眼差しと微笑みと言葉による求愛行為:様々な経路で伝わってしまう気持ちと印象

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誘うような魅惑的な瞳、透き通るように綺麗な瞳、情熱的で力強い瞳、攻撃的で恐ろしい瞳、冷淡で感情の感じられない瞳……『目は口ほどにモノを言う』という古来からの諺は、人間をはじめとする高等哺乳類にとって生物学的にも正しい言説である。

“尊敬、親愛、好意、信頼、友情、崇拝、誘惑”といった友好的な好ましい感情を込めた眼差しがある一方で、“敵意、憎悪、悪意、猜疑、侮蔑、揶揄、非難”といった批判的な好ましくない感情を込めた眼差しがあることを私たちは経験的に知っている。

視線の置き場所・相手を見つめる頻度と時間・視線の強度と凝視によって、相手との対人関係の濃度や深さ、関係のあり方を私たちはある程度外部から観察して推測することが出来る。

チンパンジーやニホンザルでは、威嚇の為に目を剥いて牙を剥き出すし、マントヒヒなどは求愛行為の前段階でゆっくりとお互いを見詰め合い、人間と同じような雰囲気で双方の同意を確認するような行動さえ取る。

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高等な類人猿さえなかなか十分に使いこなせない人間固有のお得意の顔の表情がある。それは、友好の意を相手に示すための笑いであり、相手への好意や愛情を無言で伝える柔らかな微笑である。

『唇を閉じた柔らかな笑顔や上の歯を見せるくつろいだ表情の笑顔は喜びや好意を示す。それは、人類にほぼ普遍的な感情表現であり意志表示である』……病理的な精神状態や人格の過度の歪みなどによる残酷性や冷淡さ、反社会性などがない限りは、好意を表現する笑顔を浮かべる相手が自分に向かって危険な行為や攻撃的な態度を取ることはまずないと判断してよい。

反対に、凍りついたような表情でぎごちなく微笑を浮かべたり、歯を食い縛って顔を緊張させながらやっとの思いで浮かべている笑いなどは、親愛・好意・愛情・信頼といった良い感情を表現した笑いでないことは誰もが瞬間的に今までの経験から察知することが出来る。

この種の笑いは俗な表現でいえば、愛想笑い・苦笑い・失笑・憐憫の笑い・冷笑・嘲笑・恐怖の笑い・混乱の笑い・誤魔化しの笑いといったもので、社会心理学やコミュニケーション論では“nervous social smile(神経質な社会的笑い)”というような言い方をされる笑いである。

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こういった神経質で緊張した笑いを浮かべている相手は、『何とか相手を不機嫌にさせず、早くその場から立ち去りたい場合』『社会の儀礼上、表立ってバカには出来ないが相手にそれとなく自分の侮辱や軽視の念を伝えたい場合』『相手の意見に明確に賛同できないが、否定すると後が面倒なので適当に相手に合わせて笑っている場合』といった内面心理の状況にあり、その心理状況を相手に対して暗黙裡に伝達しているのである。

もし、好意を寄せている相手がnervous social smileを浮かべて、帰る時間や明日の予定ばかりを気にしているような状況であるならば、その相手と恋愛関係へと発展するのは難しいだろうなという事を自ら無意識的に察知することが出来る。

まさに、幾種類かある笑いの表情は、非言語的なコミュニケーションの中核を担っていて、相手との交際や付き合いに対して否定的な考えを持っている時には、その場を二人で共有していることを苦痛に感じさせるような態度や表情、重圧感のある沈黙が生まれ、それらが自律神経系や内分泌系を刺激することで違和感や不快感を生じさせるのである。

言葉を用いないノンバーバル・コミュニケーション(非言語的意志疎通)の典型的なパターンは、チャールズ・ダーウィンの『人間と動物の表情』(1872)やポール・エクマンのニューギニア、ボルネオ、ブラジル、日本などを巡ったフィールドワークの研究成果にあるように、国家・地域・民族・文化によって変化することが殆ど無い。

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つまり、表情の豊かさや乏しさ、オーバーリアクションや抑制されたリアクションという些細な差異はあれ、ノンバーバル・コミュニケーションは人類に共通した意志伝達手段であり、“喜び・怒り・驚き・恐怖・威圧・笑い”といった基本的な感情表現は高等な類人猿とも大方共通しているのである。

小さな産まれて間もない赤ちゃんが可愛い笑顔を向けてくると、多くの大人は無条件にその赤ちゃんに対して笑顔を向け優しい表情と言葉を赤ちゃんに注ぎかけて抱き上げるようになる。

