回避性パーソナリティー障害の診断基準と自己評価を低下させる認知の歪み、パーソナリティー障害の『自己機能』と『対人関係機能』の分類:他者・社会状況を回避する心理

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パーソナリティー障害の『自己機能』と『対人関係機能』の分類:他者・社会状況を回避する心理


回避性パーソナリティーの病理的特性の考察とシゾイドの要素:他者への興味・欲求・喜びの強度


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回避性パーソナリティー障害の診断基準と自己評価を低下させる認知の歪み

回避性パーソナリティー障害(Avoidant Personality Disorder:APD)における『回避』とは、人間関係や仕事・学業などの社会的活動を避けるということであるが、回避の原因となっている心理は大きく『拒絶されて傷つきたくない心理』『面倒・億劫で煩わしい心理』に分けられる。

DSM-Ⅳまでの回避性パーソナリティー障害では、本心では人間関係や承認・愛情を求めているが相手に拒絶されて傷つきたくない心理があるので人との関わりを避けるという理由の部分が強調されていたが、最終的には採用されなかったがDSM-5の試案的な代替診断基準では『他人と関わりたい興味や欲求がない・人間関係から得られる喜びが少ない・一人で過ごす時間を非常に好む』といった統合失調質パーソナリティー障害(シゾイドパーソナリティー障害)の要素も併せて考えられていたりもした。

回避性パーソナリティー障害の診断基準(DSM-5)

社会的抑止、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、 種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。

1.批判、非難、または拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業的活動を避ける。

2.好かれていると確信できなければ、人と関係をもちたがらない。

3.恥をかかされる、または嘲笑されることを恐れるために、親密な関係の中でも遠慮を示す。

4.社会的な状況では、批判される、または拒絶されることに心がとらわれている。

5.不全感のために、新しい対人関係状況で制止が起こる。

6.自分は社会的に不適切である、人間として長所がない、または他の人より劣っていると思っている。

7.恥ずかしいことになるかもしれないという理由で、個人的な危険をおかすこと、または何か新しい活動にとりかかることに、異常なほど引っ込み思案である。

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対人関係や社会的活動を避けている人でも、『本心では人間関係や承認・愛情を求めているのかいないのか(他者に興味・欲求を抱いているのかいないのか)』というのは治療・相談の動機づけと関わる重要な要素である。だが『本心・本音の欲求』というのは外見的には簡単に区別がつかないし、本人自身も他者・社会に対してどう思っているのかよく分かっていないことも多い。結果、『本心で他者との付き合いや社会的な活動を求めているか』は、実際にはその人が自分の現状を変えたいと思って『回復・改善に向けたアクション』を起こすかどうか(治療の動機づけを持って動くかどうか)でしか判別できないことが多い。

回避性パーソナリティーに共通する特徴として『自己評価の低さ・自信のなさ・劣等感の強さ・社会不適応感(他者との関係における適切な居場所のなさ)』を上げることができるが、これらはその人の『客観的な能力・魅力・実績』がある程度高くても改善しないことが多い。認知療法の認知理論でいう『悲観的・自己否定的な認知』が固定化した認知的スキーマに発展しているからである。自分は能力・魅力がなく人に好かれない不完全でダメな人間であるといった自己否定的な認知が所与の前提になってしまい、『客観的な自己・他者・状況を評価する認知(物事の受け止め方)』が大きく歪められているのである。

この自己否定的な認知的スキーマは何も悪いことが起こらなくても、常に自己評価や人間関係の評価の前提になっているので、ここに人間関係の裏切り、学業・仕事の挫折、自信を喪失する失敗体験、失快感・無気力の状態が重なると更に『自分は他者・社会的活動を向き合えるような人間ではないとする回避の動機づけ』が悪循環で強まってしまう。

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パーソナリティー障害の『自己機能』と『対人関係機能』の分類:他者・社会状況を回避する心理

回避性パーソナリティーの認知傾向の特徴は、『マイナス要因の過大評価+プラス要因の過小評価』である。自己愛性パーソナリティーでは『実際以上に自分を自己中心的(わがまま)に高く評価する認知傾向』が見られるが、回避性パーソナリティーでは『実際以上に自分を悲観的(卑屈)に低く評価する認知傾向』が見られる。そのため、自分は大したことができない取るに足らない存在だから絶対に失敗しないように、傷つけられないように、恥をかかないようにしなければならないという心理になって、自己抑制的で他者や社会的活動をできるだけ避けようとする回避の傾向が強まるのである。回避性パーソナリティーの人は失敗・挫折・拒絶によって傷つくことを、自己の存在そのものの完全否定のように恐れるので『石橋を叩いても簡単には渡らない』といった極度に慎重で消極的な生き方になりやすい。

