企業の未来を予測する株価と株価の変動要因
株式投資に必要な情報収集
株式の基本的な仕組みについて解説しましたが、有価証券である『株式(stock)』は元本保証のないリスク資産です。つまり、株式市場の需要・供給によって株価は絶えず変動(値動き)しており、株式投資によって利益を出すためには『株を安く買って高く売る』というのが基本原則となります。株式市場(東証・大証・マザーズなど)に上場している各株式会社の『発行済み株式数』は決まっていますので、株式市場では投資家の需要(買い注文)の多い銘柄ほど株価が上がるという需給原則が働きます。
このことを指して、公共事業の財政政策の理論提供者として有名なジョン・メイナード・ケインズは『株式投資は美人投票である(=みんなが美人と思う銘柄を早く予測するゲームである)』と評価しました。違法なインサイダー取引などを除いて、株価の変動を事前に完全に予測することはできませんが、『株価を変動させる要因』を理解することで『株式投資のリスク』を低減させることが出来ます。『株式市場に影響を与える要因』と『企業の業績を示す決算書の内容』を理解することで、将来株価が上昇しそうな優良成長企業に投資できる可能性が生まれてくるのです。株価を押し上げる要因を『好材料』、反対に株価を押し下げる要因を『悪材料』といいます。
ケインズが言う美人投票は『みんなが評価する優れた人物への投票』と読み替えたほうが分かりやすいのですが、こういった美人投票では『性格・容姿・ファッション・教養知性・道徳性・性的魅力』などが総合的に評価されて投票が行われます。株式投資もそれと同じで、『企業の将来の業績・経営・財務』を予測するために、それぞれの投資家によって色々な要因が考慮されています。
株価が変動する要因には、市場経済・政治情勢・業界の景気・為替相場・金利など個別企業の事業に外部から影響を与える『マクロ要因』と、企業の経営・財務・商品力・ブランド力・話題性など個別企業の経営状況である『ミクロ要因』とがあります。景気や天候の変動、為替や政策金利の変化、政治情勢の悪化など『マクロ要因』は、個別企業の経営判断や営業努力だけでは完全にリスクヘッジすることは出来ません。
しかし、金利が高い(安い)時に有利な企業、景気の悪い時にでも業績を伸ばしやすい企業、円安(円高)で有利な輸出企業(輸入企業)などの特徴があるので、現在と将来のマクロ要因が各企業の事業に与える影響を予測して投資を行う必要があります。気候の変動というのも、猛暑であれば飲料水メーカーや電機産業、アイスクリームの企業などに有利となり、厳冬であればコートなどのアパレル関連産業や電機産業(ファンヒーター)、電力会社などの売上が上がりやすくなります。
『ミクロ要因』を効果的に予測するためには、企業が決算期(四半期)ごとに発表する決算書(財務諸表)を正しく読み解くことが必要であり、企業業績を財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)を使って分析・予測することがファンダメンタルズ分析という投資手法になってきます。
新興ベンチャー企業などが自社の時価総額(株価×株数)を上昇させる手法として『株式分割』がありますが、株式分割も一般的には『一株当たりの株価が安くなって買いやすくなる・企業の成長力や将来性を高く評価されやすい』といったプラスのミクロ要因として作用します。しかし、かつてのライブドア株で異常な株式分割が多用されて『実態のない錬金術』として非難されたように、急成長している企業でもファンダメンタルズ分析を的確に行いながら『株式分割の持つ効果・意味』を考えていく必要があります。
金融経済の理論的には、株式分割を行っても企業の時価総額は変わらないのですが(株式発行数を2倍にすれば株価も2分の1になるので)、株式分割には『株の流動性の増加・企業の成長性のアピール・配当金の上昇』といった効果があり、実際には株式分割をするとその株に対する需要(人気)が高まりやすくなります。
金融商品の魅力には『安全性(値下がりリスクの低さ)・収益性(利益率の高さ)・流動性(現金化のしやすさ)』が関係していますが、株式は一般的に収益性と流動性に優れているが安全性が保証されないリスク資産であると言われます。株式投資は投資信託や為替市場などと比較すると『取引手数料(委託手数料)の低さ』というメリットがありますが、投資信託や為替の場合には『少額取引(多くの場合、1万円から)が可能』という利点があります。株式投資というと、『数十万円~数百万円以上の大きな資金(元手)』がないとまともな利益が出せないというイメージがあります。
しかし、購入可能な単位株数が小さい『ミニ株』の登場や、毎日頻繁に小口の売買を繰り返せる『ネット証券(ネット株)・デイトレード』の普及によって、10万円以下の予算しかない個人投資家でもある程度の利益を出せる市場環境が整いました。『るいとう』と呼ばれる株式累積投資では、積み立て感覚で毎月決まった金額を株の購入に投資することができ、自動的に『ドルコスト平均法』を実施することができます。ドルコスト平均法というのは、毎月決まった金額だけ機械的にリスク資産(株式・投資信託・外貨預金など)に投資する方法であり、『株価変動のリスク』を引き下げて『株式の平均購入価格』を下げる効果があります。
『株価の変動要因』として最も直接的で重要な要因は、決算書・財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)で定期的に報告される『企業の業績』ですが、株価は『今現在の業績』ではなくて『少し先の将来の業績予測』によって値動きします。その為、いくら現在の企業業績が良くても『今が最高の経営状態で、これ以上成長の余地が乏しい』と投資家が判断すれば、株価が思ったように上がらないという相場も十分に有り得るわけで、そこに『業績からの単純な将来予測』が通用しない株式投資の難しさがあります。しかし、これは短期投資をする場合のリスクであって、長期投資をする場合には『売上高・営業利益が伸びている安定成長企業の株』を購入したほうが有利な資産運用ができる可能性が高くなります。長期投資では毎日の株価の細かな値動きに一喜一憂せずに、企業の経営状態・財務状況をファンダメンタルズ分析(決算書・財務諸表による分析)によって的確に理解することがポイントになります。
