ハワイの神話(クリムポ神話):主要四神・火山の女神ペレ

スポンサーリンク

カメハメハ大王のハワイ統一とクリムポ神話の編集

ハワイ諸島は大小さまざまの約130の島から構成されているが、このハワイ諸島に初めて人間が渡ってきたのは、4世紀初頭から8世紀頃ではないかと考えられている。赤道に近いマルケサス諸島からハワイ諸島への移住が初めに行われて、12世紀頃になるとタヒチやソシエテ諸島からもハワイ諸島に人が移り住んでくるようになった。

ハワイ諸島がある海域は『ポリネシア』であるが、ポリネシア文化圏ではそれぞれの島が別々の王によって統治されるという分権体制と各島の独自の文化が続いていたが、ヨーロッパ人(イギリス人)がハワイ諸島に上陸して政治的な干渉を始めたことで王国間のパワーバランスが崩れてきた。

1778年、イギリスの海軍士官・冒険家として知られるジェームズ・クック(James Cook,1728-1779)がハワイ島を訪れると、イギリスがハワイの王族で諸王国を統一したい野望を持っていたカメハメハを援助し始めたのである。ジェームズ・クックは“キャプテンクック”の愛称で知られる冒険的な探検家・航海士であり、歴史上で初めて壊血病による死者を出さずに『世界周航』に成功した艦長でもある。

スポンサーリンク

キャプテンクックは太平洋に3回の航海を行って、オーストラリア東海岸に到達し、ハワイ諸島を発見しただけでなく、危険な南極圏への突入を試みたり、グレートバリアリーフ周辺を探検したりもしている。ニュージーランドのクック山やクック海峡、アラスカのクック湾などに、ジェームズ・クックの冒険に由来する地名が現在も残されている。ジェームズ・クックは優れたリーダーシップと勇気、卓越した航海技術と地図作成能力を持った海軍士官・航海士であったが、1779年2月14日にハワイ島の原住民との小競り合いの中でクックは刺し殺されてしまった。

イギリス軍の軍事的な支援とアドバイスを受けるようになったカメハメハ(Kamehameha,1758-1819)は、1810年にハワイ諸島を統一してハワイ王国を建国し『カメハメハ1世・カメハメハ大王』となった。“カ・メハメハ”とは、ハワイ語で『孤独な人・静かな人』を意味する言葉である。

カメハメハ1世は、首長カメイアイモクがアメリカ人に報復した『フェアー・アメリカン号襲撃事件(1790年3月3日)』の際に、アメリカ人のデービスとヤングを保護して軍事顧問として雇い入れて、自らの軍隊・装備の近代化を推し進めて優位に立った。カメハメハ1世は火器・火薬の調達に注力しながら、拳銃などの火器の使用法・管理法に習熟した白人の軍事顧問を雇って軍事力を飛躍的に高めていった。1804年の時点で、600挺のマスケット銃、14門の大砲、40門の旋回砲、6門の小型臼砲を保有していたとされ、既に『ハワイ王国統一』に向けた下準備が整いつつあったのである。

ハワイ諸島を統一したカメハメハ大王は自らの権力の正統性を確立するために、祖父の世代にまで遡ってハワイ王家の伝承や歴史、神話を整理して、ハワイ神話である『クリムポ』を編集させた。ハワイ神話『クリムポ』は、2102行の長文で構成されている一大叙事詩であり、宇宙の起源・創生から始まり、生物の進化から歴代王の事績・生涯まで網羅した独特な内容の神話である。

楽天AD

ハワイの神話と主要な四神・火山の女神ペレの物語

カメハメハ大王が作成させたハワイ神話『クリムポ』では、宇宙の創生の物語が語られていて、まず長い長い夜から宇宙(世界)は始まったのだという。終わりの見えないような長い夜の中で、原初の生物である珊瑚(サンゴ)とポリフが発生し、更になまこ・植物・魚類・爬虫類・鳥類・哺乳類などの生物の生態系が進化の系統樹を発展させるような形で作り出されていった。

長い『夜』が様々な種類の生物でいっぱいになった時に『昼』が生み出され、そこから神々が登場して人間たちも誕生してきたのである。ハワイ神話の神々はポリネシア神話の神と共通しているものも多いのだが、その名前と役割はギリシア神話とローマ神話の関係のように微妙に変化している。ポリネシア神話の主神の位置づけにあるタンガロアは、ハワイ神話では海神のカナロアとなっており、特別に重要な主神の位置づけではなくなっている。