回避性パーソナリティー障害の診断基準と自己評価を低下させる認知の歪み

回避性パーソナリティーの回復段階では、実際以上に自分を低く評価して自己批判的だった傾向が弱まってきて、少しずつ実際の自分の身の丈に合った欲求・興味・関心を持って行動できるようになってくる。回復の一つのポイントとして『実際の客観的な自分の能力・努力に合わせた目標設定』ができるようになるということがあり、社会的活動の回避が強い時には『絶対に成功して失敗しない簡単すぎる目標(できて当たり前のレベルでチャレンジする意義のない簡単すぎる目標)』を設定してしまうことが多い。

自分の実際の現状や能力に見合っていない『あまりに簡単すぎる目標』を設定してしまうことの問題として考えられるのは、『仕事・恋愛・結婚などの少なからぬ不確定性のリスク』がある活動に対して過度に消極的になったり、結果がどうなるか分からない事柄に対してまったく何もできなくなるということである。少しでもリスクのある不確定な活動や人間関係はまったくなくても良いと本心から思えるのであればそれでも良いかもしれないが、仕事や人間関係に過度に消極的になると実際の経済生活や精神の安定(メンタルヘルス)にも悪影響が及ぶ恐れはないとは言えない。

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極端なリスク回避による自己防衛と現状維持の心理の背景の中心にあるのは、『失敗して恥をかきたくない』『挫折や拒絶によって傷つけられたくない』ということである。面倒くささ・億劫さ(無気力)にもつながる精神活動抑制を引き起こすもう一つの要因として『多少のメリットがあっても今以上に責任や義務、課題の負担が増えるのは嫌である(他者や社会活動から距離を置いた自分一人の自由な時間を確保したい)』というアパシーシンドロームや他人に興味の薄いシゾイドパーソナリティーと類似した心理も想定される。

パーソナリティー障害(人格障害)の定義は『平均的な人格構造・性格傾向から過度に偏っていて長期間にわたってその行動パターンが持続していること(遅くとも青年期か成人期早期にはその行動パターンが発現していること)』『社会的状況・対人関係状況に対して柔軟な反応ができないこと』であり、パーソナリティー障害であるか否かの境界線は必ずしも0か1かで分けられるものでもない。パーソナリティ障害の過度に偏った内的体験と持続的な行動パターンは、『1.認知、2.感情、3.対人関係機能、4.衝動コントロール』の4領域の内で2つ以上に表れるとされるが、DSM-5の代替診断基準ではパーソナリティー障害を『パーソナリティー機能の障害』と定義して、パーソナリティ機能を以下の4領域(自己機能の2つの領域+対人関係機能の2つの領域)に分類整理している。

自己機能は『同一性』『自己志向性』に分類される。

同一性(Identity)……自己と他者の境界線が明確であり、自他を唯一の存在として認識することができ、自己の人生について選択的に決定することができる。自分が社会的・実存的にどのような人間であり、どんな人生を生きていきたいかを認識して、人生を前向きに発展させて生きていくための『安定的な自尊心と適度な自己評価』を得ることができる。

自己志向性(Self-direction)……自分がどのような人生を生きていきたいか、どんな人間関係を持ちたいかについて『短期的・長期的な人生の目標』を持っていて、社会適応的・他者調和的な行動規範を適度に利用することができる。過度に悲観的・消極的にならずに、自分と他者のために生産的・建設的に内省して判断する能力を持っている。

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対人関係機能は『共感性』『親密さ』に分類される。

共感性(Empathy)……『他者の感情・体験・意図(動機)』を推測して理解することができ、他者の存在や気持ちを尊重することができる能力である。自分の言動が他者に与える影響について理解しており、『自分と違う考え方・感じ方』を受容することができる。

親密さ(Intimacy)……他者との関係の深さと親しみを持続させる能力であり、他者との親密さに対する適度な欲求があってそれに適応することができる。対人関係・対人状況において、相互的な配慮・信頼や互恵的な利益関係を持つことができる。

