人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求1:対人魅力の要因と距離・美の基準、カウンセリングと人間関係における傾聴・共感・信頼1:共感と同情の違いはどこにあるのか?

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人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求2:孤独感のつらさと対象恒常性


人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求3:孤独感をどう緩和するかの視点


人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求4:非指示的カウンセリングと自己開示


カウンセリングと人間関係における傾聴・共感・信頼1:共感と同情の違いはどこにあるのか?


カウンセリングと人間関係における傾聴・共感・信頼2:人間関係の深さに応じたコミュニケーションの工夫


カウンセリングと人間関係における傾聴・共感・信頼3:“人間関係のトラブル・困難”に対処するヒント


コミュニケーションを円滑にするカウンセリング的な傾聴のポイント1:非言語的コミュニケーションの影響


コミュニケーションを円滑にするカウンセリング的な傾聴のポイント2:反射・共感・明確化・開いた質問


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人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求1:対人魅力の要因と距離・美の基準

社会心理学では人間関係において、人が人を惹きつける対人魅力やその要因について以下のように様々に分類しているが、『人が人との交わり(他者からの承認・愛情・評価)を求める欲求』は、特別なトラウマや性格傾向の偏り、生活の困窮などがない限りは、ある程度普遍的なものである。心理的な苦悩や不調の原因になるものの多くも、孤独で他者から愛情や承認を得ることができなかったり、重要な他者から自分の価値や尊厳を否定されて傷つけられたりといった『対人関係の問題・悩み』と何らかの形で関係している。

1.環境的要因……家・学校・職場などが近くて、実際に顔を合わせたり会話をする頻度が高かったりすると、(嫌悪感を抱いていない)相手への好意・親しみやすさが生まれやすくなるという単純接触効果で対人魅力も高まる。

2.外見的要因……帰属社会で共有されている『美の基準』に適っている容姿やスタイル、愛嬌を感じさせる親しみやすい表情、きちんとした身だしなみをして清潔感(信頼感)を感じさせる外見は、相手の好意的な注意や関心を惹きつけるので対人魅力も高まる。

3.生理的要因……強い不安を感じて心細い時や恐怖を感じていて誰かを頼りたい時、孤独感に苛まれていて誰かととにかく話したい時などには、その場に一緒にいる人の対人魅力は高まりやすい。

“吊り橋効果・ジェットコースター効果”と呼ばれる生理学的な興奮状態(心悸亢進)では、恐怖による心拍数の高まりを相手のことが好きだからドキドキしていると思い込んでしまう『原因帰属の誤謬』が起こりやすい。“フィーリンググッド効果”ではロマンティックな気分を楽しめるような環境やリラックスしてゆったりしているような状況などで、一緒にいる相手に対人魅力を感じやすくなる。

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4.性格的要因……話してみて相手と趣味や話題、価値観が共通していたり、『自分に対する行動・発言』が共感的で優しさ・思いやり(頼りがい)を感じられる時には、相手の性格に対する好感度(評価)が上昇して対人魅力も自然に高まる。対人魅力に与える性格の影響では、客観的な性格の良さ・悪さよりも、『自分と向き合っている場面』での相手の言動や態度に主観的に好印象を感じるかどうかのほうが重要である。

5.社会的・経済的要因……社会的な地位を得ていたり、職業キャリアを積み重ねていたり、平均以上の経済力を持っていたりする社会経済的で実利性を感じさせる対人魅力。ただ経済力や社会的地位、職業能力を持っているかどうかというよりも、それらの優位性を好きな相手のために気持ち良く使えるかどうかということのほうが対人評価では重視されやすい。

対人魅力を高める環境要因の一つである『単純接触効果』は、頻繁に顔を合わせたり言葉を交わす相手ほど親密になりやすいというシンプルなものであり、『遠距離恋愛の不利』を示す根拠として用いられることもある。入学式(入社式)で隣だったとか学校の席が近いとか、会社で一緒の部屋で働いているとかいった単純接触効果は主に、『人間関係の初期のきっかけづくり』に果たす役割が大きいだけであり、そこからコミュニケーションを重ねて性格や価値観、話題、趣味の違いが明らかになってくると、親しみが薄れていき別の相手と親しくなることもまた多い。

しかし、物理的な距離が近い相手のほうが遠い相手よりも関係の構築維持に有利であり、物事に対する態度・価値観が類似している相手のほうが異なっている相手よりも親しくなりやすいというのは一般的に当てはまる原則である。これは単純に、物理的距離が遠いと顔を合わせて話したり遊んだりするだけでも『大きな経済的・時間的コスト』がかかりやすく、距離が近い相手のほうがより小さなコストで簡単かつ頻繁にコミュニケーションすることができるからであり、身近に親しい相手ができてくると遠い相手のことが意識に入りにくくなるからである。物事に対する態度(好き嫌い・賛成反対)が大きく異なっている場合にも、二人のコミュニケーションを楽しく展開するためにあれこれ相手を刺激しないように気遣いしなければならず、その『心理的・時間的コスト』が大きくなるので、一般に物事・人生に対する態度や価値観が異なる相手とは親しくなりにくい。

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これらの事から言えるのは、大多数の人は可能であれば“より小さな心理的・経済的コスト”で楽しいコミュニケーションをしたいと思い、構築した人間関係をスムーズに維持したいと思っているという事であり、『心情的・記憶的な要素』が強く働く人間関係にも一定の『節約原理(効率性の重視)』が働いていると考えられる。物理的距離が離れすぎてそれを縮められる見通しが立たない時、あるいは以前はお互いに似通っていた価値観・人生観・物事への態度が、いつの間にかその溝を埋められないほどに異なるものになってしまった時には、『心理的・経済的コストの上昇』に耐えられなくなり、意識しないままに疎遠になってしまう事も多いのである。

外見的魅力は恋愛の異性関係において重視される事が多いものだが、少し前までは『男性の経済力・頼りがいと女性の若さ・美貌の交換(つりあい)』によって男女の異性選択が成り立つという“社会的交換理論(バランス理論)”が言われていた。しかし、近年の先進国では女性の社会進出が進んだり男性の平均所得が下落したりして、従来的な性別役割分担のジェンダー(男は仕事・女は家事育児など)が大きく揺らいでおり、男性の経済力への依存性が低下する反面、男性にも女性のように『美しさ・格好良さ・愛嬌の基準』が適用される場面が増えているようである。

バブル景気前までは、男性は外見を過度に着飾ったり容姿にこだわったりするよりも、中身を磨いて勤勉に働き家族を支えることに重点が置かれてきたし、現在でも平均的な傾向性(平均的な女性の好み)としては男性の外見(美的外観)は女性よりも重視されてはいないが、若者を中心に一部で男性用のエステや化粧品が流行する(男性が自分の容姿や体毛について劣等コンプレックスを深める)など、かつての時代とは明らかに異なる価値観が出てきていることもまた確かである。その背景には、男性の平均所得が低下して家計を一人で支えることが難しくなり、就業率が上昇した女性もまた男性にそこまでの経済的責任を求めずに共働きすることが多くなったことがあり、その『代理的な補償(マスメディアの影響も含め)』としてかつては余り求めなかった『男性に対する容姿・外見の好み』の相対的比重が高まったのかもしれない。

