消費税の性質と消費税増税の論点・問題

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消費税増税に賛成する政治・メディア・世論の流れと消費税の性質

『簡素・公平・中立』の税の原則において消費税の何がデメリットなのか?

消費税増税に賛成する政治・メディア・世論の流れと消費税の性質

2011年8月現在、東北3県が大規模な被災をした東日本大震災(2011年3月11日)の復興財源や持続可能な社会保障制度の財源として、『所得税・消費税増税の議論』が“増税ありき”の既定路線に乗ろうとしている。2009年の衆院総選挙で政権交代を実現した民主党は、鳩山由紀夫内閣において、政権取得後の4年間は事業仕分けなどによる行政コストの削減(=行財政改革)で財源を捻出できるので、消費税の増税はしないと明言していた。

だが、菅直人内閣が『税と社会保障の一体改革』を打ち出して税制改革の方向転換を行い、社会保障制度と震災復興の財源を目的とする消費税増税は不可避という社会風潮が強まっている。行政の無駄遣いの削減や特別会計の霞ヶ関埋蔵金では十分な財源が準備できず、公務員俸給総額の2割を削減するという公務員制度改革も進んでいないことから、与党民主党も野党自民党・公明党も“消費税増税”については意見が一致しており、国民に増税反対の実質的な選択肢は無くなってきている。

日本における消費税の歴史は、1989年(平成元年)4月に竹下登内閣が3%の消費税導入法案を実施したことに始まるが、当時全国的にあった『消費税反対の世論』もいつの間にか鎮静化してしまい、財政赤字の累積が危惧される中で政治も財界も国民世論も『消費税増税はやむを得ない増税である』という論調に固まってきている。社会党の村山富市内閣で地方消費税1%を加えた消費税が5%に引き上げられることが内定し、1997年(平成9年)4月の橋本龍太郎政権で消費税5%に引き上げられたが、それから約15年が経過して消費税そのものは十分に国民に定着した。菅内閣は2010年代半ばまでに消費税を10%まで引き上げるとし、財界の代表である日本経団連は消費税を16%にまで引き上げて、法人税の減税や企業の社会保険料負担の低下(基礎年金の全額税方式化)によって景気を回復させられると主張している。

消費税とは商品・製品やサービスを購入して消費することに対して課せられる税金であり、税金の負担者と納付者が異なる『間接税』であるため、一般的に国民の主観的な税の負担感が小さな税金であると言われている。2004年(平成16年)に商品の価格表示の『税込表示(内税方式)』が義務づけられたこともあり、現在では商品の価格に初めから消費税が織り込まれているため、消費者は改めて税金を支払っているという感覚が更に薄くなっている。間接税である消費税の負担者は『消費者』、納付者は『事業者』ということになっているが、実際には事業者(中小零細企業・個人事業者)の中には顧客・取引先との力関係によって、『消費税分を価格に転嫁できない(価格競争で消費税分を自腹で賄わなければならない)』という問題も生まれており、赤字経営でも売上に応じて納税しなければならない消費税の重税感が高まっていることも指摘される。

政府も財界(輸出産業の大企業)もマスメディアもこぞって、『消費税増税賛成(不可避)』を含めて消費税を未来の日本財政(社会保障制度)を支える基幹税として位置づけようとしているが、そこで評価されている『消費税の性質』とは以下のようなものである。

このように見てくると、消費税の利点や長所ばかりが目に付くわけだが、もちろん間接税である消費税にも、直接税(所得税・法人税など)にはない欠点や短所というものが少なからずあり、その代表的な問題として低所得者や貧困層ほど実際の負担率が大きくなる『消費税の逆進性』がある。消費税は税の負担者である消費者の『所得水準・生活状況』をまったく考慮せずに、5%なら5%、10%なら10%と一律的に消費行動に対して課税をする税制なので、低所得者やエンゲル係数の高い家計ほど『実際の負担率・主観的な負担感』は大きくなりやすく、高所得者層・富裕層ほど実際の負担率は小さくなりやすいという逆進性の問題を抱えている。

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『簡素・公平・中立』の税の原則において消費税の何がデメリットなのか?

