私たちの健康に悪影響を与えるストレスの種類と強度について、インナーチャイルド・ワークの催眠状況における擬似的な親子関係の再演

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インナーチャイルド・ワークの催眠状況における擬似的な親子関係の再演(別記事)

『大人の体罰による躾の問題』と『子どもの暴力・衝動性の問題』(別記事)

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私たちの健康に悪影響を与えるストレスの種類と強度について

ストレッサーとは、人間の身体や精神に影響を与える外部環境からの刺激であり、大切な相手の喪失や生活環境の急変、人間関係の対立などストレスの原因を意味します。代表的なストレッサーの種類には、温熱、寒冷、痛覚、圧力、光、騒音といった“物理的ストレス”、薬剤、有害化学物質、環境ホルモン、化学合成物といった“化学的ストレッサー”、細菌、ウイルス、カビなどの“生物学的ストレッサー”、人間関係の葛藤や社会的行動に伴う責任や重圧、将来に対する不安、大切な人の喪失体験、経済的困窮などの“精神的ストレッサー”があります。

ストレスとは、ストレッサーの刺激を受けた結果として引き起こされる非特異的な心身の変化であり反応ですから、外部環境(社会生活・家庭生活・学校生活・人間関係)から何らかの刺激を受けなければならない人間がストレスから完全に自由になることは出来ません。 また、適度な強さと持続時間のストレスを絶えず受けることで、私たちは現実認識や感覚機能の正常性を維持していることが特殊な機械を利用した“感覚遮断実験(sensory deprivation experiment)”からわかっています。

その為、全てのストレスを排除した世界では、私たちの精神は現実世界を正確に知覚したり認識することが出来なくなります。あらゆるストレスを感じないように外部刺激から遮断された環境では、現実感覚が曖昧となって、聞こえないはずの声が聴こえてくる幻聴や実際には見えないはずの光や物体が見える幻覚(幻視)などの症状が出てきます。人によっては誰かに監視されているとか生命を狙われているといった妄想と共に抑えがたい恐怖が湧き上がってくることもあります。

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人工的に準備した感覚遮断の状況下に長時間、人間を曝露した実験としてはヘロン(Heron W,1952)が行った感覚遮断実験が有名です。遮音設計の部屋の中で、被験者にゴーグルをかけて視覚を奪い、手足にも円筒形のカバーをつけて触覚を奪い、室内の温度も体温と同程度に設定すると、ほぼ全ての被験者は何らかの感覚機能鈍麻・知覚機能異常といった症状を呈して緊張・不安・恐怖といった病的な心理状態への変化が見られます。

その精神症状が進行すると、さきほど書いた幻覚や妄想といった精神病に類似した現実吟味能力の障害が見られるようになり、論理的思考能力や計算能力を主体とする知能指数も一時的に低下して、時間感覚や方向感覚の異常といった現象も起きてきます。

但し、そういった精神病症状に似た現実認識能力の著しい低下や幻覚症状が現れるのは、相当に長い時間、感覚を遮断され続けた場合です。ですから、ごく短時間(1時間程度)の感覚遮断をアイソレーション・タンクなどの実験装置を用いて行うことには、意識や筋肉のリラクゼーションやストレス解消といった好ましい効果も期待できます。

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アイソレーション・タンクとは、外部からの光・音・触覚・匂いなどを極力排除するために作られた装置で、フタの着いた水槽のような形状をもったタンク型の装置のことです。アイソレーション装置の中に、服を脱いで全裸で入り内部に満たされた浮力の高い水の中でぽっかりと浮かんで漂っていることによって、簡単に感覚遮断の状況を体験することが出来るようになっています。

アイソレーション・タンクの短時間の利用であれば、精神的なリラクゼーションや身体疲労の回復効果が実感できたり、気分のリフレッシュ効果や集中力・意欲の増進などの心理効果が期待できます。また、周辺環境からの刺激による雑念を取り払うという意味での擬似的な瞑想法あるいは内観法として使用することもでき、心理的な弛緩と集中の混合した変性意識状態や無意識領域への接近を比較的容易に引き起こすことが出来ます。