人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求2:孤独感のつらさと対象恒常性

前回の記事の話の続きになるが、なぜ『美しい・カッコ良いとされる容姿』に魅力を感じやすく好かれやすいのかという根本的理由については、“進化生物学の性選択・繁殖適応度”“社会心理学の援助行動(好意による援助の受けやすさ)の頻度”によって説明されることが多い。人間の容姿・外見の一般的な美の基準は、概ね『シンメトリー(左右対称性)・スタンダード(その時代の標準的な顔)・ベビーフェイス(若々しい特徴)・数の論理(みんなが好むような外見)』にあると考えられているが、これらは身体の健康性と若さ(繁殖可能性)の指標であると同時に、みんなが好むような外見だから異性選択で選ばれやすいという利点を持っているとされる。

澄んだ大きな瞳や艶のある綺麗な髪、滑らかな張りのある肌、しっとりとした唇、ウエストとヒップのくびれなど、女性の美しいとされる特徴・基準の多くは『若さ・繁殖適応度(出産に適した時期)』と何らかの相関を持っていると解釈される。しかし、生物学的な繁殖適応の理由によって若さや美しさが評価されやすい(選ばれやすい)というのは、外見的魅力から見た人間の選好のごく一面であって、性格的な相性や人格的な成熟の評価、自分の年齢・価値観との相手の釣りあい、一緒に過ごしている時の満足度などの要因によって、そういった生物学的セオリーだけでは説明できない性的魅力や外見的評価が生まれることも実際には多い。人間の美しさの基準や進化心理学的な異性選びの心理、男女のカップリング(社会的交換理論)については、過去に書いたジェフリー・F・ミラー『恋人選びの心 Ⅰ 性淘汰と人間性の進化』の書評や『恋愛・結婚におけるカップリング(相手選び)の心理学2:自己評価と美男美女の外見へのこだわり』、『異性の“外見の魅力”と“内面の魅力”についての考察:恋愛における性格・内面の評価とは?』の記事などで詳細に論考しており参考になるかもしれない。

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ヒューマニスティック心理学(人間性心理学)のアブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow, 1908-1970)は、欲求階層説の中で『所属と愛情の欲求・承認欲求』を安全安心の欲求の上位にあるものとして上げているが、人は短期間だけ一人でいる状態であったり話そうと思えば話せる人がいる場合であれば、“孤独感・疎外感のつらさ(承認欲求・愛情欲求が満たされる必要性)”を余り感じないことが確かにある。それをもって、自分は一人のほうが気兼ねしなくて良いから好きだとか、誰からも承認や愛情を与えられなくても平気だという心理状態に一時的になることは多くあるわけだが、『親和欲求・承認欲求(愛情欲求)の普遍性』というのは、大半の人は“ずっと一人でい続けて誰とも会話をせず自分を認められない状態”というのはそれに耐えられるとしても、かなりつらくて苦しいものだという事にある。

話そうと思えば話せる人がいたり、自分のことを持続的に大切に思ってくれる相手(家族・恋人・友人)がいたり、いざとなれば社交的な活動にも参加できたり、ネットには話し相手がいたりというような留保(人間関係に依拠する基盤)があってこそ、『一人で過ごす時間の魅力・楽しみ』も実感しやすくなるという面がある。実際に会ったり話したりしないにしても、内的世界に安定的に自分を支えてくれるイメージとしての“対象恒常性(object constancy)”が確立されていれば、深刻な苦しい孤独感・寂寥感を感じる度合いは減るので、『自分が完全に孤独ではないという心理的裏づけ(自己納得性)』のようなものも重要と考えられている。

精神内界にある安定した好意的な他者のイメージ(心像)である“対象恒常性”は、幼少期の良好な母子関係の積み重ねにその起源があるともされるが、現実世界で他者から傷つけられたり裏切られたりしたとしても、内面の対象恒常性が維持されている限りは、深刻な精神的危機(精神疾患を発症するほどの強烈な対象喪失の認知)にまでは至りにくいと考えられている。『対象恒常性の欠損』が境界性パーソナリティ障害(境界例)や演技性パーソナリティ障害の心因になることがあることからも、対象恒常性の形成維持は人間の『感情・気分・行動の安定感(強烈なストレスに対する耐性)』と密接なつながりがあるのである。

自分と合わない他者の自我(主体的な感情)やさまざまな他人の要求・不満と衝突することは精神的ストレスになり、人間関係には時間・労力・コストがかかるという煩わしさもあるのだが、それでも大半の人は、人間がアリストテレスの時代以前から『社会的動物』と呼ばれる由縁でもあるが、人の好意や愛情、評価、親しみを求めることを完全にやめる事はできないものである。『継続的に一人でい続ける(誰とも全く話さないままでいる)』という非社会的・非コミュニケーション的な状態は、メンタルヘルスにとって基本的には好ましくない影響(各種精神疾患の発症率との相関も含めて気分・意欲も落ち込みやすい)を及ぼすことのほうが多い。そういった孤独感の悩みは、自分を理解してくれる親しい他者が欲しいと思いつつも、その思いを『どうせ自分なんか人に好かれない・人間関係には良い部分もあるが面倒で煩わしい事のほうが多い』という形で、自分で否定してしまう『認知的不協和(cognitive dissonance)』とも関係している。

人間関係に対してどのくらいの距離感や親密さ、話す頻度を求めるのかについては、確かに個人差が大きくてある程度長い期間にわたって他人と関わらなくても平気という人もいるが、『誰かといざ話そうと思えば話せる程度の親しさがある関係』さえ必要ないというほどに、ドライで孤立したライフスタイルを徹底できる人はそう多いものではない。

人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求3:孤独感をどう緩和するかの視点

“孤独感・疎外感・無援感”は自分に心理的な支えがなくて、他の人は他者と上手く関係を作りながら楽しくやっているのにと感じる中で、自分だけが一人で広漠とした社会(世界)に投げ出されているという感覚をもたらし、その孤立した不安で寂しい状態からこのまま抜け出せないのではないかという認知によって苦悩・絶望が強まることになる。誰かと話したくても話せる人がいない、自分を好意的に認めてくれる他者がいないという状態が長く続くと、大半の人は精神的にかなりつらくなってくるが、そのつらさや苦しみを和らげる最善の方法は『信頼感のある人間関係の構築』であるが、すぐに人間関係の形成や維持が上手くいかなくても幾つかの方法によって、孤独感のつらさを改善することはできる。

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1.“できれば良い人間関係を作りたいという認知”と“どうせ上手くいかないから人間関係なんか無くても良いという認知”が矛盾・対立している認知的不協和(cognitive dissonance)を修正して、できるだけストレートな(素直な)気持ちと明るい表情で行動するようにすること。

2.“今このようにある現実の人間関係の状態”と“これからこのようになりたいという理想の人間関係の状態”の間で、実現可能な目標をオープンマインド(開かれた気持ち)で設定すること。“今の人間関係の悪化”に対して適切な捉え方や対処法を取れるようにすること。

3.“人間関係・他者との付き合い(他者からの反応)”だけに自己の存在価値や生き甲斐を依存せずに、“人間関係以外の課題・趣味・目的・楽しみ”にも意識を向けてみて、努力しても人間関係で行き詰まった時には他の活動でも気分転換できるようにすること。

4.『この人は~だから自分とは絶対に合わない・この人は~の属性や帰属先を持っているから嫌いだ・この人は~の特徴があるから不快だ』といった偏見や固定観念を生み出す“スキーマ(認知的枠組み)”をできるだけ弱め、フラット(中立的)な目線で色々な人を見てみたり接してみること。

