経済とは「個人・企業・政府」の間の「お金と財・サービスの交換」である
経済を構成する“実体経済”と“マネー経済”
経済活動の主体としての「個人・企業・政府」
日本語の“経済”の語源は、中国の東晋時代の古典『抱朴子』(著者:葛洪)にある“経世済民(けいせいさいみん)”の記述にあると言われます。経世済民とは、『世を治め(経め)、民を救う(済う)』という国家統治の枢要を説いた慣用句ですが、群雄割拠の乱世が繰り返された古代中国では『理想的な政治』を意味するものとして使われた言葉です。
しかし、現代でいう“経済(economy)”は、政治と同一のものではありませんし、『理想的な経済・道徳的な経済・正義実現の経済』といった経世済民から導かれる道徳性(倫理性)を通常含みません。
“経済(economy)”とは、“お金・モノ(財)・サービスを交換するシステム”のことで、法律や商慣習といった一定のルールに従って行われるお金とモノ、サービスのやり取りのことです。私達は、働いて得た「所得」や今まで貯めてきた「貯蓄」、投資して得た「利益」、定期的な不動産所得や金融所得などから「お金」を手に入れて、様々な商品やサービスを買って消費します。
通常、資本主義社会では、お金を得る為に働かなければなりません。つまり、人々は家計を維持する為に「対価(報酬)を得られる財・サービス・システム」を「生産」しなければなりませんから、一人一人の国民の大半は、生産者であり消費者であるという事になります。直接的な生産者(労働者)でない人もいますが、その場合には、定期的な不労所得を産む資産(不動産・有価証券)か生活を維持するに足る財産を持っている人であったり、お金を増やす為に「所有している資本」を投資する人だったりします。労働者であっても、直接的に財やサービスを生産するのではなく、集めたお金を投資したり融資したりする銀行業や金融業に従事する人たちもいます。
個人(家計)と企業だけでなく、政府(公共機関)も国民から集めた税金や国債を使い、国家予算を立案して経済活動を行います。政府・地方自治体は、国家予算を公共機関に分配して、社会の利益・安全を増進する為の経済活動(公共事業・公共投資・社会保障)を行います。日本銀行は、金融政策によってインフレやデフレの過剰を防ぎ、円滑で健全な経済情勢を維持する為の金利調整を行います。
また、教育・医療・介護・福祉など公共性の高い分野で国民の負担を少なくする相互扶助や社会保障にも税金は使われます。その他、治安維持のための警察活動、国家安全保障のための国防活動、国益増進の為の外交など税金の用途にはさまざまなものがあります。公共の福利につながる行政の公的事業(教育・医療・福祉・雇用・事務処理・介護・都市計画など)に従事する公務員への給与・賞与も、国民の納付する税金によって賄われます。
先ほど、経済には倫理性や道徳性が含まれないという話をしましたが、1998年にノーベル経済学賞を受賞したインドのアマルティア・センの厚生経済学のように、経済学と倫理学を融合させようとする試みもあります。
センの厚生経済学は経世済民の理想そのものではありませんが、経済的な貧困と不平等の問題に正面から向き合い、『個人が価値あると考える人生の進路を自由に選択できる経済・人生を自由に選択できる経済』を理論化しようとしました。それまでの新古典派などの経済学は、商品やサービスから得られる効用の最大化(効用主義経済)や経済規模(生産・消費,GDP,GNP)の拡大という経済成長を目的としていましたが、センは『個人の生活の質(QOL)の向上につながる自由』という人間の幸福感と直結した潜在能力の活用に経済学のパラダイムを転換しました。
経済活動は大きく分けると、「お金」と「商品やサービス」を等価交換する“実体経済(実物経済)”と「お金そのもの」を商品として金融取引(株・債券など有価証券の売買)や投資事業(将来の利益や成長を見込んだ金融市場・先物取引などへの投資)を行う“マネー経済”に分けることが出来ます。銀行や郵便局に預貯金する行為も、お金を銀行・郵便局に融資する形になりますので、株や債券の取引よりも安定度は高い(流動性が低い)ですがマネー経済に分類されます。
私達が、毎日の生活の中で行っている食料品や衣服など商品の売買は、典型的な実物経済であり、旅行やレジャー、娯楽などに伴う各種サービスや移動手段に支払う行為も実物経済です。実物経済では、お金と形のあるモノ、実感できるサービスが等価交換されますから、お金の価値の上下によって損益の出てくるマネー経済や資産経済とは異なります。
