ティターン戦争とオリンポス12神

大神ゼウスとティターン戦争

父である天空神ウラノスを打倒して、世界の覇権を掌握した農耕と時の神クロノスは、ウラノスとガイアから『汝自身も、自らの子に取って代わられるであろう』という予言を受けましたが、その予言はゼウスによって成就されてしまいます。世界の支配権を巡って父親であるクロノス率いるティターン神族(巨神族)と子であるゼウス率いるオリンポス(オリュムポス)神族が戦争をすることになります。この10年にも及ぶ『ティターン戦争』の勝利によってゼウスは、大神となり世界の支配者の地位を得ることになるのですが、激烈なティターン戦争は非常に厳しい長期戦でした。

強烈な戦闘力と団結力を持つクロノス率いるティターン神族に苦戦を強いられていたゼウスに、祖母のガイアは『地獄のタルタロスに幽閉されている我が子を解放して味方につければ戦争に勝利できる』という助言を与えます。ウラノスによって幽閉されていた不気味な容貌と絶大な攻撃力を持つキュクロプス(単眼巨人)ヘカトンケイル(百腕巨人)をタルタロスの地底から解き放って味方につけたゼウスはティターン戦争を有利に進め遂には勝利することになります。

鋭く光る一つ目を持つキュクロプスは、その粗雑で凶暴そうな外見とは裏腹に手先が非常に器用な怪物であり、強力な武器を鍛える超越的な能力を持つ『鍛冶の神』であるとされます。キュクロプスは自分たちを地獄のタルタロスの暗黒から救い出してくれたゼウスの為に、世界で最強の破壊力を持つ『雷の矛(雷霆)』を鍛えて贈呈します。この雷の矛は、瞬時にして雷雲を呼び寄せて雷電を敵に落とすことが出来るだけでなく、強烈無比な火炎と電撃を帯びた矛として用いることも出来る最強の武器でした。鍛冶の技能の天才であるキュクロプスは、ハデスには『隠れ帽子』という自らの身体を消せる秘宝を与え、ポセイドンには『三叉の鉾』という強力な武具を贈呈しました。

天空と雷の神となったゼウスが、キュクロプスが鍛錬した雷の矛を振るえば一瞬で海や河川が沸騰するほどの威力を発揮しました。ゼウスの名には、明るく高貴な天空という意味が込められています。更に、百本の腕を持ち怪力無双を誇るヘカトンケイルは、巨大な岩石を次々と持ち上げて、ティターン神族に投げつけました。ゼウスとポセイドン、ハデスなどのオリンポスの神々とヘカトンケイルに休む間もなく攻撃され続けたクロノスをはじめとするティターン神族はヘカトンケイルの投げた岩石に押し潰されて身動き出来なくなりました。

ゼウスは、ティターン神族をまとめてタルタロスの最奥部に閉じ込めて世界の支配者として君臨することになります。ウラノスとガイアの予言が現実のものとなり、父を排撃したクロノスは、自分の子であるゼウスから取って代わられることになったのです。世界の重みを一人で背負い続けている神としてアトラスが有名ですが、このアトラスはティターン神族の一員であり、この戦争でゼウスに刃向かった懲罰として世界を背負わせられることになりました。

世界の最高権力者となったゼウスは、兄弟であるポセイドンとハデスと共に世界の分割統治をすることを決定します。天空をゼウスが統治し、ポセイドンは海洋を治め、ハデスは冥界を支配することになりました。旧世代の神であるティターン神族から新世代の神であるオリンポス神族へと、実力行使による世代交代が行われた瞬間でした。現存するギリシア神話のゼウス像は余り多くありませんが、最も精巧で秀逸なゼウスの古代の彫像として、エウボイア島のアルテミシオン岬の沖合いから引き上げられたアルテミシオンのゼウス像が知られています。祖父のウラノスは天王星の名前へと継承されましたが、ゼウスはローマ神話でユピテル(ジュピター, Jupiter)となり、太陽系最大の惑星・木星(Jupiter)を表す言葉になりました。

最強の怪物テュポンと強大な巨人ギガスとの戦争

世界の統治権力は、初めガイアの配偶者であったウラノスにあり、ウラノスの陰部を大鎌で切断したクロノスがウラノスの王座を襲いました。その後、クロノスの子ゼウスがティターン戦争で、クロノス率いるティターン神族を撃滅して世界の支配権を得ましたが、更にゼウスの絶対権力を奪取しようとする強大無比な怪物たちが姿を現します。

