回避型・アンビバレンツ型の愛着と回避性パーソナリティー2:他者への関心・共感の有無
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愛着スタイルと人間関係の行動パターンの相関1:自分・他者に対する基本的信頼感の形成
人に認められたいとか愛されたいとかいう『承認欲求(愛情欲求)』は概ね普遍的な欲求で、誰もが多かれ少なかれ持っているものだが、そういった承認欲求を元にして他者と実際にどのように関わっていくかの行動パターンは人それぞれである。他者と実際に関わっていく場合の基本的な行動パターンを規定する要因の一つとして、乳幼児期の『愛着形成のパターン』がある。“愛着(attachment)”というのは特定の他者に対するこだわりのある情緒的な結びつきのことであり、乳幼児期の発達段階にある人間は生きていくため、健康な心身の状態を維持するために、母親・父親を中心とする特定の他者への愛着をおよそ必然的に形成する。お腹が空いてミルク(母乳)が飲みたい時に泣かない赤ちゃんはいないし、おしっこやうんちをして不快感を感じればおむつを変えてもらうためにぐずつき、寂しかったり退屈だったりするとスキンシップや遊び相手を求めて泣くことになる。
大多数の親は自分の子供が可愛いから、そういった赤ちゃんからの呼びかけにできるだけ適切に迅速に応じてあげることになる。赤ちゃんが泣いたりぐずついたりすれば、お腹が空いている様子であればミルクを上げたり、おむつの状態を確認して汚れていれば交換してあげたり、退屈そうであれば大げさにあやして遊んであげたり、スキンシップを求めていれば抱っこして景色を見せて上げたりするわけである。親子間で形成される愛着は、全ての人間関係の『原型的な行動パターン』を規定しやすく、自分の価値や他人の好意的な反応をどれくらい信頼できるかという乳児期の発達課題の『基本的信頼感』とも関わっている。『子供時代に求めれば適切に応じてくれて愛情や保護を与えてくれる』という良好な親子関係や母親(父親)との愛着によって、自分の価値を信じやすくなり他者との関係で傷つけられることを恐れにくくなる。
乳幼児期の愛着スタイルは大きく以下の3タイプに分けられると考えられていて、近年は『回避型・アンビバレンツ型の愛着障害』が広義の発達障害やパーソナリティー障害の要因の一つになる可能性が指摘されている。
安定型の愛着……親の適切な愛情・関心・保護に恵まれていたケースで、他者との愛着形成が安定していて極端な執着・回避になりにくい。他者に対する極端な不安・緊張・憎悪がなく、必要に応じて他者との関わりを積極的に持つことができ、親しくなった相手に愛情を求めることもできる。
回避型の愛着……親の愛情・関心・保護が大幅に欠如していたりネグレクト(育児放棄)にあったりしたケースで、冷めた態度や猜疑心の強さがでて他者との愛着を回避しやすくなる。他者に対する極端な不安・緊張・憎悪があり、基本的に他人を信じることができないので(他者に全く期待していないので)、他者との関わりを避けて初めから愛情を求めることもしない。初めから他者との関係や他者からの愛情・関心を求めないので、非社交的・不適応的にはなりやすいがアンビバレンツ型の愛着と比べて主観的な悩み・葛藤は少ない。
アンビバレンツ(抵抗・両価型)の愛着……親の愛情に恵まれた時期と恵まれなかった時期が混じっているケースで、他者との愛着形成が不安定になる。急にそっけなくなって冷めた態度になったり、逆に過剰な愛情を求めて執着したりする。他者に対する期待と不安が半ばしており、本当は他者に愛されたり受け入れられたりしたいのに、『拒絶され傷つけられる不安』から他者と関わることができないという葛藤の苦しみが強い。
こういった愛着形成と人間関係の行動パターンとの相関は『乳幼児期(発達早期)の愛着』だけに限定されるものではなく、『思春期・青年期以前の愛着関係の混乱・失望・喪失』によっても、親子関係以外の人間関係における積極性・消極性や信頼感・不信感(自分に対する自信)は大きく変わってくる。
例えば、小学生くらいの時期に親が離婚・再婚をして自分に対する興味関心をあまり示さなくなったとか、年の離れた弟・妹ばかりに愛情や関心を注いで自分が家庭で疎外されているように感じたとか、再婚した義親から実子と差別的待遇を受けたり虐待・ネグレクトを受けたとかいうことも、十分に愛着障害からの人間関係の行動パターンの変化(消極的になったり回避的になったり自他を信じられなくなったりの変化)につながることがあるのである。
回避型・アンビバレンツ型の愛着と回避性パーソナリティー2:他者への関心・共感の有無
『回避型の愛着』になると、『自分ひとりの世界の構築と共感性の欠如・他者と距離を置いて親しくなりたがらない・冷めた態度で他人と一緒に盛り上がることを好まない・自分や他人の感情に対して無関心になる』といった行動パターンになりやすい。回避型の愛着は、長年に及ぶ親(他者)からの愛情欠如や無関心によって、他者に何も求めないこと(他者に関心を持たないこと)で自分の不安定な心理を防衛する戦略を無意識に取るようになっているのである。
愛着スタイルと人間関係の行動パターンの相関1:自分・他者に対する基本的信頼感の形成