ハワイの主要な四神は、『カーネ(創造神),ロノ(豊饒神),クー(戦闘神・守り神),カナロア(海神)』である。この中で最も重要な神とされているのは、創造神のカーネであり、宇宙の創世期に太陽と月、星を創り出した神とされている。カーネは太陽と月、星の創造に続いて世界を創り出し、世界の大地は『カーネの大地』、海は『カーネの青い海』と呼ばれたりもした。

楽天AD

豊饒神のロノは、食糧生産の要である農業を司る神であり、ロノによって畑や果樹園で豊かな作物が取れるかどうかが決められると考えられていた。クーは山・海・森の自然の守り神であり、男性的な属性として戦闘神としての役割も司っていた。ポリネシア神話でタンガロアに相当するカナロアは、海の神であり航海・漁業・気象などに関係すると考えられていた。

ハワイ人のハワイ神話(クリムポ)に基づく宗教信仰の拠点は『ヘイアウ』と呼ばれた神殿であり、ヘイアウの神殿には偶像崇拝として戦闘神クーや豊饒神ロノの木像が飾られたりもしていた。ハワイ神話にはキラウエア火山の噴火と関係して伝承される火山の女神ペレもいて、このペレの物語もハワイ人たちの間ではかなり人気のあるものであった。

火山の女神ペレは『6人兄弟・6人姉妹』の中で生まれた女神であり、非常に大勢のきょうだい達に囲まれていたが、遠い国で暮らしていたペレはいつしか故郷を離れて航海しながら新天地を見つけたいと願うようになった。そして、兄の海神からカヌーを借りて、父には産み落とされたばかりの神の卵を持たされて、冒険の航海へとペレは出発することになった。航海の途中で卵から美しい女神のヒイアカが生まれて、ペレと妹のヒイアカはハワイ諸島北西にあるニイハウ島に到着した。

ハワイ諸島の色々な島を巡ったペレは、遂にハワイ島のキラウエアを生活拠点に定めることにしたのだが、ペレがカウアイ島に出かけた時に美男子の王子であるオウヒアウを見つけて好きになってしまう。ペレは王子オウヒアウを誘惑することに決め、美しい女性たちのフラダンスを眺めていたオウヒアウの前に、美女に変身したペレが突如現れるのである。抜きん出て美しいペレに一目惚れしてしまったオウヒアウは、ペレから『ハワイ島のキラウエアに大きな穴を掘って待っています。こちらから使者を迎えに行かせますから』と言われる。

ペレは妹のヒイアカを使者にすることにして、ヒイアカに『40日以内に戻ってくること・王子オウヒアウの身体に触れてはならないこと』を約束させてから、悪霊を振り払う霊力をヒイアカに授けて出発させた。女神ペレと人間オウヒアウの結合を妨げるような不思議な力が働き、ヒイアカはなかなかカウアイ島に着けずにいたが、王子はあまりにペレのことを恋焦がれ過ぎて死んでしまっていた。ヒイアカは不思議な霊力を用いて王子オウヒアウを蘇生させ、一緒にハワイ島へと向かったのだが、その途上で王子はヒイアカのことを好きになってしまうのである。

ヒイアカとオウヒアウがハワイ島に到着した時には既に約束の40日を過ぎていたので、怒ったペレは森を焼き尽くしてヒイアカの友人も殺してしまっていた。ヒイアカとオウヒアウがお互いのことを好きになっている様子を察知した女神ペレの憤怒と嫉妬は頂点に達するが、その嫉妬の感情が逆にヒイアカとオウヒアウの恋愛を盛り上がらせてしまう。嫉妬と怒りの激情に耐えられなくなった女神ペレは、王子を焼き尽くして殺したが、ヒイアカは再び霊力を用いて王子を蘇らせた。蘇った王子オウヒアウはヒイアカを連れて故郷のカウアイ島へと帰ってしまったのである。

嫉妬と憤怒の激情で燃え盛る女神ペレは、恐ろしい火山の神へと変質することになり、キラウエア火山を激しい嫉妬と怒りで爆発させるようになる。ハワイの人々はキラウエア火山の噴火は、火山の女神ペレの嫉妬と怒りで起こると伝承していった。そして、火山噴火によって流れ出る『溶岩』は、ペレの指・つま先など身体の一部だと考えるようになったという。

スポンサーリンク
Copyright(C) 2016- Es Discovery All Rights Reserved