古代ギリシア神話の歴史の中で、史上最強の攻撃力と冷酷さを併せ持つと言われる怪物が、大地母神ガイアと地獄の神(地底の神)タルタロスの間に産まれたテュポン(テュポエウス)です。テュポンの外観は、身体の全てを見渡すことが不可能なくらいに巨大であり、頭は夜空の星々に到達するほどの高さにあり、左右の腕の長さは世界の全てに届くくらいの長さを持っていました。テュポンは、半神半獣の神と言われており、上半身が神(人間)の姿をしていて、下半身が大蛇のようにトグロを巻いていると言います。両肩からは毒をもつ凶暴な蛇が100匹も生え出ていて、瞳からは全てを焼き尽くす高温の火炎を放射することが出来ました。

天空の神ゼウスは、自慢の雷の矛を持って、テュポンの眼から繰り出される火炎に立ち向かい、遂に頭頂部に雷撃を命中させて、テュポンを打倒することに成功します。テュポン(Typhon)という名前は、台風(typhoon)の語源として知られますが、神話的着想からテュポンの炎をエトナ山の噴火の炎に見立てることもあります。ウラノスの血液から生まれでた巨人ギガスとの戦争では、ゼウスは自らの子であるアテナやアポロンと共にギガスと戦い、人類の英雄ヘラクレスの助力も取り付けてギガスを打ち負かす事に成功します。

オリンポス12神(オリュムポス12神)の神々

ゼウスを最高神とするオリンポス12神には、以下の神々がいます。オリンポス12神は、後にアレクサンドロス大王を輩出するマケドニアとテッサリア地方の境界に聳え立つオリュムポス山(標高2,917メートル)に拠点を構える神々で、アムブロシアという食物とネクタルという神の酒を満喫しながら優雅で自由な享楽と饗宴の生活を送っていました。

オリンポス12神に含められない神々にも、古代ギリシア神話で重要な役割と地位を与えられている神がおり、代表的な神には愛の神エロスや季節の女神ホラ、運命の女神モイラ、冥界の神ハデス、ヘラの娘のヘベとエイレイテュイアなどがいます。勝利の女神ニケや掟の女神テミスなどはクロノス時代のティターン神族の系譜に属しますが、ゼウスへの敵対姿勢を鮮明にしなかったのでゼウスの統治に移ってもその神としての地位を保証されました。

オリンポス12神
神の名前神の特徴(属性・象徴・聖獣)
ゼウスオリンポスの最高神として世界に君臨する天空の神。象徴は『雷霆(らいてい)』。聖獣は『鷲』。
ポセイドンゼウスの兄であり、海洋と地震の神。象徴は『三叉の鉾・松樹』。聖獣は『馬』。
ヘラ嫉妬深いゼウスの妻(姉でもある)で結婚の神。象徴は『百合・柘榴(ざくろ)』。聖獣は『孔雀・牝牛』。
アテナゼウスの娘で知恵と戦争の神。都市国家アテナイの守護神。象徴は『盾・槍・兜・オリーブ』。聖獣は『フクロウ(ミネルヴァのフクロウ)』。
アポロンゼウスとレトの息子で、予言・芸術・医術の神で、後に太陽神となる。古代ギリシア世界で最も権威ある予言(託宣)を下すデルポイのアポロン神殿の主神。象徴は『弓矢・竪琴・月桂樹』。
アルテミスゼウスとレトの娘で、狩猟と弓矢の女神(処女神)。後に同じレトから生まれた太陽神アポロンと双璧を為す月の女神となる。象徴は『杉』。聖獣は『牝鹿』。
ヘルメスゼウスとニンフのマイアの息子で、商人・盗賊・旅人の神。象徴は『旅人の杖・ペタソス(ツバ広の帽子)』。
アフロディーテ(アプロディテ)クロノスの大鎌の一撃によって海中に落ちたウラノスの精液より生まれでた娘で、愛と美の女神。聖獣は『白鳥・鳩・薔薇・カリン』。
アレスゼウスとヘラの息子で、戦争(戦い)の神。象徴は『兜・槍』。
ヘパイストスゼウスとヘラの息子で、アプロディテの夫となる。鍛冶と火の神。象徴は『鍛冶場の鉄床・鍛冶屋の帽子』。
デメテルゼウスの姉で、農業(穀物)と豊饒の神。象徴は『麦・ケシ』。聖獣は『豚』。
ディオニュソスゼウスとセメレ(人間の女)の息子で、ブドウ酒と芸術、演劇の神。象徴は『ブドウ』。聖獣は『蛇・山羊・イルカ』。

ブドウ酒と演劇、陶酔の神であり、『神の死』を宣告した哲学者フリードリヒ・ニーチェが理性的なアポロンと対照的な感情と無秩序の神であるとしたディオニュソスに変えて、ゼウスの姉で家庭と竈(かまど)の神であるヘスティアをオリンポス12神に入れる場合もあります。

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