ブラフマー:ヒンドゥー教の宇宙の創造神

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宇宙・世界の創造神ブラフマー

インド神話は『三神一体論(トリムルティ)』を前提としており、ヒンドゥー教ではブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァを三大神として崇拝している。ヒンドゥー教では宇宙・世界の成り立ちと進展について、『創造・維持・破壊』のサイクルを輪廻的に繰り返すと考えられており、ブラフマーは宇宙(世界)の創造を司る最高神として定義されている。破壊神であるシヴァが宇宙(世界)を破壊した後には、ブラフマーが再創造の仕事を司るとも考えられている。

ブラフマーは仏教では『梵天(ぼんてん)』と呼ばれる神であり、古代インドのバラモン教の聖典である『ヴェーダ』においては、ヴェーダの詩句を記述可能にした『神秘的な力(ブラフマン)』の源泉だとされている。紀元前6~5世紀に成立したとされるウパニシャッド哲学では、ブラフマン(宇宙我)とアートマン(個人我)が本質的に一致するという『梵我一如』の奥義が説かれており、この宇宙規模にまで拡張した壮大な奥義は仏教の『解脱・悟り』の実践的思想にも大きな影響を及ぼしている。

ヒンドゥー教の三神一体論(トリムルティ)を担う三大神は、それぞれ以下のようにその役割を定義されている。ブラフマーはウパニシャッド哲学では、『宇宙の根本原理』という抽象的で観念的(神秘的)な位置づけを与えられている。

創造神ブラフマー

維持神ヴィシュヌ

破壊神シヴァ

ブラフマーは紀元前6世紀頃のウパニシャッド哲学の時代から、段階的に抽象観念から擬人化されていったが、その基本的な性格は『宇宙・世界の創造主の観念とその擬人化』として考えることができる。ブラーフマナ文献やウパニシャッドにおいて宇宙の根本原理とされたブラフマンが、人格神として神格化されたものが『ブラフマー』であり、ブラフマーはサンスクリット語で『ブラフマンの男性・単数・主格形』になっている。語形の変化を見ても、中性名詞のブラフマンから男性名詞のブラフマンへの転換が起こっている。

ブラフマーは4つの顔と4本の手を持つ異形の創造神であり、4本の手にはそれぞれ『ヴェーダ聖典・水壺・数珠(弓矢)・錫杖』が握られており、赤銅の肌をした老人の顔を持つ神として描かれることが多い。大きな白鳥の上にまたがった姿で描かれることもある。ブラフマーストラと呼ばれる、どんな敵でも必ず討ち滅ぼすことができる最強の投擲武器を持っている。

抽象的な創造神ブラフマーのエピソードと信仰の衰退

ブラフマーはインド北部のアブー山を拠点とする最高神・創造神であり、アブー山にはブラフマーを祭る大きな寺院があるが、ヴェーダを聖典とするバラモン教の最盛期(紀元前6~5世紀頃)が過ぎると、次第にヴィシュヌやシヴァへと信仰の中心が移っていったという。

ブラフマーは宇宙(世界)だけではなく、神々や聖人を次々に創造するという偉大な事績を残した最高神である。初めはヴィシュヌやシヴァに命令を下せる上位の神として設定されていたが、ブラフマーが抽象的かつ原理的な神であるため(独自の神話のエピソードも乏しいため)、大衆の信仰を集めることが出来ずに、次第にブラフマー信仰は衰退していった。

バラモン教の時代には神格化されたブラフマーは神々の頂点に立つ最高神とされ、『自らを創造したもの(スヴァヤンブー)』『生類の王(プラジャーパティ)』という威厳のある呼称で呼ばれていた。

ブラフマー神話では、宇宙にまだ何もなかった時代にブラフマーが初めて水を創造して、その水の中に万物の種子である『黄金の卵(ヒラニヤガルバ)』を生み出したのだという。『黄金の卵(ヒラニヤガルバ)』の中で、一年間かけて成長したブラフマーは、卵を半分に割って世界に誕生し、その卵の半分を使って天地や神々、万物を創造していったと伝えられている。

しかし、5~10世紀のヒンドゥー教が盛んな時代になると、ブラフマーよりもヴィシュヌやシヴァに人々の信仰が集まるようになり、ブラフマー信仰だったエピソードもヴィシュヌ信仰の内部に取り込まれていってしまった。宇宙と万物の創造神だったはずのブラフマーはいつの間にか、ヴィシュヌやシヴァよりも下位の神として認識されるようになり、ヴィシュヌ神話の中ではヴィシュヌが自分のヘソから生えた蓮の華からブラフマーを生み出したという『創造神の転換』が行われている。そのブラフマーの額から更にシヴァが生み出されたのだという。

仏教で『弁財天(弁才天)』と呼ばれる美貌の女神の元々の原型は、ブラフマーの妻であるサラスヴァティーである。ブラフマーが創造した(創造して自分で惚れた)というサラスヴァティーは、色白で絶世の美女の外観をしており、知識と芸術を司る神でヴェーナ(琵琶)という楽器を奏でている。ブラフマーの顔が4つである理由の一つは、この妻サラスヴァティーの美しい顔を常に見ていたかったからというものである。元々、ブラフマーは5つの顔を持っていたが、破壊神シヴァを怒らせて一つの顔を切り落とされたというエピソードもある。

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