トヨタやキヤノンを筆頭とする輸出産業の大企業の多くは、国際競争力の強化や企業の生産性の向上、社会保障制度(少子化対策・税方式の基礎年金・セーフティネット)の財源を理由にして、『法人税減税・消費税増税・社会保険料の企業負担分の削減』の政策を強力に推進しているが、これは輸出企業であれば『国境調整(輸出事業の免税措置)・輸出戻し税(還付金)』によって消費税の実質的な負担率が相当に小さくなるからである。消費税増税の負担は、輸出産業の大企業においては法人税の増税に比べて極めて小さく付加的なメリットのほうが大きいと言える。だが、国内の内需・下請け事業に頼る中小零細企業にとっては、経営が赤字で利益が出ていなくても売上に応じて消費税の納税義務が生じるので、価格競争に巻き込まれていたり発注元の親企業から値下げ圧力を受けていれば、『消費税の重税感』が高まり消費税の滞納件数が増加してくる問題がある。

OECDが発表している日本(2003年)の対GDPの法人税率(3.3%)や社会保険料の企業負担率(4.4%)は、市場原理の影響が強いアメリカ・イギリスよりはやや割高ではあるが、欧州諸国と比べると法人税は1%ほど高いものの、社会保険料の企業負担率は半分程度である。フランスは法人税率が2.5%、社会保険料の負担率は11.1%で、ドイツは1.8%と7.1%であり、日本は法人税はやや割高であるとしても、企業の社会保障への貢献率は高いとは言えない状況にある。日本では税制の直間比率が、法人税・所得税の直接税に偏りすぎていて、5%の消費税は安すぎるという経団連の恒例の指摘はあるが、日本の消費税には『複数税率・軽減税率』が採用されていないので、食品・生活必需品にも同率の消費税がかかっており実際の負担感は欧州の10%程度に相当するという意見もある。

また、消費税は納税者の所得水準や生活状況に配慮しない一律的な『水平的平等』の税制であり、所得に応じて累進的に税率を定めている所得税と比較すると『垂直的平等(所得の再配分による格差縮減)』を実現することができないという問題もある。日本の所得税の累進課税制は1974年まで、19区分で8000万円超の最高税率は75%にも及んでいたが、1984年から累進制が弱められていき1995年には3000万円超で50%、1999年にはたった4区分で1800万円超で37%と、高所得者層の税負担は小さくなっている。2007年には5区分で、1800万円超は40%に増税されてはいるが、かつての累進課税に比べると高額所得者が優遇されているのは明白であり、特に何億円~何十億円も稼ぐような超高所得者の負担感は減っている。

望ましい税制の基本原則は『簡素・公平・中立』なので、所得税を少ない区分数で簡素化することは必ずしも悪いことではないが、所得格差の拡大を抑制するという意味では1800万円超を最高税率とするのではなく、数億円の単位でもう1段階高い税率を設定するという考え方も有り得るのではないかと思う。年収数千万円と年収数億円以上では明らかに生活水準が異なるし、現在の税制ではキャッシュフローの所得と不動産の資産にしか課税されていないので、数億円~数十億円以上の高額な金融資産(現金)などに対して、かつての富裕税のような資産税も考慮することが可能だろう。消費税を税制の原則である『簡素・公平・中立』に照らし合わせた場合には、『事業者の事務処理の複雑さ』が発生することから“簡素”とは言えない部分があり、『企業規模による価格支配力の差異・輸出産業(大企業)に有利な仕組み』を考えると“公平”とは言えない問題もある。

消費税の最大のメリットの一つと言われている企業活動を歪めず経済成長を阻害しないという“中立性”や税収が景気に左右されにくいという“安定性”についても、『消費税の節税対策による雇用構造の非正規化の促進』『消費税の滞納件数の多さ』など幾つかの問題点が指摘されることがある。消費税は売上が1000万円以下の小規模の事業者は免税されるという『免税点(免税基準)』があるが、この免税点は2003年(平成15年)までは3000万円であり、消費税を集めているのに納税していないという『益税』が批判される中で免税点が引き下げられた経緯がある。

消費税の『益税』というのは、売上が免税点の範囲内(1000万円以下)にある商店や事業者が、顧客から消費税込みの料金を徴収しているのに、実際には免税されて支払っておらず自らの利益にしているという問題である。だが、免税点の売上1000万円(3000万円)というのはビジネスとしては相当に小さな売上であり、経営赤字に陥っていて払いたくても払えない担税能力のない零細事業者が多いという根本的問題もある。免税点以下の事業者であっても仕入れの際に消費税相当額を支払っており、そもそもディスカウントストアの増加による競争で価格に消費税を転嫁できないことも多い。消費税込みの仕入れをしている事業者であれば、『益税』と呼べるほどに消費税から利益を得られている業者は殆どいないはずであり、価格競争力がなかったり親会社の発注に頼っていたりする中小零細企業では、消費税相当分を自腹を切って支払うという『損税』になってしまっているケースも多いといわれる。