5.人間関係が上手くいっていても上手くいかなくても、『自分自身の存在価値・尊厳』が失われるわけではないという現実認識(自己認知)を持つようにして、人間関係や仕事、学業、趣味・娯楽をトータルに捉えながら、『今の自分にできそうなこと・それをやることで自信(自己肯定感)が高まること』にまずは取り組んだり、必要に応じて『何もしないぼんやりリラックスする時間』も取り入れること。

人が人との“広義のふれあい(相互承認のコミュニケーション)”を求める理由には、“助け合い(役割分担)の社会的生産性”“異性選択の繁殖適応度”といった進化生物学的な理由ももちろんあると思われるが、社会性や孤独感、承認欲求(帰属欲求)を持つ人は自分ひとりの意志の力だけでは、『自分の存在価値・生きる意欲や目的性』を十分に支えきることができない精神的な弱さ(個体単位の自己不全性)も抱えている。

誰かに自分の存在や活動、考え方、好き嫌いを認めてもらいたいという欲求は、その程度の差はあっても半ば普遍的なものである。自分一人だけに閉じた世界ではそういった『他者からの支持・共感・承認』が得られないために、人は対人関係が完全に無い状態では孤独感や寂しさ、自己不全感を感じやすくなり、『自己の空虚化』を避けるために他者を必然的に求めてしまうのである。他者との共感的な語らいや相互承認のコミュニケーションに対する飢えは、『自分に自信が無くなった時・自分の自尊心が傷つけられてしまった状態』において高まりやすく、自分の存在や活動、実績、野心にギラギラとした自信が漲っているような時期に、それほど強い孤独感や寂しさを感じる事はあまり無いはずである。

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他者との共感的なコミュニケーションや円滑で持続的な人間関係は、『自分がその相手に好かれていて必要とされているという感覚』を生み出すが、その心地良い感覚が傷ついた自尊心(自己肯定感が弱まる孤独感)を癒したり、物事をやり遂げるという自信を高めてくれることも多い。エリック・バーンの交流分析(transactional analysis)では、他者の存在を認知する刺激(言動・態度)のことを“ストローク(stroke)”と呼ぶが、人は本能的に『正のストローク(肯定的な刺激)』であっても『負のストローク(否定的な刺激)』であっても、それが全く無いよりかはあるほうを望むという傾向性を持っている。

十分な自己肯定感と精神状態の安定があって、物事に対応するための自信が高まっている時には、『孤独感による寂しさ・自信喪失(自己不全)』というのは感じる事が少なくなるが、『人と何かを話したくてたまらないという思い・自分の感情や思考、体験を聴いて貰えないことがつらかったり面白くないという感覚』は自分の自己存在に対する自信(確信)が低下していることのメルクマール(指標)になることもある。いつでも自分が話したい時に話を聴いて貰える、自分の語りかけに対して適切な反応(応答)が返ってくるというのは、子ども時代や学生時代はともかく、それぞれの仕事・生活で忙しくなる大人になるとなかなか贅沢な願望でもある。子ども時代には親が子どもの不満・疑問・体験について丁寧に話を聴いてくれるという事もあり、子どもの訴えかけに対する親の適切な受け答えのことを『情緒的応答』と呼んだりもするが、成長して大人になるに従って随時の情動的応答を与えてくれる人は『配偶者(自分で形成した家族)・親友・恋人』などに限られてくる事が多くなる。

人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求4:非指示的カウンセリングと自己開示

自分の感情的な呼びかけ(話しかけ)に対して、適切に望むような形で応答して欲しいという『応答可能性に対する欲求』は親和欲求や愛情欲求として括られることもあるが、人間にとって相当に本質的かつ不可避的な欲求であり、『対人関係(家族関係・異性関係・友人関係)のトラブル』の多くも、応答可能性が断絶したり全く望んでいない反応が返ってくることによって起こるのである。恋愛関係が上手くいかなくなったり別離が迫ってくると、自分の電話・メールによる呼びかけに相手が応答してくれる頻度が減ってきてフラストレーションが溜まりやすくなり、完全に応答が途絶えて無視をされると、中にはそのフラストレーションに耐え切れずに、大量のメールを送りつけたり電話をかけまくるといったストーカー行為にまでいってしまう人も出てくる。

結婚生活で夫婦関係が冷え込んできた時にも、自分の呼びかけや話し掛けに対して相手がまともな返事を返してくれなくなり生返事・無視が増えたりすることも多く、『応答可能性・情緒的応答』というのはその人間関係が上手くいっているかダメになっているかを分かりやすく示してくれる指標のような働きをしている。応答可能性が低下したり反応がなくなったりするというのは、婉曲的な拒絶(別離)のメッセージであったり、言わなくても理解してほしいという暗黙の了解を期待するものだったりするが、人間のコミュニケーションや人間関係の大部分は『お互いが心地良く感じられる応答可能性(情緒的応答)』によって支えられているという見方もできるのである。

お互いに好意や敬意を抱いている人間関係では、電話を掛ければ気持ちよく明るい声で出てくれたり、その時に出なくても後で折り返しの電話を掛け直してくれたりするものであり、直接向き合っている時の会話のコミュニケーションでも、概ね『相手が期待していると思われる反応』を半ば無意識的に返すことでお互いに心理的報酬を与え合っている。この発話と応答にまつわる心理的報酬は、人間の孤独感や自己不全感を癒す効用を持っており、『カウンセリングの傾聴・共感的理解の態度』にもその効用が働いており、幅広く見れば夜の飲み屋(クラブ・キャバクラ等)の接客(お客をもてなして持ち上げる共感的な情緒的応答)というのも、大金を払っても惜しくないほどの心理的報酬がそこにあるという事を示している。自分の呼びかけに対する共感的かつ情緒的な反応というのは、人間関係が良好に維持されている限りにおいては殆ど空気のように無償に近いものであるが、人間関係がトラブルでこじれたり孤独な状況に追いやられたりした時には、応答可能性の価値が意識化されて非常に重要なものになっていく。

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『自分について語る行為+その話を共感的に理解される事+その話に適切な応答をしてもらう事』は単純に心地良くて自尊心が満たされ、自信が回復するといった心理的報酬に留まるものではなく、それはそのまま、カール・ロジャーズのクライエント中心療法に代表される非指示的療法の作用機序にもつながっている部分がある。実際に特別なアドバイスや行動指示・解釈をしなくても、ただ悩んでいることや傷ついた出来事について率直に話して共感的に聴いて貰うだけでも、一定のストレス解消や感情の安定化(感情浄化)の心理効果がある事は誰もが経験的に知っている事ではある。そして、そういった『苦悩・心的外傷の言語化+言語化された内容への共感と受容(尊重)』は専門的なカウンセリングや心理療法においても、クライアントの気持ちを整理したりストレス状態を緩和するために有効な基本的技法(基本的態度)の一つに位置づけられている。

自分の感情・苦悩・体験・考えについてありのままに語ったり文字として書いたりする行為は、通俗的には『気持ちを吐き出す行為』として推奨されることがあるものだが、自分の感情や悩み、体験を言語化して聴いて貰うことは、(過度の依存性・話の反復性・妄想の深まりが見られるパーソナリティ障害などを除き)一般に心身のストレス状態を緩和して良い影響を与えることが多いものである。また、自分や私的な悩みについて深く話す行為は『自己開示』としての作用を持っており、お互いに自分のプライベートな情報や悩みについて開示し合うことによって人間関係の親密さも高まりやすい。深いレベルの『自己開示(アサーション)』というのは、ある意味では他の人にはなかなか話せない秘密や自分の弱みにつながるような情報を教えることでもあるから、それだけ自分のことを信頼して話してくれていると相手が感じれば、お互いの好意・信頼感も必然的に高まりやすくなる。

