認知療法・精神分析・クライアント中心療法の異同と特性,不安な心理と身体の不調の簡易なチェックシート

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不安な心理と身体の不調の簡易なチェックシート


器質的な身体疾患から派生する症状精神病:心身一如の存在としての人


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認知療法・精神分析・クライアント中心療法の異同と特性

アーロン・ベックやティーズデイル、サルコフスキスなどの認知理論を基盤とする認知療法は、心理療法の中で唯一、薬物療法と同等の効果が実証的に認められている技法です。エビデンス・ベースド(実証的根拠のある)な技法である認知療法の特色を簡潔に言い表すと、『科学的な実証性(evidence)』『臨床的な有効性(effect)』『実践的な適用性(apply on a wide case)』『学習と実行の容易性(easy)』のバランスが非常に良いということになるでしょう。

かつて主流だった精神分析療法や力動的精神医学は、フロイトやラカン、メラニー・クライン、ウィニコットらの提唱した精緻な理論を見ても分かるように、理論を構成する説明概念が非常に難解で、その全体を正確に理解するには高度な知性と長い時間が必要でした。そこで立ち上がってきた問題というのが、『学習に要する大きな負担とカウンセリング期間の長期化』の問題でした。

精神分析を実施する分析家だけでなく、精神分析を受けるクライアントの側も、ある程度その複雑な理論を学習して分析を受けなければ「精神分析の効果」が十分に発揮できないので、クライアントも精神分析特有の仮説概念や幾つかの理論内容を学習しなければなりません。また、精神分析は表面的な症状の緩和は重視せずに、根本的な病理の治癒のために長い期間をかけて実施するのが原則ですので、即効性や経済性を求めるクライアントにはあまり向いていないという事情もあります。

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認知療法は精神分析と比較すると、その基盤となる認知理論に、難解な概念が用いられておらず、平明な概念を組み合わせることで分かりやすい理論になっているのが特徴です。つまり、誰でもが直感的に理解できる平易な概念によって、抑うつ感や自罰感情、無力感の生起を説明しているので、学習に要する時間と労力を大幅に節減することができるのです。

臨床心理学や精神医学の基礎知識が全くないクライアントであっても、カウンセラーから丁寧に基礎理論を紐解いて指導してもらえば、比較的短時間で認知療法を実施するのに必要最低限の知識を習得することができます。つまり、認知療法は、専門的な精神医学やカウンセリングの知識を有していない一般の人たちにこそ最も適したカウンセリング技法の一つなのです。基本概念を学ぶ意欲とカウンセリングに対する動機付けさえあれば、誰でも容易に認知療法の基本を学習して修得する事ができます。そして、その学習成果を適切にカウンセリングに還元して、気分改善や症状緩和のためのセルフモニタリングを継続していけば、多くの人にその効果を実感してもらう事が出来ると確信しています。

認知療法とカール・ロジャーズの来談者中心療法(クライアント中心療法)を比較すると、それらは相互に対立するものではなく、相補的に支えあうことによってカウンセリングの効果を増進させるものだという事が分かります。ロジャーズの来談者中心療法は、あらゆる心理療法(カウンセリング技法)の根底にあって、カウンセラーとクライアントの間に形成される相互的な信頼関係であるラポールの重要性を指し示すものです。カウンセラーがクライアントと対面する場合の基本的態度としてロジャーズが提唱した『徹底的傾聴・純粋性・自己一致・共感的理解・肯定的受容・積極的尊重』は、認知療法を実施するカウンセラーの態度としても同様に要請されてくるものです。

認知療法や短期療法、家族療法などのカウンセリングにおいても、来談者中心療法の自己理論が前提する『カウンセラーの基本的態度』や人間の潜在的な成長可能性を信頼する『実現傾向(成長・健康・適応に向かう人間の本来的特性)を持つ人間観』、カウンセラーの個人的な価値観や経験的な処世術を無理強いせずにクライアントの価値観や主張にしっかりと丁寧に耳を傾ける『個人の人格を徹底的に尊重した面接技法』などは応用性が高く重要なものです。

