モデリング理論による新たな適応的行動の学習1:恐怖反応の生得性と後天性,モデリング理論による新たな適応的行動の学習2:A.バンデューラの社会的学習理論と動機付け過程

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モデリング理論による新たな適応的行動の学習2:A.バンデューラの社会的学習理論と動機付け過程


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モデリング理論による新たな適応的行動の学習1:恐怖反応の生得性と後天性

前回の記事で、環境刺激の影響や自分の行動の結果を予測して行動を決定する『予期学習』『モデリング理論』について触れましたが、今回は、A.バンデューラのモデリング理論を中心として人間の学習行動を考えたいと思います。人間の学習行動が『他者(モデル)の行動の事例や成功・失敗の経験を観察するだけでも成り立ち、時に、そのモデリングの学習効果は実際に自分が行動する以上のものであること』を実験的に確認したのがモデリング理論であり、人間の行動メカニズムを包括的に説明する社会的学習理論(Social Learning Theory)の基盤にあるものです。

予期学習を含む学習全般には、行動科学的な『連合的過程(S-R連合のような刺激に対する反射の過程)』と認知科学的な『認知的過程(過去の経験や記憶、意志に基づく行為判断の過程)』の要素があります。アルバート・バンデューラ『モデリングの学習理論』を解説する前に、行動主義の連合学習(随伴学習)と般化、恐怖反応について簡単に振り返ります。人間の心身の発達段階理論と合わせて考えると、3歳児くらいまでの自我意識や中枢神経系が未熟な乳幼児期の学習の殆どは、『連合的過程に基づく生理的反射の学習』と考えられます。

連合的過程に基づく学習というのは、自分のとった行動が『快の刺激=報酬の強化』をもたらすのか、『不快の刺激=罰の強化』をもたらすのかによってパブロフの犬のような条件反射が形成される学習を意味します。『反射的(自動的)で制御できない行動という制限』を排除すれば、人間の行動の多くが、『行動・事象に随伴する刺激に対する反応=随伴学習』で説明できることは確かで、それは生物としてのヒトが環境に適応する為に必要な学習過程といえるでしょう。

随伴学習とは、刺激と反応の連合学習のことであり、ある事象に随伴する刺激(結果)からどのように行動すべきかの方法を学習することで、半ば無意識的に進む因果関係の学習のことです。幼少期に犬に襲われた経験を持つ人は、犬という動物の刺激に恐怖反応が随伴して犬恐怖症のような状態を呈しやすくなるのは典型的な例ですが、人間の恐怖や不安、好悪の反応は随伴学習の影響を強く受けます。こういった特定の経験に特定の反応が随伴することを随伴学習といい、即時的な反応を示す行動の多くがこの随伴学習によってパターン化されています。

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特定の事象と反応が連合するのが随伴学習(連合学習)ですが、その反応が特定の事象以外の『外見的に類似した事物』『意味的に関連した現象』にまで一般化されていく現象を『般化(generalization)』といい、神経症水準の精神疾患(恐怖症・全般性不安障害・強迫性障害)で比較的現れやすい現象です。般化の最も有名な心理学実験として、行動主義心理学者ワトソンとレイナが行ったアルバート坊やの般化実験があります。

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J.B.ワトソンR.レイナが行った有名なアルバート坊やの実験では、生後11ヶ月のアルバート坊やに対して恐怖反応の条件付けを行う事に成功しました。ワトソンは、この実験を通して恐怖反応を人工的に条件づけする事に成功しました。恐怖は先天的な本能としてあるのではなく、後天的な学習によって条件づけされるというのがワトソンの行動主義の考え方なのです。

更に、アルバート坊やは白いネズミだけではなく、白いウサギや白いアゴヒゲのサンタクロースなども怖がるようになってしまいました。このように一つの刺激に対する反応が、それとは別の類似した刺激に対しても起こってくる事を、学習心理学の用語で『般化(generalization)』と呼びます。

