エスシタロプラムの効能・作用……効能は『うつ病・うつ状態(医師の判断によっては不安障害や摂食障害などその他の精神疾患にも処方される)』です。エスシタロプラムは日本では2011年4月に製造承認された比較的新しい『SSRI(第三世代の抗うつ薬)』です。SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)というのは、『選択的セロトニン再取り込み阻害薬』のことで、脳内にあるセロトニンの受容体(モノアミン受容体)の再取り込みを選択的に阻害すると推測されています。セロトニンに選択的に作用するので、従来の抗うつ薬と比べれば、口渇・便秘・心毒性などの副作用が緩和されています。
デンマークのH. Lundbeck A/S社が初めて合成と開発に成功し、2001年にスウェーデンで承認されたのが始まりですが、脳内の中枢神経系におけるセロトニンの分泌量を選択的に増やすことで、抗うつ作用・鎮静作用(セロトニンは特に不安感・緊張感を緩和して穏やかな精神状態を生み出す作用)を発揮します。ニューロン(神経細胞)の樹状突起の間にあるシナプス間隙において、セロトニンの再取り込みを阻害しますが、エスシタロプラムは特にマイルドな気分と関係するセロトニンを増やす作用が強いと考えられています。
再取り込み阻害の薬理作用でモノアミン(特にセロトニン)の量を増やして、『モノアミン受容体』の感受性を高めることで、気分・意欲・気力・興味の回復といった抗うつ作用を発揮すると考えられています。シタロプラムという化学物質は『ラセミ混合物(S及びRのエナンチオマーの等量混合)』に分類されているが、本剤エスシタロプラムのほうはセロトニン再取り込み阻害作用が強い『Sエナンチオマー』だけが構成成分になっています。
抗うつ薬のSSRIの副作用として、24歳以下(特に10代)の若い患者が服用すると『希死念慮・自殺企図のリスク』が高まるという報告があるので、若者にエスシタロプラムのSSRIを処方する時には、十分に慎重な経過観察と患者の主訴に対する傾聴が大切になってきます。ただし、うつ病そのものの希死念慮の強まりもあるので、SSRIを処方する時にはリスクとベネフィットの比較や病状の経過の把握が重要になるでしょう。
一般的に、脳内におけるノルアドレナリンの増加は『意欲・気力・行動力』を高めて、セロトニンの増加は『不安感・焦燥感・緊張感』を緩和してマイルドな精神状態を作るとされています。
エスシタロプラムの商品名……レクサプロ(持田,田辺三菱)
平均的な用法・用量……うつ病・抑うつ症状に対しては、1日1回10mg(夕食後)。『年齢・症状・副作用』を見て適切に調整する。1日の処方の最大量は20mgである。
副作用……口渇・便秘・排尿障害・動悸・頻脈などの末梢性抗コリン作用。眠気、めまい、立ちくらみ、起立性低血圧、手の振るえ、発疹など。イライラ、焦燥感、不安感、衝動性、躁状態、攻撃性などの精神症状が出ることもある。
重大な副作用(発症頻度は低い)……悪性症候群(Syndrome malin)、セロトニン症候群(焦燥感・イライラ・不安感の高まり)、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、不整脈(QT延長・心室頻拍)、けいれんなど。
注意・禁忌……『注意を要する人』は、不整脈(QT延長)、心臓疾患、肝臓疾患、てんかん、躁うつ病(躁病)の既往歴のある人、自殺念慮(希死念慮)などの衝動性の精神症状を持つ人、高齢者。24歳以下の人の場合には、『自殺念慮・自殺企図・自傷行為に関する衝動性の亢進』に注意が必要である。
『処方してはいけない禁忌』は、緑内障、心筋梗塞の回復期の初期、尿閉、不整脈(QT延長)など。パーキンソン病治療薬のセレギリン(エフピー)との併用は、セロトニン症候群を起こす恐れがある。抗不安薬のピモジド(オーラップ)との併用は、不整脈を起こす恐れがある。
炭酸リチウム(リーマス)、トリプタン系頭痛薬(イミグランなど)、L-トリプトファン含有製剤(アミノ酸製剤)、トラマドール(トラマール)、リネゾリド(ザイボックス)、ハーブ治療薬・健康食品のセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)なども、セロトニン症候群のリスクを高める可能性がある。