ストレッサーの強度によって、ストレスの状態は変化するのですが、一般にストレッサーの強度がそれほど強くなければ『適度な緊張や覚醒』を生み出し、『注意や興味を惹きつける刺激』となって『意欲や活力の増進』につながる良い影響もあります。問題は、ストレッサーの性質が有害であって、その強度が過度に強く、その継続時間が長い場合に起こってくる苦痛な緊張や不快な不安を伴う心理反応(感情体験)です。

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その緊張や不安が高まりすぎると、不安障害や気分障害(うつ病)をはじめとする種々の苦痛な自律神経失調症を基盤に持つ精神疾患を発症することとなります。精神的ストレスが介在しない精神障害や心理的問題は存在しませんから、過度なストレスを受け続けることは、摂食障害、家庭内暴力、児童虐待、ギャンブルや薬物に対する依存症、自傷行為といった心理的な障害発症のリスク・ファクター(危険因子)ということが出来ます。

精神障害によって自分自身が苦しみ悶えるだけでなく、情動の不安定や攻撃性の亢進によって他人に迷惑をかけたり、生活環境への不適応によって日常生活を送ることが困難になって社会的経済的な問題が起こってくることもありますから、私たちは絶えず生活環境や対人関係から受ける有害な性質を持つストレスに効果的に対処して健康な心理状態を維持していく必要があります。

人間の身体にはストレスに対抗するための先天的なメカニズムとして、汎適応症候群(GAS)と呼ばれる内分泌や神経活動による全身反応が備わっていますが、それは、物理的ストレスや外敵に対する対処療法的な短期間の防衛反応なので、認知過程と社会活動などが深く関与する精神的ストレスには余り役に立ちません。

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(汎適応症候群:脳の視床下部と副腎皮質などの内分泌腺のホルモン分泌や自律神経系の神経伝達活動によって誰にでも起こる一般的な反応で、これによって生物はホメオスタシスを維持し、ストレス刺激に耐えています)。ストレスによる心身への有害な悪影響をどのようにして緩和して対応すれば良いのかというストレス・コーピングについては、また機会を改めて述べてみたいと思います。ここでは、まず『私たちに不快な緊張や不安を与えるストレス事態にはどんなものがあるのか?そのストレス事態の一般的な悪影響の強度はどれくらいなのか?』という事について説明しようと思います。

孫子の兵法のように『敵を知り己を知れば百戦危うからず』とまではいきませんが、どのような生活状況や対人関係が私たちを悩ませる精神的ストレスとなるのかを理解しておくことは私たちの精神衛生の維持のために必要なことです。また、どのようなライフイベントや社会活動が私たちに憂鬱や落胆、怒り、悲哀といった不適応な心理反応をもたらすのかを知っていれば、事前にそのストレスに備えて様々な心理的対処や物理的解決の準備をして、心身の自己管理を進めることができます。

ストレスと精神疾患の関係、ストレスと不適応の関連を調査した研究には、アメリカの心理学者ホームズとレイの研究があり、その研究成果は『ホームズ(レイ)の社会適応尺度表』としてまとめられている。

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ホームズとレイの社会適応尺度

ライフ・イベントや生活行動や出来事に付けられている点数が大きいほど、一般的に、人間は不快で有害なストレスの影響を受けている。

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日本とアメリカの文化的特性や社会慣習、経済構造を考慮する必要があるため、この社会適応尺度を完全にそのまま日本人に適用することは難しいですが、そのストレス状況の内容そのものは誰にでも多かれ少なかれ有害な精神的ストレスとなるものです。

過去一年間に自分に起きた出来事を振り返って、その点数の合計得点が300点以上ならば約80%の確率でその年あるいは翌年に比較的重症の精神症状が出たり、生活環境への不適応の問題が起こったりするとホームズは予期しています。

同様に、200~299点で50%の確率で心理的問題が起き、150~199点で37%の確率で心理的問題が起きるという予測が立てられているので、上記されたストレス状況がここ1年の間に立てつづけに起こっている場合などには、適切なストレス・コーピングを行ったり、信頼できる相手との親密なふれあいや気分をリフレッシュする趣味や活動などを通してストレスの悪影響を緩和すると良いでしょう。

