ビットコインの歴史とサトシ・ナカモトの論文:ビットコインは非中央集権的・自律分散的な仮想通貨
ビットコインのマイニング(採掘)とマイナー(採掘者)が維持するブロックチェーン上の円滑な取引:ビットコインの発行上限は約2,100万BTC
ビットコインのブロックサイズ問題(スケーラビリティー問題)と送金処理能力:Segwit2Xから“ライトニング・ネットワーク(LN)”による解決に向かう
ビットコイン(仮想通貨)の未来を揺るがす「取引所リスク(サードパーティーリスク)」と「世界的な法規制の包囲網」
ビットコイン(Bitcoin)は、インターネット上で流通する「物理的な貨幣(コイン)・紙幣のない仮想通貨」です。ビットコインは2009年からウェブ上で流通し始めた「世界初の仮想通貨」であり、2017年11月からの異常な高騰で世間一般にも知られるようになりました。仮想通貨(virtual currency)の根幹技術として暗号化技術が駆使されていることから、海外では仮想通貨のことを「暗号通貨(cryptocurrency)」と呼ぶことも多くなっています。
ビットコイン(BTC)は2017年初旬には約10万円程度の価格でしたが、2017年12月の最高値では「220万円」を超える価格となり、1年間で「約22倍」も価格が暴騰したのです。2016年以前からビットコインを保有していたイノベーターの中には、仮想通貨資産が「約100~1000倍以上」にもなった人がいるともいいます。仮想通貨投資によって、個人資産が1億円を超えた「億り人(おくりびと)」と呼ばれる人たちも多く生まれました。
ビットコインの歴史は、2008年にサトシ・ナカモト(中本哲史)を名乗る謎の人物が、インターネット上に「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(ビットコイン:P2P 電子マネーシステム)」という論文を発表したことから始まりました。
このたった9ページの論文に基づいて、ビットコインプロトコルの開発が進められ、「ビットコイン・コア(Bitcoin Core)」と呼ばれる開発者グループが構成されました。サトシ・ナカモトのビットコインの技術の中心にあるのは「暗号化技術・ブロックチェーン(分散台帳システム)・P2P」ですが、これらは政府・中央銀行・企業といった中央機関(権限のある管理者)を必要としない「仮想通貨の可能性」を示唆するものでした。
ビットコインと名付けられた仮想通貨の最大の特徴は、暗号化技術によってセキュリティーと匿名性を確保しながら、「非中央集権的・自律分散的な通貨システム」を実現していることにあります。ビットコインによる仮想通貨の発明が「通貨革命」と呼ばれる理由の一つは、「お金の発行・流通・価値を管理する中央機関(国家・中央銀行)」がなくても、通貨としての機能や流動的(市場的)な価値を維持しているということなのです。
現時点では、ビットコインやアルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)を使えるお店・サービスが限られているので、「決済機能(実際に買い物できる機能)」は限定的なものになっています。しかし、ビットコインは将来的にはスマートフォンやパソコンを使って、世界のどこでも買い物ができるような「世界共通の仮想通貨(送金手数料が安くて送金速度が速い仮想通貨)」になることを目指しています。
仮想通貨のビットコインには「ブロックチェーン」という革新的な技術が利用されており、ビットコインの送金のやり取りをすべてブロックに記録してその情報を公開することで「ビットコインの数字の改竄」を原理的に不可能にしています。
ブロックチェーン技術とは、取引データが記録された「ブロック」を最初の取引からずっと鎖のように繋げていき、データが矛盾なく連続しているもっとも長い鎖を正しい取引データとして解釈する技術です。ブロックチェーンでは最初から現在に至るまでの「取引データの整合性・一貫性」が、各ノード(各パソコン)の承認作業・情報共有で維持されているので、ブロックチェーン上にある分散台帳の数字を改竄することはほぼ不可能だと言われています。
ブロックチェーンの取引データが正しいかどうかの承認・検証の作業は、非常に複雑なハッシュ関数の計算によって行われますが、このビットコインの取引データのパソコン(専用マシン)を使った承認作業のことを「マイニング(採掘)」と呼んでいます。高性能なマシンでビットコインのマイニングをする人・企業(組織)を「マイナー(採掘者)」と呼んでいますが、このマイナーによってビットコインのブロックチェーン技術に基づく送金ネットワークは維持されています。
