トァン・マッカラル:アイルランドの歴史を見続けた者

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トァン・マッカラル:色々な動物の姿になりながらアイルランドの興亡の歴史を見続けた

ケルト人(Celt, Kelt)はヨーロッパ大陸にいた『陸のケルト』とローマ帝国などの侵略を受けてブリテン島(現イギリス)に逃げた『島のケルト』に分けられますが、現在ではこの二つのケルトは古来から別の民族であったという遺伝子学的・考古学的な仮説も有力になっています。

トァン・マッカラルという動物に変化する超人的な男が登場する物語は、『島のケルト』とされてきたアイルランド人によって伝えられてきたもので、アイルランドの10世紀頃に成立した歴史書・写本の『侵略の書』によるとアイルランドは遥か古代には『エリンの国』と呼ばれていたということです。

エリンの国と呼ばれた古代のアイルランドに、5つの種族が侵入してきて戦乱と興亡の歴史を繰り返して、現在のアイルランド人の共通祖先に当たる種族『マイリージャ人』が勝ち残ったのだという。トァン・マッカラルという男は、アイルランド人の祖先マイリージャ人が勝ち残るまでの古代エリン国の歴史を動物に姿を変えながら見守り続けた特殊な神的な人物である。

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無人島だったアイルランドに、初めて西方から海を越えてやって来たのは『パーソロン族』であり、パーソロン族の24組の男女がアイルランドに住み着くことになった。しかしパーソロン族の人口が5000人を超えた時に、死に至る疫病が流行してパーソロン族はただ一人の男を除いて絶滅してしまう。疫病に耐えて最後まで生き残ったパーソロン族の男が、アイルランドの興亡の歴史を動物の姿で見届けることになるトァン・マッカラルなのである。

洞窟の中で孤独に耐えて老いていったトァン・マッカラルは、自分の姿を『雄鹿(おじか)』に変えて、第二の種族ニュヴズ族の4組の男女の訪問を見た。しかしこのニュヴズ族も人口を8060人にまで増やしたところで疫病によって絶滅してしまい、雄鹿のトァン・マッカラルは更に『猪(いのしし)』へとその姿を変えたのである。

トァン・マッカラルは猪から『海鷲(うみわし)』へと姿を変化させて、上空を舞いながら第三の種族フィル・ボルグ族の襲来を見た。海鷲のトァン・マッカラルがフィル・ボルグ族の暮らしぶりを観察していると、次にケルトの神々の祖先とも考えられる第四の種族ダーナ神族が侵入してきて、フィル・ボルグ族とダーナ神族の間で戦争が始められた。

勝利したダーナ神族は更に北の国から侵略してきた魔族フォモール族も打ち破り、アイルランドでの支配権を固めていったが、トァン・マッカラルはその様子も海鷲の姿で見守っていた。第五の種族マイリージャ人が襲来して、ダーナ神族との激しい戦闘が繰り返されたが、遂にマイリージャ人が勝利するところとなり、敗れたダーナ神族は地下と海にある『彼岸の世界(この世ではない神々の世界)』へと立ち去っていった。

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こうした疫病と戦乱による種族の興亡の歴史を通して、マイリージャ人が現在のアイルランド人の祖先となり、ダーナ神族がケルト神話の神々になっていったと考えられている。トァン・マッカラルは『鮭(さけ)』に姿を変えていたが、マイリージャ人の女性に食べられてしまう。鮭になっていたトァン・マッカラルを食べた女性が、今度は『人間』としてトァン・マッカラルをこの世に再び産み落とすのである。

歴史書の写本『侵略の書』によると、『人間の男』として生み出されたトァン・マッカラルは、敬虔な修道士と出会うことになり、『アイルランドで過去に起こった5種族の興亡の歴史』を語り伝えてから人間の運命に従って死んでいったのである。

マイリージャ人との戦争に破れて彼岸の世界に戻っていったダーナ神族は、その後にケルト神話の神々になっていったと伝えられる。その神々の中には、ケルト神話の大地母神とされすべての女神の起源とされるダヌ(アヌ)、巨大な棍棒を持ち歩く長老格の父神であり偉大な英雄でもあるダグザ、ダグザの3人の同名の娘で生命や豊穣、医学・詩などさまざまなものを司ったブリギッド、ギリシア神話のゼウスにも相当する英雄神で偉大な王であり『銀の手(義手)を持つ神』の異名を取ったヌアザなどがいた。

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