ケルト人(Celt, Kelt)は、中央アジアの草原から馬・戦車に乗ってヨーロッパ大陸に侵入してきたインド=ヨーロッパ語族ケルト語派の長身・金髪の遊牧系民族と考えられています。古代ローマ人は『ケルト人』を『ガリア人』と呼んでいましたが、古代ローマ帝国の将軍ユリウス・カエサルは著書『ガリア戦記』の中でケルト人が信仰していたとされるケルト神話の神々の幾つかに言及しています。
ユリウス・カエサルは、ローマ北方のヨーロッパ大陸に広く分布していたケルト人が信仰していた神々をローマ神話の神々になぞらえて説明しているので、ケルト人自身が持っていた信仰や神々の定義とは微妙にずれている可能性もあります。ローマ人に撃退され侵略されていったガリア人(ケルト人)は段階的にローマ人に同化していったので、『ケルト神話の神々の原型的な種類・特徴』についてははっきりとは分からない部分が多くなっています。
カエサルはケルト人が最も多くの神像を作成して深く信仰していた神は、ローマ神話のメルクリウス(ギリシア神話のヘルメス)に相当するテウタテスだといいます。テウタテスを信仰することで、ケルト人はさまざまな恩恵・利益に預かれると信じていたとされるわけですが、メルクリウス(テウタテス)に続くものとしてユピテル(ゼウス)やアポロ、マルス、ミネルヴァなどを上げています。
テウタテスの神像はガリア人(ケルト人)の支配地域から200体以上発見されていて、ガリア人にとって非常に重要で強い信仰を集めていたことは確かですが、『テウタテス』というのが本当に神の名前なのかさえ明確ではなく、一説によるとテウタテスは勇敢な部族長の称号のようなものだとも考えられています。『テウタテス』というのは、ガリアの言葉で『好戦的』という意味を持っています。
テウタテス以外にもエススやタラニスといった神が信仰を集めていました。エススはガリア人(ケルト人)の言葉で『王』を意味するとされますが、雄牛と3羽の鶴が神エススのシンボルとなっていて残忍で気性の激しい神として恐れられていたようです。『戦闘の神』としての顔を持つエススも、ガリアで大勢の信仰を集めていたものと推測されますが、エススはローマ人にテウタテスやケルヌンノスと混同されていた形跡があり、古代のエスス信仰の実際には不明な点も多くなっています。
ガリア人(ケルト人)の祖先自体が、元々、馬につないだ戦車を走らせて侵略を繰り返していた戦闘的な遊牧民族と考えられているので、その宗教信仰においても『勇敢・好戦的・王(権力者)』といった戦争の勝利に関係する神々が篤く信奉されていたのでしょう。
テウタテスはアイルランド神話で伝承されているダーナ神族のルーとも似た特徴や性格を持っているという説もありますが、現在の遺伝的・考古学的な研究からは、ヨーロッパ大陸にいた『陸のケルト』とアイルランドやブリテン島にいた『島のケルト』は初めから別の民族だったとする仮説が有力になっています。
タラニスという神も、『天空の神・雷神の神』としての性格を持ちながらも、基本的には猛々しく戦って勝利を収める『戦闘の神』としてガリアの地域で大勢の信仰を集めていたようです。天空神タラニスのシンボルは『車輪』であり、ギリシア神話・ローマ神話における主神のゼウス(ユピテル)に相当する神になっています。
ガリア人(ケルト人)の神であるケルヌンノスは、ギリシア神話に登場する半人半獣の種族ケンタウロスにも似た異形の神として知られており、頭部から牡鹿の角を生やして豪勢な首輪をした姿の像(レリーフ)が作成されていました。ケルヌンノスもケルト人に強く信仰されていた神の一つですが、ケルト人の言葉で『角を持つ者』という意味を持っていたようです。
ケルヌンノスについてカエサルが『ガリア戦記』に記述したのではないかと推測されている部分では、ケルヌンノスは『ディース』と呼ばれています。ガリア人はこのケルヌンノスと思われるディースを『ガリア人全体の始祖(先祖を生み出した神)』と見なして信奉していたといいます。
ケルヌンノスはガリア人(ケルト人)にとって祖先を生み出した父神のような存在であり、古代のガリア社会は『家父長的・男権的な社会』であったと推測されるのですが、ケルヌンノスには『豊穣の神・冥界の神・森の神』といった側面もありました。古代ギリシア神話のハーデスにも相当する冥界の神であるケルヌンノスは、『生と死の世界』を往来して支配する神としてガリア人に非常に畏敬されていたと考えられます。
エポナというのは『馬の女神』であり、ガリア人(ケルト人)の戦士だけではなく、ローマ人の騎士たちからも崇敬されていたと考えられています。古代の『馬』は『戦争の道具』になるだけではなく『異界・他界』を連想させる神獣的な要素もあったので、馬の女神であるエポナには『死者の先導者』としての役割も付与されていたといいます。
エポナというのは、ガリアの言葉で『偉大な牝馬』を意味しており、そのまま『馬の女神』としてのイメージにつながっています。『豊穣・多産の神』でもあるエポナは、母馬の姿を取って子馬と一緒に描かれていることが多く、タラニスを『天空神・父神』とすれば、エポナは『大地母神』の位置づけにあった女神だと考えることもできるでしょう。
ベレヌスは、ガリア(ケルト)の言葉で『輝き・明るい・光』といった意味を持つ言葉であり、古代ギリシア神話のアポロンに相当する『太陽神』であったと推測されています。太陽神であるベレヌスには、古代ギリシアの太陽神アポロンと同様に『医術の神・癒しの神』としての顔があり、病者を神聖な力・光でたちまち癒してしまうことができると信じられていました。ベレヌスは未来について語る『予言の神』としての超能力も兼ね備えていたようですが、古代ガリア(古代のケルト人の居住地域)でも古代エジプトや古代ギリシアと重ねられるような『太陽崇拝』が行われていたというのは興味深いことだと思わされます。
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