精神分析のリビドー発達論と性格形成論:他者との相互的な受容と承認を求める心

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精神分析の精神発達理論は、心のエネルギーの仮想的概念である“リビドー”の発達を用いた発達理論であると同時に、リビドーの固着と退行によって性格類型を説明する理論でもあります。精神分析に限らず心理療法理論を提起する目的は、クライアントの人格や行動をより適切に理解して、心理的問題や精神障害の解決を支援することにあります。

クライアントの抱えている苦しみや悩みを聞いて、その場その場で適当な助言や意見を述べるというのでは、友人や家族と相談する事とカウンセリングを行う事の差異がなくなってしまいます。

カウンセリングの有効性や特異性は、人間関係や心理現象をある程度体系的にあるいは論理的に理解していて、クライアントの問題や苦悩にふさわしい方法を提案できるところにあります。

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クライアントの発言や行動を見聞することによって、問題のある行動パターンや認知の偏りなどを理解することができ、言動の意味や原因を適切な時機をみて分かり易く説明できることが必要になってきます。

過去に各種心理療法や心理学派の基本的な人間観について大雑把な説明をしましたが、今回は精神分析の性的心理的発達理論(リビドー発達論)を基盤にした性格の発達過程を見ていきたいと思います。

精神分析の性格論は、過去の親子関係や人間関係によって性格が変容していくという立場をとっていて、今までの人生でどのような人とどのような関係を持ってきたのかを重視します。

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即ち、精神分析では、過去の様々な相手との人間関係の中でどういった感情や感想を抱いたのか、他者や世界に対してどのような認識を得てきたのかという“後天的な対人関係の推移と感情体験”によって性格や基本的価値観が形成されていくという考え方をします。

リビドーとは、一般的に性的欲動や性的エネルギーと定義されますが、異性とセックスしたいとか性的関係を持ちたいとかいうような直接的な性欲や性的欲望とは異なるものです。リビドーは、生理学的なホメオスタシス(生体恒常性)を維持するエネルギーであり、『生の意欲の源泉』として仮定されている説明的概念です。

リビドーは、快楽を志向する欲求の源泉としての性的エネルギーであり、無意識領域のエスで滾々と湧き出るように生産され、身体の各部で欲求が充足されることでそのエネルギーが消費されます。

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リビドーそのものは、実験的に観察することが不可能な哲学的概念ですが、フロイトの生きていた当時は科学と非科学の境界線が現在ほど厳格ではなかったので、科学的学問を目指したフロイトは熱力学のエネルギー保存の法則からのアナロジーで、精神世界のエネルギーとしてのリビドーを考案したと考えられます。

精神分析の根底にある理想的な人間関係は、『独立した自我を持つ個人を前提として、自己を肯定し、他者を容認できる人間関係』であり、お互いの人格を尊重してそれぞれの存在意義を確認し受容し合う関係でもあります。

まず、私たちがこの世界に誕生して初めて出会う他者は両親(母親,養育者)であり、自他未分離(自分と外部の区別がない)である新生児にとって『自分を保護して世話をしてくれる他者は、自己の一部であり、外部世界そのもの』でもあります。

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その為、新生児や乳児の段階で、他者からしっかりと愛情を注がれて、安心感を与えられる経験を持つ事には、『生の受容や肯定』につながる大きな意味があります。自分が生きていることを素直に受け容れられる生の自己受容の基礎には、自分の誕生を歓迎し祝福してくれた両親(他者)の存在が必要となってきます。

親の産みたいという希望や意志によってこの世界に産まれてきたという肯定感覚は、精神の健康に必要不可欠なものではないですが、親や養育者から『産まれてきた事を歓迎され受け容れられる体験』は無いよりはあったほうが心理的な安定感につながりやすいとは言えるでしょう。

しかし、生きていく過程において他者からの愛情や受容を経験するチャンスは数多くありますので、親や養育者からの愛情や肯定が得られないからすぐに発達的な問題や自己否定的な自己概念が生じるというわけではありません。

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社会生活を通して様々な出会いと交流を繰り返す中で、幼児期の愛情欲求の代理的充足を果たすような『他者から生を受容され肯定される経験』をすることが出来るでしょう。

また、他者との相互的な受容感覚を求め続けていく姿勢は、多かれ少なかれ誰もが持っているものであり、恋愛関係や友人関係、結婚生活、自分の子どもの誕生などを欲求する心理も『生の受容や肯定』を求める心理の具体的な現れとして理解できます。

さて次に、生の受容という前提を踏まえて、フロイトのリビドー発達論(性格の発達段階説)を見ていく事にします。

元記事の執筆日:2005/05/01

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