など』の特定の指標が用いられることになる。経営レベルの戦略策定におけるベンチマーキングは、『ベストプラクティス・ベンチマーキング』あるいは『プロセス・ベンチマーキング』と呼ばれることが多い。
経営戦略としてのベンチマーキングが広まるきっかけになったのは、1989年にゼロックス社が優れた他社の手法と自社の手法を比較検討することで業績が落ち込んでいた経営を再建して、『マルコム・ボルドリッジ賞(全米品質賞)』を受賞したことだった。ゼロックス社は1970年代には全米のコピー機市場の80%のシェアを独占していたが、1980年代に入ると日本企業のコピー機との競合で劣勢となり、そのシェアが10%台にまで激減して赤字経営に転落していた。
ゼロックス社のロバート・C・キャンプが、1980年代に優位だった日本企業の経営状況を調べると、ゼロックス社よりも『コピー機の在庫量』が常に少ないことに気づいた。ゼロックス社の在庫量を減らすために、自社とは異なる食品業界のLLビーン社の倉庫内業務を分析して取り入れ、大幅に在庫量を減らすコストダウンに成功することができたのである。
世界トップの電機メーカーであるGE(ゼネラル・エレクトリック)も、自動車業界のトヨタの『カンバン方式』をベンチマーキングすることによって飛躍的な生産性・効率性の上昇に成功しており、1980年代のGEは世界各国の優れた製造業のノウハウや製品を調査・分析して『シックスシグマ』と呼ばれるGE独自の経営戦略の手法を考案したのである。
ベンチマーキングについて、コンサルタント会社の“Kaiser Associates”が初めての解説本を出版して7ステップの手法を紹介している。ゼロックス社のロバート・C・キャンプは1989年に書いたベンチマーキングについての書籍で、以下の『12段階の手法』を提唱している。
1.主題を選択する。
2.プロセスを定義する。
3.潜在的パートナー(比較相手)を特定する。
4.データ源を特定する。
5.データを収集して、パートナーを選択する。
6.ギャップを確定する。
7.プロセスの差異を確定する。
8.将来の目標パフォーマンスを決める。
9.目標の調整
10.実施
11.レビュー
12.再調整と自社の変革・改善
ベンチマーキングの実践法は、最初にSWOT分析などを用いて自社の強みと弱みを分析して、競争市場における自社の現状を正しく認識することから始まる。そして、自社の強みをより強化したり、自社の弱みをカバーしたりできそうな『目的とする業務プロセス(製品・サービス・ノウハウ・経営管理手法など)』をベンチマークの対象として選定していくことになる。
更にその業務プロセスについて、ベスト・プラクティスを持つ企業を探して調査し、『ベンチマーキングの対象企業』を設定していく。その対象企業の業務プロセスの情報収集を徹底的かつ目的的に行って、その比較検討のデータを参考にしながら、自社の業務プロセス変革を実際に実行していく段階へと移行していくのである。
経営戦略としてのベンチマーキングの実践性に欠かせないのは、『企業のトップの明確な目的意識+経営変革・キャッチアップのためのリーダーシップ』であり、『ベンチマーキングのための継続的な効果測定+現時点における優良企業の業務プロセスの情報収集』である。
一般的なベンチマーキングの実践法の『フローチャート』を示すと以下のような感じになる。
1.自社の現状分析
2.対象業務の選定
3.対象企業の選定
4.業務プロセスやノウハウの情報収集
5.自社と他社の比較とギャップ(差)の分析
6.目標の設定
7.業務プロセスの改善
8.ベンチマーキングの効果の評価
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