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実現傾向を核心におく人間観や面接場面での態度の基礎を規定する来談者中心療法と学習理論を基盤とする人間観や共感的な教育者としての態度を示す認知療法の最大の違いを敢えて挙げるとすれば、認知療法は来談者中心療法よりも指示的・指導的な側面を強く持つということです。ロジャーズの来談者中心療法は、クライアント個人の主体性や人格性を最大限に尊重する余り、『自然な実現傾向が発動されるまで粘り強く待ち続けるという受動性』を特徴として持ちます。

認知の歪みを変容させることによってカウンセリング効果を得ようとする認知療法、あるいは、不適応な行動の変容を中心とする実践的な認知行動療法の場合には、『客観的な治療目標の設定による計画性とカウンセリング計画に沿った能動的なアプローチ』を特徴として持ちます。

認知療法の実際場面では、ただ受動的に傾聴しながら、自然な状況の変化と症状の改善を期待して待つという姿勢を取るのではなく、クライアントが自分の問題点を発見できるように積極的に支持し、具体的に問題を解決する為には「認知・感情・行動をどのように変容させていけば良いのか」を一緒に試行錯誤しながら考え、簡単な課題から困難な課題へと段階的に出来るところから能動的な実践をしていくことになります。

具体的な問題解決の為の理論体系と行動実践を兼ね備えたカウンセリング技法が認知療法(認知行動療法)であり、その実践場面における基本コンセプトをまとめると『適度な積極性による介入』『適切な認知変容を促進する指示』『安定した心理状態を維持する共感的な受容』『認知と行動の変容の為のクライアント側の能動性』『カウンセリング場面以外の家庭・仕事・学校場面での学習(セルフモニタリングして状況・思考・感情をワークシートに記録する学習)』といった概念に集約することができます。

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認知療法を実施して効果が現れるか否かの重要な部分は、カウンセラーの「適切なワークシート記述の説明」や「言語的誘導による発見」を可能とする会話技術などにも依拠しますが、それ以上に、クライアントの動機付け(やる気)にかかっているといえます。認知療法で一番面倒に感じるのは、クライアントが一日の出来事や行動を振り返ってみて、自分の不快な感情・気分の強度(主観的感情尺度)や自動思考、認知の歪みを特定してワークシート(専用の記録用紙)に記述する毎日の習慣的作業です。

不快な気分や感情を同定して、自然に湧き上がって来るネガティブな思考を記録し、認知の歪みを特定した後には、更に、それらを論理的に反駁し現実的に反証していく『合理的思考・適応的認知』を考えて書き込んでいかなければなりません。認知療法を実際に行う場合には、『自分で考える作業・対話する行為』の重要性もさることながら、『ワークシートに記録する作業による気分・感情の明確化と適応的な思考・認知の具体化』がとても大切になってきます。

前述したクライアントの動機付けの必要性は、どのカウンセリング技法(心理療法)にも言えるのですが、特に『自発的なワークシートの記述の習慣化』によってカウンセリング効果を得る部分の大きい認知療法の場合には『ワークシートを書こうとする動機付け』を面接の初期にしっかりと行っていかなければなりません。

■書籍紹介

うつからの脱出―プチ認知療法で「自信回復作戦」

不安な心理と身体の不調の簡易なチェックシート

前回の記事で、『“正常圏内の不安”と“病理水準の不安”』について概略を述べましたが、『不安の性質・強度・持続性』の観点から不安の病理水準を測定する心理アセスメント(不安評価尺度)には以下のようなものがあります。

身体の遺伝要因・体質気質類型・生理学的障害などの生物学的基盤があり、その基盤に精神的ストレスが過度にかかることによって全ての精神障害や心理的問題(深い苦悩・悲哀・抑うつ・怒り)が発生してくるというのが『素因・ストレスモデル』ですが、不安を中核とする精神障害も基本的に素因・ストレスモデルによって理解することができます。