生まれたばかりの新生児が、意識して大人の愛情や保護を得る為に笑いかけてくるわけではないのだが、先天的な遺伝要因によって赤ちゃんは可愛く微笑するのである。そして、結果として、無力で無垢な赤ちゃんの微笑は、親をはじめとする大人達の愛情、援助、保護を巧みにひきだし、自らの生存維持に笑顔は大きな貢献をすることになる。

いずれにしても、大部分の人間は、明るく輝くような笑顔の持ち主に対して攻撃的に残酷な振る舞いをすることが往々にして出来ないようになっていて、柔らかく温かい笑顔はそれだけで協力や好意を引き出す十分な対人魅力となり、円滑な人間関係を労せずして引き出す財産として機能するようになる。

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反対に、いつも不機嫌でイライラした雰囲気を漂わせ、周囲の人間に掴みかかるような威圧感や緊張感を持っている人は、相手を圧倒的な威圧感で屈服させたり、理不尽な恐怖によって短期的に支配することは出来るかもしれないが、本心から自分を愛して信頼してくれる異性や、自発的に自分に協力して援助してくれる仲間と出会う事が非常に難しくなる。

アメリカの異性関係の成立を巡る社会心理学の研究として行われた“バーやラウンジで見知らぬ異性と知り合う際の社会的行動”の実験も面白い結果を示唆している。

不特定多数の人々が混在するバーやパーティなどでの求愛行動と異性関係の成立(デヴィッド・ギブンズ&ティモシー・パーパー)

1.【非言語的な探索的コミュニケーション】

いきなり、直接的な言語的アプローチで異性を口説きに入るのはマイノリティで、マジョリティは沈黙したまま視線や態度で異性に非言語的コミュニケーションを試みる事となる。まず、自分の容貌・能力・趣味嗜好・知性・娯楽などが通用しそうな異性を無意識的にサーチするところから始まるのである。

2.【注意と関心を誘発する身体動作や振る舞い】

『肩や首を軽く動かす・身体の動作を大きく大袈裟にする・椅子に座った足を組み替える・つまらない事でも大きめの笑い声を上げる・髪のセットを手櫛で直す・化粧を鏡で確認する・洋服をきちんと直す・宝飾品を光にかざしてみる・高級ブランド品をさり気無く目につく場所に置く』……様々なオーバーアクションや少し大袈裟な行動や運動によって、自分が他者とは異なる魅力ある異性であることをノンバーバルな手段でそれとなく伝達する試みをし、相手の注意や関心を何とか引き付け会話のとっかかりを掴もうとする。

3.【ジェンダーによる特徴的な自己表現】

日本とアメリカの文化差と夜の社交場という実験状況の限定性を考慮する必要はあるが、男性は身体的魅力や経済的潜在力、遊び慣れた雰囲気をそれとなく示唆するような振る舞いや態度を取って女性の興味関心を誘発しようとする行動が多く見られる。

一方、女性は美的魅力や性的魅力、純真で慎ましい雰囲気をそれとなく示唆するような振る舞いや態度を取って男性の興味関心を誘発しようとする行動が多く見られる。

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4.【行動や態度から垣間見る会話意志の有無の判断】

相手の注意や関心を適切に引き付け、視線が交錯した時から具体的な対話や会話の状況が展開されるが、相手が瞬間的に自分に視線を向けても、すぐにそっぽを向いたり、視線を落として違う事柄に気をそらした場合には相手と話をしたい欲求があまりないことを示している。

現代日本の状況に置き換えるならば、相手との会話に没頭することを意図的に回避するように携帯電話を触りだしたり、女性同士の間でしか成立しない内容の会話に入り出したりする場合には、その相手に対する積極的な対話意志が乏しいことを示している。

5.【言葉の調子や抑揚によって示される好意的感情】

好意を持っている相手との言語的な会話やコミュニケーションの特徴は、『やや高めの抑揚・優しく甘い語調・共感と同意を示す頻繁な笑い・自然に見詰め合う視線』などが上げられ、相手の事をもっと深く知りたいという意欲をお互いにもって居心地の良い空間がその場につくられ、他者がその間に介在することが難しい排他性をつくりだすことになる。

6.【ラングよりも直感的で即効性のあるパロールのコミュニケーション】

異性とのパロール(音声)を用いた言語的コミュニケーションは、ラング(文字)を用いるコミュニケーションよりも通常敏感で両極的な相手の反応を引き出すものである。

まず、多くの異性は、ファースト・コンタクトにおける会話状況の充実度や楽しさの程度で、相手と自分とのおおまかな相性や親和性を計測する。何故、音声(パロール)によるコミュニケーションが、好かれるか嫌われるのかという諸刃の鋭利な剣になりやすいのか?