自己開示にまつわる対人魅力の実験では、『今日の天気はどんな感じか・どんなテレビを見たか・ランチに何を食べたかなどの当たり障りのない話題(自己開示度が低い話題)』よりも『自分はどんな気持ちでいるか・家族構成はどんなでどこに住んでいるか・通っていた学校はどこだったか・人間関係や結婚生活などで悩んでいることは何かといったプライベートな話題(自己開示度が高い話題)』をしてくれた相手のほうを、より魅力的で好意が持てると評価することが多いという結果が出されている。更に、自分が無難などうでも良いような話をすれば、相手もそのレベルに合わせて表層的な当たり障りのない話題を返してきやすく、自分が内面の変化や深刻な悩みなどプライベートな深い話題をすれば、相手もそれに合わせて本質的・私的な深いレベルの話題を返してきやすいことが知られている。例外としては、話の聴き手に心理的余裕がない場合や話している相手に初めから全く興味が持てない場合、親しくない相手にいきなりプライベートの深い話題をする場合などがあるが、それなりの人間関係が前提としてある場合には『自己開示度が高い私的な話題』のほうが相手に対する好意や親密さは高まりやすいのである。

他人となかなか親しくなれないとか友達が出来ずに悩んでいるとかいう人は、相手の話を共感的に受け容れながら傾聴して支持する“カウンセリングマインド”や、相手との距離感(親しさ)に応じてより自分の気持ち・考えをオープンにしていく“積極的な自己開示(アサーション)”を意識してみると、相手が自分に持ってくれる印象や評価が良い方向に変わるかもしれない。

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カウンセリングと人間関係における傾聴・共感・信頼1:共感と同情の違いはどこにあるのか?

カウンセリング(counseling)とは『心理的な問題(悩み)』を抱えた健常者や病態水準の低い人をクライエントとして、その問題・悩みの解決を支援する対人援助技術(面接構造での人間関係)のことです。カウンセリングの手段と目的をまとめれば、人間の行動・心理についての専門知を活用し、言語的コミュニケーションや非言語的コミュニケーションを手段としながら、クライエントの効果的な行動・心理の変容を促進して、そのクライエントが抱えている問題(悩み)の解決や緩和に近づける関わりとして整理することができます。カール・ロジャーズ(Carl Rogers)が創始した来談者中心療法(クライアント中心療法)は、カウンセリングの代表的な技法であり、ロジャーズは『傾聴・共感的な理解・真実性・自己一致・無条件の肯定的受容(積極的尊重)・非審判的態度』などのカウンセラーとして大切な基本的態度を示しました。

これらのカウンセラーの基本的態度は、個別にバラバラの要素として機能するのではなく、相手の話を効果的に傾聴するために必要な前提であり、それぞれが相互に有機的なつながりを持っているので、真実性(率直性)や共感性を示しながら相手の話を受容的に傾聴することに重点が置かれています。クライアント中心療法に示されているカウンセラーの基本的態度は、日常的な人間関係や会話を円滑にして継続させるためにも有効なところがあり、相手を批判(分別)する姿勢を弱めて、共感や敬意、真実性を発揮しながら肯定的な解釈で相手の言葉に耳を傾けるような態度を『カウンセリングマインド』と呼ぶこともあります。

カウンセリングマインドで最も重視されるのは『傾聴・共感(sympathy)・共感的理解』ですが、“共感”は日常的な言語感覚では“同情”と一緒くたに同じような意味で使われることも多いのですが、カウンセリングでは両者の認識は異なります。『共感』は相手の苦悩・境遇を可哀想と思って感情移入することではなく、相手を“実現傾向(問題解決できる可能性)”を持つ一人の対等な人間として尊重した上で、『相手の話題・興味関心』に率直な関心を持つことという感じに近いものです。共感と同情の違いは以下のようなものになります。

○共感

1.自分と相手を“対等な人間”として尊重し合い、今の時点で苦境や不幸がある相手に対しても『実現傾向(自分で問題を解決していく傾向)の可能性』を信じており、自分と相手とを相対的に比較することへの意識が薄い。

2.相手の自尊心・自立心を尊重して、自分の人生や生き方に対して必要な責任感(何とかしようとする思い)を持つことを促進するので、『優位‐劣位・支配‐依存』のような不健全な自立(自信)を阻害する関係性の枠組みに当てはまることが少ない。

3.相手の立場・目線から物事を見るように意識し、自分の立場からの意見や指示を減らすことで、『相手の興味関心・悩みの内容』に自分も積極的に関心を持とうとする。

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○同情

1.相手が自分よりも不遇な立場(悪い状態)にあるという前提で、憐れみや悲しみの感情を向けることで、潜在的に自分が相手よりも恵まれているという安心感を得られる部分がある。

2.同情する側と同情される側で、『優位‐劣位・支配‐依存・幸福(幸運)‐不幸(不運)・援助‐被援助』といった関係性の枠組みに当てはまりやすくなり、同情される側の自尊心・自立心が低くなりやすい。

3.『相手の興味関心・悩みの内容』よりも、自分の現状から相手の状況をどのように見ているのかという自分の関心(認識)が中心になりやすく、同情・憐憫を示しつつ自己満足に陥るだけのやり取りになりやすい。

カウンセリングマインドとしての共感性(共感的理解)は、カウンセリングに限定されない人間関係一般にも通じるということを話しましたが、人間関係が上手くいかない人やスムーズに会話が続かない人には、『相手の話題や関心に意識を向けない・自分のことにしか興味関心がない・相手の話したいこと(気分が良くなるようなこと)を引き出すような質問や対応をしない』という傾向が見られやすく、相手の関心事や存在に自分も関心を持つという意味での共感性や傾聴が不足していることが多いのです。良好な人間関係や双方が楽しめる会話(コミュニケーション)の基本は、『他人(相手)に積極的な関心を持つようにすること・相手が話したいことを話せるような対話の雰囲気を作ること』にあり、これはそのまま共感的理解にもつながっています。他者を理解して信頼関係(ラポール)を深めていくためには、自分だけが話したいことを話すのではなく、相手にも興味関心を持って相手の考えに同意したり、相手の会話欲求を刺激するような質問をしたりといった『他者中心の会話の流れ・相手の話したい気持ちを促進する質問の内容』をある程度意識してみることが大切だったりもします。

カウンセリングと人間関係における傾聴・共感・信頼2:人間関係の深さに応じたコミュニケーションの工夫

同じ人間関係といっても、職場で挨拶だけ交わすような軽い付き合いから、結婚(恋愛)のように生活時間や感情体験を共有するような深い結びつきまで様々な種類や場面、深さのレベルがあるわけですが、『人間関係の深さのレベル』は大まかに分ければ、『他人→知人→友人→固有の重要な関係性』として考えることができる。

他人……何の関わりもない知らない相手であり、必要性がない限りはコミュニケーションも発生しない。

知人(関わりあい)……顔見知りで挨拶やちょっとした雑談をすることもあるが、基本的には店員とお客、付き合いのない近隣住民、職場の知り合い、感情交流のない同窓生のように『義務感・役割意識・パターン化された交流』によって関わっているだけの相手である。