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自分で自分の不安症状の強度や特性を評価する心理アセスメントとして、最も簡易なものに英国の精神医学者ツングが開発したSAS(Selfrating Anxiety Scale)があります。SASは、20項目の質問に答えるだけの簡単な質問紙であり、信頼性と妥当性も高いので不安感に悩んでいる人が自分の現在の心理状態を自己評価するのに役立ちます。

ツングのSAS

最近一週間のあなたの状態にもっともよく当て嵌まる選択肢を選んでください。

■選択肢

1.全くない。

2.時々ある。

3.頻繁にある。

4.ほとんどいつもある。

■質問項目

1.特別の理由がないのに、漠然とした恐れや萎縮がある。

2.寒くもないのに、自然に手足が振るえたり、揺れたりします。

3.頭痛、首の痛み、背中の痛みなどがあります。

4.なんでもないことを深く悩み、些細な出来事にも神経過敏になっています。

5.全てがうまくいっていて、悪い予感などはありません。※

6.身体が虚弱な感じがあり、毎日、強い疲労感があります。

7.突然、めまいに襲われます。

8.心臓がドキドキとする動悸に悩まされます。

9.顔がほてったり、緊張する場面でもないのに赤面したりします。

10.楽に呼吸をすることができ、息苦しい感じなどはありません。※

11.ちょっとした変化に取り乱し、うろたえてしまいます。

12.トイレが近くなっていて、落ち着いていられません。

13.手や足の指にしびれがあったり、熱感や冷えがあります。

14.胃痛が起きたり、消化不良で胃もたれします。

15.寝つきがよくて、熟睡できます。※

16.悪夢にうなされます。

17.自分の意識がバラバラになって、どうかなってしまいそうです。

18.失神してしまいそうな意識が遠のく感覚があります。

19.手や背中などに大量に汗をかくことがあります。

20.落ち着いた気分で、ゆったりくつろぐことができます。※

※印のついた質問項目は、逆転項目ですので、1~4点の点数を反対にしてつけてください。 得点の総計によって、以下のような統計学的特徴を示します。

不安障害:男41.61±8.69, 女42.31±6.81

うつ病:男42.33±7.12, 女43.85±7.84

正常者:男31.35±6.46, 女32.69±5.81

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この数値はあくまで統計学的な傾向であり確率に過ぎませんが、とりあえず40点までの範囲ならそれほど重篤な不安である心配をしなくて良いと思います。30点以下なら極めて正常な範囲の不安感であり、多くの人が多かれ少なかれ経験する範疇の不安です。

個々の事例に直接当たらないと一概には言えませんが、50点以上になると、かなり日常生活を普段通りに送ることが困難になり、職業活動や家事育児にも問題が起こってくるのではないかと思います。

60~70点といった非常に高い得点の場合には、自律神経症状の強い不安障害やうつ病などに罹っている可能性がありますが、それでも日常生活に特段の支障はないというケース(その場合にも、アレキシシミアなどによる心身症悪化のリスクを内在していますが)もありますから、得点が高い不安が全て病理性を持つとは断言できない部分があります。

このアセスメントであまり重視されていないポイントとして基本的生理欲求がありますが、不安障害やうつ病の場合には『食欲・性欲・睡眠欲といった基本的欲求』『他者とのコミュニケーション欲求』が低下して、活発性や行動力の低い状態が慢性化している場合がほとんどです。

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SASよりもやや厳密性が高く、質問項目の密度が高いものにテイラーの考案したMAS(Manifest Anxiety Scale)というものがあります。MASでは、表面的に観察される不安症状や自律神経の乱れによる身体症状だけでなく、病的な不安感を高めやすい性格傾向なども識別できるように工夫されています。

