抗うつ薬の種類と説明

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抗うつ薬は、憂鬱感や億劫(おっくう)感、気分の落ち込み、不安感、イライラといったうつ病に伴う諸症状を緩和し改善する効果を持つお薬です。

うつ病がどのような原因で発症し、身体や精神にどのような症状や障害を起こすのかについては、別枠で説明したいと考えています。但し、現段階でのうつ病の生理学的な病理メカニズムや発症過程についての仮説は、薬物療法の効果から帰納的に考えられたもので、実際にどのような生理学的過程を経てうつ病が発症し、持続しているのか完全には解明されていません。

うつ病には、科学的に解明されるべき脳内化学物質(脳内モノアミンと呼ばれる化学物質群)の不足の原因と並んで、日常生活の様々な場面や出来事によって感じる心理社会的なストレスが大きく影響していると考えられます。

うつ病に至るかどうかは個人の性格傾向(認知や行動・感情のパターン)やストレスへの耐性によって変わってきますが、憂鬱感を招く可能性のある比較的多くの人に起こりやすい心理社会的なストレスを以下に簡単に挙げてみます。

不快感や苦痛を感じる苦手な相手と過ごさなければならない時間がストレスとなったり、社会的場面(職場・学校)などでの継続的な対人関係が強い心理的負担となっている場合がよくあります。また、会社で自分の能力で処理できないような困難な仕事を任されて、それを上手くこなせないために罪悪感や自責感を過度に感じてしまいやすい人、進学や就職で周囲の期待にこたえられない事で自己を過小評価して絶望してしまう青年も抑鬱感情に沈みやすいタイプと言えるでしょう。

離婚・死別や失恋といった形で、かけがえの無い大切な相手を失う悲哀体験がうつ病への引き金となる事もよくあります。自分にとって必要不可欠と思っていた愛する人や大切な家族、親しい友人と何らかの原因で別れざるを得ない時には誰でも大きな心の苦痛と喪失感による抑うつを感じる事になります。

うつ病の代表的徴候である抑うつ感や無気力といった心理的な抑制(生きるエネルギーの低下)の背景にあるのは、『自分の理想を実現できない無力感』『他者(集団・社会)の期待に応えられない自分への自責感』『自分の将来に希望が見出せない否定的な予期と長期にわたる絶望の予測』『失敗や挫折の体験を、全てにわたって拡げてしまう過度の一般化』『完全か不完全かという二者択一的な思考』等であると考えられます。

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うつ病治療に使われる抗うつ薬には、研究開発された時期の古いものから新しいものへと並べると『三環系抗うつ薬』『四環系抗うつ薬』『SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬;Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)』『SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬;Serotonin-Noradrenalin Reuptake Inhibitor)』という種類があります。

三環系抗うつ薬は最も初期に開発された効果の強い抗うつ薬であり、ベンゼン環を両端に持つ環状構造が3つ繋がっているという化学構造的特徴から“三環系”抗うつ薬と呼ばれています。三環系抗うつ薬は、その開発が最も早かったことから、第1世代・第2世代抗うつ薬とも表記されます。

うつ病の状態にある人の脳内ではセロトニンやノルアドレナリンといった興奮促進・活性化の作用を持つ神経伝達物質が減少していると考えられますが、三環系抗うつ薬はそれら複数の神経伝達物質を非選択的に(セロトニンだけを増やすとか、ノルアドレナリンだけを増やすとかいう選択を行わずに)増やして、憂鬱感を和らげ、ポジティブな気持ちにする効果があります。

神経細胞の間(シナプス)でやり取りする神経伝達物質を増やすというのは物理的な生産量を増やすのではなく、いったん神経細胞から放出された伝達物質が再び元の神経細胞に取り込まれないようにして、シナプス間隙(神経細胞と神経細胞のすき間)の部分にある伝達物質の総量を増やす事で脳内の情報伝達をスムーズに行えるようにするという事を意味します。

抗うつ薬の薬理作用を簡単に言えば、『脳内の化学物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)を調整して、スムーズな情報伝達過程を実現することで、精神機能及び抑うつ気分を改善すること』と言えるでしょう。ただ、三環系抗うつ薬は新しい抗うつ薬(SSRI、SNRI)と違って、目標とする神経伝達物質だけを増加させる事が出来ない為に抑うつを改善するうつ病の治療効果は高いのですが、副作用が他の抗うつ薬よりも出やすいといった特徴があります。

起こりやすい副作用としては、副交感神経系の化学物質であるアセチルコリンの働きを抑制する事によって生じる『抗コリン作用』と呼ばれるものです。

抗コリン作用の結果として、口渇・便秘・排尿障害・視力調節障害(かすみ目、眼精疲労)といった副作用が現れてくる事があります。他の副作用としては、眠気・脱力感・倦怠感といった中枢神経系の鎮静作用から生じる症状や起立性低血圧(めまい・立ちくらみ)などがあります。

三環系抗うつ薬に限らず抗うつ薬全般の特徴として『即効性がなく効果発現までに約2週間以上の時間がかかる。副作用は服用後すぐに現れてくるが、うつ病改善効果が現れるまでに時間がかかるので自己判断で服用を中止せず、医師と相談しながら辛抱強く服用を続ける必要がある』という事が言えます。