友人(つながり)……相互に親しい友人として認識しており、仕事や義務以外での積極的な交流・会話の機会を持ちたいと思い、喜怒哀楽を含めた感情的な交流もできるような相手である。『建前のやり取り』を越えた『本音のやり取り』もすることができ、自分の思っている本音を出せるがゆえに、他人や知人との間では生じることがない感情的なトラブルが発生することもある。

固有の重要な関係性(結びつき)……『愛・婚姻・血縁・友情』などを媒介とした自分にとってかけがえのない相手(他者と交換不能な相手)であり、人生の時間や経験を長く共有していくような『運命共同体』を形成することも多い。夫・妻・子・無二の親友・親しい親族などが『固有の重要な関係性』を築くことになる典型的な相手であり、それぞれの関係は相互的であり、お互いの人生・幸福に対して一定以上の責任を帯びているのが特徴である。

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自分だけが良ければよい、自分は自分・相手は相手でやっていくという自己中心性が通用しづらい関係でもあり、友人・知人よりも心理的距離や実際的な利害関係も深くなり、どちらかだけの都合だけで絶縁したりすることも難しくなる。その相手と深く結びつくことで、『喜び・楽しみ』と『悲しみ・苦しみ』の双方が増す可能性がある関係であり、人によっては人生の幸福の原因にもなり不幸の原因にもなるものである。一般的に、人間関係の深い相手になるほど、『心理的距離が近づく・接触頻度が多くなる・影響力が大きくなる・必要性や依存性が生まれやすくなる』ということが言えるでしょう。反対に人間関係が浅い相手であれば、『心理的距離が遠くなる・接触頻度が少なくなる・影響力が小さくなる・必要性や依存性が生まれにくい』ということになり、同じような言葉を言っていても人間関係が深い相手が言ったほうが影響を受けやすくなります。

『家族・恋人』のような存在は心理的距離が極めて近くなり、相手の影響力や必要性も高くなってくるので、相手が何回か電話に出ないだけでもかなりのストレスや不満を感じることがありますが、逆にちょっとした知り合いなどであれば心理的距離が遠くなるので、暫く相手に連絡がつかなくても殆どストレスを感じることがないという事になります。心理的距離が近い家族や恋人との関係が上手くいっている時には精神的な安定感が得られやすくなり、物事に対するモチベーション(意欲・行動力)も高まりやすくなりますが、いったん家族・恋人との関係が険悪になったり離婚(別離)の危機が高まると、それ以外の相手との人間関係よりも強い精神的苦痛(怒り・不安・孤独)を感じやすくなり、時に深刻なトラブルを引き起こすこともあります。

『人間関係が深い』というのは、相手の自分に対する影響力・必要性が大きくて、その関係への依存性が一定以上の高さになっており、接触する頻度も多いということですから、『自分と相手の意見が大きく対立する状況・自分の存在を軽視(無視)されること・相手がいなくなってしまう変化』に対するストレス耐性が低くなりやすいのです。

『人間関係が浅い』のであれば、自分を装ったり職業的な役割に当てはめたりして『よそゆきの建前』だけで無難なやり取りをして済ませることが出来ますが、それはその相手がいてもいなくても自分の心理状態に大きな影響が及ばないからであり(代わりが効くような間柄であり)、『その場だけの関係・役割・義務』を果たせば良いだけという部分もあるからです。言い換えれば、自分と相手との心理的距離が十分に遠く開いているので、『自分の人生・感情』『相手の人生・感情』とを切り離して考えることができるということです。

『他人のことはどうでもいい』というのはエゴイスティックな余り印象の良くない考え方ですが、実際的には全く知らない他人と既に深い関係にある相手とでは、『自分の幸不幸・心理状態にもたらす影響』が非常に大きく異なり、実際にいざという時に不利益を覚悟してでも助け合えるのは『深い関係にある相手(家族・親子・親友など)』しかいないことが多いというのは揺らがない現実ではあります。余りに頻繁に迷惑(負担)を掛けていたり一方的な依存(喧嘩)ばかりをしていれば、深い関係にある相手からも切り捨てられる恐れがないわけではないですが、一般的には関係性が深くなればなるほど、その相手の不幸や苦境を放置しておくこと、何も手助けをしないままでいることは心理的に難しくなります。

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相手との関係性が深まっていき、結婚したりして区切られた生活時間を超えた人生を共有するようになると、自分と相手との関係は半ば『運命共同体』のようになり、自分の人生と相手の人生とを切り離して楽観することは不可能になりますから、相手の幸福は自分の幸福となり、相手の不幸は自分の不幸にもなるという密接不可分な『人間関係の共同性』が生まれることになります。逆に、相手が幸福でも自分は面白くなくて苦しいだけ(犠牲感・徒労感ばかりが募っている)、相手が幾ら不幸でも自分はそれとは無関係に楽しくやれる(相手のことを切り捨てて忘れられる)という事であれば、既にその結婚生活や恋愛関係は心情的な部分では半ば破綻している状態にあることも多いように思われます。

表層的な分かりやすい言語的コミュニケーションだけではなく、非言語的コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)も、相手の感情的反応やメッセージの受け止め方に非常に大きな影響を与えている。カウンセリングマインドにおける『傾聴・共感』の技術を効果的に使って、相互理解を深めてコミュニケーションの満足度を高めるには、以下の要素にも気をつけるべきだろう。

○相手よりも少しだけ丁寧で気配りしているくらいの姿勢や態度。

○相手との関係性の深さに応じた適切な距離感や向き合い方。

○明るく楽しい話題であれば“笑顔・ユーモア”を忘れず、暗くて深刻な話題であれば“誠実な受け答え”を忘れない。

○目線は時折、相手の目に合わせることで、『相手の話を真剣に聞いていること』を示すことができる。基本的には鼻・顎・胸あたりに緩やかに目線を合わせると良い、あまりに落ち着きなくあちこちに目線を移すのは印象が良くない。

○相手の話したい話題を尊重(優先)して、相手の話の腰を折ったりせず、いきなり自分の話したい話題に切り替えたりしない。

○相手の話の内容に応じて適度に相づちを打ったり、『なるほど。そうだね。自分もそう思う』といった肯定的な返事を返すようにする。

○相手との会話を盛り上げたり広げたりするために、『相手が答えやすい質問・話したい事柄を引き出す質問』を工夫してみる。“はい・いいえ,賛成・反対”でしか答えられない『閉じた質問』を減らして、あなたはどのように感じるか、何が好きなのか、どこに行きたいかといった回答の自由度のある『開いた質問』を増やしてみる。

○カウンセリングでも『繰り返し・明確化・解釈』はカウンセラーがクライアントの話をきちんと理解していることを分かりやすく伝えるのに有効な技法であるが、会話の途中や区切りで、相手の話している内容を繰り返して『確認』したり、こちらに伝えたい気持ちや要点を整理して『明確化』して上げたりする。

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カウンセリングと人間関係における傾聴・共感・信頼3:“人間関係のトラブル・困難”に対処するヒント

一定以上の深さと親しさを持つ人間関係では、相互におよぼす『影響力・必要性』が大きくなるだけに、心情的なトラブルや思い通りにいかずに苦しむ問題も起こりやすくなりますが、そういった『人間関係のトラブル・困難』を乗り越えるための認知的対処法として以下のようなものを考えることができます。