テイラーのMAS

以下の質問項目に、『はい・いいえ』で答えてください。

1.便秘や下痢で困ることはあまりありません。

2.時々、他人に言えないような悪いことを考えます。※

3.私はよく自信に欠けていると思います。

4.すぐに私は泣いてしまうほうです。

5.悩みや困ったことがあると、大量に汗をかきます。

6.私は他の人よりも神経質だとは思いません。

7.私はいつでも本当のことを言うとは限りません。※

8.小さな事で、慌てたりうろたえます。

9.時々、眠れなくなるほど興奮します。

10.平均以上の恥ずかしがりやではないと思います。

11.絶えず、空腹感があります。

12.心配で夜眠れません。

13.人前で赤面するのではないかと不安になる事があります。

14.私は小さなことにもすぐ興奮します。

15.待たされるとすぐにイライラします。

16.その日のうちにやるべきことを、すぐ延期します。※

17.物事を必要以上に難しく考えます。

18.私は権威者(偉い人)と知り合いになれば、自信を持てると思います。

19.私はほとんどの人よりも、物事に感じやすいほうです。

20.他の人よりも怖いもの知らずで勇気があるほうです。

21.じっと座っていられないくらい、気持ちが落ち着かないことがあります。

22.頭痛はめったに起こりません。

23.自分は役に立たない人間だと思ってしまいます。

24.恥ずかしさで赤面することはほとんどありません。

25.一つの仕事だけに集中することが出来ません。

26.月に何回か下痢をします。

27.手足はいつもほどよく温かいです。

28.急に嘔吐感をもよおします。

29.眠れが途切れがちで早朝に目覚めます。

30.私はいつでも幸福なのです。

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31.時々、誰かを口汚く罵倒して辱めてやりたくなります。※

32.私は友人の全ての人を好きなわけではありません。※

33.時々、他人の噂話をします。※

34.危険や困難があれば、その行動をやめてしまいます。

35.お金や仕事のことでいつも悩んでいます。

36.私は自分に優しい人や安全な物でも怖く思ったりします。

37.人生には克服できないほど困難なことが余りに多すぎると思います。

38.私は毎日のように夢を見ます。

39.時々、自分の精神や身体がバラバラになるような不安が襲ってきて、自分が自分でないように感じたりします。

40.仕事や勉強をするときは、いつも緊張しています。

41.選挙のとき、どうでもいい人に投票することがよくあります。※

42.自分も、他の人のように普通の幸福が欲しいと思ったりします。

43.胃腸の具合がいつも悪いです。

44.疲れやすいほうだとは思いません。

45.何かにつけて、ひどく心配し迷い続けます。

46.涼しい気候にもかかわらず、じっとりと汗をかきます。

47.私はいつでも気を張り詰めて生活していて、くつろぐことなんてありません。

48.他人より緊張や赤面がないほうだと思います。

49.新聞を毎日隈なく読み込みます。※

50.普段は落ち着いていて、めったなことでは取り乱しません。

51.何か不幸なことが起こるのではないかと、いつも不安がつきまといます。

52.私は時々、友人にひどく腹をたてます。※

53.本当は何でもない普通のことなのに、過度の心配や不安を感じます。

54.家で食事するときは、非常に行儀が悪くなります。※

55.時々、自分は間違っていて良くないと思うことがあります。

56.自分の能力不足を痛感して、やる前から仕事や勉強を諦めることがあります。

57.ほとんどいつも人間関係や物事についてくよくよと悩み続けています。

58.下品な冗談や雑談が好きで、気晴らしになります。※

59.私は自信に満ち溢れています。

60.胸がドキドキしたり、息切れしたりします。

61.ゲームに対する勝利への執念が強いほうです。※

62.何日かに一度は悪夢でうなされます。

63.気分が悪いと、偏屈になります。※

64.何かしようとするとき、手が振るえることがあります。

65.突然、自分が何をしてよいか分からなくなり、パニックになります。

『はい』を1点、『いいえ』を0点とすると、下のような統計的偏差(標準偏差)を示します。※印は、無意味質問ですので、点数はつけません。

うつ病:男24.09±8.03, 女26.32±9.10

不安障害:男21.10±9.71, 女21.528.19

統合失調症:男15.03±8.60,女19.89±9.49

正常者:男11.39±7.53,女14.19±7.42

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MASの得点は、うつ病、不安障害、統合失調症、正常者の順番で低くなっていきますので、不安症状を中核とする抑鬱状態を判定したり、正常な不安状態と区別される病的な不安症状を判断することができます。 しかし、うつ病の症状評価だけを目的とするのであれば、アーロン・ベックのベック抑うつ質問紙(BDI)のアセスメントを用いた方が的確でしょう。