ただ、人間は時に、ある行動に随伴する結果が、不利益や苦痛をもたらすものであっても、心理的満足感と結合した『観念的な価値=ヒトあるいは本人以外には理解不能な価値』を求めて、敢えて不合理な行動を取ることがあります。その為、生理学的な快・不快の随伴学習で人間行動の全てを説明することは困難で、認知的な情報処理過程(意識的な価値判断)が深く行動発現メカニズムに関係しています。

乳幼児は、意識的・目的的に何かを学習しようとして学習しているわけではなく、生存維持の為の生理学的機制に基づいて学習を進めていき、過去の経験や記憶の表象を内面でイメージできるようになって初めて、意識的・目的的な学習活動を行うことが出来るようになります。本能的欲求の充足(食欲・睡眠欲・接触欲求)と危険状況の回避(自立歩行・無条件反射・条件反射)、原初的コミュニケーションなどの学習課題を、養育者との情緒的関係性(マザリング)モデリング(観察学習)を軸にして自然に学んでいきます。

モデリングによる学習は、自我が確立して以降に意識的・目的的に行う事も出来ます。例えば、就職希望者の職場見学や児童の社会見学、医師や技師の実地研修(見習い)、熟練者や上達者の技術の観察学習などもモデリングであり、成人してから以降も人間はモデリングで様々な技術や行動を学習し続けます。発達早期においては、モデリングの多くが両親の行動を模倣する形で無意識的に自動的に行われ、一般に本能的と思われている危険な生物(蛇・肉食獣・ムカデやクモなど昆虫)への恐怖反応も、モデリングの学習の影響を強く受けていると考えられています。

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蛇やクモなどに対する恐怖反応が、人類全般に共通する生得的恐怖(遺伝性の恐怖)なのか、生後の経験や観察に由来する後天的恐怖(学習性の恐怖)なのかについて心理学では多くの議論や実験がありました。オルマンらの「恐怖反応の生得的準備性の実験」(Olman,Erixon, & Lofberg 1975)では、成人に蛇・顔・家の絵に対する恐怖反応を電気ショックによって条件付けして、その後、その条件付けを消去しました。その結果、蛇に対する恐怖が消去されるまでの時間は、それ以外の絵に対する恐怖が消去される時間よりも長いということが分かりました。

オルマンらは、この結果から蛇に対する恐怖が生得的(遺伝的)特性を持っていて、人類の祖先の恐怖経験の蓄積が遺伝的変異を引き起こし、蛇恐怖の本能的反射を形成したと考えました。 しかし、バンデューラは、消去にかかる時間の長短によって、蛇への恐怖感情が生得的反射(無条件反射)であると断定することは出来ないと考えました。つまり、蛇恐怖は、『生得的反射(祖先の恐怖反応の蓄積による遺伝的変異)』で説明できるものではなく、飽くまで『後天的学習(本人の直接的・間接的な蛇恐怖にまつわる体験)』にその恐怖反応の原因を求めるべきだというのがバンデューラの立場です。

後天的学習とは、蛇に直接襲われる体験ばかりではなく、両親の『蛇は危ない動物だから気をつけないといけない。蛇は気持ち悪くて近づくのさえ嫌だ』というような発言、他者の蛇に対する恐怖反応の観察(間接的経験)を含む学習のことです。ただ、蛇や一部の昆虫などに対する恐怖・嫌悪反応が生得的なものか後天的なものかを実験的に確実に判断することは難しく、元々、特定の生物に対して恐怖心を抱きやすい遺伝特性がある可能性を完全には排除できません。他者の恐怖反応の観察(モデリング)が、特定の動物や昆虫に対する恐怖発現遺伝子のトリガーを引くという「トリガー理論」のような解釈も成り立ちます。

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チンパンジーなど高等類人猿の蛇恐怖の形成過程を観察すると、両親の蛇に対する恐怖・混乱を観察していない子どものチンパンジーは、生得的な蛇恐怖の反応を見せなかったという事例もあるそうです。その観察結果を信頼するならば、モデリングが、蛇恐怖発現遺伝子のトリガーになるという解釈は成り立ちますが、後天的経験に全く依拠しない生得的恐怖としての蛇恐怖は成り立たないように思えます。