1.短所やミスのない完璧な人間、自分の思い通りに動いてくれる相手はまずいないという前提に立つ。

仕事中は業務をテキパキとこなして決断力がある人でも、プライベートな人間関係では優柔不断で悩みが多かったりもする、感情が豊かで人に優しい人でも、職業的な能力は必ずしも高くなかったりもする。論理的なプロセスを経て物事を考えるのが得意でも、相手の感情を推測して適切な対応を取るのが苦手ということもあるだろう。得意なことがあれば苦手なこともあり、長所としての特徴もあれば短所としての特徴もあるという『人間の不完全性』を個性として受け止め、多様な個性(特徴)をもつ相手の短所やミスに過度に反応して怒ったり苦しんでいれば切りがないし、それらの短所をすべて改善することなどは不可能である。

また自分にとって自分の時間や人生が大切なように、相手にとっても自分の時間や人生は大切なものであり、誰であっても『自分の思い通りに動いてくれる相手(自分の欲求・期待を先読みして満たしてくれるような人)』はまずいないのが現実であり、そういった現実認識の上で相手が自分に良くしてくれた時には素直な感謝の気持ちを持つこと、率先して思いやりの言動を示すことで、お互いが気持ちよく交流できる。

2.『相手の言葉・態度・反応』を悪い方向に解釈してイライラしたり落ち込むのではなく、良い方向に解釈してみる。

他人のあからさまな強い悪意や攻撃に対して冷静に対処することは難しいが、『ちょっとした皮肉・嫌味・挑発』であれば、それを悪い方向に解釈していつまでも長く気にし続けるのは、自分が嫌な気持ちや不快な思いを引きずるだけである。そればかりか、悪意を持つ相手の思い通りになって自分だけが苦しんでいるのは余計に馬鹿馬鹿しいことでもある。自分を不当に批判するような『相手の言葉・態度・反応』にイライラしたり落ち込んだ時には、『そういう言葉を言わざるを得ない相手の苦境(ストレス)もあるのだろうから仕方ない』という風に考えたり、相手の言葉や態度の持つ意味を、ご都合主義であっても良い方向に解釈して不快感を引きずらないようにしたほうが良い。

相手と直接的に対決して納得するような方法もあるが、ちょっとした悪口や嫌味に対しては、相手から『そういうつもりで言ったのではない』といった肩透かしの反応を返される可能性もある。基本的には、『合わない相手を変えようとするよりは、自分を変えるか相手から離れる』というのが正攻法だが、離れることが難しい接触頻度の多い家族・配偶者のような相手の場合には、『自分を変える部分・相手が変わる部分との納得のゆく調整(バランスの取り方)』が必要になる。

3.ファクト(事実)とオピニオン(意見)の区別をつける。

何月何日に休みを取って旅行に出かけたというように、誰が見ても同じように認識できるのが“客観的なファクト(事実)”であり、あの人の性格や考え方は嫌いだしむかつくといった、その人と賛同者だけに通用するような物事の見方や評価、解釈が“主観的なオピニオン(意見)”である。何かが起こったり誰かが何かをしたりした『客観的なファクト(事実)』は、誰が見てもその内容を変えることができないが、その人の物事の見方や解釈、好き嫌いである『主観的なオピニオン(意見)』であれば、そこのある誤解や対立を解消するための冷静な話し合いをしたり、相手と自分のオピニオンの違いを尊重したりすること(無理に変えようとしないこと)もできるのである。

相手から自分の能力・価値を低く評価されたり、人間性について非難されたりして落ち込んだり苦しむこともあるが、その『低い評価・非難の内容』が自分についてのファクトを指摘したものなのか、その人だけに通用する(他の人にまでは通用しない)オピニオンに過ぎないのかを落ち着いて判断することによって、その批判・非難に対する受け止め方も自然に変わってくるものである。

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4.『ネガティブな感情(怒り・不安・恨み・抑うつ)』の受け止め方を工夫して、感情表現と不適切な行動を結び付けないようにする。

アルバート・エリスの『論理情動行動療法(REBT)』のABCDE理論やアーロン・ベックの『認知療法』の認知理論(認知スキーマ)は、“客観的な状況・出来事”が“ネガティブな感情”を生み出すのではなく、“自己否定的な認知”が“ネガティブな感情”を生み出すという前提に立っている。“嫌な出来事(不快な状況)”があったから悲しみや怒りが必然的に湧き起こるのではなく、上司から仕事のミスを注意されたことを自分が全く能力のない人間だと解釈したり、友達が電話にでない状況を自分が魅力のない嫌われやすい人間だと解釈したりすることによって、『ネガティブな感情』が強化されてしまい、それが悪化すればうつ病・社交不安障害のような病的な心理状態にまで至ってしまうのである。

客観的な状況(出来事)や人間関係でのやり取りをどのように受け止めて評価するかという事には、『主観的な認知や解釈の自由度』がある。そのため、悪い方向に解釈し続ければとことん自分を落ち込ませて絶望的な心理状態にまでいく危険性もあるが、良い方向に解釈するようにする認知の転換ができれば自分の苦痛を和らげることもできる。また、怒りや憎悪の感情を感じたからといって、それを『暴力・加害・嫌がらせ』のような行動に直接的に結びつけるのではなく、『怒りが発生した原因の根本(どういった考え方が自分の怒りを増強しているのか・なぜその人は自分を怒らせるようなことをするのか)』に目を向けることで、怒りの感情の適切な表現方法(自分を破滅させたり惨めにさせない表現の仕方)を選ぶこともできる。

5.自分にとっての『重要な問題』と『瑣末な問題』を区別して瑣末な問題にこだわらない。

メンタルヘルスを健康に維持するためには、自分にとって本当に『重要な問題』が何なのかを見極めてから対処することが大切であり、『瑣末な問題』にいつまでもこだわってしまうと、自分で自分を必要以上に苦しませたり落ち込ませたりする弊害が非常に大きくなってしまう。無視することができず対応しなければならない『重要な問題(クリティカルな問題)』とは、“自分や家族の生命・身体・財産・自由に直接の危害が及ぶ恐れがある問題”であり、これらのクリティカルな看過することができない問題に対しては慎重かつ適切な対処をしなければならないのは当然である。

一方で、それを無視していても大きな実害や危険性がない『瑣末な問題』の場合には、それに過剰に反応したり不安感をいたずらに募らせる必要がなく、逆にこだわって考えすぎる事によって、瑣末な問題なのに実際的な被害(心身の不調・意欲の減退・将来の悲観など)が出てしまう事態にもなり兼ねない。他人の主観に基づくその場だけの批判・悪口(無根拠な暴言で言っているほうの人間性が疑われるようなもの)、自分の見栄やプライドだけに関わる問題(自分を実際以上に良く見せたいという欲求が満たされないだけの悩み)などは、そのまま放置していても実害がなく過敏になって反応するほうが被害が大きいという意味で『瑣末な問題』に含まれるだろう。

自分にとって何が重要であり何が重要ではないか、その問題によってどのような実害・損失が想定されるのか、自分や自分の大切な人にとってどのような影響があるのかなどによって、『悩んでいる問題の重要性・喫緊性』を判断してからその問題にふさわしい対応や態度を取れば良いのである。

