アトピー性皮膚炎の治療とステロイド外用剤

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ステロイド外用剤の効能と副作用

ステロイド外用剤の強さと種類

ステロイド外用剤の正しい使い方

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ステロイド外用剤の効能と副作用

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)の医学的治療は『原因と悪化因子の除去・スキンケア・薬物治療』の3つの軸によって行われるが、薬物療法の中心は副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド)を含む『ステロイド外用剤』である。アトピー素因を持つアトピー性皮膚炎の人は、『ドライスキン(乾燥肌)』『起炎症性(敏感で炎症を起こしやすい肌)』という特徴を持っているので、肌の良い状態を保つための『スキンケア』が欠かせない。

スキンケアというのはこまめな入浴とシャワーによって皮膚を清潔に保つこと、ドライスキンの状態が悪化しないように必要な水分と油分を補うことである。汗や汚れを速やかに洗い流す習慣をつけ、熱すぎるお湯での入浴や刺激の強い洗剤を避けること、肌触りの優しい下着の素材を使用し、室内の掃除もきちんとしてハウスダストやダニなどを綺麗に除去することも大切である。

アトピー性皮膚炎の外用療法に使われるステロイド剤の作用(効能)と副作用について解説するが、通常のアトピー治療では『ステロイド内服薬・内服の免疫抑制剤』が使われることは殆どなく軟膏(なんこう)・クリームといった『ステロイド外用剤』が用いられる。ステロイド外用剤の作用とは、強力な抗炎症作用・抗アレルギー作用であり、『血管壁透過亢進の抑制・白血球やマクロファージの遊走抑制・ライソゾーム膜安定化・抗キニン作用』などによって、比較的短期間(数時間~数日)で皮膚の炎症やかゆみを抑えて皮膚の外的損傷を回復することができる。

ステロイド外用薬は約60年間(2008年現在)にわたって皮膚科診療で使われ続けているが、湿疹・皮膚炎の治療薬として最も効果のある薬剤であり皮膚炎が長期慢性化しないケースでは極めて安全性も高くなっている。ステロイド内服薬を大量に使用すれば副腎機能低下・副腎萎縮・全身の免疫力低下などの『全身的副作用』のリスクがでてくるが、通常のステロイド外用剤を用いた治療では薬を塗った部位だけに症状が出る『局所的副作用』しか起こらない。

ステロイドとは抗炎症作用を持つ副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)を化学的に合成した薬剤であり、ステロイド外用剤の剤形には『軟膏・クリーム・ローション・テープ』などがある。ステロイドの吸収比率は身体の部位によって異なり、『顔・瞼・首・陰部』などでは非常に吸収比率(速度)が高くなっているので、出来るだけ強いステロイドを使わないようにしなければならない。

ステロイドの使用法には、『単純塗擦法(指ですり込む)・貼布法(ガーゼなどで貼り付ける)・重層法(ステロイドの上に亜鉛華軟膏を塗る)・密封包帯法(患部をプラスチックフィルムなどで密封する)』などがあるが、一般的には自分で患部に軟膏・クリームを塗る単純塗擦法が用いられる。ステロイド外用剤を長期間にわたって同じ箇所に使用し続けていると、以下のような『局所的副作用』が発生してくるが、塗る部位や分量を調整することである程度は副作用の発症を軽減することができる。強いステロイド外用剤の長期連用には注意が必要である。

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ステロイド外用剤の強さと種類

ステロイド外用剤は『臨床効果・副作用の強さ』に応じて、『Ⅰ~Ⅴ群』の五段階に分類されている。ステロイド外用剤は[Ⅰ群(最強)・Ⅱ群(次強)・Ⅲ群(強)・Ⅳ群(中程度)・Ⅴ群(弱)]というランクに分けられており、アトピー性皮膚炎の湿疹・炎症の程度と部位、回復の程度によって適切に使い分けることが必要である。一般的にステロイド外用剤の効果の強さは[Ⅰ群(200以上)・Ⅱ群(100)・Ⅲ群(50)・Ⅳ群(10)・Ⅴ群(1~5)]が目安とされるが、顔(頬)・目の周り・首などにはできるだけ強いステロイドを長く使用しないことが望ましい。

プロトピック軟膏とは、臓器移植・骨髄移植などに使用されていた免疫抑制剤のタクロリムス水和物を非ステロイド系のアトピー性皮膚炎の治療薬として開発したものである。プロトピック軟膏にはⅡ群のステロイドに近い抗炎症作用があるが、ステロイド特有の皮膚萎縮・起炎症性などの副作用が見られないので『顔面の発赤・炎症』などに用いられることが多い。