■参考文献

生理学的な根拠を持つストレスとその反応としての適応症候群の概念を提示したハンス・セリエの邦訳書を紹介しておきます。かなり専門的な内容で、心理学領野を超えた医学・生理学に関する研究成果や考察も数多く含まれた専門書ですから、心理臨床に携わる方だけでなく、精神科医や心療内科医などの医師の方にもお薦めできる書籍です。

ストレッサーが生み出す生理学的な影響とそれが持続した結果としての身体疾患や精神障害について興味がある方で、知的好奇心が旺盛な方は一度、目を通して見られると良いと思います。 身体と精神の相互的な関係というのは実に巧妙な適応的なものであると同時に、実に厄介なものであるという思いを深くしました。

人間の心理的問題を解明し克服していくためには、私たちは精神世界を内省するだけでなく身体的メカニズムについても十分に知らなければならないのです。 現代社会とストレス

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以下は、次の別記事になります。

インナーチャイルド・ワークの催眠状況における擬似的な親子関係の再演

過去に『催眠の応用としての前世療法とインナーチャイルド・ワーク』という催眠に関する記事を書いたが、子ども時代の親子関係にまつわる情動や記憶を再体験することで治療的効果を得るインナーチャイルド・ワークに典型的に見られるのは『子どもとしての役割を心理的に引き受ける』ことである。

インナーチャイルド・ワークは、権威的な精神分析家との間で転移感情(過去の重要な人物に向けていた感情体験を分析家に向けること)を分析して、過去の親子関係にまつわる情緒的葛藤を意識化する作業に非常に似ている。ただ、精神分析の場合は、主に自由連想法によって意識水準を低下させ、過去の心的外傷(トラウマ)体験や家族歴の記憶を思い出させるのに対して、インナーチャイルド・ワークは催眠療法の技法を用いることによって、更に意識の清明度を低下させ、過去の心的外傷や親子関係を『今ここにあるリアルな親子関係や心的外傷の克服体験として再体験させる』という違いがある。

一般的な催眠でも、催眠を成功させるためには権威的な色彩を持つ信頼関係(ラポール)をカウンセラーとの間に成立させる必要があるが、インナーチャイルド・ワークの場合には親子関係の重ね合わせの色彩を持つ信頼関係をカウンセラーとの間に成立させる必要があるといえるだろう。

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つまり、催眠導入を伴うインナーチャイルド・ワークのように、『現在の大人である自分』を離れて『過去の幼少期の自分』の親子関係や外傷体験を今ここにある現実として再体験する場合には、擬似的な親子関係が一時的に面接場面で構成される。

カウンセラーが『外傷を癒す親としての役割』を担い、『クライアントが外傷を癒される子どもとしての役割』を担うという仮想現実的な関係が、擬似的な親子関係の修復として心的に体験されるとき、インナーチャイルド・ワークのような過去再帰体験は最大の効果を発揮すると考えられる。

催眠状況では、普通ならある人に属している判断能力と意志能力を完全に取り除いて、普通なら催眠術者(筆者注:催眠療法家)の自我に属している意志機能と判断機能を彼に及ぼすのに成功する。

決定的なことは、催眠をかけられた人は自分を弱いと感じ、催眠術者は自分を比類ないくらい強く、強力だと感じていることである。これを達成するテクニックは様々である。しかし、決定的なことは、催眠術をかけられた人は、自分の意志がなく『大人』に従属している小さな子どもの役割をすることである。

フェレンツィは、催眠では、催眠術者に対する不安か愛情が催眠作用の決定的な感情的土台であることと、催眠術者にその力を与えるのは父親か母親の役割であることを指摘した。彼はこう言っている。

『暗示と催眠は、普通は検閲によって抑圧された盲目的な信仰と無批判的な服従傾向――それは両親に対する小児的で、エロティックな愛と恐れの残りで、どの人にも存在している――を催眠術者か暗示者に無意識的に転移できるような条件をつくることである』と。

フェレンツィは、催眠状況の成立と作用の条件として、愛と不安を指摘して、一つの重要なヒントを与えた。我々は、一つの欲動のように作用し、普通の状況下で抑圧されている盲目的な信仰への一傾向があるという彼の見解にもちろん与することはできない。催眠で起こっていることは、抑圧された傾向が現れることではなくて、自我の解体(筆者注:自我の解体というよりも自我の意識水準の低下というのが妥当のように思える)である。