マイニング(採掘)はビットコインの「新規発行の仕組み」でもあり、マイナーはマイニングの計算作業に参加することによって「マイニング報酬」をビットコイン(BTC)で受け取ることができるのです。ビットコインの発行上限数はプログラムによって、あらかじめ「約2,100万BTC(2,0999,999BTC)」と決められており、それ以上のBTCは発行されないので通貨供給の過剰によるインフレは起こらないとされています。
強制的な権限を持つ中央管理者がいないとされるビットコインですが、実際には大規模な専用コンピューター群と膨大な電力を使ってブロックチェーンの承認作業を行っている「マイナー(ビットコイン・アンリミテッド)」とビットコインのプログラムを作成している「開発者集団(ビットコイン・コア)」が一定の権限を持っています。
ビットコインのセキュアな送金ネットワーク(ブロックチェーンに基づくネットワーク)は、マイナーと開発者によって支えられているために一定の発言力を持つことになりますが、2017年にはマイナー陣営と開発者陣営が「ビットコインの仕様変更(ブロックサイズ拡大・SegWit2X)・ハードフォーク(ブロックチェーンの分岐)」を巡って対立するという問題も起こりました。
ビットコインのブロックチェーンでは、約10分間に1個のブロック(取引データのかたまり)が生成されていますが、ビットコインの初期のブロックサイズは「1MB(約4,000件の送金データを格納できる容量)」で、ビットコイン利用者が増えるにつれて「取引処理能力の限界」が問題になることが多くなっています。初期のビットコインの送金データ処理能力の上限は、1MBのブロックサイズに規定される「約4,000件/10分」だったので、ビットコインを取引する人が増えると、「トランザクション処理(マイニングによる取引処理)の能力」が次第に追いつかなくなってきたのです。ビットコインの1秒あたりの送金処理能力は、「4000件÷600秒=6.66件/秒」になります。
ビットコインのブロックサイズの小ささを前提とした送金能力の限界に関する問題のことを、「ブロックサイズ問題(スケーラビリティー問題)」と呼んでいます。VisaやJCBのようなクレジットカードの送金データ処理能力は「約5万6千件/秒」以上とされていますから、ビットコインが約4,000件の送金データを処理する10分間のうちに、クレジットカードであれば約3,300万件以上の送金処理を行うことができます。ビットコインは送金処理能力の面において、まだまだ世界通貨になるには性能が不足している「発展途上の未熟な仮想通貨」ということができるでしょう。
ビットコインのブロックサイズ問題(スケーラビリティー問題)で起こる問題としては、未承認トランザクション(処理されていない送金要求)の増加による「BTCの送金時間(取引)の遅延+BTCの送金手数料の上昇」があります。2018年2月から、約580億円分のNEMが大量流出した「コインチェック事件」などの影響もあって、ビットコインの取引量が減り、トランザクション遅延はだいぶ改善しています。
しかし、ビットコイン利用者の送金要請が増えて処理しきれなくなると、高額の送金手数料を支払う人ほどマイナーが優先的に承認してくれることから、送金手数料が高騰しやすくなります。ブロックサイズ問題を上手く解決できないと、ビットコインのメリットである「海外送金手数料の安さ(2017年初頭までは数十円程度で送金可能でした)+送金スピードの速さ」が失われてしまうのです。
ビットコインのブロックサイズ問題を解決するための方法として考えられてきたのが、「ブロックサイズの拡大+SegWit2Xの導入」でした。ブロックサイズ拡大によるハードフォークに反対する「ビットコイン・コア派(開発者陣営)」が提案していたのが、1ブロック内のデータ量を約60%圧縮できる仕様の“SegWit(Segregated Witness)”でした。Segwitというのは、1ブロック内のインプット(scriptSig)から「署名・公開鍵などの情報」を取り出して、別のwitness領域に分けて記録することで、1ブロックに保管できる送金データ量を増やせるという技術です。
マイナー陣営であるビットコイン・アンリミテッドは「ブロックサイズ拡大によるハードフォーク」を求めていましたが、コア派とアンリミテッド派の対立を調停する仕様として「SegWit2X(B2X)の導入」が決められたのでした。2017年5月にアンリミテッド派と大手取引所によって、SegWit2X導入に合意する「ニューヨーク合意(NYA:NewYork Agreement)」が取り交わされ、現在では実際にビットコインの送金にSegWit2Xが活用されるようになってきています。
