クロザピンの効能・作用……効能は『治療抵抗性の統合失調症』です。
統合失調症は脳内の神経伝達物質であるドーパミン(D)が過剰になることで幻覚・妄想などの『陽性症状』が発症したり、逆にドーパミンやセロトニンの分泌が減少・不足することで感情鈍麻・無為・ひきこもり(自閉)などの『陰性症状』が起こったりする精神病である。
クロザピンは統合失調症の第一選択薬にはならないタイプの強い副作用がでやすい薬で、他の抗精神病薬(メジャートランキライザー)に抵抗性を示して効果の薄い『反応性不良・耐容性不良の統合失調症患者』のみに処方されるものである。1960年代に開発された古い非定型抗精神病薬で、セロトニン・ドーパミン拮抗薬(SDA)に分類されているが、『無顆粒球症』による免疫低下の重い副作用によって一時期販売中止になっていたこともある。
クロザピンはジベンゾジアゼピン系化合物の抗精神病薬であり、詳細な化学的な作用機序は明らかにされていないが、ドーパミンのD4受容体を遮断するがD2受容体はほとんど遮断しないという特徴がある。重篤な副作用としては、無顆粒球症、心筋炎、耐糖能異常などがあり、好中球減少症・無顆粒球症・耐糖能異常(糖尿病)の早期発見のために定期的な血液検査が義務付けられている。
D2受容体遮断に依存せずに、中脳辺縁系のドーパミン神経を選択的に抑制することで、抗精神病薬としての効果を発現しているのだろうと考えられている。クロザピンが遮断して効果を発現する受容体としては、ドーパミン(D4)、セロトニン(5-HT2A)、ムスカリン(M1)、アドレナリン(α1)、ヒスタミン(H1)などが想定されている。
主に脳内のドーパミン(D2)受容体を遮断することで、ドーパミン神経系の過剰興奮で発症する『陽性症状』を抑制することができる。セロトニン(5-HT2)受容体を遮断することで、ドーパミン神経系の働きが活性化されて『陰性症状』を改善することができる。
クロザピンは『反応性不良・耐容性不良の統合失調症患者』のみに処方される薬だが、反応性不良の統合失調症というのは、1種類以上の非定型抗精神病薬を含む2種類以上の抗精神病薬をそれぞれクロルプロマジン換算600mg/日以上を4週間以上投与しても、GAF(Global Assessment of Functioning)の評点が41点以上にはならない場合の統合失調症のことである。
耐容性不良の統合失調症というのは、非定型抗精神病薬2種類以上による単剤治療を行った時に、中等度以上の遅発性ジスキネジア、遅発性ジストニア、その他の遅発性錐体外路症状、パーキンソン症状、アカシジア(静坐不能)がでたりしたために、十分に薬を増量することができない統合失調症のことである。
安易に使用できない抗精神病薬で重い副作用が多くあるため、クロザピンは使用に際して『クロザリル患者モニタリングサービス・CPMS(Clozaril Patients Monitoring Service)』で決められた条件を満たさないと処方できない。初めは入院治療での処方になり、投与前に白血球数のチェックが必要となる。本剤服用中に、白血球数3000未満または好中球1500未満になった患者は『無顆粒球症の予防』のためにただちに投与を中止しなければならない。
クロザピンの商品名……クロザリル(ノバルティスファーマ)
平均的な用法・用量……統合失調症に対する処方では、初日12.5mg(25mg錠の半分)、2日目は25mgを1日1回服用し、3日目以降は症状に応じて1日25mgずつ増量、3週間かけて1日200mgまで(1日50mg以上は回数を分けて服用)増量していく。維持量は1日200~400mgで、2~3回に分けて服用する。1回の増量は4日以上の間隔を空け、増量幅は1日100mgを超えないようにする。最高用量は1日600mgまでである。
疾患・年齢・症状に応じて、用量を調整する。
副作用……めまい、口渇、こわばり、眠気、不安感、頭痛、動悸、便秘、尿がでにくい、目のかすみ、血圧低下、体重増加、神経過敏、発疹など。錐体外路症状(手足のふるえ・体のこわばりやつっぱり、ひきつけ、無表情、よだれ、目の動きの異常、舌のもつれ、そわそわなど)は少なめとされる。
長期服用・大量服用で『遅発性ジスキネジア』の副作用が起こることがある。遅発性ジスキネジアというのは、口周辺のもごもごする異常運動や舌が出たり振るえたりが続く副作用の症状で、一般に難治性である。
重大な副作用(発症頻度は低い)……無顆粒球症・白血球減少(免疫低下で風邪のような発熱・咳や痰など)、糖尿病性昏睡・高血糖(異常な喉の渇き、多飲・多食・多尿、脱力感や意識朦朧など)、心筋炎、悪性症候群(Syndrome malin,身体が動かなくなり高熱がでて死亡リスクもある)、遅発性ジスキネジア(まばたき増加・口が不随意運動でもぐもぐ・舌が出やすいなど)、腸閉塞・麻痺性イレウス(ひどい便秘・吐き気・腹痛など)、静脈血栓症・肺塞栓症(手足の痛みやむくれ・息切れや呼吸のしづらさ・視力低下や目の痛みなど)、過度の血圧低下、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH,だるくて喉の渇きが出る、頭痛・吐き気・意識障害・けいれん)など。眠気や注意力・集中力の低下といった副作用が翌朝以降にも続く恐れがあるので、危険を伴う作業もしないようにして下さい。
注意・禁忌……『注意を要する人』は、好中球減少症、てんかんなどのけいれん性疾患、肝機能障害、脳の器質障害、心臓疾患、腎臓疾患、低血圧、慢性の便秘など腸の不調がある人、前立腺肥大、閉塞隅角緑内障、糖尿病または予備軍(高血糖、肥満)、てんかん、高齢者(寝たきりや脱水状態にある人)、妊婦(胎児への悪影響の考慮)、認知症の人、希死念慮のある人など。
他の向精神薬と併用すると、薬の効き目が強くなりすぎたり、副作用が強まったりすることがあります。骨髄抑制を起こす可能性のある薬(抗がん剤・免疫抑制剤など)、抗精神病薬の注射薬(ハロマンス、フルデカシン、リスパダールコンスタ)、アドレナリン(ボスミン)、ノルアドリナリンなどをはじめ、飲み合わせの悪い薬が多くあるので、必ず医師の判断・指示に従って服用してください。
『処方してはいけない禁忌』は、用法用量を守れない人、事前検査で白血球数または好中球数が規定値未満の人、無顆粒球症または重度の好中球減少症の既往歴がある人、骨髄機能障害、アルコール・薬物による急性中毒、昏睡、循環虚脱、中枢神経抑制、重いてんかん、重い心臓病、重い腎臓病、重い肝臓病、麻痺性イレウスのある人など。医師が状況から不適と判断した人、本剤で過敏症を起こしたことがある人。
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