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両親に対する子どもらしい態度は、(催眠術者は、催眠をかけられた人にとって父親か母親の像になるから、彼は催眠機能を持つという意味で)催眠術者には『転移』されないだろう。

それよりむしろ、催眠術者は、父親か母親と同じ役割をしている。というのは、彼は子ども時代に支配していたのと同一の条件、即ち、催眠をかけられた人が自分自身の自我を断念するほど、強力で威嚇的か、あるいは愛情がこもり保護的だといえるような条件を作ることを心得ているからである。

いや、自我は、生存競争における武器として個人に役立つために発達したのだ。他人に対する戦いに見込みがなく、服従が最良の保護であるほど、他人が強力で危険であることがわかると、あるいは自分自身の活動が不必要に思われるほど他人が愛情がこもり、保護的なことがわかると……言い換えると、自我の機能の行使が不可能か、余分になる状況ができると、自我がその機能をもはや行使できないか、行使してはならない限りは(自我の成立はその機能の行使に結びついているので)自我はいわば消滅する。

催眠の際の自我の解体(筆者注:自我意識の水準低下)は、極端に進むので、知覚機能も完全に消失することもある。それで、例えば、催眠にかけられた人は、立派なパイナップルを前に差し出されているという感情と意識で、生のジャガイモを残らず食べる。催眠状況がひとたび有効に作られ、自我のすべての機能が解体すると、催眠をかけられた人が信じているか、感じていることの内容はもはや重要でなくなる。

エーリッヒ・フロム『権威と抑圧』(『権威と家族』青土社)より引用

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■書籍紹介

正統派の催眠療法の大家とされるミルトン・エリクソン、催眠療法の初学者や催眠誘導の練習過程にある人にお薦めできる神秘的な要素を排除した標準的な心理療法としての催眠の入門書です。

ミルトン・エリクソンの催眠療法入門―解決志向アプローチ

以下は、次の別記事になります。

『大人の体罰による躾の問題』と『子どもの暴力・衝動性の問題』

『少子化社会の不確定なジェンダーと核家族の子育て』と銘打った一連の記事では、母性と父性が衰微する現代での子育て方法と親として生きる大人たちの不安定なジェンダーについて書いてきました。先日、子育てに関する雑談を知人としていて『7.子どもに対して嫌味や皮肉を用いた遠まわしの批判をしない』と『10.子どもに劣等感や屈辱感を感じさせる教育を教師は行ってはならない』という子育ての項目が当て嵌まらないのではないかという意見を聞かせて貰いました。

暴力的な行動や社会的に容認されない間違った行動を頻繁に繰り返す子どもに対する教育方法として、大人や教師が不本意であっても、時に、その子のために体罰や苦言を呈さなければならないこともあるのではないかという話でした。私は、伝統的な共同体や学校教育において主流であった『体罰による行動や思考の矯正』を完全に否定するものではありませんが、それでもやはり体罰による行動や思考の矯正は、効果が低く、体罰の与え方によっては有害でさえあると考えています。

体罰や物理的暴力を用いて、相手の価値観や行動を長期的に変化させる教育指導方法は、非常に高度なテクニックと道徳性の高い人格性が要求されます。子どもや生徒が大人になってから、教育目的の体罰や暴力に対して感謝することは極めて稀ですし、その感謝や自省が生まれる前提条件として『親への強い信頼や教師への強い尊敬』が必要となってきます。

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現代社会でたびたび起こる凶悪な少年犯罪や児童生徒の非行・逸脱行為に対して、過去の軍隊式教育法などをノスタルジックに懐古する年配者の側から『現代の学校教育や親の躾が甘すぎるからこんなわがままな子どもが育つのだ。ぶん殴ってでも間違った行為を改めさせるべきだ』という意見が出されることがあります。しかし、暴力で子どもを押さえ込めば、その子どもは暴力によって相手を統御する方法が正しいと認識する場合があります。

『自分は今、社会的に無力な子どもだから、こんな風に殴って躾けられているけれど、大きくなって大人になれば今度は自分が子どもを厳しくぶん殴ってでも躾けてやる』という認知は、児童虐待の世代間連鎖を引き起こしかねない認知ですので、暴力と躾を結びつけるような教育観は望ましいものではありません。