コミュニケーションを円滑にするカウンセリング的な傾聴のポイント1:非言語的コミュニケーションの影響

人間関係やコミュニケーションを円滑にするカウンセリング的な技法として、『傾聴・共感的理解・肯定的受容』について紹介しましたが、相手の話を真剣に聴いている事を示すためには『自分の側の反応・態度』も必要になってきます。どんなに真剣に『相手の話』を聞いてその訴え・内容を理解しているつもりでも、表情・目線が上の空でぼんやりしていたり姿勢が悪くてだるそうな印象を与えたり、相手の話に対する適切な質問・受け応えがなかったりすれば、相手は『自分の話に興味をもってくれていない・この人に話しても受け入れてもらえない』という感想を受けてしまいます。傾聴や共感的理解、人格的な好意によって形成される“カウンセリングのラポール(相互的な信頼感)”は、クライアントの話している内容をより深い方向へと導くだけではなく、話したことによる満足感や安心感を高める作用があり、この心理的変容や会話の満足感は一般的な人間関係にも通用するものがあります。

『聴き上手な人・相談をしやすい人』というのは、ただその場で付き合って話を聞いてくれる(音声としてヒアリングする)というだけではなく、その人の存在を肯定的に認めた上で相手に興味を持って話を聴こうとしてくれる(感情・意志の篭った声をリスニングする)のであり、そういった態度や反応が『会話をすることの満足感・自分が理解されて受け容れられている感覚』を生み出すとも言えます。ただ一般の友達・知人などの人間関係では、『専門的・職業的に丁寧に傾聴するスタンス』を取れるわけではないので、共感的・受容的に相手の話を真剣に聴こうとする人であっても、『ある程度の相互性・心理的メリット(自分も相手から話を聴いてもらっているというお互い様の認識や相手に対する持続的な好意・興味)』がなければ、そういった相手を全面的に受け入れるスタンスは長続きしないという違いはあるかもしれません。

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自分が相手から受け容れられていて好意的・共感的に話を聴いてもらえているという実感があれば、大半の人は『好意の返報性』を無意識的に発揮して、その相手に対して親切に振る舞ったりその話を丁寧に汲み取って聴こうとします。しかし、『相手に対する不信感・悪印象』が高まるような不快なやり取り(不誠実な対応)が繰り返されると、自分の反応もそれに合わせて悪くなっていくものだからです。対人コミュニケーションでは、『物理的な距離感・表情や目線の変化・相手の言葉に対する受け応え・ジェスチャー』などが、相手に対する印象・評価を決定する要因になっていますが、特に言葉によって意味を伝達するのではなく、身体的な動きや態度、表情、身振りといった“非言語的コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)”が果たす役割も大きくなっています。対人コミュニケーションにおいて、相手が持つ『自分に対する印象・評価』を高めるためには、以下のような“態度・表情・距離・ジェスチャー・受け応えのポイント”が参考になります。

1.相手との関係にふさわしい対人距離(物理的距離)を取るようにする。

人間はそれぞれの親しさや関係性に応じた『快適・安心に感じられる距離』があり、家族・恋人のように親しい相手であれば手の触れられる『密接距離(45センチ以内)』でも良いが、一般的な友人・知人と話す時であれば『個体距離(45~120センチ以内)』の距離を取ったほうが不快感・違和感を感じにくい。個体距離というのは、相手の表情を自然に確認できるという距離でもある。正式な会見や交渉などの関係性では、『社会距離(120センチ~350センチ)』までの距離を取ることもある。講演・授業・式典などで距離が開けられる『公共距離(350センチ~700センチ以上)』までいくと個人対個人のコミュニケーションとしては不適切である。

2.他の仕事や用事をしながら相手の話を聴かないようにして、相手の顔(胸から顔の辺り)に目線を向けるようにする。

何かのついでに適当に話を聞いているだけという印象を与えないようにするために、相手とのコミュニケーションでは『それ以外の仕事・用事・手遊び』などをしないようにして、相手の胸から顔の辺りに目線の高さを合わせるようにする。親しい関係の相手であれば真正面に立ったり座ったりすれば良いが、それほど親しくない相手や緊張する上司・顧客などであればやや斜めの位置に立ったり座ったりすると気楽さが出てくる。

3.相手の話の内容やその時の感情にふさわしい表情を返すようにする。

相手が自分の不満について怒りを出して語りかけているのに、自分が無表情だったりにやけた表情をしていると、相手は当然ながら『この人は自分のこのつらい怒りや憤慨を理解してくれていない』という不信感を感じてそれ以上話すことをやめてしまう。深い悲しみや絶望を感じて暗い表情で語りかけている相手に、明るく爽やかな表情で応対するというのもバランスを欠いており、相手の悲しみやつらさへの共感を表すためには『真剣な表情・沈痛な趣き』を大袈裟にならない程度に返して上げることが望ましい。相手が『どこかに旅行に出かけてその景色や人情に感動した』などの明るい話題や楽しい経験について語っている時には、無表情・無関心だったり面白くないような表情をせずに、自分も相手と同じように楽しんでいるという感じの生き生きした表情を返すことで、『自分と相手との共感性・相互理解』のリアリティも必然的に高まっていくことになる。

4.相手の話に対して適当な“肯定・了解・うなずき”の反応を返すようにする。

相手の話を傾聴するといっても、ただ黙り込んで一方的に聞いているだけでは、『相手の話をしたいという意欲』を掻き立てることはできない。黙っている態度や話に対する反応の薄さを見ると、『この人は自分の話題に興味関心がないのだろう。自分だけが話して相手は迷惑に思っているのではないか』と察して話をするのをやめてしまうことになりやすい。相手の話に対しては、『うんうん・自分もそう思う(そんな経験をしたことがあった)・それからどうなったの?・それは面白いね(珍しいね)・今度自分もそれをやりたい・もっと詳しく教えて・話を聴いてそれについて初めて知ったよ』といった肯定的な反応や適度なうなずきを返すことで、相手は自分に興味関心を持ってもらえているという実感を感じやすくなり、話を聴いてくれている相手に対して好意・信頼(また会いたいとかまた話したいとかいう感情)を覚えやすくなる。

5.相手の話したいことについて聴いたり反応したりするようにして、『自分の意見・忠告・批判・別の話題』などを挟まないようにする。

会話がスムーズに行かなかったり相手の話す意欲を萎えさせてしまうのは、『相手の話の腰を折る反応(相手の話している感情に水を浴びせるような対応)』であり、例えば、自動車のカスタマイズや長距離ドライブが趣味の人に対して、『自動車は排気ガスで大気汚染をするだけでなく、石油資源を大量に燃やして温室効果ガスを出しているので好ましいものではない、自分は車は使わずにできるだけ歩いたり自転車を使いたい』というような批判めいた理屈を持ち出せば、相手は自分の好きな車についてそれ以上語ることが難しくなってしまう。そこまで極端な反対や批判ではなくても、『でも,しかし~』や『自分の場合は~だから』、『それはともかくとして~』といった言い回しによって、婉曲的に『自分と相手との趣味・考え方が合わない』ことを伝えてしまって、相互の会話が噛み合わなくなりコミュニケーションの面白さ・楽しみが損なわれてしまうこともある。

共感的な傾聴に基づく会話の基本は、『相手の話題(話したいこと)について話す』ということだが、『自分の話したい別の話題に急に切り替える・相手の話題にまったくふれずにスルーする』というのは無意識的にやってしまいやすい事でもあり、その事によって『相手のより深く話そうとする意欲』が低下しやすくなってしまう。

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コミュニケーションを円滑にするカウンセリング的な傾聴のポイント2:反射・共感・明確化・開いた質問

