催眠の応用としての前世療法やインナーチャイルド・ワークとリアリティの問題

スポンサーリンク

人間の豊かな心理世界を悠然と浮遊するイメージ療法の実際(別記事)

旧ブログの記事一覧

催眠の応用としての前世療法やインナーチャイルド・ワークとリアリティの問題

催眠のトリックを暴けば、暗示的な言葉を素直に受け容れ易くなっている状態を、治療目的で意図的に作り上げることなのですから、『暗示的な言葉に従いたくないという抵抗』を打ち崩して催眠の効果を発揮することは出来ないのです。故に、臨床心理学や心理療法の観点から見た催眠には、相手の意志や考えに反する行動を無理矢理取らせる力はありません。

元々、意識の清明度が下がっていたり、解離性障害を発症していたりする病理的状態にある相手に対してならば、多少、操作的暗示を強引に行えることはあるかもしれませんが、健常なパーソナリティの相手を催眠によって操作することは一般的に考えて不可能であると考えて良いでしょう。

医学的・生理学的な意識レベル(意識の清明度)には、以下のようなものがあります。

■意識レベルについて

意識には、自己の覚醒水準という意味での意識、自己の思考・感情・行動を認識する意識、周囲の環境や他者を認識する意識があります。

意識は、常に『~に対する意識』という志向性を持つと同時に、どれくらい明瞭にはっきりと意識が覚醒しているのかという清明度を持っています。

意識水準が低下する原因としては、解離性障害や離人症のような精神疾患の他に、外傷・薬物乱用・薬物依存によるものがあり、酸素不足、低血糖状態、虚血状態といった生理学的変化によって意識水準が低下します。

楽天AD

■GCS(Glasgow Coma Scale)

GCSは、開眼、言語反応、運動反応といった意識の覚醒水準を示す3徴候を用いて、意識レベルを数量化して表したものです。点数が低いものほど、意識レベルが低く意識障害の状態が重症であることを示します。

15点満点(正常)で、最低点は3点であり、その場合は『深昏睡』という状態になります。一般的に、“8点以下”を重症の意識障害として判断するようになっています。

開眼(eye opening)

自発的に開眼する:4点

呼びかけで開眼する:3点

痛み刺激を与えると開眼する:2点

開眼しない:1点

スポンサーリンク

最良言語反応(best verbal response)

見当識(現実検討能力と知的機能)の保たれた会話:5点

会話に混乱がある:4点

混乱した単語のみ:3点

理解不能の音声のみ:2点

なし:1点

最良運動反応(best motor response)

命令に従う:6点

合目的な運動をする:5点

逃避反応としての運動:4点

異常な屈曲反応:3点

伸展反応:2点

全く動かない:1点

楽天AD

■JCS(Japan Coma Scale:3-3-9度方式)

意識レベルを3つのグレード、3つの段階で分類して、数値が大きくなるほど重度の意識障害である事を示します。

R:Restlessness(不穏状態)

I:Icotinence(糞尿失禁)

A:Akinetic mutism(自発性喪失)

意識レベルⅢ:刺激しても覚醒しない

300:痛覚刺激による反応が全く無く、全く動かない

200:痛覚刺激によって、手足を少し動かしたり顔をしかめたりする(除脳硬直を含む)

100:痛覚刺激を回避しようとして、はらいのける動作をする

意識レベルⅡ:刺激すると覚醒する

30:痛み刺激で辛うじて開眼する

20:大きな声、または体をゆさぶることにより開眼する

10:呼びかけで容易に開眼する

スポンサーリンク

意識レベルⅠ:覚醒している

3:名前、生年月日がいえない。

2:見当識障害(時間・場所・人)がある。

1:だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりせずぼんやりとしている。

時に、悪意をもった新興宗教や自己啓発セミナーなどで、催眠の手法を悪用しているグループがあるという話を聞きますが、私の個人的意見ではこういった精神を支配したり操作したりする催眠は、臨床応用される催眠ではありません。

精神的支配を目的とする催眠的技法は、集団力学や集団ヒステリーの心理現象を巧みに利用するだけでなく、向精神作用のある触法薬物(LSDなど)を衝撃的な音響・映像と同時に用いる事によって恐怖や不安をかきたて行動の条件付けなどを行っているケースが多く見られます。

こうなると、催眠技法というよりもある種の犯罪的な洗脳であると考えられますので、催眠とは異なるカテゴリーで考えるべきでしょう。

楽天AD

また、先ほど述べたように、健常な批判力のあるパーソナリティの持ち主であれば、意志や感情に反する行動を取ることはまずないのですが、個人の自由を尊重しない類の新興宗教に入信する方の中にははじめから『人生の主体性・自発性・能動性』を放棄して、カリスマ的な人物に自分の人生の選択や判断を全て委ねることで絶対的な安心や保護を得たいと考えている人もいます。