長期の株式投資で企業のミクロ要因に注目する場合には『未来に好業績を上げる企業(エクセレント・カンパニー)』を探すことが目標になりますが、株価に影響を与える要因では『財務諸表の数字・新商品や新サービスの発表・企業のブランド力と注目度・経営者の経営ビジョン』の4点を重視すると良いのではないかと思います。市場経済の動向や政治情勢の変化などのマクロ要因を十分にカバーするためには『毎日のニュース報道』に注意する必要性がありますが、特に『市場の景気(好景気と不景気)・金利と為替(財政政策や円安円高)・国際政治情勢(産油国や大国の政策)・天候(異常気象や災害)』の4点に気をつけて毎日のニュースをチェックすると良いでしょう。景気が良くなれば『個人消費の増加』が見込めるので一般的に企業業績が向上しますが、景気の動向を予測するためには政府機関が発表する各種の経済指標(景気動向指数・消費者物価指数・完全失業率)が役に立ちます。
金利が株価に与える影響は一般的に『金利上昇→株価下落・金利下落→株価上昇』の反比例の関係が成り立つとされていますが、バブル崩壊後の日本経済のようにゼロ金利を続けても景気や株価が上向かなかった事例もあり、金利の上げ下げのみによって株価を予測することは困難です。しかし、金利が下がると企業が間接金融(銀行からの融資)によって資金を調達しやすくなり、投資家は金利の低い預貯金(安全資産)を嫌って株式・投信のようなリスク資産にお金を移しやすくなる傾向があるので、金利が高いよりも安いほうが株式市場が活発化しやすいとは言えます。
ただ、最近の大企業は間接金融によって事業資金を調達する比率が小さくなっているので、金利引下げによる景気刺激効果は限定的であると言えますし、金利が安くても安全資産のほうが良いという日本人のほうが多いので、『貯蓄から投資へ』の流れが急速に進むということもないでしょう。いずれにしても、株価はマクロ要因とミクロ要因の影響を受けながらも、最終的には株式市場における需給原則(市場原理)によって価格が決定されていくことになります。
株式市場全体の動向を大まかに知りたければ、『日経平均株価』や『TOPIX(東証株価指数)』といった株価指数(経済指標)を参照することができます。毎日の経済ニュースの中で頻繁に出てくる日経平均株価とTOPIX(トピックス)ですが、日経平均株価というのは、東証一部上場の銘柄から主要な225銘柄を抽出して平均した数値であり、日本経済新聞社が発表しているので『日経225』と呼ばれることもあります。この主要な225銘柄は固定的なものではなくて、市場の平均的な景気動向を反映するために必要に応じて『225銘柄の入れ替え』が行われています。TOPIX(トピックス)とは、東京証券取引所(東証)が発表している株価指数で、1968年時点の時価総額を“100”として、東証一部上場の全ての銘柄の時価総額を指数化したもので、大まかな株価の上げ下げを把握するのに便利です。アメリカの株式市場にも日経平均株価のような『S&P500・NASDAQ指数・ニューヨークダウ』といった株価指数があります。
株式投資に必要な情報収集を行う場合には、以下のようなメディアから企業・株価・市場・政治経済の情報を入手することができますが、最終的には自己責任と自己判断によって株価の変動を予測して投資することになります。
『すべての上場企業』の経営状態(業績)・財務状況・過去の株価チャートなどの情報を掲載した情報誌に『会社四季報』がありますが、百科事典のように分厚い会社四季報は、全部のページを丁寧に読む必要性はまったくありません。自分の関心のある業界や自分が株を買おうと思っている企業の『投資判断に必要な情報』をチェックすれば良いのであり、具体的には『過去5年分の株式チャート・財務状況(ROE・ROA・PER・株主資本比率)・業績予想』などに大まかに目を通しておけば良いと思います。日経新聞を読む場合にも詳細にすべてのデータを読み込む必要はなく、『自分の投資判断に役立つ情報』を広い取って読んでいくというのがポイントになります。
ROAとは“Return On Assets:総資産利益率”のことであり、企業の税引き後利益(当期利益)を総資産(純資産+負債)で割った数値になります。経営資源である総資産をどのくらい効率的に運用して利益を上げているのかを知るための指標です。ROEとは“Return On Equity:自己資本利益率”のことであり、当期利益を株主資本(自己資本)で割った数値になります。
株主が投資した事業資金がどの程度のリターン(利益)を生み出したのかを示す数値であり、株式投資の収益性を直接的に示す指標の一つです。PER(Price Earnings Ratio)とは、株価を一株当たりの利益(EPS)で割った『株価収益率』のことであり、投資家が株価が割高であるか割安であるかを判断するために用います。これらの企業指標は、投資家の株式投資に対する企業の総合的な収益力・営業力を示すものであり、『収益性指標』と呼ばれ投資判断のための重要な指標とされています。
インターネットによる情報収集では、Yahoo!ファイナンスのようなポータルサイトや楽天証券・イートレード証券のようなネット証券サイトが活用されていますが、上場企業のホームページには投資家向けの『IR情報(Investors Relations)』が公開されているので、IR情報を投資判断の参考にすることができます。mixi,greeのようなSNS(ソーシャルネットワーキング・サービス)のコミュニティや匿名掲示板でも株式市場・株式投資に関連する情報を集めることが出来ますが、投資関連情報は玉石混淆であり確実と呼べるものはないので、各自が情報の有効性(真偽)を検証していく必要があります。