ダヌ、ダグザ、ヌアザ、ブリギッド:ケルトの神々

スポンサーリンク

ダヌ、ダグザ、ヌアザ、ブリギッドなど個性豊かなケルト神話の神々

さまざまな動物に化身して太古のアイルランドの歴史を見続けたトァン・マッカラルは、ダーナ神族とマイリージャ人の戦争を海鷲(うみわし)の姿で目撃した。戦争に勝利したマイリージャ人は現在のアイルランドの祖先となり、敗北したダーナ神族はアイルランド島から彼岸へと追われてケルト神話の神々になっていったとされる。ここではそのケルト神話の代表的な神々を紹介する。

ダヌ(アヌ)と呼ばれる女神は、ダーナ神族の始祖でありケルト神話では『大地母神』として位置づけられている。ダーナ神族全体の始祖の母神であり、あらゆる生命の源としてケルト人から篤い信仰心を集めていた。ダヌ(アヌ)はダーナやブリギットと呼ばれることもあり同名の女神も少なからずいるが、ケルトの様々な女神たちはすべてダヌの分身・化身ともされている。

アイルランド南西部マンスター地方は、大地母神ダヌ(アヌ)の信仰拠点であった地とされているが、二つ並んだ緩やかな丘を富・豊かさ・生命の象徴と見て、その丘を『アヌの乳房』と名づけていた。ダヌ(アヌ)たちが暮らしていたのは、マイリージャ人との戦いに破れて逃げた『彼岸(この世ではない場所)』であったが、そこは暗黒の死の世界や冥界ではなくて、地下と海の彼方にあるとされる楽園『ティル・ナ・ノーグ』だった。

スポンサーリンク

ケルト神話の楽園ティル・ナ・ノーグは、神々が何不自由なく豊かに暮らす極楽浄土であり、美しい花々が咲き乱れて豊富な食料があり、住んでいる神々は決して年を取らない(老いることがない)『常若の世界』でもあった。ダーナ神族の神々はこの常若の楽園ティル・ナ・ノーグで、豪華絢爛な宮殿を建設して美食や歌・踊り・歓談を楽しんで享楽的に生きていた。

ケルト神話の長老格に当たる父神ダグザは、長い髭を生やして野獣の毛皮を身にまとい、巨大な棍棒を武器とする偉大な英雄神である。途轍もなく巨大な棍棒を持ち歩くダグザの姿は素朴な土着神のイメージであり、図らいや悪意を持っていない無邪気な善神のイメージでもある。マイリージャ人との戦争にダーナ神族が敗れた時に、神々を彼岸の地下の世界へと誘導したのもこのダグザであり、象徴的な棍棒を武器とする『生と死を司る神』でもある。

ダグザの持つ巨大な棍棒はあまりに大きくて重すぎるので、普段は『荷車』で引いて持ち歩いていたが、この棍棒で殴りつければ敵の骨が一撃で粉々に破壊されて絶命してしまうという強力な武器である。しかし棍棒を逆さまにして逆側の柄(え)で殴りつけると、死者を生き返らせることがのできる生死を司る魔法の棍棒でもあった。ダグザはお粥を食べることが大好きな大食漢の神でもあり、いくら食べても空になることがないという『魔法の大鍋』も持っており、魔族フォモール族から大釜いっぱいのお粥をご馳走してもらって満悦したという面白いエピソードも残されている。

楽天AD

棍棒・大釜だけではなく天候と人心を自由に操る『魔法の竪琴』まで持っていたダグザは基本的に全知全能に近い神として崇められており、食事だけではなく女性も好きで大勢の妻と多数の子供を持っていたことでも知られる。ダグザの子供には、オィンガスやミディール、ブリギッド、オグマなどがいる。

ダーナ神族の勇猛果敢な勇士の神や王として知られるヌアザは、ギリシア神話のゼウスに相当する父神でもあり、ヌアザの周囲には眩しいばかりの光輪が射していたという。ヌアザという言葉には『幸運を呼ぶ者』という意味があり、第三種族フィル・ヴォルグ族との戦争ではヌアザが指揮官の役割を果たして勝利した。

しかしこのフィル・ヴォルグ族との戦いでヌアザは片手を失ってしまい、『身体の一部を毀損した者は王位に就けないという共同体の定め』に従って王座を譲ることになる。ヌアザが王位を譲った相手は、魔族フォモール族の血統である暴君ブレスであり、ブレスの苛斂誅求の統治によって神々は重税・圧制で苦しめられていた。

治癒の神ディアン・ケヒトから、戦闘で失った片手の代わりになる『銀の義手』を制作してもらったヌアザは、『銀の手を持つ神』という異名を持つようになった。更にヌアザはディアン・ケヒトの息子の治癒神ミァハから、肉と血から制作された本物の手と見分けがつかない見事な義手を作ってもらい、そのお陰でヌアザは再び王位に復帰することができたのだという。

しかし、王座に復活したヌアザとそのことに納得しない魔族フォモール族のブレスの間で戦争が起こる。ヌアザはフォモール族の長老バロルから攻撃されて殺されてしまい、更にヌアザの妻で戦争の神(戦闘時には大ガラスに化身)であるネヴィンまでも殺されてしまった。

楽天AD

英雄的な父神ダグザの娘であるブリギッドは、『生命・火・豊穣・医術・詩』などさまざまな属性を持つ女神であるが、ダグザは三人の妻との間に三人の娘を設けていて、三人とも“ブリギッド”という同じ名前であったのだという。ブリギッドは大地母神のダヌ(アヌ)と同一視されることも多く、ケルト神話では一人一人の神の個人としてのアイデンティティが完全に分離しているわけではないところがある。

ダグザの三人の娘のブリギッドは、それぞれ『学問・文芸の神』『手工芸の神』『治療・出産の神』とされていて、魔女的な特殊能力である『占い・予言』をすることもあったという。時代が下るにつれてケルト神話の女神であるブリギッドは、次第にキリスト教の聖女でありアイルランドの守護聖人であるブリギッドと同一視されるようになっていき、アイルランド中東部にあるキルギアの修道院(ブリギッド信仰の拠点)では火の女神でもあるブリギッドを称える『聖なる火』が19人の修道女たちに守られていたのだという。

この世とあの世のティル・ナ・ノーグは自由に行き来することができるので、ケルト神話の神々は人間たちの英雄・豪傑の戦闘を援助したり加勢したりもしたが、長い長い年月が過ぎ去っていく中で、次第に神々の存在は人間から忘れられていき、神々の身体も縮小して『妖精・小人』に変化していったと伝えられている。

スポンサーリンク
Copyright(C) 2017- Es Discovery All Rights Reserved