消費税は景気に左右されない『安定財源』であるという評価もある一方で、利益がでておらず赤字であっても売上に応じた消費税の納税義務があるために、消費税は『滞納リスク』の高い税金でもあり、税務署による無理な消費税の徴収によって『運転資金や給与準備金のショート(枯渇)・倒産廃業・自殺』などの社会問題に発展する危険を織り込んでいる。国税庁の平成20年の租税滞納状況のデータでは、国税全体の滞納額は8988億円(前年比1.8%増)であるが、そのうちで消費税の滞納は4118億円(前年比3.4%増)で滞納全体の45.8%を占めるまでになっており、払えるのに払わない悪質な業者の滞納があるとしても、消費税が経営的に相当に支払いにくい種類の税(利益が上がっていなくても納税義務がある・消費税分を容易に販売価格に転嫁できない・仕入れ税額控除はあっても仕入れにも消費税がかかっている)であることを示唆している。

消費税の実質的な性質は『消費者からの税金の預かり金』とは言えず、『商品・サービスの価格にどれだけ転嫁させられるかの物価指標(あるいは黒字赤字と無関係な売上税)』になっているところに問題がある。利益が出ておらず顧客・親企業との力関係も弱い事業者(現金の蓄積もない下請けの事業者)が、どのようにして消費税を支払えるのかも不明瞭な税制であり、東京地裁の判決も『益税に対する訴訟』に対して、消費税は消費者からの税金の預かり金ではなく、商品ないし役務の提供に対する対価としての性質を持つと述べている。

裁判所や財務省の見解によれば、消費税は『物価・小売価格』に織り込まれているもので事業者がその売上に応じて支払う種類の税金であり、消費者が事業者に対して税金を預けているわけではない(消費者はただ商品・サービスの対価として呈示された金額を納得の上で支払っただけで消費税の納税義務云々とは関係していない)という話になる。だがそうなると、『益税・損税の問題』も無くなる代わりに、消費税は間接税としての性格を余り持っていないという話にもなってくるのではないだろうか。

消費税はその課税・控除の仕組みや輸出産業に有利な還付制度などを考慮すると、『輸出産業・大企業・高所得者』にメリットや利益の多い税制であり、『自営業・中小零細企業・低所得者』にデメリットや不利益の多い税制であると言うことができる。消費税増税が与えるマクロな影響としては、『市場競争による淘汰』を促進して中小零細企業の倒産・廃業を増やす一方で、輸出で大きな利益を出している多国籍企業には『輸出戻し税制』などで制度的な恩恵を与えて、その競争力を強化して実質的減税をするということがある。価格に消費税の税率以上の金額を転嫁できない中小零細企業(利益も余り出ていない企業)は、消費税増税によってその負担が大きく引き上げられることになるが、輸出品に対する消費税が免税されていて下請け会社に対する価格決定力を持っている大企業であれば、法人税を増税されるよりも消費税を増税されたほうがその負担・不利益は圧倒的に小さいのである。

消費税のもう一つの問題点としては、『仕入れ税額控除』に給与・人件費が含まれていないことから、正規雇用を増やすモチベーションを低下させやすく、役務(サービス)の提供で仕入れ税額控除の対象となる派遣社員(アルバイト)を増やしやすいということがあり、『消費税の節税対策』で非正規雇用を増加させて雇用形態を変質させることが指摘されたりもする。

消費税が輸出産業の大企業に有利であることは、『輸出戻し税制の還付金(輸出先で消費税がかかる輸出品の売上には国内の消費税が還付される)・下請け会社に対する価格強制力(実質的に消費税率以上の値引きをさせる)』によって説明されるが、そのことは営利追求を徹底している輸出産業の大企業が、“法人税増税”は強く反対するのに“消費税増税”には強く賛成していることからも合理的に推測できる。そういった種々の問題点があっても、日本の財政再建や社会保障費に必要な財源の中心は『消費税増税』になるという既定路線は揺らぎそうにないが、それは国民の大多数を占める被雇用者のサラリーマンにとって消費税が最も主観的な負担感が小さい税金であり、『国際競争力の維持・人材や企業、資本の海外移転の阻止』といった大義名分によって所得税・法人税の累進性の強化が難しくなっているからである。

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