[阿闍世コンプレックス(Ajase Complex)]

このウェブページでは、[阿闍世コンプレックス(Ajase Complex)]の心理学キーワードの用語解説をしています。

スポンサーリンク

ジークムント・フロイトのエディプスコンプレックス


古澤平作・小此木啓吾の阿闍世コンプレックス


ジークムント・フロイトのエディプスコンプレックス

阿闍世コンプレックス(Ajase Complex)

フロイトが定義したエディプス・コンプレックス(Oedipal Complex)は、ソフォクレスが著述したギリシア悲劇の『オイディプス王』に題材を取っている。精神分析学のエディプス・コンプレックスは、リビドー発達論の男根期(3-6歳頃)において経験される三者関係(父・母・子)の中での情緒的葛藤である。

エディプス・コンプレックスは、“母親に対する性的欲求や愛情”“父親に対する敵対心(ライバル心)や憎悪”がぶつかり合う情動的葛藤としての複雑な心理体験のことである。ギリシア悲劇『オイディプス王』では、母親に対する近親相姦願望と父親に対する殺害欲求という極端な形で、人類に普遍的なエディプス・コンプレックスが表現されている。

エディプス・コンプレックスの経験は、家族内部の閉じた人間関係を克服して、外部社会の対等な他者との関係を持つ事を促進する。また、母親への性的欲求や幻想的な一体感を断念することや社会(他者)の厳しさを象徴する父親の権威的規範性を受容することによって、内面化された社会規範である超自我の精神構造が形成される。

エディプス・コンプレックスの持つ発達上の価値とは、倫理規範や社会常識を内面化した超自我(superego)を形成して、快楽原則に従う利己的行動を現実原則に従う社会的行動へと変容させていくことである。一方的な依存や甘えを許してくれる内部の母性からの心理的自立がエディプス・コンプレックスの課題であり、社会的な厳格性や現実性を象徴する父性がもたらす去勢不安によって心理的自立は促進されると考えた。

スポンサーリンク

このように、エディプス・コンプレックスでは、母親への依存や甘えを許さない父親(他者)の厳しさや規範意識との出会いが重要な役割を果たしている。西欧文明社会をモデルにした精神分析の発達理論では、厳格な父性による密着した母子の切断が心理的自立を達成すると考えられたが、これは、父性原理に基づくキリスト教倫理とヨーロッパ社会の伝統文化が大きく影響している。

その為、母性原理の宗教や伝統の根強い日本社会では、父性原理を前提としたエディプス・コンプレックスの発達概念をそのまま適用することが難しい文化的背景や社会的要因があった。

そこで、精神分析学者の古澤平作小此木啓吾は、父性原理の思想から発案されたエディプス・コンプレックスに代わる説得力のある日本人固有の発達概念として『阿闍世(あじゃせ)コンプレックス』を提唱したのである。

楽天広告

古澤平作・小此木啓吾の阿闍世コンプレックス

古澤平作・小此木啓吾の阿闍世コンプレックス

阿闍世コンプレックスは、西欧世界のエディプス・コンプレックスに対応する日本社会固有のコンプレックス概念である。日本社会の伝統文化や宗教・慣習に適応した母性的なコンプレックス概念として阿闍世コンプレックスは考案された。

阿闍世コンプレックスの原典は大乗仏教の経典にあり、鎌倉仏教の一つ浄土真宗の開祖である親鸞『教行信証』でよく引用した『阿闍世王の伝説』から着想されたという。

フロイトのエディプス・コンプレックスは『父・母・子の三者関係における対立的な情緒的葛藤』であり、『社会的存在者の象徴である父親からの去勢不安とそれによって生まれる罪悪感』が超自我形成へ重要な役割を果たす。

一方、古澤平作の阿闍世コンプレックスは『母・子の二者関係における相互的な情緒的葛藤』であり、『寛容性の象徴である母親からの許しと許されることによって生まれる自己懲罰感情の罪悪感』が超自我形成へ重要な役割を果たす。

スポンサーリンク

阿闍世コンプレックスとは、以下のような母子関係の心的過程の中で生起する感情と観念の複合体(コンプレックス)のことである。

『許されないような悪い行為(優しい母親への憎悪や攻撃)をしたのに、予想を超えた母親の寛容や愛情によってその罪悪が許されてしまう。その事によって子どもの内面に生じた“母親に申し訳ない”という自罰感情(後悔・謝罪・反省)が情緒的葛藤を作り出す。その自己懲罰感情が、社会規範を内面化した超自我の起源となる』という精神的な発達過程のコンプレックス体験が、阿闍世コンプレックスなのである。

『幻想的な母子一体感の依存と甘え』が子どもの自立を願う母親によって疎外され、その結果、『母親への依存や甘えが拒絶された子どもの母親に対する逆恨みと敵意』が生まれる。しかし、母親はそんな逆恨みの攻撃や憎悪を受けてもなお、子どもへの寛容や愛情を失うことなく幼児的な子どもの愚行を許し続ける。

ある時、母親が自分に注いでくれた偉大な愛情と無限の寛容に子どもは気づき、自分がその愛情を踏みにじってきた事を後悔し、母親を傷つけた事に対して罪悪感を抱くようになる。そして、母親に対する思いやりや配慮を取り戻した子どもは、一方的な依存や甘えの過ちと矛盾を反省し、社会規範や道徳観を内面化した超自我を作り上げていく。

楽天広告
Copyright(C) 2021- Es Discovery All Rights Reserved