『相手の話題・発言』に対してどのような反応(応答)を返せば円滑なコミュニケーションにつながるのかは、なかなか難しい部分もありますが、『相手の話題(話したいこと)について話すという事』を基本にしながら、『自分の話題・経験に相手の興味関心を惹きつけるという事』も意識してみると良いと思います。

○相手の話題(話したいこと)について話すという事

Aさん『昨日の晩御飯は、六本木で知り合いが経営しているレストランに家族で食事に行ってきたんだ。』

自分『六本木のレストランまでディナーに行ってきたんだね。』

Aさん『うん、いつもは帰りが遅くてなかなか家族で出かけられないんだけど、知り合いの店だから普通のコースよりもサービスして貰えて良かったよ。』

自分『仕事が忙しいとは聞いてたけど、毎晩帰りはかなり遅くなるのは大変だね。友達からサービスもして貰えたみたいで良かったね。』

Aさん『うん、なかなか妻や子どもとゆっくり話す時間も取れなかったんだけど、昨日は高校生の子供の進路についての話題なんかもでたりして、久しぶりに話すきっかけも得られたんだけどね。』

自分『あぁ、もうB君もいつの間にか高校生になってたんだね。B君も自分の進路ややりたいことについて色々と考えているんだろうけど。』

Aさん『そうなんだ、今までまともに家族と向き合う時間があまりなくて反省しているんだけど、息子は第一志望だった大学と自分のやりたいことにつながる学部とが噛み合わないといった話もあるみたいで…』

自分『俺たちも学生時代や若い頃にはあれこれ迷ったり悩んだりしたけど、自分の問題ではなく、親として子どもにどういったアドバイスをすべきかも悩ましいところではあるね。』

このAさんと自分の会話のやり取りでは、相手の話している話題やテーマを繰り返すようにして返す『反射(オウム返し)』と“大変だったね・良かったね・悩ましいところ”といった『感情的な共感』の技法を適宜用いることで、相手が更にその先を話したくなるような会話の流れが自然に作り出されている。『反射(オウム返し)』というのは極めて単純で基本的な技法ではあるが、『相手の話している内容』についてちゃんと聴いていますよということを示す分かりやすい応答であり、『反射(オウム返し)+感情的な共感+適切な質問(開いた質問)』の組み合わせによって、スムーズで気持ちの良いコミュニケーションが展開されやすくなるのである。反射(オウム返し)だけに留まらず、『明確化(要約)+相手の伝えたい感情の反復+開いた質問』などのカウンセリング技法を合わせて用いることで、相手に対する興味関心の強さだったり相手の感情に対する共感だったりを自然に伝えることができる。

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感情的な共感というのは、『喜怒哀楽の分かりやすい感情』を相手に伝える事であり、『本当に楽しそうだね・それは私も許せないしむかつくね・そんなに悲しい事があってつらかったでしょうね・落ち込んで何もしたくなくなる事があるよね』といった感じの言葉で、“相手の感じていると思われる感情”をそれとなく言語化することでもある。基本的に対人コミュニケーションでは、『相手の感情・感覚を否定するような応答』は敬遠されやすく、素直な考えや気持ちを話しにくい相手として認識されるので、相手の発言内容に賛同できない部分があっても、(考え方そのものついては別途議論するにしても)その訴えてくる感情には共感的反応を返すほうが人間関係は深まりやすい。

『閉じた質問(Closed Question)』『開いた質問(Open Question)』の質問形式の違いは、閉じた質問は『ステーキは好きですか?あなたは働いていますか?昨日の夜は家にいましたか?』など“はい・いいえ”でしか答えられない質問だが、開いた質問のほうは“自由な回答・自分の話したいように答えられる自由”が許されている質問である。上記した『閉じた質問(クローズド・クエスチョン)』を『開いた質問(オープン・クエスチョン)』に置き換えると、『どんな食事のメニューが好きですか?どのような仕事に興味がありますか?(仕事内容は大まかにいうとどのようなものですか?)・昨日の夜は何をして過ごしましたか?』などの質問になる。その結果、質問された相手はより自由度のある答えを返せるようになり(問い詰められているような緊張も和らぎ)、その質問を起点とした会話が弾むきっかけにもなりやすい。

『明確化(要約)+相手の伝えたい感情の反復+開いた質問』を活用した会話の事例を上げると、以下のような感じになってくる。

Bさん『最近、彼氏との恋愛が上手くいかなくて悩んでいるんだけど、彼が真剣に話を聞いてくれないの。』

自分『彼との関係が上手くいかないというのは辛いよね。真剣に話を聞いてくれないというのはどういうことなの?』

Bさん『うん、もう付き合ってから5年になるんだけど、今はお互いの気持ちとか悩みとかを改まって話す機会もなくなってきたんだよね。付き合った当初はお互い大学生だったけど、卒業して環境も変わってきちゃって、彼も忙しいことは分かってるんだけどね。』

自分『Bも今年からは働き始めたし、確か彼氏のほうは何歳か年上だったよね。環境が変わって今までのような付き合いができにくくなったとか。』

Bさん『私のほうも忙しくて頻繁に連絡はできないんだけど、彼のほうから電話やメールは滅多に来ないし、彼が去年から出張で距離も離れてしまって。』

自分『距離が離れてしまうと心配なことも増えるけど、仕事がお互い忙しくて連絡も少なくなるのは寂しいし、お互いがどう思っているかも伝えにくくなるしね。』

Bさん『そうなの、それでこのまま離れたままで話をすることも少なくなっていくと、彼との関係がどうなるのか自信も無くなってきちゃって。たまに仕事の付き合いで会うCさんから食事の誘いを受けていて、彼氏がいるからと断り続けてはいるんだけど。』

自分『要するに、彼氏と離れて連絡回数が減ってしまっているのに、彼から今後の恋愛をどうするのか、自分がどういう気持ちでいてBとのこれからの事をどう思っているのかについてのはっきりした考えが出てこないから、心配や不安が強まったり迷ったりするんじゃないのかな。』

Bさん『そういう話になるんだけど、なかなかはっきりとした答えを聞くきっかけも見出しにくくて。』

自分『Bとしてはこれから二人の関係をどういう風にしていきたいと思ってるの?』

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“明確化(要約)”というのは、『つまり~ということですね・要するに~という話ですね・今までの話をまとめると~』といった形式での発言ですが、それまでに交わされてきた『断片的な言葉のやり取り』の意味・主張・感情を適切にまとめて相手に語りかけることで、『相手の話の筋道・主旨・気持ち』をしっかり理解しているということが伝わりやすくなります。“明確化(要約)”はいい加減に話を聴いていたり、相手の伝えたい内容を理解せずに適当なまとめ方をしてしまうと、『この人は全く自分の話を聞いていない・いい加減なまとめをして切り上げようとしている』という風に受け取られて逆効果になる場合もあるので、しっかり丁寧に話を聴いていないと使いにくい技法ですが、そうであればこそ、上手く適切な明確化ができれば『相互の信頼感・話の理解度と進展性』が高まることになるわけです。

上記した会話事例における『開いた質問(Open Question)』は、『真剣に話を聞いてくれないというのはどういうことなの?・Bとしてはこれから二人の関係をどういう風にしていきたいと思ってるの?』という質問になっており、Bさんの積極的な説明や意見、考え方を引き出しやすくなる質問になっています。

元記事の執筆日:2012/05

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