サモア諸島やフィジー、トンガに伝承されてきたポリネシア神話には、ただ一人で世界の万物を創造したとされる創造神タンガロアが登場する。数多くの島が点在するポリネシアだが、創造神タンガロアにまつわる神話はそれらの島々がどのように形成されてきたのかの起源についても語っている。
タンガロアが大海原に向かって天から石を投げると、最初にサモア諸島の本島であるマヌアが形成され、更に石を投げ入れると周囲に更に島々が生み出された。タンガロアが天から海に次々と石を投げ入れることによって、サモア諸島、トンガ、フィジーの島嶼がどんどんと形作られていったのである。
タンガロアは召使いの鳥であるトゥリに命じて、まだ何もない島に日陰を作るための『人間の蔓(つる)』を植えさせた。この人間の蔓が成長していって遂に人間が生み出されたとする神話は、オセアニアの神話に多いアニミズムの変形としても解釈することができるだろう。もう一つの島の創造の神話としては、タンガロアが海底に沈んでいた島を釣り上げて(吊り上げて)いって、どんどん島を創り出したという話もある。
太古の世界には海の上のわずかな陸地に岩がゴロゴロと転がっているだけだったが、その岩から突如として雲と風が湧き起って、それによって世界が急速に形成されていった。雲と空が一体化して結合した瞬間に、創造神であるタンガロアが誕生することになったのだという。タンガロアは遠く広がる大海原に釣り針を垂れて、海底に沈んでいた島を次から次へと釣り上げていき、この島の釣りによってポリネシアの島嶼部が生み出されたのだと神話では伝えられている。
タンガロアが天上から地上を見下ろした時、天に届こうとするほどに高い大木が伸びていたので、これを不遜だと感じたタンガロアは召使いの蔦(つた)であるフエに命じて地上の大木に絡みつかせ、この大木の幹・枝を曲げてその高さを低くしてしまったというエピソードも残されている。
タンガロアの神話物語も、その他のオセアニアの神話と同じく『自然崇拝・アニミズム(精霊崇拝)』の影響を受けていて、人間の生命と動植物の生命との間に階層序列的な上下関係(人間のほうが種として優れているという前提)は考えられていない。人間もまた動植物の一種かつ自然の一部であり、その生命の価値が特別に優れているわけではないという考え方なのである。人間もまた自然から生み出されて再び自然へと還っていく他の動植物と同じような生の運命に従う存在に過ぎない。
タンガロアに関連する物語には、人格化された植物の蔦(つた)がよく出てきて、蔦は召使いのフエの形を取っていたりもするが、色々な召使い(部下)に指示・命令を出している創造神のタンガロアでさえも『自然・動植物の創造者』というよりも『自然・動植物の一部(自然に生成されたもの)』としての特徴を持っている。
ある時、タンガロアは鳥のトゥリに地上探検をさせて動植物の繁殖状況をチェックさせたのだが、蔦(つた)があまりに多く繁茂し過ぎて、他の植物の生長を阻害していることが分かった。タンガロアは他の植物も繁栄させようと考えて、蔦の生長を止めたり枯れさせたりしたのだが、枯れた蔦が腐ってそこに蛆虫(うじむし)が湧いてしまった。
タンガロアは精霊のタイオというものを派遣して、蛆虫を人間の形にかたどって顔・頭・手足・胴体を造り、その心臓の部分に生命力である魂を宿らせた。するとその蛆虫の塊であるはずの人型の生命体がやおら立ち上がって、そのまま人間という新たな動物が誕生することになったのである。これがポリネシア神話のタンガロアによる人間創造の神話であり、更にタンガロアは娘の鳥神に命令して地上世界を創造させたというエピソードも残されている。旧約聖書の『創世記』にある神の言葉によるだけの天地創造の物語よりも、ポリネシア神話の天地創造はプリミティブ(原始的)な躍動感やエネルギーに満ち溢れている感じを受ける。
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