その場合には、自分が相手(教祖・指導者)の思想や理想に服従したいと希望しているのですから、通常の催眠技法を適用した会話を繰り返すだけで簡単に相手の行動や考えを操作することが可能になるかもしれません。

世間一般によくある誤解として、『催眠にかければどんな無茶な要求でも従わせることが出来る』『催眠によって自分の思い通りに他人を操作できる』というような間違った催眠理解がありますが、通常の手続きで行う催眠療法には『リラクセーションの過程と相手の自発的な協力意志』が必要なため、相手の意志や価値観に反する行動を即座にとらせるような超越的な力はありません。

催眠は、自発的な意識水準の低下を促進して、“治療・癒し・能力開発・記憶の想起・感情の洞察”などの目的を達成しようとする理論・技法ですので、自分の目的に適合した言語的暗示を受け容れたいと願っているクライアントに対してでなければ、速やかに深い催眠に導入するのは難しいのです。

前世療法の催眠にしても、超能力のような力で遡ったり、予言したりしているわけではないことに留意が必要でしょう。飽くまで、それらは、人間の大脳の特異的な機能である創造的な思考や想像能力、未来の計画能力によって生み出されるイメージであり、意識水準を低下させたトランス状態によって明らかになってくる“無意識的願望の変形・置換・象徴”であると考えるべきです。

極端に意識レベルが下がった催眠状態で浮かび上がってくるイメージや物語の解釈は、無意識の内容を象徴的に指示する“夢の仕事や夢の分析”に類似したものになってくると推測されます。

スポンサーリンク

緩やかなリラックス状態で行われる自由連想法によって想起される過去の記憶や心的外傷(トラウマ)としての性的虐待、劣悪な親子関係などは心理的な現実(心的現実)ではあるが、必ずしも客観的な事実(外的現実)ではないということは、フロイトの精神分析の時代から明らかにされていることです。

フロイトも初めは、自由連想法でクライアントが語りかけてくる過去の心的外傷体験や親との性的葛藤を客観的な事実だと思っていましたが、その後に、クライアントの語る連想内容や過去の記憶や思い出の全てが実際に起こった出来事としての外的現実ではないことに気付きました。

人間の自分自身の過去にまつわる記憶、特に激しい情緒や葛藤を伴う過去の記憶は、絶えず歪曲・抑圧・投射・捏造といった自我防衛的な機制による精神作用を受ける可能性があるのです。

子ども時代の意識に遡ってトラウマなどを再体験できるという催眠なら何とか信じられても、自分が誕生する以前の時代へと舞い戻って自分の前世を退行催眠で体験できるという催眠は信じられないという人でも、“精神分析の心的現実と外的現実の区別”を理解すれば、それらがクライアントの“主観的な精神世界における現実性=心的現実性”であることが分かる事と思います。

そして、無限の壮大な版図を持つ心的現実性・心的関係性をより深くより豊かに味わうことで、心身のリラックスを促進し、不快な症状や感情を鎮静して、外的現実性への適応を高めることが催眠療法やイメージ療法の本質であるという事が言えます。

楽天AD

以下は、次の別記事になります。

人間の豊かな心理世界を悠然と浮遊するイメージ療法の実際

過去の記事で、意識水準の低下と言語的暗示による催眠療法の概略について説明しましたので、今回は自発的にイメージを浮かべて主体性を失わずに実践するイメージ療法の概観について述べてみたいと思います。

イメージとは、心の内面に浮かび上がってくる視覚化された映像・光景・現象・事物のことですが、イメージを浮かべるのに慣れていない時には、なかなかイメージを視覚化できず、感覚で感じることが難しかったりします。

その時には、無理矢理に力づくでイメージを思い浮かべようとしても上手くいきません。目を閉じて気持ちを鎮め、自分が簡単に想像できる風景を思い浮かべる為に、心の中で『海の風景が浮かんでくる・草原の景色が広がってくる・山の情景が見えてくる』といった言葉を軽く囁く感じで自然にイメージが生起するのを待ちます。

スポンサーリンク

イメージの鮮明さや明瞭さを意識し過ぎたり、イメージが浮かび上がった時の情緒性、感動性にとらわれ過ぎると、『イメージの範囲の恣意的な縮小』が起こり、イメージであるものをイメージでないと間違って判断する恐れが出てきます。

ただ単純に記憶を思い出しているだけで鮮明な映像になっていないイメージやまだ視覚化されていない曖昧な想像をしているだけでも、イメージ療法の最初の一歩を踏み出したといえますので、殊更に映像や情景としてだけイメージを見ようとすべきではないのです。