■書籍紹介

コリン・ローズの加速学習法実践テキスト―「学ぶ力」「考える力」「創造性」を最大限に飛躍させるノウハウ

モデリング理論による新たな適応的行動の学習2:A.バンデューラの社会的学習理論と動機付け過程

A.バンデューラ社会的学習理論で、『自己効力感など認知的制御』『個人・行動・環境の相互決定論』の前提として重要な位置づけを持つ学習行動が『モデリング(modeling)』です。モデリングとは、他者の行動の内容と結果を観察して模倣することによって、適応的な行動パターンを習得し、不適応な行動パターンを消去する学習過程のことを意味します。モデリングには、最低、観察者とモデルの2人が必要ですが、観察するモデルの行為は、ライブモデリングのように生の直接的行為であっても、テレビやビデオなど映像媒体を介した間接的行為であっても構いません。

観察学習としてのモデリングの最大の特徴は、自分自身が実際にその行動を行わなくても良い『代理学習(vicarious learning)』であるという点です。代理学習の最大の効果は、生死に関わるような危険な行為を一回一回試行錯誤しなくて良いことであり、長い時間のかかる行為を他人の行為の結果を見て学習できる事です。つまり、代理学習としての特徴を持つモデリングは、『時間の短縮・思考の節約・生命の安全・行為の予測』という恩恵を私たちにもたらします。古典的な行動主義心理学のように直接経験による強化(報酬・罰の強化子)を受けなくても、新しい適応的な行動パターンを獲得でき、今までの不適応な行動パターンを変容させられることをモデリング理論は示しています。

モデリング(観察学習)には、以下の4つの下位過程があります。

モデリング(観察学習)の下位過程

1.注意過程

人間の生活環境には膨大なモデリングの対象が溢れているが、どのモデルに注意や関心を向けてしっかりと観察するか、観察するモデルのどの特徴に選択的に注目するかというのが『注意過程』である。観察経験の種類と量は、注意過程の複数の要因によって規定されるが、最も重要な要因は、モデルの価値をどう認知しているのかという『対人評価』とどのようなモデル集団の中で生活をしているかという『人間関係のパターン』の要因である。

また、目だった特徴や個性を持つモデルに注意は向きやすく、人を惹き付ける魅力を持ったモデルも人々の観察する注意を集める傾向がある。集団内でリーダーシップを発揮する者、利益を得る結果につなげる能力や行動パターンを持った者、異性の好意や関心を集める魅力をもった者などはモデリングの対象となりやすいという事である。

テレビやラジオ、インターネットといったメディアも観察の象徴的対象となり、芸能人や著名人などは観察学習のモデルの有力候補となりやすい。また、観察学習をする側の認知的要因(感性・価値観・覚醒水準・過去の随伴学習による強化)などもモデリングの内容に影響を与え、示範事象(モデリングされる事象)の簡潔さや複雑さの要因、伝播のしやすさや実利性・機能性もモデリングに大きな影響を及ぼす。

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2.保持過程

観察学習を進行させるためには、注意過程でモデルに意識を向けて観察するだけではなく、観察した内容(特徴・行動パターン・方法)を保持しなければなりません。『注意過程』に続いて起こる『保持過程』では、モデルの行動を象徴化して精神内界に表象(イメージ・言語化)することで保持します。

バンデューラは、観察学習(代理学習)成立の根拠として、モデルの行動をイメージや言語として長期的に保持できる人間精神の『表象機能』を上げました。モデルの行動や方法の刺激が繰り返し呈示されると、その行動についての持続的なイメージが形成されてきて、精神内界にある無数のイメージからそのイメージを検索することが可能になってきます。

『Aさん』という言語と『Aさんの持つ行動パターンや性格特性』のイメージは分かちがたく結びついていますので、行動を観察するモデルとしてAさんを見ている場合には『Aさん』という言語からそのイメージを自動的に検索することが出来るようになります。『イメージという視覚的過程』と『言葉という言語的過程』によってモデルの行動や方法は象徴化されて、確実でスピードのある観察学習を推し進めることになります。このイメージと言語によってモデルの行動の内容を保持する過程を、『象徴的コーディング過程』と呼びます。

