日本の年金制度の分類と歴史

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国民年金・厚生年金・共済年金の違い
三階建ての年金制度と国民年金(基礎年金)の未納問題

国民年金・厚生年金・共済年金の違い

日本の公的年金制度は雇用形態(源泉徴収の有無)や職業・仕事によって、以下のように『国民年金・厚生年金・共済年金』に分けられています。

『国民年金』は企業・役所・団体などの組織に雇用されていない人、給与からの源泉徴収を受けていない自営業者(個人事業者)が加入する公的年金制度であり、『厚生年金』は企業に勤務するサラリーマンの被用者が加入する制度、『共済年金』は官庁・役所・学校・団体など公的機関に勤務する公務員(団体職員)が加入する制度になっています。

厚生年金と共済年金は『毎月の年金保険料』を雇用者(会社・役所)が折半して半分を支払ってくれますが(労使折半)、国民年金は年収とは関係なく“約1万5千円”の年金保険料を全額自分で納付しなければなりません。厚生年金の保険料率は、2012年で16.766%ですが会社が半分を支払ってくれるので、実際の会社員個人の負担率は8.383%になります。2004年から毎年0.354%ずつ引き上げられていますが、2017年(平成29年)以降は18.3%の保険料率で固定されることになっています。

ただし、国民年金制度には低所得者や収入のない無職者のための『国民年金保険料の免除制度』がありますので、収入が少なくて年金保険料を支払えないという人は、近くの役所や国民年金機構の窓口に出向いて、免除制度を利用したいという意向を伝えるべきです。年収額に応じて保険料の『4分の1免除・2分の1免除・4分の3免除・全額免除』の免除制度が適用されます。

しかし全額免除だと保険料を1円も払わなくて良い代わりに、『年金受給資格の月数(累計で25年(300ヶ月分)以上納付していないと受給資格が得られない規定がある)』には算定されるものの、『年金の支給額』には算定されないので注意が必要です。つまりずっと収入がゼロで働いていないからといって、全額免除を続けていれば国民年金を受給できるわけではなく、年金を受け取るためには4分の3免除等(免除された金額で納付するとその分受給額も少し低くなります)で一定の保険料はやはり納める必要があるのです。

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三階建ての年金制度と国民年金(基礎年金)の未納問題

日本の年金制度の歴史は、明治維新を成し遂げ近代国家が誕生した明治時代の官僚制度にまで遡りますが、最も早い段階で整備されたのが『官僚・公務員の共済年金』でした。天皇主権の国体・政庁(太政官の後継組織)に奉仕して働いた恩恵として、老後の生活を保障する年金を給付するというのが共済年金の元々の意義でした。そして、『昭和期の戦時体制』で国家予算・軍事費を効率的に徴収するという目的を兼ねて、1942年に厚生年金の前身である『労働者年金保険』が制定され、終戦間近の1944年に民間企業の会社員全員が加入する『厚生年金保険』へと名称が変更されました。

従来、公的年金制度は企業・役所・学校・団体などに勤務していて、給与から保険料を源泉徴収されるサラリーマン(会社・公的機関に雇用されている人)だけが加入できる制度でしたが、1950年代の高度経済成長期に入り(老後の面倒を見てくれる子どもが身近にいない)核家族化が進行していく中で、『サラリーマンではない農家・漁師などの一次産業の従事者・自営業者・個人事業者』にも年金制度が必要であるという世論が高まってきます。

それまで、非サラリーマンの農家や自営業者(商店経営者)、個人事業者などは『平均的にサラリーマンよりも所得水準(現金収入)が低いこと』と『正確な所得が捕捉しづらいこと』を理由にして公的年金制度に馴染まないとされていましたが、『所得と比例しない定額の保険料』を採用することで、最低限の老後の生活費を給付するための『国民年金法』が1961年に施行される事になりました。

そのため、厚生年金・共済年金と比較すると、納付する保険料の金額も『約1万5千円』と安めに設定されていますが、国民年金のみの40年加入(納付)だと65歳からの年金受給額も『約6万6千円』でかなり低い水準(それだけでは老後の生活が困難な水準)となっています。これは、国民年金というのは主に農家や漁師、商店、飲食店などの自営業者の加入を想定して作られた経緯があり、これらの職業には会社員のような定年がないために、60~65歳以上になっても多少の労働収入があるだろう(国民年金の収入だけではない)と見積もられているからだとされます。

また自分と家族だけで働いている自営業者は労使折半もできないので、国民年金を厚生年金・共済年金並みの給付にしようとすれば、月々の保険料が3~5万以上などの高額になり、現実的にほとんどの加入者が払えなくなるという理由もあります。また国民年金の給付額をもっと増やしたいという収入の多い自営業者は、別に任意で『国民年金基金』『民間の年金保険』に加入することができます。

国民年金制度が設立された当初は加入したい人だけが加入する『任意加入』でしたが、1986年には年金財源確保のための制度改正で『学生を除く20歳以上60歳未満の加入・納付の義務づけ』が行われ、1991年には『20歳以上の学生も加入・納付の義務づけ』が行われています。国民年金は厚生年金・共済年金とは違って、『給料から源泉徴収して保険料を納める仕組み』ではなく、また無職者や極端な低所得者も加入する制度なので、現実的に支払いたくても支払えないという人が一定の比率で出てきます。

そのため、国民年金には約4割の免除申請さえしていない未納者が存在しており、更に免除申請して少ない保険料しか支払えない人も多くいるので、年金財政基盤は厚生年金・共済年金と比べるとかなり悪くなっているのが現状です。現在の日本で年金の未納者が増加しているという問題は、『国民年金の加入者の未納』を意味していますが、この未納者の多くは失業者・無職者・無業者・極端な低所得者のカテゴリーに該当するので、払わせようとしても実際的に払えない層が多いと推測されます。反対に、『厚生年金・共済年金』というのは既に組織で働いている人(給料を毎月受け取っている人)しか加入できない年金制度であり、給与から年金保険料が源泉徴収されています。そのため、『厚生年金・共済年金の未納』というのは、企業が法律違反(厚生年金への未加入)をしていない限りは、原理的に起こり得ない問題なのです。

景気の悪化、失業率の上昇、(企業が厚生年金に加入させない)非正規雇用率の上昇、無業者(ニート)の増加などで、国民年金の財政基盤は弱くなっていますが、その財政基盤を厚生年金・共済年金と一部共有して強化しようとしたのが1985年に制定された『基礎年金制度』でした。基礎年金制度の導入によって、日本の公的年金制度は『1階建て(国民年金・基礎年金だけ)・2階建て(基礎年金+厚生年金・共済年金の報酬比例部分)・3回建て(基礎年金+厚生年金・共済年金+企業年金・職域加算)』という表現が為されるようになりました。

全国民が加入・受給するという建前に立つ1階の部分が『基礎年金(国民年金の負担と給付に相当する全国民共通の年金)』ですが、会社員・公務員であればそれに2階部分である『報酬比例部分(厚生年金・共済年金)』、更に大企業や公務員であれば3階部分となる『企業年金・職域加算の部分』が加わることになります。

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