発達心理学と行動主義心理学の解説:パヴロフの犬の実験と古典的条件づけ

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発達(development)とは、精子と卵子の受精から死に至るまでの一生涯の『質的・量的な変化の過程』と定義する事が出来ます。人間は、一生の間、絶える事なく変化をし続けるという前提に立ち、その継続的な変化の仕組みと実際の状態について調査・研究するのが発達心理学と呼ばれる分野になります。

以前は、心理学における“発達”という言葉は、日常用語の発達と同じように、誕生~成人期までの機能的形態的発展の“上昇の過程”という意味が込められていました。しかし、現代の発達心理学における発達の概念には、成人期以降の中年期・老年期も発達の段階として含まれていて、誕生~死までの生涯全ての過程を発達と定義しています。

古い時代には、発達は遺伝的要因にその大部分を依存する過程と考えられていて、遺伝的に潜在している可能性が時間の経過に従って次々に開花してくる事を発達と呼んでいたのですが、現代においては遺伝的要因と同等に環境的要因が重視されていて、機能的発展以外にも人格の成熟や知性の発達といった観点を合わせて生涯のスパンで発達が考えられています。

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また、一般的な成人期までの変化の中でも、一時的な発達の停滞や表層的な逆行が見られることがあり、成人期以降の変化でも生物学的な加齢と並行して発達の下降や衰退が必ず起こるとは断言できない部分があります。その為、発達には従来の『上昇・下降』といった価値判断を含まない事になり、一生の間の変化として発達を考えるようになりました。即ち、発達は『生涯発達』という観点から研究されるべきものになってきたのです。

発達は一定の規則・型に従って、一生を通して連続的に進行する変化の過程で、その進む速さは一定ではなく個人差があります。発達のスピードの差が生まれる原因としては、遺伝的な個人差があり、性差があり、発達過程の環境などがあります。

『発達の順序性』という発達の規則があり、発達は一定の決まった順序で進行していきます。シャーレイ(1961)の研究をもとにして、人間の乳児期の発達で順序性を考えると、以下のようになります。

『胎児姿勢→あごを上げる→肩を上げる→支えて座れる→膝に座ってモノを掴める→椅子に座る→一人で座る→支えてもらって立つ→家具に掴まって立つ→ハイハイする→手を引かれて歩く→家具に掴まって立つ→階段をハイハイで上がる→一人で立つ→一人で歩く』といった発達段階を順番通りに経過していくことになります。

この発達の順序性の順序が乱れたり、飛躍したりする場合には、発達上の何らかの問題や異常がある場合が考えられます。しかし、その発達段階がどのくらいの時期に起こるのかという発現の速度には個人差がありますので、あまり神経質になり過ぎるのもよくありません。

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発達には、ヴィンセントらによる『発達の方向性』という概念もあります。発達には、一定の方向性があり、身体の発達だと“頭部―尾部勾配”と“中心部―周辺部勾配”と呼ばれる方向性があります。頭部―尾部勾配とは、身体発達が頭部から尾部(脚部)に向かって進行していくことを示していて、中心部―周辺部勾配は、体幹から末梢の方向へと進行することを表しています。

『発達の連続性』は、今まで話してきたような絶える事のない連続的な発達のことです。発達には、休止や飛躍がなく、表面的には発達が止まっているように見えたとしても、身体や精神はいつでも変化し続けています。但し、発達には、個人差や性差というものがつきものです。

『発達の異速性』とは、発達が起きる部位によって速さが異なる性質の事です。身体発達において、主に筋肉や脂肪などの組織細胞が充実して発達する時期を『充実期』といい、骨が伸びる時期を『伸長期』といいますが、それらは青年期に至るまで交互に起こります。

筋肉と脂肪の増加充実によって体重が増加し、骨の伸長によって身長が伸びるという発達が観察されます。このような発達の知識が欠如していると、発達段階に相応しい体型・体位を間違って認知してしまい、無理な減量による体重の制御を図ったりして、正常な発達を妨げたり、性成熟に障害を来たしたりします。