視覚的イメージは、即時的で直観的な記憶に優れていますが、それを言語にコーディングすることで検索性を高めて記憶の持続時間を長くすることが出来ます。象徴的コーディング過程によって、人間は大量の情報を蓄積して伝播することを可能としていて、あらゆる学習の基本は、情報をイメージや言語に置き換える(コーディング)ことにあると言っていいでしょう。

そして、学習の成果を確認するときには、その象徴化コーディングされた行動の情報を、自分の言語や行動で再現することになります。それ以外の保持過程の方法としては、心の内部で繰り返しモデルの行動を模倣(リハーサル)してみる『メンタル・リハーサル』があります。メンタル・リハーサルをして心の中で仮想的な練習や模倣を繰り返すことで、その行動の正確性や遂行率を高めたり、心理的興奮や緊張を鎮めることが出来ます。

長期的な象徴化コーディングに成功すれば、実際に目の前にモデルがいなくても、モデリングしてから長い時間が経過しても、心の中にモデルのイメージを再現することが出来るようになり、随時、その行動を模倣することが可能になります。

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3.運動再生過程

『保持過程』で、象徴化コーディングやメンタル・リハーサルが為された表象(行動のイメージ・言語化された内容)を、実際の行動で再生する過程が『運動再生過程』です。観察者の行動パターンと一致するような形でモデリングは進行するが、完成度の高いモデリングを行う為には、『反応の認知的統合→反応の始まり→モニタリング→情報フィードバックによる行動の正確性や洗練度の向上』が必要であるとバンデューラは言う。

簡単に言うと、観察したモデルの行動パターンを心の中でイメージ化し、認知的にその行動を統合するだけでは、モデルの行動と自分の行動を一致させることは難しいということであり、実際に何度か、『練習の為の予備的試行』をしてみてその結果の情報をフィードバックさせながらモデルの行動との一致度を高めていくということである。実際にモデリングの行動を運動再生してみることで、頭の中で描いている『モデルの行動の象徴的表象』『自分の実際の行動』との間にあるズレや不一致に気づくことが出来る。

その不一致をフィードバックして元の行動を少しずつ修正していくことで、モデリングの正確性や洗練度を高めていく自己修正の過程が『運動再生過程』ということになる。

4.動機付け過程

A.バンデューラの社会的学習理論では、『行動の習得』『行動の遂行』を区別して考え、人間は行動を学習したからといって必ずしもその行動を遂行するわけではないとする。これは、人間は、『結果としての利益(満足・幸福・快感・評価・安楽)』をもたらす『行動の遂行』はしやすいが、『結果としての不利益(不満足・不幸・不快・軽蔑・苦痛)』をもたらす『行動の遂行』はまずしないという当たり前の常識を示していることになる。

モデリングの最終過程では、実際の行動が「遂行」されなければならないが、その遂行(行動の発現)を促進する過程が『動機付け過程』である。動機付けは、行動主義心理学では強化によるオペラント条件付け(報酬と罰の効果を持つ強化子による条件付け)によって説明される。動機付けは大きく分けて『外発的動機付け』『内発的動機付け』に分けることが出来るが、外的な誘因はインセンティブと呼ばれ、内的な意欲はモチベーションと呼ばれることもある。

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モデリングの学習行動が『行動の遂行』に至らない場合の原因としては、“注意過程”における『注意の拡散・不適切な注意の向け方』“保持過程”における『象徴的コーディング作業の問題によるモデル行動の保持の失敗』“運動再生過程”における『身体的な遂行能力の不足・情報フィードバックの活用の失敗』“動機付け過程”における『モチベーションの低下や不足・不十分で不適切なインセンティブ』などを想定することが出来る。人間の発達過程における行動の強化の起源は、親密な他者(母親・父親)の承認や欲求、関心と連合した快・不快の刺激にあると考えられます。