プロトピックの副作用としては『ピリピリとする皮膚刺激感・灼熱感』と『免疫力の低下による感染症』が良く知られているが、皮膚がピリピリとする感じは使っている内に無くなっていく。しかし、プロトピックは大量使用・長期連用時の安全性が十分に確認されていないという問題もある。通常の用法・用量の範囲内でプロトピックを使用していれば大きな副作用の心配は必要ないが、一部の医師はプロトピックの長期連用による発がんリスク(悪性リンパ腫)を指摘している。以下に、ステロイド外用剤の種類と非ステロイドのプロトピック、保湿剤を表にして示す。

ステロイド外用剤のランクと名称・種類
臨床効果のランク一般名商品名
Ⅰ群(strongest:最強)
プロピオン酸クロベタゾールデルモベート
酢酸ジフロラゾンジフラール,ダイアコート
Ⅱ群(very strong:次強)
酪酸プロピオン酸ベタメタゾンアンテベート
フランカルボン酸モメタゾンフルメタ
ジプロピオン酸ベタメタゾンリンデロンDP
フルオシノニドトプシム,シマロン
ブデソニドブデソン
ジフルプレドナートマイザー
吉草酸ジフルコルトロンネリゾナ,テクスメテン
アムシノニドビスダーム
酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾンパンデル
Ⅲ群(strong:強)
プロピオン酸デプロドンエクラー
ハルシノニドアドコルチン
吉草酸デキサメタゾンボアラ,ザルックス
プロピオン酸デキサメタゾンメサデルム
プロピオン酸ベクロメタゾンプロパデルム
吉草酸ベタメタゾンリンデロンV,ベトネベート
フルオシノロンアセトニドフルコート,フルゾン
Ⅳ群(mild:中)
トリアムシノロンアセトニドレダコート,ケナコルトA
吉草酸酢酸プレドニゾロンリドメックス
ピバル酸フルメタゾンロコルテン
酪酸クロベタゾンキンダベート
プロピオン酸アルクロメタゾンアルメタ
酪酸ヒドロコルチゾンロコイド
Ⅴ群(week:弱)
プレドニゾロンプレドニゾロン
酢酸ヒドロコルチゾンコルテス
クロタミトン・ヒドロコルチゾンオイラックスH
保湿剤(非ステロイド)
ワセリンワセリン
亜鉛華軟膏亜鉛華軟膏
親水軟膏親水軟膏
ヘパリン類似物質軟膏ヒルドイド軟膏,ヒルドイドソフト
尿素含有軟膏ウレパール,ケラチナミン,パスタロン
アズレン軟膏アズノール軟膏
非ステロイド・免疫抑制剤タクロリムスプロトピック

アトピー性皮膚炎の治療ではステロイド外用剤・保湿剤と合わせて、ヒスタミン受容体をブロックして『かゆみ』を抑える抗ヒスタミン薬(錠剤の飲み薬)も処方されることが多い。かゆみを抑える作用や中枢神経の鎮静作用がある抗ヒスタミン薬には、『眠気・全身倦怠感・ふらつき』など睡眠薬に類似した副作用が見られる。抗ヒスタミン薬の副作用の短所を改良したものに抗アレルギー薬(インタール・リザベン・IPDなど)があるが、一般的にかゆみを抑える作用は抗ヒスタミン薬のほうが強いので、抗ヒスタミン効果のある抗アレルギー薬(アレグラ・クラリチン・アレロック・アゼプチン・ニポラジンなど)が多く開発されている。

ステロイド外用剤の正しい使い方

ステロイド外用剤の“作用・効果”を最大限に発揮して“副作用”を最小化するためには、薬の正しい知識を持って『用法・用量』を適切に守ることが重要になる。一方で、ステロイドでも十分に炎症を抑制できない重症アトピー性皮膚炎や炎症(赤み)・腫れ・びらんが慢性化した成人型アトピー性皮膚炎では、適切なステロイド外用剤の使用をしていても皮膚萎縮や赤み・炎症の持続、炎症による色素沈着などの問題が起こってくることがある。慢性化・重症化したアトピー性皮膚炎では、ステロイド外用剤・抗ヒスタミン剤などの薬物治療とは別に、薬剤に依拠しない生活習慣(食事・運動・睡眠)の改善や精神的ストレスの緩和、代替療法(温泉療法・海水浴療法・食事療法)などが有効になることもあるので、自分に合った皮膚状態の改善法やスキンケアを工夫していくことが必要になる。