イメージ療法の初期においては、頭の中にふと飛来してくる小さな記憶やイメージを大切にして、その微妙で曖昧な感覚を味わい、ぼんやりとして消えそうな映像をゆったりした気持ちで観察することが重要です。

そういった“イメージと非イメージの中間のような感覚・情緒”を味わい、何とかイメージを見出そうとする観察姿勢を維持し続けていると、次第にイメージが生き生きとしてきて、鮮明な視覚化を起こしてきます。また、鮮明でなくても、心の中で微妙な感覚の変化や何とも表現し難い感情の生起が起こってくるだけでも、十分なイメージ療法としての効果を期待することが出来ます。

楽天AD

一番簡単なイメージの想起方法は、前述したように『自分で決めた場面・景色』を想像して視覚化することです。その場合には、浮かび上がってきた景色の全体的な雰囲気や情景を眺めるだけでなく、部分的な状況や様子も詳細に観察してみようという興味を持って眺めてみてください。

イメージの世界に耽溺しているときには、外界の時間感覚が失われることが多いのですが、一回のイメージの時間は10分~20分程度を目安にするといいでしょう。あまり長時間のイメージ想起に熱中し過ぎることは、現実世界や実際の人間関係からの逃避といった意味合いが出てきて、白昼夢や幻想への没頭になりやすいのであまりお勧めできません。

また、イメージ療法で意識水準を低下させた後に、現実の意識水準へと覚醒する時には、手足を動かし伸びをするなどの消去動作を行い、気分や意識がすっきり目覚めてから行動し始めるようにして下さい。滅多に起こりませんが、催眠やイメージ療法から覚めてすぐに動き始めることで、めまい、吐き気、頭痛、胃部不快感などの副作用を感じる方もいますので、終わった後、5分程度は体を動かしたりして十分に覚醒状態に慣らしたほうが良いでしょう。

その場面や景色から感じ取ることの出来る典型的な情報としては、『天気・気候・生物の有無と種類・感情の生起と変化・知り合いの有無・過去の記憶との関連』などがありますが、イメージの中の場面に自分を直接的に参加させてそういった情報を得る努力をしてみると色々な感覚や情緒が押し寄せてきたりします。

『イメージされた景色の客観的な様子を眺めること』『イメージされた景色の中に自分が入り込んで気分・感情の変化を味わうこと』を同時に行うことによって、自分の精神世界の深奥に秘められた感情や記憶について様々なことが体感的に了解できるようになり、それが自己理解の深化と心理的改善効果につながるのです。

スポンサーリンク

イメージをある程度味わって、10分程度時間が経過したところで、イメージを思い浮かべる意識状態を終えますが、その時には心の中で少しずつイメージから遠ざかり、段階的にイメージの情景や場面を消去するようにします。

心の中で、イメージへの興味や意欲を少しずつ弱めながら『イメージが終了する』とゆっくりと囁き、『意識がはっきりしてくる』と考えながら目を開くようにすると穏やかなすっきりした気分で目覚められることが多いです。

一回目のイメージは、自分の好きな場面・情景・人物などを選択して、それを思い浮かべるようにしましたが、これは『指示的イメージ療法』になります。イメージ想起に習熟してくると、何も考えずにいると、無意識領域から自然と浮かび上がってくるイメージが自発的に展開していく様子を、豊かな感情・気分の変化と一緒に眺めることが可能になってきます。

イメージ療法の究極的な目的というか本質的な機能は、『無意識領域への接近・無意識内容の体験・無意識に抑圧されたイメージとの対話』にありますから、本格的にイメージ療法を行える段階に達した場合には、無念無想で何も考えずにスゥッと自然に飛来してくるイメージを見つめて味わい体験するといった方法を取るようになっていきます。

意識的に何かをイメージするわけではなく、無の心境でただ自分の精神と向き合うようなイメージ療法になると、特定の症状や悩みに対処する心理療法といった趣きを離れて、自己の精神内容や世界の真理と向き合うような瞑想的な雰囲気を帯びてくることもありますが、そこまでいくと心理学的援助ではなくなってしまうかもしれませんね。

二回目以降に思い浮かべるイメージ療法の技法としては以下のようなものがあります。

楽天AD

1.連続的イメージ技法

自由な気持ちで自然なイメージを浮かべることが難しい場合に用いる方法で、前回の終わりのイメージ内容を思い浮かべてから、その続きがどのように展開するのかを見ていこうとする技法である。

微細な状況まで細かく前回のイメージを再現する必要はなく、大雑把な場面と状況をイメージの中で再現して、そのイメージ内容の根底にある主題や意義を深めていくような感じで眺めてみるとよい。

前回のイメージと比較して、どのような部分や状況が変化して、どのような部分が変化しないのかを観察し、その時の自分の気持ちや感情の動きにも意識を向けてみるようにする。

