ラー:万能の太陽神・最高神

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太陽神ラーと動物崇拝:神官が権威を高めたエジプト王朝の歴史

太陽神ラーは、太陽信仰に根ざしたエジプト神話の最高神であり、古代エジプト王朝において万能の属性を持つ神々の王として崇敬された。ラーは一般的に“ハヤブサの頭”を持った獣頭人身(鳥頭人身)の姿で描かれるが、エジプト神話の特徴の一つが『動物の神聖視・動物崇拝』であり、動物は神そのものとされたり神の化身や神との媒介者にされたりもした。

ジャッカルの頭を持つアヌビス、タカの頭を持つホルス、雌牛の女神イシスなど古代エジプト神話の神々の多くは『獣・鳥の頭部』を持つ不思議な姿で描かれている。

紀元前3000年頃に、上下エジプトを統一して『エジプト第1王朝』を創設したメネス王(ナルメル王)は首都をメンフィスに定めた。メネス王(ナルメル王)が自分自身を天空と太陽の神であるホルス神の化身と自称したため、首都メンフィスではホルス神信仰も盛んであった。

しかし、ナイル川を挟んでメンフィスの対岸にあった都市ヘリオポリスでは、統一王朝の誕生以前から太陽神ラーを最高神とする神学体系が確立されており、ヘリオポリスの神官たちがラーとホルスを習合(統合)させることで万能とされる太陽神ラーの宗教的権威を高めたのである。

紀元前2550年頃、『エジプト第4王朝』ではクフ王が最高権力者となって巨大ピラミッドが建造されていたが、太陽神ラーが神官の妻を妊娠させてその3人の子が王位に就くことになるという神託が出され、次第にエジプト王はラーの子(太陽神の子)として位置づけられるようになっていく。エジプト王の権威が全面的にラー信仰の宗教に依拠するようになったことで、神官(聖職者階級)の権威と発言力が急激に高まって、神官の影響力が王権を凌駕するようになっていく。

王権を簒奪した神官ウセル・カア・フは『エジプト第5王朝』を創建してある種の宗教国家が誕生することになるのだが、この時期のエジプト王朝からは国王の名前の一部に必ず“ラー”が付けられるようになっていく。エジプト神話では、原初の神ヌンから生み出されたとされるラーだが、ラーは次第に創造神アトゥムと同一視されて習合することになり、地上の支配者の称号でもある“アトゥム=ラー”という神の名前のほうが一般的になった。ラーはアメンと習合して“ラー=アメン”、ホルスと習合して“ラー=ホルアクティ”と呼ばれることもある。

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太陽神ラーの天空航海の神話(昼と夜の航海神話)

エジプト神話の最高神・太陽神であるラーは、原初の神ヌン(あるいは天空の女神ヌート)から生み出され、シューやテフヌト、バステトといった神々を生んだ父神としての側面も持っている。太陽神・光の主であるラーは天地の創造者であり豊穣な世界の守護者であるが、『死と生の象徴者』として死生観を司る役目も果たしていた。

太陽神であり創造主でもあるラーは、“人間(人類)”も創造したとされる。ラーの最初の息子であるシューとテフヌトが旅に出てから帰って来ないのでラーは酷く心配していた。そして、待ち疲れた頃にやっと帰ってきた二人の息子を見てラーは涙を大いに流したのだが、その涙から人間が生み出されたとする人類創造の神話が伝えられている。

太陽神ラーには『天空航海の神話(昼と夜の航海神話)』というものがある。天空の女神ヌートの太腿から生まれたラーは、昼は太陽の船“マンジェット”に乗って世界の統治のために闇の属性を持つ大蛇アペプと戦ったり、世界の秩序を脅かす闇の勢力の監視に当たっているとされた。太陽の船マンジェットに乗って進む昼の世界監視の役割を果たすために、ラーは知恵の神トトや大地の神ゲブなどを一緒に連れて行ったという。

夜になると、ラーは仲間の神々と共に夜の船“メセクテト”に乗って冥界を旅し、大蛇アペプや悪魔たちとの激しい戦闘を行ったが、夜の航海を終えると天空の女神ヌートの胎内へと回帰していった。ラーはヌートの母胎に回帰して再生することによって、誕生と死を繰り返す永遠の神となったわけだが、これは水平線から昇っては沈み昇っては沈みを繰り返す『太陽の循環』の象徴でもあった。

古代エジプト人は太陽の昇り沈みに合わせてラーがその姿を変化させると信じていた。太陽が昇り始める日の出の時には、タマオシコガネの姿をしたケプリとなり、太陽が出ている日中はハヤブサの姿をして天空を飛翔し、太陽が沈む夜には雄羊の姿となって夜の船メセクテトに乗り込んで冥界(死と夜の世界)を旅すると考えられていたのである。太陽の循環を象徴するラーのイメージには、『永遠の生命(死と誕生の循環)』を信仰していた古代エジプト人の死生観が投影されているのである。

長い年月が経過してラーが年老いると、その権威と人々の信仰心は低下していったが、自分を崇敬しなくなった人間たちに激怒したラーは、人類を滅亡させるためにライオン(獅子)の頭を持つ復讐の女神セクメトを送り込もうとした。しかし、オシリスの反対意見によってセクメト派遣を中断し、そのオシリスの反乱に遭ってラーは敗れてしまった。

更に、女神イシスの謀略・魔力によってラーはその地位を脅かされることになり、ラーの唾液を含んだ泥から作られた毒蛇に噛まれて激痛にのたうち回った。その毒蛇の激痛を解除してもらうことと交換条件で、太陽神ラーは自分を支配できるようになる『自分の本当の名前』をイシスに教えて、ラーに代わって智慧の神トート(あるいは月の神トト)が最高神の座に就くことになったという。

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