体罰を好んで使用する大人たちは多くの場合、行き過ぎた暴力と適切な躾の境界線を見誤ることがあり、自分自身の情動や気分の高ぶりを伴う体罰は、教育目的から逸脱しているという自覚も必要となってきます。 幼少期のトラウマとして将来的に精神的な健康や安定に悪影響を与える可能性を否定することはできませんから、苦痛を与える暴力による指導はできうる限り控えるべきでしょう。

体罰が望ましくない行動の減少につながるという理論的根拠は、ワトソンやスキナーが提示した『オペラント条件付け』による行動修正の原理に基づいていますが、どうしても体罰を行わねばならない時には以下のことに留意してください。

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罰の効果を与える負の強化子は、必ずしも『望ましくない行動の減少』という本来の教育的効果につながらない場合があります。負の強化子を与えられて、その不快な刺激や苦痛な刺激を回避しようとする学習が起き、望ましくない行動の頻度が減少すれば良いのですが、負の強化子を与えた場合の副作用としての強い恐怖感や病的な不安感だけを学習してしまう場合があります。

この場合には、教育的効果は殆ど望めず、負の強化子を与えた相手である親や教師などの上位者に対する不満や不安が高じて、神経症的な不安症状や抑うつ感・無気力といった心理機能の抑制が起こったりします。

また、負の強化子を与えられると、一般的に怒りや反発の感情反応が起き攻撃行動につながる可能性もありますし、その場面や状況に対する回避行動や逃避行動が生じて不登校やひきこもり、就業拒否などの非社会的問題行動へと発展する危険性も内包しています。

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受動的な攻撃行動として、怠惰な生活行動、社会的義務からの逃避、仕事や学業のサボタージュ、物事に対する無関心や無感動などの問題が引き起こされる場合もあります。上述した負の強化子の好ましくない副作用的な結果を回避する為には、負の強化子を相手に与える場合に、以下の事柄に注意する必要があります。

1.何故、罰(負の強化子)の効果を与えられたのか、相手が納得できるような形で負の強化子を与え、相手が理解できないようであれば適切な形で何が悪かったのかを説明するようにする。つまり、“理不尽で無意味な罰”を与えられたという不満や反発を残さないようにしなければならない。

2.罰の効果は、望ましくない行動をとった直後に素早く与えなければならない。

3.罰を与える時間が長くなり過ぎると、本来の教育的意義を失い、単なる虐待や憂さ晴らしになってしまうので、罰を与える時間は適切な長さでなければならない。

4.罰を与える目的は、望ましくない行動をとらない学習活動を促進する為であり、望ましくない行動をとった人間を懲罰したり痛めつけたりするわけではない。必要以上の強度や時間の罰を、個人的感情である怒りや憤慨に基づいて与える事は、抵抗や反発を生むばかりで逆効果となる場合が多い。

5.可能であれば、負の強化子よりも正の強化子を用いるほうが、望ましい方向に行動を変容させられる確率が高くなる。

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子どもの非行や逸脱行動で、最も親を心配させる心理学的問題は、『暴力性・衝動性・破壊性・攻撃性』といった他者の身体や生命に危害を与えるような突発的な暴力によって生じる問題です。 この子どもの暴力の問題を考える際に、親、友人、教師、学校の勉強などの環境的要因によって生じている暴力なのか、本人にも怒っている原因がわからず全くコントロールできない生物学的要因によって生じている暴力なのかの区別を考えることが必要になる場合もあります。

しかし、そういった生物学的な問題を考える前に、親や教師は、子どもの破壊的な攻撃行動を抑制するために自分たちでやれるだけのことを全てやってみる必要があります。 親は、育児や躾の方法を工夫してみるだけではなく、子どもに対する会話やコミュニケーションの取り方も今までとは異なったものに変えてみると良いでしょう。