標準的な食事療法では『肉・卵・牛乳・果物』などの高カロリー・高脂肪食品・糖分は皮膚の炎症性を高めるので、穀物(米・パン)を食べ過ぎないようにして『野菜・魚・海藻』を中心としたメニューを組み立てることが望ましい。食物アレルギーのない成人型アトピー性皮膚炎でも、低カロリー・低脂肪・糖分摂取の低下を食事で心がけると炎症が起きにくくなることもあるが、一日に一時間程度の発汗を伴う有酸素運動を習慣化することで皮膚の状態が良くなることもある。

昼夜逆転の生活リズムの崩れや睡眠不足も皮膚に炎症を起こしやすくするので、精神的ストレスを減らして規則正しい睡眠リズムを形成することも大切である。皮膚の外観が気になるということで極端なインドアのライフスタイルになる人も多いが、適度に日光の照射を浴びて発汗を伴う運動をすることで皮膚の新陳代謝のサイクルを活性化することができ、紫外線の殺菌作用などで炎症が起こりにくくなることがある。日光・紫外線に過敏性があるケースでは『日中の外出』が皮膚炎を悪化させることもあるが、一般的なアトピー性皮膚炎では日光を浴びる外出をしたほうが気分転換・リラクゼーションの効果もあって皮膚が良くなる傾向がある。

ステロイド外用剤の『正しい使い方』の基本は、『十分な抗炎症作用のあるステロイド』『皮膚の炎症が無くなるまで用いる』ということであり、結果としてステロイドの使用期間を短期化することである。実際には、慢性化したアトピー性皮膚炎では『何度塗っても炎症が再発する・炎症を十分に抑えられなくなる・ステロイドをやめると炎症や腫れが悪化するリバウンド症状が激しい』という問題があるが、軽症~中等度のアトピー性皮膚炎であれば初めの段階で比較的強いステロイドを使用して完全に炎症を抑えることで、ステロイド使用期間を短くすることができる。

炎症・赤みを抑えられない弱いステロイド(基剤で希釈したステロイド)を慢性的に長期間使ったほうが局所的副作用が起こりやすくなるので、医師の診療を受けながら自分の皮膚の炎症・赤み・腫れのレベルに合わせたステロイド外用剤のランクを選択することが基本である。

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ステロイド外用剤の理想的な使用法は、初めに強いステロイドを使用して皮膚の炎症を抑え『赤みのないつるつるした健康な皮膚の状態』に持っていくことであるが、乳幼児~児童に対する処方では『二週間以内の使用』が望ましいとされている。しかし、子どものアトピーでは二週間以内に炎症を抑える使用法が出来ても、慢性化した大人のアトピーでは初めから炎症を完全に抑制できなかったり二週間で完全につるつるの状態にまでならないという現代の皮膚科医療の限界もある。アトピー性皮膚炎に対する『ステロイド療法』は、飽くまで患者のQOL(生活の質)を落とさないための“対症療法”であって根本の原因を断ち切る“根治療法”ではないという認識が必要であり、現代医療ではステロイド外用剤以上に効果的な治療法がないというアポリア(難問による閉塞)がある。

段階的にステロイドの使用量を減らして使用期間を短くするためにはどうすれば良いのかを『個別的な症状・体質・経過』に合わせて考えていかなければならない。慢性の成人型アトピー性皮膚炎には遺伝・体質の要因が関与しているので完全に治癒することは難しいが、自然寛解の症例も少なからずあることから『自分に適した皮膚の改善・炎症抑制の方法』を生活習慣の改善の中で見つけることが重要である。

急速なステロイドの使用中止(自己判断の脱ステロイド)には耐えがたい苦痛を伴うリバウンドのリスクがあるので、ステロイドをやめる場合でも必要に応じてステロイドの抗炎症作用・免疫抑制作用を適切に活用しながら段階的に減らしたほうが良い。各患者の症状やライフスタイルに合わせた生活習慣全体(食習慣・運動習慣)の見直しが有効に働くこともあるので、『食事・運動・睡眠・職場や人間関係のストレス』といった基本的な生活内容を節制的なものに整えてみることも大切ではないかと思う。

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