親密な関係にある養育者が子どもの行動に関心を向けて、『それは素晴らしいことだ。かっこ良くて素敵な洋服ね。とても可愛いと思うよ』というような肯定的な評価を下すと、子どもはその行動に対するモチベーションを基本的に高めます。こういった承認と拒絶を機軸とする強化子のことを『対人的強化子』と呼び、子ども社会にも大人社会にもこの対人的強化子は大きな作用を及ぼしています。『他者(社会)の承認と拒絶という対人的強化子』が人間の行動発現パターンを規定している領域はかなり広く、大人の職業活動や学習行動も対人的強化子の影響を強く受けています。

少数の人間の間の対人的強化子がより複雑化して、相互の行為の結果を容易には予測できなくなってくると法律や道徳を包含する『社会的強化子』としての性格を持つようになり、社会活動を行う人間は、この社会的強化子によって行動を促進され、あるいは制限されていることが多い。社会的契約や社会的関係の本質は社会的強化子にあり、ある特定の行動には正の強化子(報酬・金銭・地位・愛情)が伴い、ある特定の行動には負の強化子(罰則・非難・軽蔑・憎悪)が伴うことにより、他者が観察できる部分において、社会的に好ましい行動が強化されやすくなり、好ましくない行動は消去されやすくなる。

他者の視線や評価と関わりなく、自己の価値創造的な行動を楽しみ、その行動に対する評価的フィードバックが働く事でモチベーションが高まるようになることもあり、自分に対する報酬を自分で提供できるようになる。これが理想的な動機付け過程であり、価値想像的な行動は必ずしも客観的な価値ではないが、自己がその行動を行う対価として満足できるほどの価値を提供してくれることになる。こういったモチベーションの意欲やインセンティブの報酬を自己産生できる理想的な過程を指して、自己強化・自己動機付けの過程と呼ぶことがある。

人間が自己強化の段階へと到達して、自発的な創造行動を楽しむには、暫くの間、退屈で面白みのない練習期間(熟達の為の準備期間)を我慢して、自分の有能性(コンピタンス)や自己効力感(セルフ・エフィカシー)を十分に高める必要がある。自分の技能や知識が未熟な段階で、有能性を駆使して自発的な創造行動を楽しめない間は、外部にあるインセンティブを十分に働かせる必要があるが、『言語・認知・操作の技能』がある一定レベルを越え出ればあまりインセンティブの助けを借りなくても、自分自身で価値ある行動を見つけて行動を遂行できるようになる。

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『金銭・賞賛・権力・罰則』といった実利的なインセンティブは、確かに人間の行動を発現させる力を持つ強力な社会的強化子であるが、基本的生活条件を大きく越えた強化子は自発的な学習行為や創造行為には必要ないということが社会的学習理論から言える。つまり、他人から見て『そんな行動をしても一銭にもならないし、どこが面白いのか分からない』といわれるような行動であっても、自分自身がその行動に内在する価値や意味を発見して、その行動を遂行するに足る十分なモチベーションをそこから汲み上げることが出来るという事である。

そう考えると、インターネットにおけるブログやウェブサイトの更新作業の大半は、内発的モチベーションによって生起していると考えられるし、ミステリー小説や教養書など趣味で行う読書も外的なインセンティブなしに内在的な価値を楽しむ形で行動が発現している。私たちは、社会的強化子と自己強化子の刺激の双方を適度に取り込みながら、自己効力感を高めて実利的な行動を行い、内発的動機付けを高めて私的充足の行動を行っていく事になる。極端に社会的強化子の報酬に偏ると、合理主義を徹底させた仕事人間や金銭至上主義になってしまうかもしれないし、極度に自己強化子の快楽に溺れると、自己愛が肥大した社会性の乏しい人間や酔生夢死の風流人になってしまうかもしれない。

自己のアイデンティティを喪失しないバランスの取れた行動を選択していく為には、自然な生活体験の中で、自分自身や親密な他者、疎遠な他者(社会環境)から受ける刺激(フィードバック)を、適度な強化子として自発的な行動につなげていく必要があるように思う。