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スキャモン『身体各部の発達』の研究では、20歳の時の身体各部・器官の重量を100として、20歳に至るまでの各発達時期の身体各部・器官の重量の割合を発達曲線で表しました。

大脳や脊髄の神経系では、6歳の段階で既に成人の90%の重量を持っています。それに対して、睾丸・卵巣などの性器は12歳頃の思春期に入るまで殆ど重量が変化しません。

『発達の分化・統合』とは、初めは一つの受精卵であった細胞が時間の経過と共に各器官に分化していき、機能的にも分業体制を取っていくことと、最終的には一つの完成したものになり、相互的に整合性がとれた統合を成し遂げるということです。

発達がどのような要因から影響を受けて起こるのかを考えてみると、遺伝的要因による成熟と環境的要因による学習との相互作用によって起こります。 ジェンセン(Jensen,A.R. 1923-)は、相互作用説の一つである『環境閾値説』を提唱しました。遺伝的可能性が各特性で顕在化するにあたって、それに必要な環境条件の質や量は異なり、各特性はそれぞれに固有の“閾値(一定水準)”をもっているという説です。

この説では、身長・言語などの特性は、よほど劣悪な環境でない限りはその可能性を実現していくが、知能テストの成績ではやや環境から受ける影響が大きくなります。更に、学校での学業成績になると、遺伝と環境の影響が拮抗するようになってきて環境の重要度が増してきます。また、絶対音感や外国語の音韻など特殊な才能は、それを習得するのに最適な環境条件を必要とする上に、一定の専門的な訓練を受けなければ、その才能を開花させることができないとされています。

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それぞれの才能や特性は、環境条件が非常に悪くて不適切な条件である場合には、その発達は阻害されますが、その特性が顕在化するのに必要な一定の閾値を超えれば、発達は正常な範囲内で進行する事になります。

遺伝的要因と環境的要因は、相互に影響を与え合って発達を支えるので、どちらかが一方的に優位に立つという事はなく、その程度の大小があるだけだと考えられます。 過去には、遺伝的要因を重視する学説と環境的要因を重視する学説が鋭く対立していましたが、現在では発達の要因は相互的なものであるという結果に落ち着いています。

ゲゼル(Gesell,A.L. 1880-1961)は、階段上りの実験を通して、身体的精神的な成熟を待たずに行う学習行動は無意味であるとして、学習を成立させる準備段階(readiness:レディネス)まで成熟することを重視しました。ゲゼルの学説は、成熟優位説とも言われます。

ゲゼルとは反対に、行動は全て環境的要因による学習活動によって成り立つと考えたのが行動主義心理学の始祖ワトソンです。ワトソンは、自分に生まれたばかりの赤ん坊を預けてもらえさえすれば、その全てを条件付けなどの行動主義の技法を用いて、望み通りの能力や技術を持つ人間に育て上げ、赤ちゃんの時に決めた職業に必ず就くようにすることが出来ると豪語するほどに環境要因による発達への影響を重視しました。ワトソンは、環境決定論者とも言う事が出来るでしょう。

環境決定論者である行動主義心理学者ワトソンの有名な発言に以下の自信と確信に満ちた発言がありますが、勿論、人間の心身発達・才能・趣味嗜好・意志・意欲などの全てを環境を調整することによってコントロールすることは実際には不可能です。それは、人間の能力や適性は、後天的な経験や学習といった環境要因のみによって規定されるのではなく、先天的な遺伝や気質などの要因も関与してくるからです。

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『私に健康で五体満足な乳児を12人と、彼らを育てる為に私自身が詳細を決める世界とを与えてくれるならば、私はその内の任意の1人を取り出し、才能や好みや傾向や能力や天職や先祖の人種とは無関係に、私が選んだどんな専門家にでも―医者、弁護士、芸術家、商店主、それに乞食や泥棒にでさえも―育ててみせることを約束しよう』  Watson,1926

その対立を調停するような立場の学説を唱えたのが、シュテルン(Stern,W. 1871-1938)でした。シュテルンは、輻輳説を提唱して、発達は遺伝的要因と環境的要因の加算的な影響によるものだと言いました。