父親が全く育児や教育に参加せずに、子どもの教育や生活全般を母親にまかせっきりになっている場合などには、『何が正しい行いで何が間違った行動なのか』という正しさの基準を子どもに教える為に必要な『親側の適正なレベルの権威(恐怖感を与える権威ではなく尊敬や親愛を感じる権威)』が欠如している場合もあります。 はじめから『親は何をしても許してくれるし、何をしても自分を恐れてるから怒ったりしない』といった子どもの間違った誇大な自我意識や甘えた依存心を訂正するためには、子どもの生活行動に一定の規律的な枠組みを与えて、『それを守ることが、自分のためになるし正しいことだ』と納得させる程度の親側の権威(親に対する尊敬や親愛感情)が必要です。

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家族は、どんなに家庭に無関心なメンバーがいても、それぞれのメンバーが相互に密接に影響を与え合っている一つの社会的システムですから、家族内で問題や障害が発生した時にはみんなで力を合わせて協力し合わなければなりません。

もし、父親が『俺は一生懸命仕事をしているんだから、子育てくらいはお前が責任もってしろよ』という態度をとるならば、家族内の協調関係や家族のメンバーの社会適応性を維持するためのシステムに致命的なエラーが生じることになり、子どもの心理的・情動的な反社会的問題行動を解決に向かわせることは非常に困難なこととなるでしょう。

また、子どもの暴力や衝動性に過度に敏感になって、『自分の子どもはちょっと普通の子どもとは違うんじゃないだろうか?』と不安になり警戒しすぎることも、子どもの情緒的安定にとってよくありません。カウンセリングや心理学的援助、医学的治療、行動修正プログラムなどの専門的アプローチが必要になる暴力や破壊行動なのかを判断するためには、以下の基準を一応の参考にすると良いでしょう。

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1.攻撃性が他の子どもと比べて桁外れであり、いったん暴れだすと全く抑制や手加減が効かない。相手の骨を折ったり、縫い傷を負わせるなどの過度の行き過ぎた暴力行為を複数回起こしている。

2.他人の身体や生命を危険に追い込むだけではなく、自分自身の身体や生命を粗末にするような無謀な行動が見られる。例えば、怒ると素手でガラスを叩き割ったり、コンクリートの壁を思いっきり殴って縫うような大怪我をしたりする。ヤケクソになって教室で机をガラスにたたきつけたり、家の中で物に火をつけたり、燃えているストーブを蹴飛ばしたり、親や教師や友達に対して刃物をつきつけて『殺すぞ』などとすごんだりするなど。

3.自分の見ているところでは大人しいが、友達の親や教師、信頼できる知人から、子どもが極めて暴力的で、常軌を逸脱した破壊行動をとることがあると複数回にわたって指摘されたり、苦情を言われたりしている。また、他の子どもが、自分の子どもの前で過度に不安がったり、恐怖を感じている。

4.全ての教育指導や躾に対して極めて反抗的で、自分の側が優しく受容的な態度でどんなに冷静な話し合いや対話をしようとしても、全く話が出来ないばかりかあらゆるコミュニケーションを否定して攻撃的な態度を長期間取り続ける。

5.自分の子どもと一緒にいると、子どもから何をされるか分からないという恐怖や不安を感じて、身を縮めておどおどしながら生活している。

6.他人の心の苦悩や身体の苦痛を思いやる感受性や良心・道徳性が全く欠如していて、他人を肉体的・精神的に傷つける事に対して何のためらいもなく、むしろ快感を感じているような表情や態度を見せる。常識の範囲内を越えて、小動物や生物をむやみやたらに殺傷して遊んでいる。小学生以上の年齢で、うさぎ、犬、猫、小鳥など人間が通常愛着を感じる動物に対して、異常な残虐性を見せる。

7.子どもとの生活が暴力を用いた家庭内戦争のようになり、子どもをコントロールするために子ども以上の暴力で無理矢理押さえ込む状況が続いている。

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これらの徴候が見られる場合でも、『1,2,6』などの項目を除けば、正常な発達段階における環境的要因による情緒障害や第二次反抗期としての権威的束縛に対する反社会的問題行動として説明することができるし、それらは往々にして年齢を重ねるにつれて自然好転してくるので過剰な心配はいらないでしょう。本当に重篤な暴力や衝動性の問題は、『時々、頭にくることがあるから怒って暴れる』という合理的説明のつく暴力ではありませんので、ほとんどの子どもの暴力は、親子関係や学校環境への適応や勉学の問題、友人関係のストレスなどで原因を探し当てられる暴力の場合は心配いりません。