MASはあくまで相対的な不安症状の強度と性質の評価尺度ですから、極端に点数が高くて、日常生活や職業生活に困難を感じ、耐え難い不安が苦痛となっている場合にカウンセリングや医学的治療が必要となってきます。

全般性不安障害(GAD)やパニック障害(PD)、身体表現性障害など不安症状を中核とする精神疾患の特徴を適切にまとめたものに、ハミルトン不安評価尺度というものもあります。ハミルトン評価尺度は、合計得点数を余り考慮しない不安症状の概略と種別を示す評価尺度ですが、以下のような不安症状の種別について評価します。

各症状の選択肢は、0:全くない,1:ほとんどない,2:どちらともいえない,3:少しある,4:ある となります。

ハミルトン評価尺度
不安症状の種別不安症状の内容
不安気分将来に何か悪いことや不幸な出来事が起こるのではないかという心配。具体的な対象のない危惧・懸念、抑うつ気分につながるような憂慮。何かしなくては大変な結果を招いてしまうといった焦燥感
精神的緊張心身が張り詰めて緊張している。緊張のためリラックスできずくつろぐこともできないので、非常に疲れやすい。身体が震えたり、突然涙がこぼれたり、少しの刺激に驚愕したりしてしまう。
恐怖感特定の対象や事物に対する恐ろしいという感情。特定の人物や動物・暗闇・高所・孤独・閉所密室・広場社会・都会・人込みなどが怖いという感情。
認知傾向の悲観化・知的能力の変化集中力がなくなり、記憶力が低下していつも通りの学習効率を上げることができない。全ての物事を悪い方向へと受け取ってしまう認知の悲観化。
不眠入眠困難・途中覚醒・早朝覚醒・熟眠障害・夜驚・多夢・悪夢・覚醒時の睡眠不足感と倦怠感など
抑うつ気分興味関心や喜びの喪失。趣味に対する楽しみの欠如。日内変動や憂鬱な気分の継続。全ての物事に対する意欲の低下。
身体症状(筋骨格系)筋肉痛や筋肉の凝り、筋肉の攣縮などが起こってくる。歯軋りや不安定な音声を出す。痙攣発作や間代性けいれんを起こす。
身体症状(感覚知覚系)目のかすみや視力低下など視覚障害。耳鳴り、熱感と冷感、倦怠感、むずむず感など
循環器系心悸亢進・動悸・頻脈・胸部圧迫感・血管の脈動感・失神感覚や脈拍の停滞感や不整脈
呼吸器系呼吸困難・過呼吸症候群・胸部圧迫感・絞扼感・窒息感・息苦しさなど
消化器系胃腸症状・胃部不快感・食前食後の疼痛や胃もたれ、嘔吐、吐き気、膨満感、胃の灼熱感など。下痢、便秘、体重の減少。嚥下困難、ガスが溜まるなど。
泌尿器系頻尿・尿意切迫感・失禁・男性(早漏・勃起不全ED・陰萎)・女性(無月経・月経過多・不感症)
自律神経系口渇・蒼白・多汗・めまい・筋緊張性頭痛・立毛・紅潮・ほてりなど
臨床場面での異常緊張してリラックスできない表情や態度の硬直感。手指を神経質に動かし続けたり、強く握り締めたりする。音声や運動による反射的な行動(チック症状)、うろうろと歩いて落ち着かない、顔面蒼白となり緊張性が亢進している。その他にも呑気・おくび・大量発汗・安静時の心悸亢進など明らかな生理学的症状が観察される。