ハードフォークというのは、ビットコイン(BTC)から「ビットコインキャッシュ(BCH,ブロックサイズが8MBに拡張)」や「ビットコインゴールド(BTG)」が分裂したように、「互換性のないブロックチェーン分岐」によって別の仮想通貨が生まれることを意味しています。ハードフォークが起こると、無料で分岐した新たな仮想通貨がもらえることが多いので、仮想通貨投資家からは歓迎されてきましたが、2018年3月現在ではハードフォークした新仮想通貨に価格がつくケースが減っています。2017年8月のビットコインキャッシュ(BCH)のように、無料でもらえた仮想通貨が高騰するケースはほとんど無くなっているので、ハードフォークによって仮想通貨資産が2倍以上になるというようなことは今後もまずないでしょう。
SegWit2Xの導入によっても、ビットコイン(BTC)の送金能力は十分ではないということで、ブロックサイズ問題(スケーラビリティー問題)の決定的な解決策として「ライトニング・ネットワーク(LN)」が提唱されています。ビットコインのライトニングネットワーク(LN)とは「数百万件~数億件/秒」の送金処理ができるとされる革新的技術であり、イーサリアム(ETH)やリスク(LSK)に採用されている第三者の承認無しで契約を遂行できる「スマートコントラクト」を応用した仕組みとされています。
ライトニングネットワーク(LN)はブロックチェーンの外部に「オフチェーン」を作って、オフチェーンで「スマートコントラクトに基づく自動的な送金処理」を迅速かつ正確に行えるという画期的な技術です。ライトニングネットワークがビットコインに実装されれば、「送金遅延・送金手数料上昇のスケーラビリティー問題」を決定的に解決することができ、ビットコインは取引処理件数に上限のないスケールフリーな仮想通貨に進化することになるでしょう。
2018年3月現在、1月前半の200万円台まで右肩上がりのチャートを描いていたビットコイン(BTC)価格が、90万円を割り込んで下落トレンドになっています。イーサリアム(ETH)やリップル(XRP)、ネム(XEM)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)といった主要なアルトコインも総じて下落傾向にあり、仮想通貨の未来を危ぶむ声も増えています。BTC価格下落の引き金となったのが、2018年1月26日に取引所のコインチェックで起こった、約5億2,300万XEM(当時レートで約580億円)のNEMが不正流出した「コインチェック事件(NEM大量流出事件)」でした。
ビットコインなどの仮想通貨を巡っては、2014年に「Mt.GOX事件(マウントゴックス事件)」が起こって「約75万BTC(当時レートで約480億円)+現金28億円の顧客資産」が消失したように、「取引所(仮想通貨業者)」が起こす不祥事・問題が目立っています。
仮想通貨投資には、取引所がハッキングされて仮想通貨・現金が盗まれたり、取引所内部の人間が不正な犯罪行為をして顧客資産を横領したりする「サードパーティーリスク(取引所リスク)」があります。現在の仮想通貨市場の低迷には、「セキュリティーの弱さ(メール経由のマルウェア感染+NEMのホットウォレットでの管理)」を突かれて、大量のNEMを盗まれた「コインチェック事件」が少なからぬ影響を与えており、取引所が信用できなければ仮想通貨取引をしたくないという人が増えたのです。
仮想通貨の未来の成長・発展を脅かすもう一つの要因としては、「国家権力・国際社会による法規制の強化(国家・法律による取引所の監視や閉鎖のリスク)」があります。2017年後半から、中国・韓国における仮想通貨の規制が強化されており、「取引所に対する規制強化のニュース」が流れる度にビットコインやアルトコインの価格が大きく下落しました。
特に、2017年前半まで仮想通貨の投機投資・マイニングの中心的拠点であった中国は、仮想通貨を全面禁止にするほどの厳しい規制をかけるようになっており、中国国内の取引所はすべて閉鎖されて中国人の仮想通貨投資額も急減しました。中国人が現在でもドル建てで仮想通貨投資に参加している可能性はありますが、2018年現在では「日本・韓国・アメリカ」が仮想通貨投資の中心的拠点になっているのです。仮想通貨投資がブームになっていた日本で、取引所リスクを印象づける「コインチェック事件」が起こってしまったことで、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの仮想通貨の相場が急落したとする見方もできるでしょう。
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