シュテルンの輻輳説は、現在の相互作用説に近いものとは言えますが、発達は両要因の単純な加算ではないという点と、両要因がいろいろな特性・才能・素質の開花にどのような影響を与えるのかという詳細な議論がないことが欠点として指摘されます。

ここから下は、「パヴロフの犬の実験と古典的条件づけ」を中心にした記事になります。

一般的に心理学というと、喜怒哀楽などの感情や継続する情緒としての気分の発生メカニズムを研究したり、社会環境の様々な状況で結ばれる人間関係の変化と発展について調査したりする学問分野であるといったイメージが持たれています。しかし、現在では、自分自身の心の内面を観察する“内観法”は、科学的な心理学が誕生する以前の古典的な方法という趣きが強くなっています。

自分自身の心の内面に意識を集中させて、心の内容や変化を言語的に記述していこうとする内観法は、19世紀的な哲学に起源をもつ意識探求の方法です。内観法は、自分の心の内容や変容過程を詳細に観察する方法としては大変優れた方法なのですが、自分が内面心理でどのような事を感じて考えていても、それを自分以外の他人に客観的な確実性を持って立証することが出来ないという欠点があります。

19世紀までの心理学の特徴を簡潔に表現すると、『主観的な意識研究の学問』であると言えます。20世紀の心理学の歴史は、19世紀の心理学の特徴である“主観性・意識の内観法による言語的報告”を否定的に捉えて、客観性の高い科学的な心理学を目指していく歴史であり、その歴史過程で幾つかの大きな心理学の潮流が生まれました。

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20世紀の心理学の発展に多大な貢献をした代表的な心理学の流れには、意識に対する“無意識の概念”を考案して、様々な心的現象や神経症など精神病理のメカニズムを高度に理論化した『フロイトの精神分析』、主観的な内観法を否定して、客観的な外部からの行動観察によって行動メカニズムを解明しようとしたワトソンを父とする『行動主義心理学(行動科学)』、そして、要素還元主義的な心の分析ではなく心の全体性(ゲシュタルト)の把握を目指したケーラー、コフカ、ヴェルトハイマーらの『ゲシュタルト心理学』があります。

この中で、主観的な思弁と推測を徹底的に排除しようとした科学的な心理学と言えば、“心の学問である心理学”“行動の科学としての心理学”に変革しようとした“行動主義(behaviorism)”です。

行動主義の理論的前提には、19世紀後半のロシアの生理学を基盤とする客観的心理学によって研究された反射行動に関する古典的条件付け(レスポンデント条件付け)の理論があります。

反射とは、外部からの刺激に対する無条件反射(無条件反応)の事であり、有名な反射としては、膝の下の方を木槌などで叩くと、足がポーンと前に上がる“膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)”、強い光刺激を与えると瞳孔がキュッと縮小する“瞳孔反射”、食物を口に入れると涎が出る“唾液反射”などがあります。

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上記に挙げた反射は、同じ種に属する生物であれば、例外なくどの個体にも見られる先天的な遺伝形質に基づく刺激に対する自然な反応ですが、イワン・ペトローヴィッチ・パヴロフ(I.P.Pavlov, 1849-1936)は、後天的な学習活動の経験によって獲得される“条件反射”を、“パヴロフの犬の実験(犬を用いた古典的条件付けの実験)”で発見しました。

無条件反射とは、生物が自らの生存維持の為に遺伝的に備えている生理的反応であり、外界から刺激を受け取れば、反射弓を通して自分の意志とは無関係に起こる反応のことです。しかし、苛酷な自然選択(自然淘汰)の働く生物進化の歴史の中で、個々の動物は、より良く環境に適応して生き残る為に、後天的な学習である“条件付け”によって新しい反射行動を獲得するようになりました。

本来、反射行動を起こさない中立的な刺激に対しても、条件付けされれば反射行動が起こるようになってきます。この生後の学習経験によって身につけた反射行動を、生得的な無条件反射に対して、“条件反射”と呼びます。

パヴロフは、被験体の犬を生かしたまま消化管の研究を行える画期的な実験方法を考案して、胃液の分泌に関する研究を精力的に行い、1904年にはノーベル生理医学賞を受賞しています。 パヴロフは、消化管に関する一連の生理学的研究の中から、イヌが口に入った食物以外の刺激でも反応して、胃液を分泌することを発見しました。