すると、そのイメージの本質である無意識的な意味や情動の内容を洞察して、知的に理解できるだけでなく体感的に情的に了解できることがある。

前回のイメージが非常に苦痛なものだったり、思い出すだけで気分が悪くなるようなものだったりする場合には、自我の防衛機制が働いてそのイメージを思い出すことが困難なこともあるが、そのような場合には無理にそのイメージを想起しようとしないほうが良い。

視覚的なイメージは生々しすぎて受け容れられない場合でも、カウンセリングのように言語で表現して信頼できる相手に聞いてもらうことで、無意識的な葛藤や過去の外傷が緩和されることがあるが、問題が深刻で苦痛が大きな場合には、焦らずに十分に心理的な準備を整えてから直面したほうが良い。

スポンサーリンク

2.自由イメージ技法

自分で意識して何かを思い出したり、努力して決められたイメージを浮かび上がらせるのではなく、リラックスした心理状態で、自由に浮かび上がってくるイメージを自然体で眺める技法で、ユングの夢分析やアクティブ・イマジネーションの技法にも通底するイメージ療法である。

自由イメージ技法は、自動的にイメージが生起し変化していく受動的な技法だが、連続的イメージ技法のように前回のイメージ内容に制限されないし、指示的イメージ技法のように初めから決められたイメージだけしか思い浮かべられないという限界もないところに長所である柔軟性と拡張性がある。

3.指示的イメージ技法

指示された特定のイメージ内容やイメージ場面を思い浮かべて、そのイメージによって生起する感情や揺れ動く情緒を体験し、場面の展開を興味をもって観察しようとする技法である。

イメージの自由な発想や意外性のある展開などは余り期待できないが、いったん、ある場面を思い浮かべることを決めれば、そのイメージを浮かべることだけに集中できるので、他の技法よりもイメージ想起に伴う時間や面倒は少ないと言える。

自分の抱えている苦悩や葛藤の原因が明らかである場合や過去のどの時点に自分の苦しみや症状の原因があるのかを予測できる場合などは、場面や記憶を特定してイメージを浮かべる指示的イメージ技法が非常に有効なものとなる。

自己理解の促進や精神の豊かさを味わうというよりも、イメージ療法を行う目的が特定されている人に向いている。また、スポーツ選手の精神状態を調整して、潜在能力を発揮できる高いレベルに導くためのメンタル・トレーニングや様々な課題に臨む際の緊張や不安を和らげるイメージ・トレーニングなどにも利用される。

失敗を極端に恐れている人に対して心の中で成功場面を思い浮かべて精神的なリハーサルを行うメンタル・リハーサルなども指示的イメージ技法を応用したものである。

楽天AD

4.自己イメージ技法

精神内界に自分の身体や表情などのイメージを浮かび上がらせて、問題のある行動傾向の変容や衝動性や不安定さのある感情表現の調整などを行おうとするものである。

イメージの中の自分の姿は、イメージを浮かべている時の自分の心理状態や感情の変化、気分の高低の影響を大きく受けるので、その時々の気分や感情によって浮かんでくるイメージの見え方は大きく異なってくる事となる。

自分を心の中で『観察される客体としてのイメージ』で思い浮かべることで、主観的な認識や思い込みから離れ、客観的に自分の姿や特徴を眺めて観察し、長所と問題点を発見して、良い部分を伸ばし、悪い側面を改めていこうとする技法ともいえる。

どのような人間にも、肯定的な良い特徴(陽気・美しい・強い・賢い・優しいなど)と否定的な悪い特徴(陰気・醜い・弱い・愚か・意地悪など)を持っていて、その特徴は置かれている環境や状況によっても変わってくるものなので、自分の意識の立場から一歩離れて自分を客観的に見つめなおすことで、今まで見えなかった様々な性格特性や行動の特徴が見えてくるようになるのである。

5.身体感覚イメージ技法

強烈な感情や激しい情動として意識されるほどの強さのない些細な感情や情緒の変化は、微妙な違和感や僅かな不快感のある身体感覚として感じられることがあるが、身体感覚イメージ技法とは、イメージを思い浮かべている時のそのような微細な感覚に注意を向けて味わおうとする技法である。

身体感覚を空間化させて、自分の意識や影響力がどの領域にまで及んでくるのかをイメージ的に体験する技法に、自己空間イメージ技法というものもある。

この技法を用いてイメージを漂わせてみると、自分の気分が上向いている時には空間化されたイメージが拡大し、自分の気分が抑うつ的な時には空間化されたイメージが縮小することを実感することが出来るだろう。

元記事の執筆日:2005/06/24

スポンサーリンク
関連するコンテンツ
Copyright(C) 2022- Es Discovery All Rights Reserved