『アンビバレンツ型の愛着』は他人からの愛情や関心を本当は求めているのに、それが得られずに葛藤して苦しむというところがある。だが回避型の愛着の場合には長期間にわたって親・他者からの愛情や関心が欠如していたため、初めから他者からの愛情や親密さを求めない。その結果、他者に対して全般的に無関心になりやすく、(初めから他者に期待せず何も求めないので)主観的な葛藤・悩みもほとんどないという違いがある。『回避型の愛着』を形成して、自己防衛的になると冷めた態度の他者に一切期待しないクールなパーソナリティーになりやすく、他人に執着したり要求したりしない代わりに、他人のことを全く気にしないという冷淡さ・非共感性が目立ちやすくなる。回避型の愛着の問題点としては、他人に興味を持たず期待しないことで、他人を対話して親しくなるべき『仲間』と見ることができなくなり、対立して支配(利用)すべき『敵(自分と同じ価値や人権を持つわけではないただの人)』と見やすくなってしまうことがある。
回避型の愛着による、他者への無関心や共感性の欠如、愛情・優しさの否定がエスカレートしてしまうと、暴力・非行・いじめなどに逸脱していく反社会的パーソナリティーが形成されやすくなり、他者を心理的に切り捨ててその痛みを無視することで自分自身は苦しまなくても、他者・社会に危害を加えることになってしまう恐れもでてくる。回避型の愛着形成を基盤として、自己中心性と自閉性(自己完結的な世界観)、他者への共感性の欠如、他者の気持ち・痛みの軽視(無視)などの特徴が亢進すると、『自己愛性・反社会性・統合失調質(シゾイド)のパーソナリティー障害』に進行していく可能性がある。
回避型の愛着スタイルは自己防衛的な形で発達していくと、『他人からの愛情や優しさを初めから求めず切り捨てる冷淡さ・共感性欠如』や『他人が自分をどう思っていようが気にしない鈍感さ・自己中心性』になりやすいが、同じ回避でも回避性パーソナリティー障害になると反対に『本音では他者からの愛情や承認を求めていて近づきたい気持ちがある』『他人が自分をどう思っているか自分を拒絶しないか気になりすぎて積極的に関われないという過敏さ・他者心理の推測』が目立ってくる。他人に自分がどう思われているか、他人が自分のことを受け入れてくれるか拒絶・非難をしないかが過剰・敏感に気になってしまい、『拒絶され傷つけられる恐れ』があるために親密な人間関係やコミュニケーションを回避して遠ざかってしまう。こういった回避性パーソナリティー障害の人の基盤にある愛着のタイプは『回避型の愛着』よりも『アンビバレンツ型(抵抗・両価型)の愛着』であることのほうが多いのである。
回避性パーソナリティー障害は本音では他人と親しくなって愛されたいという欲求があるので、いったん『相手が自分を拒絶したり軽視したりしないことが確認できる親密な関係(無条件に自分の存在価値を受け容れて認めてくれるような安心できる関係)』になれさえすれば、それまでの自分が嘘であるかのような親しみや積極性、ユーモアを見せることができるようになったりもするのである。しかし、親密な関係になってしまうと、今度は初めから相手を避けて交わらない『回避』ではなく、今ある楽しい関係が終わっていつか自分が相手からそっけなくされたり見捨てられたりするのではないかという『不安・疑惑』のほうが強くなってしまうこともある。そういった『不安・疑惑』が強まってしまうことによって、相手を強く束縛・監視して独占しようとするような執着心・しがみつきを見せたり、相手を失うショックに耐え切れないからと、相手から拒絶されるよりも先に自分から立ち去って姿を消そうとするようなこともある。
回避性パーソナリティーの人が、ある程度親しい人間関係を作れたという時には、『自分の本音・欲求を晒せる数少ない相手』に対して依存や執着、愛情欲求が激しくなり、境界性パーソナリティー障害の特徴に当てはまるような狂気的なしがみつきに陥ってしまう恐れもあるが、実際にはつらい思いをするよりも先に相手の決定的な回答を回避して、自分から姿を消して立ち去ってしまうことのほうが多いだろう。“アンビバレンツな愛着スタイル”にしても“回避性パーソナリティー障害(Avoidant Personality Disorder)”にしても、本当は他者から受け入れてもらいたいし親しく付き合いたいし、愛されたいといった気持ちがあればこそ、『愛されたいから近づきたい+傷つきたくないから回避したいのアンビバレンツ(不安・恐れを伴う両価的な葛藤)』に苦しんで悩みやすくなってしまうのである。
表面的には煩わしくて負担・責任・拒絶のリスクのある対人関係や社会生活をできるだけ回避して生活している回避性パーソナリティー障害の人であっても、本音の部分では自分が傷つけられない拒絶されないことが確信できさえすれば、特定の他者と親しい関係を築いたり愛情・受容を与えてもらいたいという欲求を持っているからこそ悩むのである。現代社会では、あらゆることが面倒くさくて煩わしいと感じ、できるだけ反応が不確定な他者とは関わらずに自分一人で自由に何かをするのが好きという人、負担・責任を伴う感情的な人間関係や社会活動からできるだけ距離を置いて過ごしたいという無気力・無関心な人が増えている。
しかし、表面的な行動が他者・社会から遠ざかる『回避的』なものであっても、その背景にある愛着スタイルが『回避型(本当に他者を必要としない)』なのか『アンビバレンツ型(本当は他者からの愛情・関心を求めているのか)』なのかによって、その人に必要な他者との関わり方や人生の再設計、外部からのサポートのあり方は大きく変わってくるのである。
元記事の執筆日:2017/07/13