平均的な性格特徴から過度に偏った内的体験や行動パターンがあって、本人に『主観的苦痛+社会的・職業的な不利益』がある場合に、はじめてパーソナリティー障害であるか否かの検討・診断が始まり、そこからどのような治療的・改善的な対処策を講じていくべきかが考えられることになる。各種のパーソナリティー障害の診断基準を読んでみると、『自分にも当てはまる項目が多い・自分の家族や知人に当てはまっている』と感じるものはあるが、それは各パーソナリティー障害の特徴はその程度が極端(過度)でなくて常態的(いつも)でなければ、かなりの人に多少は当てはまるような項目になっているからである。

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回避性パーソナリティーの病理的特性の考察とシゾイドの要素:他者への興味・欲求・喜びの強度

回避性パーソナリティー障害の特徴である『失敗して恥をかきたくない』『挫折や拒絶によって傷つけられたくない』『人付き合いや社会的活動を面倒・億劫に感じる(今以上の責任・義務・仕事の負担を負いたくない)』というものは、一般的な人格・性格と照らし合わせてもそれほど珍しいものではなく、自分にも当てはまる項目や当てはまっていた時期があると思う人は多いだろう。その程度が軽微であり常態的に不適応が続いておらず、自分の社会生活や人間関係に受忍限度を超えた不利益・不都合が生じていなければ、人付き合いが好きではない人、引っ込み思案で慎重な人、自分に自信がなくて傷つきやすい人、自分ひとりで過ごすのが好きな人、仕事や社会活動に消極的で無気力な人という風に見られるだけとも言える。

パーソナリティー障害の『自己機能』と『対人関係機能』の分類:他者・社会状況を回避する心理

しかしそこで『主観的苦痛・他者への迷惑・社会的職業的な不利益』が目立ってきて本人が社会生活や対人関係に適応できなくなり苦痛を感じて実際の不利益が大きくなってくれば、パーソナリティー障害としての診断・治療・カウンセリング・効果的対応などが必要になってくる。パーソナリティー障害は健常と異常の間に連続的な程度の段階があるスペクトラムモデルでも理解することができるが、研究者によってはパーソナリティー障害の『健常者との質的な差異』を強調する人もいる。

特に統合失調型パーソナリティー障害や反社会的パーソナリティー障害、強迫性パーソナリティー障害では、スペクトラムの程度問題よりも明らかに平均的な人格構造や価値判断とは違っているという『質的な差異』が目立ちやすいが、回避性パーソナリティー障害の診断項目に含まれる以下のような『機能的特性』は、その程度が弱ければ、自分にあまり自信がなくて傷つきたくない(他者から傷つけられたくない)と感じているかなり多くの人に当てはまりやすいものだろう。

DSM-5の試案である代替的診断基準は、パーソナリティー障害を『機能的特性』『病理的特性』に分けていて、病理的特性には今までの診断基準とはやや異なる視点や特徴が含まれている。回避性パーソナリティー障害は、以下の4つの機能的特性のうち2つ以上が当てはまるとされる。

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1.社会的な不適応感、自己の能力・魅力の不全感、劣等コンプレックスなどによって、自己評価・自尊心が低下しており、自分の不十分さに対して恥の感情がある。

2.慎重かつ小心な性格で、リスクを取って目的を追求すること、今までしたことのない新しい活動(新しい相手との人付き合い)に対して非常に消極的であり、できればやりたくないと思っている。

3.自分が何かしたら、他人から非難・批評・拒否を受けるのではないかという不安や心配にいつも囚われている。

4.(何度も向こうから愛想よく肯定・支持されたり世話をされるなどして)拒絶や非難をされる恐れがないと確信できた他者としか関わりを持つことができない。回避性パーソナリティー障害は、以下の4つの『病理的特性』を持つとされるが、『1.心配性』が必須項目で、2~4のうち2つ以上が当てはまれば診断されるという試案である。

人付き合いや社会的活動をしても喜び・楽しみが得られないので積極的に関わろうとはしないという『無快感症』は、今までは回避性よりも非社交的で他者に興味関心のない統合失調質パーソナリティー障害(シゾイドパーソナリティー障害)に特徴的とされるものであった。

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1.心配性……社会的活動・対人関係における不安感・緊張感・パニックが強く、他者から傷つけられた過去の不快な出来事を思い出したり、未来で起こるかもしれない出来事を先回りして過度に悲観して心配する。他者と関わる社会的状況に対して、過度に神経質・臆病で心配性なところがある。

2.ひきこもり……社会的場面・対人状況が苦手なので寡黙になったり回避したりしやすく、自分一人でひきこもっている否定・拒絶されない状況に安心を覚え、自ら積極的に対人関係を持とうとはしない。

