古代ギリシアの文筆家プルタルコス(Plutarchus,46あるいは48年頃-127年頃)が著作『イシスとオシリス』に記したオシリス神は、王侯貴族にも一般庶民にも崇敬された豊穣(生産)と冥界の神である。オシリス神はエジプト神話の中でも非常に人気のある神の一人である。
エジプト神話の主神である太陽神ラーは、大地神ゲブと天空の女神ヌートとの結婚に反対して、ヌートに1年360日の間、子供を産めない呪いを掛けてしまった。しかし、知恵の神トトが1年間を5日延長して365日にしてくれたので、この延長された日にちを使ってゲブとヌートは『オシリス・イシス・ホルス・セト・ネフテュス』という兄弟神を生み出したのである。
天界から地上に降り立ったオシリスは、父親である大地神ゲブから地上世界の支配権を譲り受けて、エジプトの王になったのである。オシリスは豊穣(生産・植物)の神でもあり、まださまざまな食物の製造方法を知らなかったエジプトの人々に『小麦の栽培方法+パン・ビールの製造法』などを教えて、人々の生活水準を高めていった。
エジプト王国の社会秩序を維持するために、法律を作って人々にその規範と意義を教えたりもした。人々の暮らしを豊かにしたオシリス神のモデルになっているのは、武力で支配せずにエジプトと近隣諸国を平和的に統治した古代の名君のシリア王だと言われている。エジプトの諸国を巡って人々に豊かさの恩恵を与えていったオシリスは、人々の信頼と崇敬を一身に集めていったが、嵐と混沌の神である弟セトの嫉妬を買うことになる。
嵐と混沌の神であるセト神は、兄オシリスの絶大な人気と権威に激しく嫉妬して、オシリスの暗殺とエジプトの簒奪を計画することになる。弟セトによる兄オシリスの暗殺計画の陰謀は、オシリスの身体のサイズに合わせた『棺(ひつぎ)』を作って、その棺の中に言葉巧みにオシリスを誘い込み、閉じ込めてナイル川に流してしまうというものであった。
セトの甘言と謀略によって棺に閉じ込められたオシリスは、広大なナイル川に流されて溺死してしまった。オシリスの妹であり妻でもあるイシス神は、夫オシリスが閉じ込められた棺を捜し求めて、フェニキア人の都市ビブロスにまで赴き、オシリスの遺体の入った棺を持ち帰ってきた。
しかし、兄オシリスの復活を恐れる弟セトは、その棺を奪い取って兄オシリスの遺体を、14個もの部分に細かく切断してしまう。妹イシスはバラバラに切り刻まれたオシリスの遺体を何とか復活させようとして、その14個の部分を拾い集めるが、唯一男根の部分だけがナイル川の魚に食べられてしまって、発見することができなかった。
オシリスを何とか生き返らせようとするイシスの献身を見ていた太陽神ラーは、死者の神アヌビスに命じて、切断した部分を接合したオシリスの遺体を包帯でぐるぐる巻きにしたミイラにさせた。オシリスのミイラに対して、妹イシスは羽を羽ばたかせて生命の息吹を吹き込み、見事にオシリスを死の世界から復活させたのだった。
死から再生したオシリスは、冥界アアルに君臨して死者を裁く死者の王となった。オシリスは冥界の裁判官としての役割を担う冥界の王であり、人々を生前の所業によって裁いて、人々に永遠の生命や永遠の死を与えたりしたという。
イシスに後見された弟のホルス(あるいは遺児のホルス)が、セトから簒奪されていたエジプトの王位を奪還して、エジプトの地上の王になったのである。これ以降、現世のエジプトはホルス、死後の冥界アアルはオシリスが支配・統治することとなった。
緑色の肌をした植物神・農耕神ともされるオシリスは、『冬の植物の枯死』と『春の植物の芽生え』を象徴する死と再生の神でもあり、『種播き・発芽・生長・収穫という農耕の永遠のサイクル』を保証してくれる神でもあった。
エジプト神話のオシリス神は、古代ギリシャ・ローマではセラピスという名前で、イシスやハルポクラテスと並んで信仰されることになった。オシリスのその姿は、白い衣をまとった人間のミイラ(包帯でぐるぐるに巻かれて王座に座る男性の王)、緑色・黒色の肌を持った異形の神として描かれることが多い。
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