実物経済では、その場でお金を支払い、商品やサービスを受け取る事により(ローンなどを組まない限り)経済行為が完結します。それに対して、マネー経済では、持っているお金を一旦、有価証券や金融商品、外貨、預貯金といったものへと交換して、『将来の利殖(お金の価値の増加や分配)』を待ちますから経済行為はその場では完結しません。
日本の実物経済の指標であるGDPは、大体、500兆円あたりを推移していますが、マネー経済の指標の一つである日本国民の金融資産の総額は1,400兆円程度であろうと推算されています。全体的な傾向としては、株や債券といった有価証券の売買、不動産や先物への投資などを行うマネー経済は活発化する流れの中にあり、米国などでは特にマネー経済の規模が大きくなっています。
実物経済は、市場に個人・法人の需要を満たす商品やサービスを供給し、マネー経済は商品やサービスを生み出す株式会社に事業を展開する為の資金を提供するので、実物経済とマネー経済が相互に支えあうことで資本主義経済は成り立っています。
経済活動は、誰が行うのかを考えた場合の主体を『経済主体』といい、経済主体として“個人(家計)・企業(法人,個人事業者)・政府(公共機関)”を考えることが出来ます。
個人は、サラリーマンとして企業に勤めたり、公務員として公共機関で仕事をすることで賃金(給与賞与)を得ます。個人事業者として仕事をすることで所得を得る人もいますし、個人投資家として市場から利益を引き出す人もいます。一般的なサラリーマン(公務員)は企業(公共機関)に労働力を提供して、対価としての賃金を得ます。
個人は仕事や投資で得たお金を、自分の欲しい商品やサービスと交換して再び企業・事業者へとお金が還元され、新たな事業を展開する資金となります。
政府(公共機関)に対して公務員は労働力を提供し、政府は税金から予算を組んで公務員に賃金(給与賞与,退職金)を支払います。個人(家計)は、政府に対して税金を支払い、政府はその税金によって公共の利益に適う公共事業・公共投資を行い、社会資本(社会インフラ)を整備していきます。税金とは別枠で政府に支払われる年金や社会保険、健康保険の料金は、将来の年金給付や医療費の軽減、傷病者への保障に使われます。
政府は、社会保障政策を施行して国民の生活の安定と社会福祉の充実を図りますが、小さな政府を志向すると税金負担が軽くなる代わりに社会保障や行政サービスが薄くなる傾向が出てきます。
経済主体としての3者は相互的に密接に結びついていて、景気が良ければ、個人の消費が増えて企業の利益が増え、個人の給与も増えるので、税金の納税額も高くなって政府の財政状況も良くなっていきます。反対に、景気が悪化してくると、消費者としての個人は、消費活動を控えて手堅い貯蓄にお金を回すので、企業の売上が低下して個人の給与も低くなる傾向があります。そうなると、法人から政府へ支払われる法人税と個人から政府に支払われる所得税などが少なくなり、政府の財政状況も悪化していく事になります。
資本主義経済の「政府・企業・金融機関・個人」の間のお金の流れを考えてみると以下のようになります。
政府は金融機関へ国債を発行し、金融機関は国債を買い取って「債券の金融商品」として個人に販売します。
個人は、金融機関に自分のお金を預金(貯金)して、金融機関はそのお金をさまざまな事業へと運用します。個人は預貯金したお金からその時々の利率に合わせた利子を受け取ることができます。
また、金融機関・証券会社で株・債券などの金融商品を購入した場合(投資した場合)には成果に応じてインカム・ゲイン(配当金)やキャピタル・ゲイン(売却益)を受け取ることが出来ます。金融機関との間で行われる経済行為の殆どは、金融市場との取引を含むので「マネー経済」に分類されます。
企業や事業者は、仕事を行う為に必要な資金を金融機関から借り入れ、規定の利子を支払いそれが金融機関の利益となります。
株式会社の場合には、金融市場に向けて株式や社債を発行して、金融機関からではなく投資家(個人)から事業資金を集めて資本を大きくすることが出来ます。投資家は、自分が将来性や成長力があると思った株式会社に投資することで、配当金や売却益、株主優待などの利益を得られる可能性がある一方で、株価下落によって損失を出すこともあります。金融市場での取引は、原則として自己責任で行わなければならないので、十分に慎重な調査研究を行い、リスクを了解した上で投資する必要があります。
個人は自分が必要な商品(財)や欲しいサービスをお金を支払って、企業や事業者から買い取ります。一般的な買い物としての消費活動が行われ、さまざまな商取引・契約行為が行われます。実物経済の主要な経済活動は、この個人と事業者の間で行われます。
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