ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の主人公であるジークフリート (Siegfried)は、北欧神話の英雄であるシグルズ(Sigurd)と同一起源の人物とされている。シグルズは『ヴォルスンガ・サガ』では、英雄シグムンドと母ヒョルディースの子とされ、シンフィヨトリの異母兄弟とされている。若くて生命力に溢れるシグルズは、父の形見である名剣グラムを振るって戦い、数々の危険な冒険を達成したり、戦争での軍功を挙げたりしている。
『ニーベルンゲンの歌』に登場する英雄ジークフリートは、王ジークムントと王妃ジークリントの息子であり、ネーデルラントの王子であるという高貴な血筋の人物設定が為されている。ジークフリートは少年時代から幾度も冒険の旅に出征しているが、ノルウェーの『ニーベルンゲン族』との戦いに勝利して、呪われた財宝と魔法の隠れ蓑タルンカッペ、名剣バルムンクを獲得している。亡き父の形見であるオーディンの勝利の剣(グラムの剣)を使って、悪竜ファブニールを倒す物語はジークフリートとシグルズに共通している。
英雄ジークフリートは、悪竜ファブニールを退治した時に、不思議な魔力の籠る竜血を浴びたことで、全身が甲羅のようにカチカチに硬くなり、どんな武器でも傷つけられることがない『不死身の肉体』を手に入れた。竜血を浴びた時に背中に一枚の菩提樹の葉が貼り付いていたため、この背中の部分だけが傷つけられる可能性がある『ジークフリートの弱点』になってしまった。
成人したジークフリートは、ブルグント王グンターの妹クリームヒルトに惚れて求婚したが、デンマークとザクセンがブルグントに攻めてきたので、ジークフリートは愛するクリームヒルトを助けるためにブルグント軍に援助して功績を上げている。グンター王に認められてクリームヒルトと結ばれそうになったジークフリートだが、グンター王はアイスランドの女王ブリュンヒルトと結婚したいので、ジークフリートにブリュンヒルトとの結婚が上手くいくように支援してほしいと要求する。
ブリュンヒルトは怪力自慢の男勝りな女性であり、自分に求婚してきた男と力比べをしてみて、自分に勝てる男が現れれば結婚すると決めていた。自分よりも弱い男が求婚してきた場合には、力比べで打ち負かした後に殺害していたのである。ジークフリートは魔法の隠れ蓑タルンカッペを使って、グンター王がブリュンヒルトに勝てるように手助けして上げた。ブリュンヒルトに力比べで勝つことができたグンター王は、何とか彼女と結婚することができたのである。グンター王の願いを叶えて上げたジークフリートも、念願のクリームヒルトと結婚することができ、故郷のネーデルラントに帰って王位に就いた。
10年後に、ブルグントの王宮でグンター王とジークフリートは再会することになるが、この場でクリームヒルトとブリュンヒルトが口論となる。クリームヒルトは、兄のグンター王とブリュンヒルトが結婚を決めることになった『力比べ』の時に、ジークフリートが不正に手助けしたということを暴露してしまうのである。クリームヒルトは王妃ブリュンヒルトを『偽計に騙された愚者』として侮辱するが、ブルグントの家臣はこの侮辱に激怒して、重臣ハーゲンを中心に『ジークフリート暗殺計画』が立てられることになる。
重臣ハーゲンは、クリームヒルトにデンマークが再び攻めてきたと嘘をついて、『ジークフリートの弱点』を聞き出し、投槍をジークフリートの背中の弱点に投げつけて暗殺することに成功したのである。次の日に、ジークフリートの遺体を見たクリームヒルトは、(自分とハーゲン以外には誰も知らないはずの)弱点の背中が槍で貫かれている事に気づいて、ハーゲンに対する復讐を誓うことになる。
シグルズは、オーディンの末裔とされるヴォルスング家に生まれて、鍛冶屋レギンの養子として育てられ、王子に相応しい身体能力と知性・教養を身につけていった。強欲な鍛冶屋のレギンは、兄のファーヴニルが持つ黄金の秘宝を奪い取るために、財産を持っていないシグルズを『竜・小人の姿をしたファーヴニル』にけしかけていった。竜や小人の姿をしたファーヴニルを退治すれば、軍事的な功績だけではなくてファーヴニルが守っている莫大な黄金の秘宝も同時に手に入れられるというのである。
欲深いレギンは、シグルズに竜の姿をした兄ファーヴニルを退治させた後に、シグルズを不意討ちで殺してその黄金の秘宝を独り占めしようとする陰謀を企てていた。シグルズは竜のファーヴニルを見事に退治するが、リジルという魔法の剣で切ったファーヴニルの心臓の脂を食べたため、その魔力で動物・鳥の言葉が理解できるようになっていた。シジュウカラの言葉を聞いて、自分を殺そうとするレギンの陰謀を知ったシグルズは、先手を打ってレギンの首を刎ねて、富と名声を自分ひとりのものにすることができた。
シグルズはフランケンに向かっている旅の途中で、ヒンダルフィヨルの山の上にある炎の館で、盾の垣の中で眠っていた戦乙女ワルキューレ(ヴァルキューレ)を救出する活躍をする。このワルキューレはブズリの娘のブリュンヒルドであり、ブリュンヒルドと恋に落ちたシグルズは彼女と結婚を誓い合ったのである。
しかし、ライン河畔のギューキ王の王宮に住む王妃グリームヒルドの陰謀によって、シグルズは『忘れ薬』を飲まされて結婚を誓っていたブリュンヒルドのことを忘れてしまった。グリームヒルドの陰謀というのは、自分の王子グンナルをブリュンヒルドと結婚させて、王女グズルーンをシグルズと結婚させようとするものであった。まんまとグリームヒルドの企みの罠にかかってしまったシグルズはグズルーンと結婚することになり、英雄シグルズの援助を受けたグンナルがワルキューレのブリュンヒルドと結婚することになった。
シグルズは自分が好きで結婚すると誓っていたワルキューレのブリュンヒルドを忘れてしまったため、自分の力で別の男(グンナル)と結婚するように応援するという『恋の悲劇』を演じてしまったのである。その後に、ブリュンヒルドはグズルーンと口論をして、グズルーンから『自分がグンナルに騙されていたこと(シグルズの支援を受けていたこと)』を知ってしまう。戦乙女ヴァルキューレであるブリュンヒルドは、不正な手段による結婚を認めることはできず、自分かシグルズかグンナルかの誰かが死ななければ問題は解決することがないと悲しい顔で宣言したのだった。
ブリュンヒルドとの幸せな結婚生活を失いたくないグンナルは、弟のホグニやグットルムと暗殺の謀略を練って、シグルズを不意討ちで暗殺してしまった。シグルズの妻であったグズルーンは『忘れ薬』を飲まされて、兄であるグンナルたちへの恨み・怒りを忘れたが、愛しいシグルズのことだけはその後もずっと覚えていて苦しみ続けたのだという。シグルズが経験したこれらの一連の悲劇と暗殺は、魔竜ファーヴニルから奪い取った『アンドヴァリの呪われた秘宝(呪われた黄金の秘宝)』によってもたらされたものだと伝えられている。