■書籍紹介

心理学史の上で、重要度の高い実験の内容とその実験結果がグラフィカルな図表を通して、分かりやすく解説されています。記憶や忘却の領域を含む学習心理学の基本事項を、とりあえず一通り学びたいという人には以下の書籍が読みやすいと思います。

実験的な研究法を取る学習心理学の領域と関係した発達心理学や認知心理学、教育心理学などの概説書と対応させながら読むと、より一層深い理解が出来るのではないかと思います。

グラフィック学習心理学―行動と認知 Graphic text book

分割脳実験から分かる右脳の認知過程と左脳の言語過程の協働

スペリーとガザニガの分割脳実験と認知機能

大脳を形態面で見ると、『左半球』『右半球』から構成されていて、脳梁と呼ばれる神経線維で連結しているのですが、左脳と右脳それぞれの役割機能と相互作用については様々な学説や俗信が存在しています。脳の特定の機能が、脳の特定の部位(構造)で実現されているという考え方を『機能局在説(機能局在論)』といいます。

右利きの人の機能局在では、左半球(左脳)『言語的・分析的・顕在的な優位半球』とされ、右半球(右脳)『感覚的・総合的・潜在的な非優位半球』とされています。優位半球と非優位半球というのは、相対的な能力の優劣を示しているのではなく、言語機能を担当する半球のほうを優位としているだけです。ヒトの意識的な知性の表現手段や理性の確認手段の多くが言語的コミュニケーション(口頭報告・言語記述)に依拠している為に、言語機能が局在する半球を優位半球にしたのだと考えられます。

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左半球と右半球の脳機能はある程度の独立性を持っており、視覚機能や運動機能において左右の脳は、それぞれ反対側の視野・運動神経を司っています。視覚の場合には、『視神経交叉(optic chiasma)』という視覚伝道路において、右側の視野の情報は左半球に投射され、左側の視野の情報は右半球に投射されます。左・右の視野が、それぞれ右・左の半球に投射されるのであって、左目の情報が右脳、右目の情報が左脳に投射されるわけではありません。外界にある光刺激が網膜に届くと、光は視神経で電気的な神経信号(インパルス)に変換され、幾つかの神経細胞の層と外側膝状体(lateral jeniculate body)を経由して、後頭葉の一次視覚野に投射されることになります。大脳新皮質の視覚野に投射されることで、私たちは何を見ているかの視覚を意識することが出来るわけですが、その情報処理過程に視神経交叉(optic chiasma)があります。

しかし、視神経交叉が働くのは、両眼の網膜の鼻側の半分だけです。両眼の網膜の耳側半分のほうは、交叉せずに、右目(右目に入る左視野の情報)は右半球に、左目(左目に入る右視野の情報)は左半球にそのまま投射されます。外側膝状体(lateral jeniculate body)という解剖的部位の基本機能は、『視覚野への視覚情報の入力』です。運動機能も基本的に視神経交叉と同じように運動神経繊維の交叉によって、左右の半球がそれぞれ反対側の手や足の運動をコントロールしています。ここまで見てきたように、左右の脳半球はそれぞれ、言語機能と非言語機能を役割分担し、左右の身体機能を神経系の交叉によって制御しています。それぞれの脳半球は、独立性と機能局在性を持ちながらも、脳梁で複雑な情報伝達を行って、高次脳機能を共同作業の中で実現していると考えられます。

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左右の脳半球の視覚・認知・言語・運動の機能の共通点と相違点について検証した実験に、スペリー(R.W.Sperry)ガザニガ(M.S.Gazanniga)分割脳の実験があります。分割脳とは、治療目的で脳梁を切断された重症のてんかん患者などの脳のことであり、分割脳の患者は独特の認知機能に基づく言語報告を示します。スペリーは分割脳の実験に基づく左右半球の認知機能の解明の功績によって、1981年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

■書籍紹介

Mind Hacks―実験で知る脳と心のシステム

元記事の執筆日:2006/04/18

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