抗てんかん薬は、てんかんの治療に使われるお薬です。
まず、初めに断っておかなければなりませんが、てんかんの治療薬には向精神薬が使われますが、てんかんは心の病気としての精神疾患ではなく、脳内の電気的な神経活動の障害を原因として起こる病気です。
てんかんの症状は、脳の神経細胞の間や神経細胞と身体の各細胞の間を流れる微小な電流が、突発的に強い電気的変化を起こし、その影響で脳の一部あるいは全体が異常に興奮する事で、痙攣(けいれん)発作・意識消失を起こす事が特徴です。
何故、てんかんの発作が起こるのかの原因については、詳細が明らかになっている訳ではありませんが、先天的な脳の構造的な問題による電気的な情報伝達の障害や後天的な脳損傷や障害、細菌感染、有毒な化学物質による汚染によって、てんかんの発作を起こしやすい脳の状態になると考えられています。
また、痙攣(けいれん)発作を一回~数回起こしても、頭部外傷や酸素欠乏、他の病気など種々の原因による一過性のけいれん発作の可能性があるので、てんかんと断定される訳ではありません。
継続的あるいは永続的に脳内の電気的な情報伝達の機能障害があり、不定期に突発的な強い電気刺激によっててんかん症状を現しやすい傾向がある場合にてんかんであるとされます。
てんかん症状は、大きく分類すると、意識がなくなる全般てんかんと、意識がなくならないか、意識消失があっても極軽微なものである部分てんかん・焦点発作とに分けられます。全般てんかんは、脳の神経細胞の電気的異常が脳の全体(もしくは両側半球)に及ぶ事で発生します。全般てんかんの発作症状には、全般性強直間代発作(全身けいれん発作・大発作)、欠神発作(小発作)、転倒発作、ミオクロニー発作、点頭けいれんがあります。
全般性強直間代発作とは、意識を消失して転倒し、短時間全身が硬直して固まって(強直)、その後断続的な(間代)身体のけいれんが始まる発作です。かなり激しいけいれんで、けいれんに付随する症状として、失禁や唾液が泡状となって流れたり、呼吸が短い時間停止したり、皮膚の色合いが青ざめるといった症状が出る事もあります。しかし、発作そのものは、次第にゆっくりと落ち着いてきて数分間で自然に収まります。また、意識回復後に、混乱して不安定な精神状態になったり、興奮を示すこともありますが、時間の経過と共に通常の意識状態に戻ります。
いずれにしても、けいれん発作が現れた場合には、神経科・脳神経科・脳神経外科・内科などの専門的な医学知識と経験を持った医師の診断と治療を受けることが必要です。欠神発作(小発作)とは、ごく短い時間、意識を消失する発作の事でけいれん発作はありません。
この発作は突然始まり、ごく短時間、運動や意識活動が停止して、一点を無意識にじーっと見つめたり、ぼんやりとした意識の空白状態が生まれたりします。極めて短い時間の意識消失なので、本人や周囲の人たちも気付かない事があります。思考や知覚などの精神機能は、発作終了と同時にすぐに回復します。
転倒発作とは、突然起こる発作によって、意識を短時間失い、姿勢を保持している筋肉の緊張が消失して、力が入らなくなり転倒してしまう発作の事です。ミオクロニー発作とは、突発する筋肉(ミオ)のけいれん(クローヌス)が現れる発作です。腕や足や頭部の筋肉が自分の意志とは無関係にけいれんして攣縮(れんしゅく)してしまい、激しいと転倒する可能性もあります。
点頭けいれんは、生後間もない赤ちゃんの時期に症状が始まることの多いけいれんです。不安そうな表情や恐怖を感じているような表情、泣き声を出したりして、前方にうんうんと頷くような形で首を律動的に動かします。また、仰向けに寝ている時に、両腕を前に出して硬直させたりといった身体の硬直性のけいれんとしても現れます。
もっとも危険なてんかんの症状としては、30分以上の長時間にわたる全身のけいれんが間断なく続いて反復し、意識が戻る前に更に次のけいれん発作が生じるてんかん重積症があり、時に、生命の危険もあります。この場合には、医師による速やかな医学的救急処置が必要です。部分てんかん・焦点発作とは、脳の限局された一部分(焦点)だけに電気的異常が見られ、その脳の部位に関連した機能のみが障害される発作です。
具体的には、その脳部位が制御している感覚・運動・思考・感情などに限定して症状が現れる事になります。部分てんかんには、脳のごく限られた部分だけに異常があり意識が保たれている単純部分発作と電気的異常のある範囲がある程度広くなり、意識障害が見られる複雑部分発作があります。
てんかん治療に使用される抗てんかん薬は、上述したてんかんの様々な症状を考慮して専門的な薬学知識に基づく処方がなされています。抗てんかん薬の場合には、全身けいれん発作に効果のあるフェニトインが欠神発作に効かなかったり、反対に欠神発作に有効なエトサクシミドが、全身けいれん発作には効かなかったりする為に、特に症状の種類に合わせた薬剤の使い分けが大切です。
抗てんかん薬の薬理機序は、完全に解明されていませんが、異常な興奮を示す神経細胞のみを直接抑制して効果を発現しているのではなく、異常に興奮している神経細胞の周囲にある正常な神経細胞の働きを抑えることで、異常な電気刺激(興奮)が他の正常な神経細胞に伝わらないようにしてけいれん発作や意識消失などの症状を改善し、または予防しています。
抗てんかん薬は、脳内の正常な神経細胞の活動も抑制するので、副作用として眠気やふらつきなどが出てくる事があります。てんかんを持つ方は、定期的な検診と医師による薬物治療が必要です。
一般名 | 商品名 | 適応症 |
---|---|---|
フェニトイン | アレビアチン、ヒダントール | 大発作・焦点発作 |
カルバマゼピン(抗精神病薬としても使用されます。) | テグレトール、テレスミン | 大発作・焦点発作 |
フェノバルビタール | フェノバール | 大発作・焦点発作 |
プリミドン | マイソリン | 大発作・焦点発作 |
バルプロ酸ナトリウム | セレニカR、デパケン、ハイセレニン | 大発作・欠神発作 |
エトサクシミド | ザロンチン、エピレオプチマル | 欠神発作 |
トリメタジオン | ミノ・アレビアチン | 欠神発作 |
ジアゼパムの静脈注射 | セルシン、ホリゾン | てんかん重積症 |
クロナゼパムの静脈注射 | リボトリール | てんかん重積症 |
ベンゾジアゼピン系薬物 | 各種のベンゾジアゼピン系鎮静薬 | 抗てんかん薬の補助的役割 |
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