このウェブページでは、[意志療法(will therapy)]と[痛み(pain)]の用語解説をしています。
意志療法(will therapy)
シグムンド・フロイトが創始した精神分析はその運動が大きくなり勢力が拡大する中で、多くの同志達がフロイトの理論や人格との衝突によって離反していった。精神分析協会から離反した著名な人物には、分析心理学を確立したカール・グスタフ・ユング、個人心理学を創始したアルフレッド・アドラー、マルクス主義の社会改革と精神分析との融合を図ったヴィルヘルム・ライヒなどがいる。
意志療法(will therapy)を考案したオットー・ランク(Otto Rank)も、元々、精神分析運動の初期からフロイトの弟子として親交を深めていた人物である。フロイトのエディプス・コンプレックスと折り合わない出生外傷説を唱えた為、協会を去ることとなった。
出生外傷(Birth Trauma)とはオットー・ランクが考えた概念で、新生児が産道を通ってこの世界に出てくる時に、その身体的な苦痛と精神的なストレスの為に原初的な心的外傷(トラウマ)を負ってしまうとするものである。母親の胎内にいる胎児は、快適な環境を作る羊水に浸って栄養分と酸素を供給されている。
胎児は、何一つ不自由のない万能感が満たされた状態にあるのだが、出産の時に、自発呼吸と体温維持、食事行為を強制される過酷な外部環境に投げ出される。その急激な環境の悪化により新生児は深刻な心的外傷を受けてしまう(出産外傷)ので、将来の精神疾患の遠因になるとオットー・ランクは考えたのである。
出産外傷は、人生の最初期に赤ちゃんが直面する重篤な分離不安であるが、オットー・ランクは、人間には先天的に分離不安を克服して自分自身の人生を能動的に展開していく意志の力があると言う。意志療法とは、ロジャーズの肯定的な人間観を前提とするヒューマニスティック心理学(人間性心理学)に類似した心理療法である。
意志療法では、トラウマの悪影響を克服することが出来る人間の生得的な意志の力を信頼し、自分が本当に希望する人生を歩めるという確信を強めていく。そして、自分の精神機能を最大化し、創造的な活動や幸福な生活が実現できる方向に自己を高めていくのである。
痛み(pain)
痛み(pain)という感覚は、『不快・苦痛・不安・恐怖』といった否定的な心理状態を生み出すが、動物が自己の生存維持を図るためには痛覚は欠かすことの出来ない感覚である。痛みは、人間の感覚機能の中でも最も原始的な感覚の一つであり、自律神経系の終末にその受容器がある。
痛みは、表在感覚の一つ痛覚によって生じるが、表在感覚にはその他に温度覚(温覚・冷覚)・触覚(圧覚)がある。痛みは、通常、身体の物理的損傷によって生じるが、主な痛みの原因として身体疾患・物理的な怪我や衝撃がある。
痛みは主に身体疾患によって引き起こされますが、転換性障害(転換性ヒステリー)や身体表現性障害などの精神疾患によっても身体各部に痛みが起こってくることがあり、心理学的アプローチによって痛みが和らぐことがある。
また、心因性の身体疾患の総称である心身症によって、胃腸器障害(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)が起こったりして激しい痛みが生じることもある。
仮面うつ病のように、強烈な腰痛や筋肉痛などの身体症状で、本体である気分障害のうつ病が覆い隠されていることもあるので注意が必要である。
医学の主要課題として疾病の治療と合わせて痛みの治療、痛みの緩和があり、末期癌患者や死を回避できない重症の疾患の場合にはどのようにして患者の痛みを除去し和らげてあげるかが医学的治療の目的となる。痛みの治療と緩和を専門に行う診療所(病院)にペイン・クリニックというものがあり、現代医療でも患者が訴える執拗な慢性の痛み、耐え難い痛みをどうやって緩和するかが重要な臨床課題となっている。
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