その後、研究方法の進展で、胃液の分泌だけでなく唾液の分泌も食物以外の刺激によって起こることが分かってきました。その事を発見した当初、パヴロフは食物以外の刺激による唾液の分泌を『心的分泌』と呼んでいました。

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古典的条件付け(レスポンデント条件付け)について簡単に説明すれば、以下のようになります。

古典的条件付け(レスポンデント条件付け)のメカニズム

1.条件付け以前

犬は、餌を与えられると、生得的な唾液反射によって自然に唾液を分泌する。 この無条件に唾液を分泌させる刺激である“餌”を“無条件刺激”といい、これに対する唾液分泌の反射を“無条件反応”といいます。

パヴロフは、無条件刺激である餌以外の刺激で唾液を分泌させようと考えて、餌を上げる前に必ずベルの音を鳴らすようにしました。初めのうちは、ベルは反射と無関係な“中性刺激”であり、食欲を刺激するわけではありませんから、ベルの音を聞いても唾液は分泌されません。

2.条件付けの実施

餌を与える直前に、中性刺激であるベルの音を鳴らして犬に聞かせ、そのベルの音を聞かせてから餌を与えるという行為を何度も繰り返します。

3.条件付け後

何度も何度も食餌の前にベルを鳴らしていると『ベルが鳴れば餌が食べられる』という事が経験的にわかってきて、身体が自然に反応して、ベルの音だけで唾液を分泌するようになります。

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“古典的条件付け(レスポンデント条件付け)”についてまとめると、“特定の反射行動(えさ→唾液)”を生じさせない“中性刺激(ベルの音)”を、時間的に接近させて何度も反復し、餌(無条件刺激)と一緒に対呈示すると、“中性刺激”“条件刺激”としての働きを獲得して、“条件反射”が成立してきます。

この古典的条件付けの理論は、人間が本来、何も特別な感情を感じる必要のない中立的な刺激(中性刺激)に対して、恐怖・不安・嫌悪・怒りといった感情を感じる理由を説明することが出来る場合などもあり、人間の後天的な学習活動の成果としての行動獲得に関する最も基本的な理論という事が出来ます。

J.B.ワトソンR.レイナが行った有名なアルバート坊やの実験では、生後11ヶ月のアルバート坊やに対して恐怖反応の条件付けを行う事に成功しました。

初めに、アルバート坊やの目の前に白ネズミを差し出しました。アルバート坊やは特別、白ネズミが怖いわけでも嫌いなわけでもないので、白ネズミに近づいて触ろうとします。その白ネズミに触れようとした瞬間に、アルバート坊やの後ろで、ガンガンと鉄の棒を金槌で叩いて大きな音を出すとアルバート坊やは突然の大きな音にびっくりしてしまいます。

音が鳴り止んで、再び白ネズミに触ろうとするアルバート坊やにまた大きな音を聞かせてびっくりさせます。

これを何度も繰り返すと、『白ネズミ=怖い大きな音』という観念が結合してしまい、本来は嫌いではなかった白ネズミを見ただけでアルバート坊やは泣き出してハイハイをして逃げ回るようになってしまいました。

ワトソンは、この実験を通して恐怖反応を人工的に条件づけする事に成功しました。恐怖は先天的な本能としてあるのではなく、後天的な学習によって条件づけされるというのがワトソンの行動主義の考え方なのです。

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更に、アルバート坊やは白いネズミだけではなく、白いウサギや白いアゴヒゲのサンタクロースなども怖がるようになってしまいました。このように一つの刺激に対する反応が、それとは別の類似した刺激に対しても起こってくる事を、学習心理学の用語で『般化(generalization)』と呼びます。

このアルバート坊やの実験は、人間の刺激に対する反応の条件付けや恐怖条件づけが形成される行動のメカニズムをとても良く説明していますが、現在ではこういった実験は子どもに心的な外傷(トラウマ)を残したりする危険性があるので倫理的な問題があると考えられ行われていません。

元記事の執筆日:2005/04/03

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