“過去・現在・未来の認知フレーム”で捉えられる時間的構造と心理療法理論の対応

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カウンセリングを行う際の前提的知識となってくる人間の心理メカニズムや人生の過程と問題をより良く理解する為には、『人生の時間的構造』と『環境の心理的影響』について知る必要があります。

人間は、基本的に自らの生きる人生を『過去・現在・未来』の時間軸で捉え、現在という時間を生きながらも、過去の記憶や未来への想像に大きく影響され、明るい希望に胸を弾ませて快活な気分になったかと思えば、悲観的になって抑うつ的な気分に落ち込んだりもします。

フロイトの精神分析学は、基本的に過去の幼少期の記憶や過去の重要な心理体験や人間関係へと遡行して、現在の神経症の病理や心身の不調や問題の原因を探求しようとする“過去を重視する人間観”に立脚した理論体系であり治療技法だと言えます。

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精神分析学では、精神病や神経症といった精神疾患、情緒不安定な性格上の問題などの原因を、過去の苛酷な心的外傷体験や混乱した愛情の乏しい親子関係に求めたり、本人にとって重要な意味を持つ過去の経験などを重視します。

フロイトの発達的な見地に立つ性格理論である“性的心理的発達論・リビドーの発達論”では、幼少期の発達段階や親子関係において、“適切なリビドー(欲求)の充足”が為される事によって健全な精神(自我)の発達が達成されると説きます。

つまり、幼少期の各発達段階には、基本的安定感や自律性といった個別の発達課題があり、その課題を乗り越える為には、子どもの欲求や主張を適切に受容して満たしてあげる必要があるというのが精神分析の基本的な人間観です。

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とはいえ、子どもの各発達段階での欲求や主張を、可能な限り満たせば満たすほど良いというわけでもなく、過度に甘やかして欲求を満たしすぎれば、反対に自律性や厳格性に欠ける幼児的な性格となってしまいます。

自分の人生には自分で責任を持たなければならないという自律性や自分の言動に対する厳格性が充分に発達しないと、周囲の人々への依存心や馴れ合いが強くなり、周囲の人々が自分に親切にしてくれて当たり前という未熟な自己中心的世界観が構築されていきます。

その結果、社会生活の中で自分の存在の価値が認められなかったり、周囲の人々から批判や反対を受けたりすると、フラストレーション(欲求不満)の重圧に耐えられない“自我の弱さ”から各種の精神障害や環境不適応の問題行動を起こしたりする危険性が出てきます。

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精神分析の発達論や性格論は、難解な概念を使用して組み立てられた複雑な外見をとっていますが、その内容は、幼児期の発達段階において、厳しく禁欲的に育てられすぎてもいけないし、甘く過保護に育てられすぎてもいけないという極めて常識的な人間観に基づいていると言えます。

信頼と愛情に根ざした人間関係(親子関係)の中で、厳格さと寛容さのバランスの取れた養育環境を整えて、適度な水準で子ども時代の快楽や喜びへの欲求を満たしていく事が、精神分析の発達論では重視されます。

現実適応能力のある成熟した自我を作り上げる事で、各種の精神障害を発症する危険性を低下させ、生活環境への適応性を高めて、健康で充実した楽しい人生を過ごす基盤とすることが出来ます。

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反対に、過去のつらい心的外傷や不快な人間関係を思い起こして、そのトラウマの克服や受容を話し合う事には治療的な意義はあまりないとして、“現在の心理状態と生活環境を重視”するロジャーズの来談者中心療法のような立場もあります。

『ロジャースのクライアント中心療法と心理カウンセラーの基本的態度』という過去の記事で述べたように、クライアント中心療法(来談者中心療法)の効果は、『クライアントの主体性と自立性の尊重』を前提とした『共感的理解と無条件の肯定的受容』によって成長・適応・回復へと向かうクライアントの実現傾向を促進するところにあります。

つまり、来談者中心療法は、過去志向の精神分析とは対照的に、現在の主観的な内面心理や価値観の受容を大切にする現在志向の技法であり理論だと言うことができるでしょう。

また、未来への建設的な計画や未来への積極的な決断を重視するような短期療法やゲシュタルト療法などは、“未来志向の心理療法”だと言えますが、全ての心理療法やカウンセリング技法は、程度の差はあれ、最終的には未来における健康・適応・成長を目指すという意味で“未来志向の心理療法や未来の幸福な人生を目指すカウンセリング”と定義することが出来るでしょう。

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現在よりも良好な人間関係、現在よりも健康な心身の状態、現在よりも適応的な家庭生活や社会参加、現在よりも自己実現的な充実した人生へと接近させることにカウンセリングの意義があります。

ここまで、『人生の時間的構造とカウンセリング技法の対応』を考えてきましたが、私たちの“行動・感情・態度・気分”などを環境的条件や環境的要因が規定するという行動科学(行動主義心理学)の立場にたつと、時間的構造よりも自分を取り囲む社会的環境のほうが重要になってきます。

行動主義心理学や学習理論を前提とした心理療法を行う“行動療法”や行動療法から発展的に派生した“認知行動療法”では、『環境から受ける心理的影響』によって『現在の行動・感情・気分・症状』が決定されるとする環境決定論の立場を取ります。

環境決定論者としては、『後天的な環境を整備して、オペラント条件付けの技法などを用いる事で子どもの才能や興味をコントロールできる』と豪語した行動主義心理学者のワトソンやスキナー箱を発明してオペラント条件付けの理論を実証した新行動主義者のスキナーなどがいますが、当然、人間の行動や能力、興味関心の全てを後天的な環境調整や学習行動だけで規定する事はできません。

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人間の精神疾患や不適応な問題行動、ある分野の能力不足などは、後天的な外部環境からの刺激や学習活動による条件付けだけによって発生してきたわけではなく、本人の生得的要因である能力才能・気質性格・興味関心の傾向なども複雑に絡み合っています。

その為、“精神疾患・問題行動・不適応状況・能力不足”などをカウンセリングや心理療法を用いて改善していく為には、外部環境を好ましいものへと調整することと合わせて、本人の内面の心的過程を変容させなければなりません。

クライアントの主観的な心的過程の変容がどのようなものであるかを具体的に考えると、合理的な思考・認知・価値観への変容を促進する認知行動療法的なアプローチや抑圧された感情表出を言語化(意識化)の自由連想で進める洞察的な精神分析療法、鬱積した情動や欲求の解放を進める表現療法(芸術療法)的アプローチなどが考えられます。

元記事の執筆日:2005/04/24

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