■書籍紹介

脳内不安物質―不安・恐怖症を起こす脳内物質をさぐる

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器質的な身体疾患から派生する症状精神病:心身一如の存在としての人

うつ病の精神症状として出てくる『抑うつ感・憂鬱感・不安感・焦燥感・不穏・イライラ・疲労倦怠感』や躁鬱病(双極性障害)に見られる過剰に精神活動が活発化した躁状態、観念奔逸などは、器質的な身体疾患によっても発症することがあります。

症状精神病とは、簡単に言えば『身体疾患の発症や経過によって出現する精神障害』のことで、脳疾患による精神障害を排除したものです。何故、脳疾患を排除するかというと、脳機能と精神機能との密接な関係性を考慮すれば、全ての精神病(神経症水準を越えた重症度の高い精神疾患)は、脳に何らかの機能的失調を抱えていると推測されるからです。その為、心因性の精神病と脳疾患による精神病以外の原因による『身体疾患から派生した精神障害』を症状精神病と呼ぶのです。

全身性の身体疾患や局部的な器質的障害によって、二次的に併発する精神症状及び精神機能の失調が症状精神病ですが、症状精神病を引き起こす代表的な身体疾患には以下のようなものがあります。症状精神病は、所見から明らかに身体疾患の存在が分からない場合には、高度な医学的診断の知識と専門的な治療経験を要す疾患ですので、症状精神病が心配な方は心身医学の専門医の診療を受けたほうがよいでしょう。

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症状精神病を併発する身体疾患
基礎疾患基礎疾患の概要派生する精神症状
甲状腺機能亢進症内分泌器官である甲状腺のホルモン分泌が過剰になる病気で、交感神経を過度に興奮させることで、生理活動と精神機能も亢進します。自律神経と精神機能がいつも興奮(亢進)している状態となり、不安・焦燥感・イライラ・疲労感・情緒不安定・神経過敏・睡眠障害が発症します。悪化すると、うつ病や統合失調症の精神症状も示します。
甲状腺機能低下症甲状腺機能が低下して、甲状腺ホルモン分泌が減少し、生理活動と精神機能も低下していく疾患です。精神機能低下に付随して、うつ病水準の深刻な抑うつ感や無気力の精神症状が現れます。悪化すると精神病水準の錯乱、妄想、譫妄といった意識障害を併発します。
副腎皮質機能亢進症内分泌器官である副腎皮質のホルモン分泌が亢進して、コルチゾールの血中濃度の上昇によって起こる疾患。クッシング症候群ともいう。感情や気分の易変性、情緒不安定、易疲労感と倦怠感。不安・焦燥・抑うつなど。
副腎皮質機能低下症副腎皮質のホルモン分泌が減少することによって起こる疾患で、内分泌疾患のアジソン病や下垂体前葉の障害の原因となることがあります。抑うつ感・無気力・億劫感などのうつ病症状や稀に躁状態や興奮を起こす。
ステロイドの副作用による精神障害ステロイドの外用剤ではまず起きないが、高濃度の合成副腎皮質ホルモン剤を長期に内服した場合に、うつ病に似た精神障害を起こすことがある。うつ病様の鬱状態、躁状態。悪化すると解離症状、幻覚妄想、錯乱、意識混濁などの精神病状態を呈すこともある。
代謝障害疾患尿毒症・人工透析の副作用・肝臓疾患・ウィルソン病など代謝系の器質的病変や機能障害によって起こる疾患の総称。憂鬱感・不安感・意欲減退・無気力・疲労感などのうつ病症状。意識水準の低下でぼんやりとした解離症状や意識障害など。

上記に挙げた以外にも、女性特有の妊娠出産(妊娠直後・出産前・出産直後などが不安定期)にまつわる女性ホルモン分泌障害やビタミン欠乏症、全身症状を呈するチフス、赤痢、インフルエンザなどの感染症、膠原病や全身性エリテマトーデス、重症アトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患(アレルギー性疾患)によっても多彩な精神症状が発現する可能性があります。