すぐに喧嘩して相手を殴るといった場合にも、常識的な範囲内で、短気で挑戦的な性格といった形で理解できるものが多いのですが、その暴力の程度が行き過ぎている場合や繰り返し不合理な暴力事件を起こす場合にはやや警戒が必要かもしれません。ただ、その場合でも生活環境におけるストレスや不満、対人関係スキルの学習不足、親子関係の不和などの原因を想定できる場合がほとんどです。

2~4歳くらいの幼児期にも親の言う事全てに反対したり拒絶する第一次反抗期が見られますが、これも大方、わがままな振る舞いやしつこいぐずつきといった形が暫く続いた後に自然に収まっていくものです。犬、猫、小鳥、うさぎなど小動物に対する虐待や殺害が問題となるのは、それが基本的な生命の価値に対する異常性や歪みにつながっている可能性が高いからであり、精神医学領域でいえば善悪の道徳判断を的確に下すことができずに良心の咎めなく犯罪行為を繰り返し続ける“行為障害”や“反社会性人格障害”へと発展する恐れがあるからです。

幼児期から連続的な反社会的問題行動『反抗挑戦性障害→行為障害→反社会性人格障害』の悪化や発達が見られる場合には、医学的治療や規則正しいグループ活動の体験による行動修正プログラムを含む専門的アプローチが必要になるでしょう。

しかし、そういった非常に解決が難しいケースは極めてレア・ケースですから、一般的な子どもの暴力的破壊行動への対処法や教育法として以下のような方法を試してみると暴力行為の改善効果を期待できます。

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1.規則正しい食事・睡眠のサイクルを守らせる生活の実施といつでも子どもの話を子どもの立場にたって聴いてあげるという立場や態度を持ち続けること。

2.鬱積した怒りや衝動性を発散する身体を使ったスポーツや運動、遊びを疲れ果てるまで楽しくやらせる。

3.アレキシシミア(失感情言語症)のように自分の気持ちを洞察することが苦手で、自分が今、どういった気持ちでつらくて苦しいのかを表現できない場合には、感情表現のための言語をたくさん習得させる。 頭にきたらすぐに手を出すのではなく、まず、言葉で自分の怒りやつらさの感情を相手に伝えることを繰り返し指導し、実際にわざと子どもを怒らせて言葉で対処できるかどうかといったロールプレイング(擬似的な役割行動)もやってみる。

4.オペラント条件付けの原理をとりいれて、子どもに一定の生活行動のルールを与え、それを守れれば褒めてやり、守れなければ何か体罰でない罰則を与えるようにする。この場合は、親や教師がその生活行動のルールの必要性を十分に子どもに説明し、同意を得ると効果的である。また、親や教師も一緒に守るようなルールを決めると子どもも納得しやすい。

そして、いったん決めたルールは一定期間以上継続させ、一貫性をもたせること。暴力や暴言に屈して、相手の不条理な要求やわがままを受け容れるべきではない。

5.子どもの見本になるような正しい態度や行動を親や教師がまず子どもに見せてあげよう。 これは、バンデューラの社会的学習理論の一つモデリング(観察学習によるモデルの模倣)の技法に基づく対処法といえる。

6.子ども達の問題行動を解決するために、友達の親と連絡をとりあって親や教師で緊密な教育指導のネットワークをつくろう。情報交換をし、お互いに助け合い何でも話し合える場所をつくることで、問題行動を抱えた子どもの育児に対する不安や孤独を和らげることができるし、日常生活の大部分を大勢の子どもと過ごしている教師のアドバイスや意見も役立つことがある。

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■書籍紹介

子どもを厳しくしつけるときと、子どもを優しく抱き締めるときの適切な状況認識をして、絶えず子どもへの温かい視線と愛情を忘れずに子育てに臨むことに意義があります。ここで紹介する本は、できるだけ子どもを叱らずに、必要最低限のしつけができる方法について説いている本です。

本当は大好きで堪らない子どもを無意識的に傷つけないために、上手な成長を促進する叱り方を身につけることが大切なのではないかと思います。

子どもを叱らずにすむ方法おしえます―お母さんがラクになる新しいしつけ

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元記事の執筆日:2005/07/29

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