セルトラリンの効能・作用……効能は『うつ病・うつ状態・パニック障害』です。セルトラリンは、アメリカでは1991年にFDA(米食品医薬品局)から認可された薬で、『ゾロフト』という商品名で抗うつ薬として販売されており、米国で最も大量に多く処方されている向精神薬です。2006年に日本の厚生労働省でも認可されて、2007年にファイザー社から『ジェイゾロフト』という商品名で販売されることになりました。
セルトラリンは、パキシルやルボックスと同じ『SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)』に分類されていて、比較的安全性の高い抗うつ薬とされています。 脳内にあるセロトニンの受容体(HT-5受容体)の再取り込みを選択的かつ強力に阻害することで、『抑うつ感(憂鬱感)・意欲減退・興味と喜びの喪失・集中力や思考力の低下・億劫感・無気力・焦燥感・絶望感・悲観』といったうつ病の様々な精神症状を緩和する効果が発現します。抗うつ作用の効き目は、三環系・四環系の抗うつ薬と比較すればマイルドとされており、神経細胞のシナプス間隙におけるセロトニンの量を増やすことによって、『抗うつ作用・抗不安作用・抗パニック作用』を発揮します。
特に、セルトラリン(ジェイゾロフト)には、『うつ病の再発・再燃』を押さえ込みやすいというメリットがあります。セルトラリンは米国では長く安全性が高く依存性が弱い薬だと考えられてきて、うつ病以外にもパニック障害や強迫性障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、社会不安障害(対人恐怖症)、月経前気分障害などの治療薬としても使われています。
日本で実施されたうつ病患者を対象とする『プラセボ対照・二重盲検比較臨床試験』では、偽薬を与えられたプラセボ群の再発率が19.5%だったのに対して、セルトラリンを飲んだ群では再発率が8.5%にまで抑えられたとされます。ハミルトンうつ病評価尺度やQOL(人生の質)評価尺度においても、セルトラリン服用群のほうがプラセボ群よりも優位に症状の改善や生活実感の改善に対する満足度が高くなっています。
セルトラリンを含むSSRIの副作用について最も注意すべきことは、『18歳未満の若年層の患者に対して自殺念慮(自殺願望)や自殺企図のリスクを高めることがある』ということであり、SSRIには大きな個人差があるものの、『衝動性・攻撃性の強化』という副作用が出る危険性もあります。新たな自傷行為、自殺念慮、不穏なアカシジア、気分の急変などがある場合には、医師が適切に指導・管理して段階的に減薬していく必要があります。24歳以下の患者に対しては、自殺念慮・衝動的な行為を増加させる副作用のリスクのほうが高いという報告もあります。
一般的に、脳内におけるノルアドレナリンの増加は『意欲・気力・行動力』を高めて、セロトニンの増加は『不安感・焦燥感・緊張感』を緩和してマイルドな精神状態を作るとされています。
セルトラリンの商品名……ジェイゾロフト(ファイザー)
平均的な用法・用量……うつ病・抑うつ症状に対しては、1日25mgを初期用量として、1日100mgまで漸増していく、1日1回の経口服用。年齢、症状の経過によって、1日100mgを超えない範囲で適宜増減することができる。
副作用……口渇・便秘・排尿障害・動悸・頻脈などの末梢性抗コリン作用。眠気、めまい、吐き気・嘔吐、立ちくらみ、起立性低血圧、手の振るえ、目の調節障害、アカシジア、発疹、倦怠感、脱力感など。抗うつ薬は、他の抗精神薬との相互作用を起こしやすいので、医師に今飲んでいる薬についての情報を提示して指導を受けるようにして下さい。
重大な副作用(発症頻度は低い)……悪性症候群(Syndrome malin)、セロトニン症候群、肝障害、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、重症の皮膚や粘膜の障害、アナフィラキシー症状など。
注意・禁忌……『注意を要する人』は、てんかん、脳の器質的障害、肝機能障害、腎機能障害、緑内障の既往がある人。統合失調症や双極性障害(躁鬱病)の人。妊婦。24歳以下の若者(特に10代以下の子供に対しては処方を控えるべきとされる)。希死念慮のある人。
『処方してはいけない禁忌』は、自殺念慮が強い人、10代の未成年、妊婦(授乳婦)など。医師の専門的かつ慎重な判断に基づいて処方可能なケースもあるので、一概に絶対に処方禁止とまでは言えない側面はある。