それは、相手としゃべる際の音声の強弱が基本的気質を反映しやすく、音声の抑揚が性格の気分易変性や感情抑制性を示しやすいからである。

また、相手の性格や趣味を正面から否定するような形で話題の選択を誤れば、それだけで初対面の二人の関係を破綻させるに十分な破壊力を持つに至ることがある。 例えば、高尚な教養趣味があり、低俗な話題や猥褻な会話に嫌悪感を感じる相手にその話題を振ってしまえばその瞬間に恋愛に発展する可能性は閉ざされる可能性がある。反対に、インテリぶった気取った知的対話に嫌味や抵抗感を感じる相手に、延々と自分の専門領域の講義のような話をすればその瞬間に自分とは合わない相手だとして拒絶的な態度を取られる恐れがある。

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更に重要な要素として、過去の経験談の内容や言葉遣いの問題もある。優秀な学歴や華やかな経歴、高い収入などばかりを自分の魅力をアピールする意図をもって話し続ければ、そういったプラグマティック(実利的)な特徴に大きな魅力を感じる異性をおおいに惹きつけるが、自尊心を剥き出しにした自慢に辟易する異性には嫌われる可能性もある。

多くの人が経験していないような犯罪すれすれの無茶な行動や奔放な性体験をした事を武勇伝のように自信満々で語ったり、自分の強さをアピールする為に粗雑で荒々しい言葉遣いをすることは、思いっきり相手を魅惑するか、反対に徹底的に相手から拒絶されるか両極端な反応を引き出すことになりやすい。

“正当な社会的評価・業績”やそれと反対のベクトルである“危険な反社会的な行動・無謀な勇気”などを過度に露出してひけらかす事は知り合って間もない段階では抑制するほうが往々にして良い印象を与えることにつながるだろう。

7.【文化規範に基づいた身体接触の段階】

上記の“6”までの異性関係の段階を順調に乗り越えてきた二人は、お互いの性格や趣味、興味、人生、過去、価値観をより深くより的確に知りたいと願うようになり、自発的に集中して熱心に相手の話に耳を傾けるようになる。

親密な肉体関係のない関係がどの程度持続するかを事前に予測することは出来ないし、恋人となる口約束や制約を交わしたとしてもそれがどのくらいの期間継続するものなのかは(一定の生物学的根拠に基づく目安がつけられるとする動物行動学者や生物学者はいるが)誰にも分からない。

この相互尊重や相互理解の意志が高まる段階まで関係が発展してくれば、後は身体接触へと上手く展開させることで恋愛関係の成立を迎えることとなる。

この身体接触を、男性がリードするのか、女性がリードするのか、どのくらいの回数のデートや出会いを重ねればより深い身体接触に発展させてよいのか、何処でどんな風な触れ方をお互いにするのかは、二人の恋人が帰属する恋愛・性愛の文化規範や社会通念などに大きく依存することとなる。

身体接触の有無に関わらず、二人の異性は一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、相手に対する好意や愛情が成熟してくればくるほど、『相手の身体運動に対する同調行為』の頻度が増えてくる。

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最後に、クレラン・フォードやフランク・ビーチなどの文化人類学的な性行動の調査によれば、世界の大半の文化圏において、積極的に性的関係を主導するのは女性が多いが、そのイニシアティブはある段階において男性へと移行する場合が多いということである。

しかし、実際には調査方法の客観性や妥当性の問題もあるので、男性と女性のどちらが性的関係のイニシアティブを取るかは、男性同士、女性同士の個人差よりも重大な問題ではない。

真に重要な恋愛関係の進展の要素とは、相手が伝えようとしているメッセージや合図(サイン)を適切に受け取って理解し、相手が望んでいる返答や言葉をタイミングよく返すことである。

そして、その言葉や行動の根底に相手に対する尊重や愛情があれば、あなたの伝える言葉がどんなに拙くても、あなたの会話内容がどんなに未熟なものであっても、さほど心配することはない。

いったん、ある水準以上の愛情や信頼で結ばれた相手と良好で円滑な恋愛関係を維持している時には、ロマンティックに洗練された美しい言葉や完成された精緻な言語表現は必要なく、ただありのままの感情や欲求を素直に優しく言葉にするだけで十分に相手にその真意が伝わるのである。

元記事の執筆日:2005/06/03

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