四環系抗うつ薬は、環状構造を持つ化学物質が4つ結合しているという化学構造的特徴から“四環系”抗うつ薬と呼ばれます。うつ状態の治療効果は三環系抗うつ薬よりも弱いとされますが、三環系よりも副作用が軽いので継続して飲みやすいという特長を持っています。

四環系抗うつ薬の作用機序は、三環系が神経細胞終末から放出された脳内モノアミンの再取り込みを阻害するのに対して、四環系は、α2受容体を遮断して脳内モノアミンの放出を促進する事で抗うつ作用を得るというものです。情報刺激が伝達されてきた神経細胞は脳内モノアミンを一定量放出すると、α2受容体という部分にモノアミンがくっつく事で放出を止めるようになっているのですが、四環系抗うつ薬は『モノアミンの放出抑制の信号』を出すα2受容体を遮断する事でモノアミンの放出量を増やすのです。

四環系にも抗コリン作用や眠気といった副作用はありますが、三環系よりも随分軽減されています。

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三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬に続いて開発された第三世代のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬;Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)の最大の特徴は、セロトニンだけを標的として再取り込みを阻害するので、抗コリン作用(口渇・便秘・排尿障害・眼圧上昇など)、抗ヒスタミン作用(眠気・脱力感など)、α1・α2受容体遮断作用(起立性低血圧など)による副作用が大幅に軽減され抑制されたという点にあります。

セロトニンに限定した神経伝達過程をスムーズに促進する事で抗うつ作用を発揮するので、安全性が高く継続して飲み易いという長所がありますが、抗うつ効果は三環系・四環系と比較するとやや弱いので、比較的軽度のうつ病の方の治療に用いられる事の多い薬です。

SSRIはうつ病以外の精神疾患の治療にも効果がある事が臨床的に確認されており、副作用が比較的弱いという以外に適応症が広いという特長も併せ持っています。SSRIはうつ病以外に、『パニック障害』『強迫性障害』『アルコール依存・薬物依存』『不安障害』『摂食障害』『肥満』などの心理的な疾患や障害に効果があるとされます。

SSRIは、三環系・四環系抗うつ薬に比して副作用が少なく安全性の高い薬ですが、全く副作用が無いわけではありません。飲み始めたばかりの時期に、一過性の吐き気や嘔吐、悪心といった消化器系の副作用が出現することがあります。この副作用は服用を継続すると、身体が薬に順応して馴染む事で軽減する事が多いと言われていますので、こういった副作用が現れた人は、医師に相談して今後の対応を決めていくと良いと思います。

他の副作用には、精神的機能への影響として不安感、焦燥感、神経過敏、不眠があり、性機能障害(性欲減退、勃起不全など)も報告されていますが、出現頻度はそれほど高くないようです。セロトニンの過剰蓄積によって起こるセロトニン症候群(意識障害、錯乱、発熱、ミオクロヌスと呼ばれる運動障害)を防ぐために、MAO阻害剤(現在は日本国内で薬剤として承認されていませんが)との併用は禁忌となっています。また、長期にSSRIを服用していて、突然服用を中断すると退薬症候群(離断症状)と呼ばれる一連の副作用(不眠・消化器系症状・吐き気・食欲不振など)が起こる可能性がありますので、服薬を中止する判断を勝手に下さず、医師の指示や判断を得てから段階的に服薬量を減らしていくことが大切です。

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬;Serotonin-Noradrenalin Reuptake Inhibitor)は、最も新しいタイプの第四世代の抗うつ薬で、SSRIのセロトニン再取り込み阻害作用に加えて、ノルアドレナリンの再取り込み阻害作用を併せ持ったお薬です。

SNRIは、SSRIよりも抗うつ効果が高く、薬の効き始めが早いという特長を持ち、副作用もSSRIと同程度に抑制されていますが、現在、日本国内で治療薬として承認されているのはトレドミン(塩酸ミルナシプラン)一種類だけとなっています。副作用は比較的弱いですが、口渇・便秘・吐き気・嘔吐・めまいなどの副作用が出ることもあり、副作用が全くないわけではないので医師の指示に従って適切な服薬を心掛けるようにしましょう。

抗うつ薬の一覧
グループ一般名商品名
三環系抗うつ薬(第一世代)
塩酸クロミプラミンアナフラニール
塩酸イミプラミントフラニール、イミドール他
塩酸ノルトリプチリンノリトレン
塩酸アミトリプチリントリプタノール他
塩酸トリミプラミンスルモンチール
三環系抗うつ薬(第二世代)
アモキサピンアモキサン
塩酸ロフェプラミンアンプリット
塩酸ドスレピンプロチアデン
四環系抗うつ薬(第二世代)
塩酸マプロチリンルジオミール
塩酸ミアンセリンテトラミド
マレイン酸セチプチリンテシプール
その他の第二世代抗うつ薬
塩酸トラゾドンレスリン、デジレル他
スルピリドドグマチール、アビリット、ミラドール他
炭酸リチウムリーマス他
SSRI(第三世代)
マレイン酸フルボキサミンデプロメール、ルボックス
塩酸パロキセチンパキシル
塩酸セルトラリンジェイゾロフト(2006年7月発売)
SNRI(第四世代)塩酸ミルナシプラントレドミン
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