「閾値(threshold)と閾下知覚」,「イオン・チャネルと活動電位」

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このウェブページでは、「閾値(threshold)と閾下知覚」と「イオン・チャネルと活動電位」の用語解説をしています。


閾値(threshold)と閾下知覚(subliminal perception)

知覚心理学・生理心理学などで用いられる『閾値(いきち・しきいち, threshold)』とは、二つの感覚刺激の差異が知覚できる最小値(限界値)のことであり弁別閾と呼ばれることもある。コンピュータ工学やプログラミングの分野でも閾値という用語は用いられるが、この場合も動作や意味が変化する最小値のことを意味している。

閾値以下の物理刺激を受けてもその刺激を知覚することはできず、閾値よりも大きな刺激を『閾上刺激』、閾値よりも小さな刺激を『閾下刺激』という。閾下刺激では意識的にその刺激の変化を感じることはできないが、閾下刺激によっても人間の生体にさまざまな無意識的な変化が引き起こされることがある。

プライミング(priming)と呼ばれる心理作用は『先行刺激』が『後続刺激』の処理に無意識的な促進効果を及ぼす作用であるが、このプライミング効果も閾下刺激によって生起することがある。知覚できないはずの閾下刺激によって、生理学的な緊張を伴うGSR(galvanic skin response, 皮膚電気反応)に変化が起こったり、行動選択や感情生起に微妙な影響がもたらされることがある。

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これらの事から、閾下刺激は完全に人間に知覚されないわけではなく、脳神経系で何らかの知覚処理が潜在的に進められているのではないかと推測されている。閾下刺激に対する脳神経系(知覚-運動系)の潜在的な情報処理プロセスを『閾下知覚(subliminal perception)』と呼ぶ。

プライミング効果には、大きく分けて『直接プライミング(direct priming)』『間接プライミング(indirect priming)』がある。直接プライミングは更に知覚的プライミング(perceptual priming)概念的プライミング(conceptual priming)に分けられるが、知覚的プライミングはプライム刺激(先行刺激)の文字や言葉がそのまま潜在記憶に残ってテスト結果などに反映されるというものである。

概念的プライミングは、プライム刺激(先行刺激)のイメージや概念的理解が潜在記憶に残って自由連想のキーワードなどに反映されるというものである。間接プライミングとは、プライム刺激と直接的なつながりのないものが連想的・想像的に結び付けられる形のプライミング効果であり、『飛行機』というプライム刺激から『パイロット』や『海外旅行』のイメージが無意識的に想起されるようなケースを言う。閾上知覚と閾下知覚の基準としての閾値を客観的な数値で定めることは難しいが、『閾下知覚の認知科学的研究』は意識と無意識の境界線を解明する研究として注目を集めている。

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閾値の概念は、重量と感覚の相関関係を科学的に研究した19世紀の『精神物理学』の分野で用いられた。精神物理学を確立したドイツの心理学者・生理学者エルンスト・ヴェーバー(Ernst Weber, 1795-1878)は二つの重量刺激の差に気づくことができる最小値のことを丁度可知差異(ちょうどかちさい)・弁別閾と呼んだがこれは閾値と同義である。

ヴェーバーとドイツの物理学者グスタフ・フェヒナー(Gustav Fechner, 1801-1887)の重量刺激と感覚(知覚)の相関関係についての研究成果は、『ヴェーバー=フェヒナーの法則』として定式化されている。

ヴェーバーの法則(ヴェーバー比)とは物理的な刺激量の強さを“R”、これに対応する閾値を“ΔR”とした時に『ΔR/R=一定の値』が成り立つという法則である。100gの刺激を増やしていって110gの時に重さの差異に気づくのであれば、200gの時には[110/100=220/200]で220gに増やした時に重さの差異に気づくということになる。フェヒナーの法則はウェーバーの法則を積分した対数法則であり、刺激量の強さ“R”に対応する感覚量“E”が“E=定数 logR”の式で表されることになる。フェヒナーの法則は感覚量に当たる“E”が、刺激強度そのものではなく刺激強度の対数に比例するということを示している。

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イオン・チャネルと活動電位

脳の神経細胞(ニューロン)の間にあるシナプス間隙では、細胞体から軸索終末部へと向かう膜電位変化が起こっており、神経伝達物質の放出を促進するこの膜電位変化のことを活動電位(action potential)と呼んでいる。この活動電位は興奮性電気信号を軸索に伝達する役割を果たしているが、活動電位を発生させる軸索小丘には『膜電位依存性Na+チャネル』と『膜電位依存性K+チャネル』とがある。

膜電位依存性のNa+チャネルとK+チャネルは、ナトリウムとカリウムを選択的に透過させるイオン・チャネルである。イオン・チャネルというのは、細胞の生体膜にある膜貫通タンパク質の一種であり、各種の制御機構をもっていてイオンを透過させる役割をしている。

イオン・チャネルの機能は、細胞の内外における各種イオンの濃度や膜電位の維持であり、脳の神経細胞間では電気的興奮性細胞(軸索小丘)において活動電位の発生を行っている。脳内の膜電位依存性Na+のイオン・チャネルの調整によって、膜電位が0mvを超えて正の値をとることを『オーバーシュート』といい、K+チャネルの活性化によってNa+チャネルが不活性化することを『アンダーシュート』という。

軸索小丘で発生する活動電位は、Na+チャネルとK+チャネルを調整しながら軸索における電気的情報伝達を実現しているが、軸索を流れる電気信号は基本的に一方向性である。活動電位が軸索を一方向に流れて逆方向に流れない原因として、イオン・チャネルの調整で活動電位が段階的に静止する『絶対的不応期・相対的不応期』の存在が想定されている。

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