3.無快感症……人づきあいや社会的活動などの人生経験から得られる喜び・楽しみが乏しく、人・物事への関心も弱いために、そうした人間関係・社会的活動に自ら参加しようとはしない。

4.親密さの回避……友人関係・異性関係(恋愛・結婚)を含めて人と親密な関わりを持つことを避けて、他者への愛着もほとんど持たない。

他者に初めから(本音の部分で)興味・関心がなくて、無理に関わっても喜び・楽しみが実感できないから他者と関わらないというのは、今まで統合失調質パーソナリティー障害(シゾイドパーソナリティー障害)の診断項目であったが、DSM-5の代替的診断基準では本音の部分では他者に興味・関心があって本当は認められたいのだけれど、傷つきたくない不安や緊張、気疲れのほうが勝って回避してしまうという『回避性パーソナリティー障害の心理的原因』をあまり重要視しない傾向も出ているようである。

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統合失調質パーソナリティー障害(シゾイドパーソナリティー)の原型が、統合失調症の感情鈍麻・無為・自閉(外界・他者への無関心)など自分だけの世界に閉じこもるような『陰性症状』にあることを考えると、人づき合いや社会的活動を回避している心理的原因を問わずに、回避性パーソナリティー障害の中に『初めから他者への興味関心が乏しく非社交的な特徴・人づきあいや社会的活動といった人生体験から喜びを感じられない無快感症』を含めて良いかは議論の残るところだと思う。

努力や無理をして社会的・生活的な体験をしてみても、そこから喜び・楽しみの報酬がほとんど得られないから消極的になり回避的になるというのは因果関係そのものは明確である。シゾイドパーソナリティーほど深刻でなくても、『社会的活動・対人関係に伴う緊張感・義務感・配慮のストレス』と比べて『それらから得られる喜び・楽しみ・充実感』が圧倒的に弱いから他人や社会とそれほど関わりたいと思えないという軽度の無快感症・孤独癖(一人が好きで楽)の人も確かに一定の割合でいるだろう。

無快感症・孤独癖はなくても一般的な対人関係が煩わしくて面倒くさいと感じ、義務的・職業的な関わりがなければ、他者と別にそれほど会いたくない(努力してまで他人と一緒の時間を過ごしたくなくて得られる喜びが乏しい)という回避性パーソナリティーの人も現代では珍しく無くなっているのかもしれないが、そういった人格構造や性格傾向の時代的変化が『無縁社会・非婚化・SNEP(孤立無業者)の問題』などの背景にあるのかもしれない。

とはいえ、義務や必要がなければ自分からは人間関係に参加しようとしない人というのは、かなり昔から存在する非社交的な性格傾向の一つの型ではある。義務・必要から人づきあいをするとしても、他者と交わる事を好まない非社交的な人はどこか腰が引けていて深い関わりには消極的であることが多く、そういった儀礼的・形式的(事務的)なやり取りに終始する消極姿勢は相手にも伝わるので自然に親しい密接な人間関係からは遠ざかりやすくなる。

昔から少なからずいる『自分からは人間関係を求めない消極的・非社交的な人(社会的・職業的にはそれなりに無難に適応してやり過ごしている人)』はパーソナリティー障害とまでは言えず、『自分の側から誘ったり電話をしたり訪問したりすることのない人』ではあるが『強く誘われればそれなりに応じる人(逆に相手からの働きかけがなくなれば音信不通になる人)』であることも多いだろう。

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しかし自分から話しかけたり誘ったりの行動がほとんど見られないので、友達付き合いのような人間関係では物足りない冷めた人物、情の薄い面白みのない人物と見られやすく、自然に形式的な人間関係ばかりになって親密な他者との付き合いからは距離を置くことが多いのだが、本人自身は(社会的・職業的にそれなりに適応できていてごく少数の家族や旧友などがいてくれさえすれば)主観的に苦悩していたり寂しくて孤独で困っているというわけではない。

ここでは『心配性』が回避性パーソナリティー障害の中核的な病理的特性として上げられているが、それは回避性パーソナリティー障害の人が『物事や人間関係の良い側面を過小評価する+物事や人間関係の悪い側面を過大評価する(物事や人間の悪い可能性ばかりを気にして囚われ不安になって行動することができない)』という特徴である。自分が傷ついたり恥ずかしい思いをしたりする『悪い結果』が出る可能性がわずかでもあるのであれば、初めから他者との関わりや社会的活動を回避したほうが良いとする回避性パーソナリティー障害の基本的な行動パターンを説明しているのである。

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元記事の執筆日:2017/06/15

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