ここでは、気分障害(うつ病・躁鬱病)と症状精神病の関係に重点を置きましたが、症状“精神病”と呼ばれるように、本来は統合失調症(旧称・精神分裂病)の幻覚妄想などの認知機能障害を示すことが多いのも症状精神病の特徴です。しかし、多くの場合、重症度の高い精神症状よりも器質的病態のある身体疾患が早く発見されているので、身体疾患の治療を中心に置きながら精神症状を緩和するケアを行っていくことになります。

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何故、症状精神病の治療において身体疾患の治療を最優先するのかといえば、症状精神病の原因が身体の基礎疾患にあり、精神症状はその副次的な産物に過ぎないと医学的に判断されるからです。特別な心理的原因(心配・悩み・トラウマ)などがあって、心因性の精神症状なのではないかという疑念があるならば、主治医の見解も聴きながら、カウンセリングや心理療法などを相補的な選択肢として考えてもよいと思います。

人間の健康は心身相関によって成り立っていて、瞑想など精神統一やリラクセーションによって身体に改善効果を与えられる一方で、心理的効果だけでは治癒するのが困難な幾つかの身体疾患による症状精神病があります。仮面うつ病は、身体症状によってうつ病の抑うつ感や無気力、意欲減退を覆い隠してしまう病気ですが、症状精神病はそれとは対照的に、精神的な困難や異常によってその根本にある身体疾患を隠 蔽してしまう病気です。

とはいえ、内分泌障害や代謝障害から派生する精神症状は、前述したように身体疾患の発見のほうが早い場合が多く、身体疾患の治療の途中にここで説明したような症状精神病が発症してきますので適切な医学的対処は受けやすいといえるのではないかと思います。

また、精神症状でも比較的重症度の高い意識障害(昏睡・錯乱・異常興奮・幻覚妄想・アメンチア)の場合には、通常、精神医学による診療だけでなく身体医学各科による精密検査が行われますので、『身体疾患由来の精神症状』のほうが『隠蔽された精神疾患』よりも発見は早いと思われます。

患者によって個人差もあるでしょうが、心因性の慢性的な精神症状という診断(あるいは説明)に対して抵抗感を感じる人が一定の割合でいる一方で、身体因性(必要な治療の副次的作用)の一時的な精神症状という診断ならすぐに受け容れられるという人が多いようです。

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心の病というと、どうしても『古典的な精神論(意志薄弱な人間や気合と忍耐のない甘えた人間が心の病に罹るといった俗論)』で理解しようとする人たちを十分に納得させることが難しい一方で、身体の病から生まれた精神症状という説明ならば『自分の心や性格には問題がないが、身体の病から必然的に生まれた精神症状』といった形で受け容れられ易い風潮があります。

こういった価値判断は精神疾患に対する誤解や偏見とも密接に結びついていますが、その根底にあるのは『精神を身体よりも上位におく西欧の二元論的発想』であり、『精神の環境適応能力を人間としての価値の低さに結合させる社会ダーウィニズム(人間社会に自然淘汰の摂理を流用する思想)』なのかもしれません。

現代の科学的成果を踏まえると、心と脳を切り離すことは難しく、心の不調には人間的な関係や肯定的な言葉が効果をもたらし、脳の失調には薬物や物理的刺激が効果をもたらします。 同様に、心と体も厳密に区分することはできず、それぞれの問題や障害に適応した治療や対処をしていくという認識が大切なのではないかと思います。

『私という意識』は、『私の身体基盤』なくして存在しないように、心と体はお互いが密接に関与しあいながら、心身一如の奇跡的な『私なる存在』をこの世界に生み出しています。 この心身一如の偶発的な自我意識と自己の身体に思いを寄せるとき、ただ生きてこの場に存在していることの奇跡的な蓋然性や偶然性の神秘に驚嘆せざるを得ないと思うのです。

元記事の執筆日:2005/10/06

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