ニュージーランドの先住民である『マオリ族』がニュージーランドに定住してきたのは11世紀頃で、それほど長い歴史があるわけではない。マオリ族の祖先はどのようにしてニュージーランドの発見に至ったのだろうか、そのヒントがオセアニア神話の一説に残されている。
夜明けの女神・暗黒の女神として知られる女神ヒナは、オセアニアの島嶼部に様々なエピソードが残されていて身近な女神として崇拝されているが、ヒナには兄弟(兄・弟いずれの設定もある)の神である航海士のルーがいた。
女神ヒナにも自分ひとりでカヌーを漕いで月に到達したという冒険物語があるのだが、兄(弟)と一緒に出かけた航海である島に着き、パンの樹木から白いタパ(布)を作ったことで『タパ打ちの神』になったという逸話も残されている。
女神ヒナとその弟(兄)で航海士の神であるルーは、魚が沢山獲れて食べ物には困らない豊かな島で暮らしていたが、ある年に雨が全く降らない『乾季』が長く続いて、食糧不足が起こり飢えと争いに苦しめられることになった。いつまで経っても収まりそうにない飢餓と戦争に嫌気がさした航海士の神ルーは、新天地を目指す冒険の航海に出ることを決意し、4人の弟とその妻たちを誘ったのである。
4人の弟たちに新天地を発見したら土地を分け与えることを約束して、更に新天地で人口を増やすために、美人の処女20人を舟に乗り込ませたのだという。冒険の航海をするために、新しい丈夫なカヌーの建造と厳しい航海の訓練が行われた。10世紀前後のオセアニアには既に優れたカヌーの造船技術があり、各民族独自の形態や機能を持った舟(カヌー)が作られていて、舟の彫刻を駆使した装飾も凝っていた。
ルーと4人の弟たちは、新しく建造したカヌーに、イモやココナッツ、パンの木の実などの食糧と家畜の豚を積み込み準備万端とばかりに出発したのだが、出発して3日後に激しい嵐に遭遇してしまい、弟の一人は必死にタンガロアの神に祈ったが結局、見知らぬ島に難破して座礁してしまった。
その座礁の時、カヌーが知らない島の入江にあった珊瑚礁にぶつかって乗り上げた衝撃で、身体を激しく打ち付けられた一番下の弟が死んでしまった。座礁したその島に何とか上陸したルーたちは、亡くなった弟の簡単な葬祭を行ってから神殿を建設して、自分たちの新たな生活拠点にしようとし始めた。
しかし、航海士の神ルーは残された3人の弟たちに対して、『新天地を発見したら土地を必ず分け与える』という約束を守らず、自分のお気に入りだった20人の美しい処女たちだけに土地を分け与えて住ませようとした。理不尽に約束を破った兄ルーの仕打ちに耐えていた3人の弟たちであったが、暫く経って歳月が流れると、自分たちだけで巨大なカヌーの建造を始めたのである。
3人の弟たちは兄ルーに対して、『兄さんは新天地の土地を分け与えるという約束を守ってくれなかった。ここに自分たちが永住する居場所はないようだから、自分たちはまた航海の旅に出てもっと大きくて住みやすい島を探すことに決めた』と宣言して、新たに建造した大きなカヌーに乗って出発したのである。
理不尽な対応を取った兄ルーと訣別した3人の弟たちは、長い航海の末に現在のニュージーランドに当たる『大きくて豊かな無人島』に到着することができ、新天地であるニュージーランドにマオリ族へと継承される新たな生活・文化の拠点を築くことになったのである。
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