ソリューション・フォーカスト・アプローチ(SFA)

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ソリューション・フォーカスト・アプローチと従来の問題解決技法の違い

心理学的知見に基づく問題解決志向のアプローチは、標準化された心理アセスメントの実施と効果的な心理療法(面接技法)の組み合わせによって計画的に行われてきた。現在でも、エビデンスベースドな臨床心理学を前提とするカウンセリングでは、問題(症状)の実際やクライエントの状態を的確に把握する為のアセスメント(心理査定)を行って、そのクライエントに適した理論や技法を選択するところから始める事が多い。

心理アセスメントを行う目的は、『クライエントの問題解決や症状改善を促進するカウンセリングの実施に必要な情報を集める事』である。クライエントの問題解決志向のカウンセリングに役立てる事を目的とするアセスメント(心理テスト・調査面接)だが、『臨床心理学の事例研究や統計調査のデータ蓄積』といった副次的な学術利用の部分も持っている。

心理アセスメント・心理評価尺度によって理解できるクライエントの情報は、以下のようなものである。

1.クライエントの問題・症状の種類と特徴

2.クライエントの心理状態と生活行動パターン

3.クライエントの人間関係と家族関係

4.クライエントの生活歴と家族歴、既往症

5.精神障害や発達障害の見立て(発症・経過・予後の予測)

6.問題解決と症状改善に適合した心理療法や対処方法の選択

7.クライエントの知的能力と人格特性
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ここで技法の概略と実際を説明するソリューション・フォーカスト・アプローチ(ソリューション・フォーカスト・セラピー)は、上述したような一般的な心理アセスメントによる問題解決を志向せず、クライエントの創造的な解決法の構築を志向するところに最大の特徴がある。ブリーフ・セラピーも、ソリューション・フォーカストな面接技法の一つであり、『問題の理解』ではなく『解決の構築』に焦点付けしていくカウンセリング技法である。つまり、クライエントの生活適応における問題点や性格傾向における欠点、精神医学的な疾患に注目する『減点法のカウンセリング』ではなく、今ある生活状況や精神状態からどのような解決法や可能性を見出せるかをクライエントに考えさせる『加点法のカウンセリング』なのである。

ソリューション・フォーカスト・アプローチでは、『クライエントの問題点・心身症状・不適応』といったマイナスの部分を取りあえず脇に置いて、『クライエントの可能性・潜在能力・成功体験』といったプラスの部分に関心を集めカウンセリングの話題の中心に置いていく。ソリューション・フォーカスト・アプローチの基本的人間観は、カウンセリングという対人援助技術の原形を構築したカール・ロジャーズの自己理論に準拠していると考える事も出来る。カール・ロジャーズやアブラハム・マズローらが分類されるヒューマニスティック心理学は、人間は生まれながらに良い特性を持っているとする性善説を基盤にしている。性善説に基づくヒューマニスティック心理学では、人間には、自然に心身の健康を回復する力や問題を解決する能力、更には道徳的な善を実現したりする能力が生得的に備わっていると考える。

カール・ロジャーズは、共感的な人間関係と受容的な生活環境があれば、人間はありのままの自分を表現して幸福な人生を送る事が出来るという楽観主義と肯定感覚に満ちた人間観を持っていた。人間は潜在的に『健康・成長・発展・解決に向かう本性』を持っていると考え、これを実現傾向とロジャーズは呼んだ。

スティーブ・ディ・シェイザーインスー・キム・バーグらによって研究されたソリューション・フォーカスト・アプローチも、ヒューマニスティック心理学が規定する人間の本来的な実現傾向や自己回復能力など内的資源の存在を前提としている。20世紀後半から心理臨床技法の中心となってきたエビデンス・ベースドな認知療法や構造化された面接技法は、問題の因果関係や性質・特性を調査して理解すれば適切な標準的対処が出来るという科学的な医学モデルを前提としている。認知行動療法を典型とする問題解決アプローチは、問題の因果関係と症状の形成機序をより良く理解して、原因を除去したり症状を緩和しようとする心理学的アプローチである。

ソリューション・フォーカスト・アプローチでは、精神病理学(異常心理学)で研究調査する精神疾患や問題行動の知見を面接場面で利用せず、『診断的(分析的)な眼差し』を持ってクライエントと向き合うことがないのが大きな特徴である。クライエントの主体性や自立性によって自然な問題解決能力を活性化させようとするソリューション・フォーカスト・アプローチでは、精神障害の分類や治療といった精神医学的な方法論を採用せず、問題状況の査定や分析といった因果関係の解明を重視しないのである。

問題解決アプローチと解決構築アプローチの特徴と差異

カウンセラー主導の問題解決アプローチの特徴

クライエント主導の解決構築アプローチの特徴

アカデミックな臨床心理学の研究と実践に代表される問題解決アプローチとブリーフ・セラピーなどソリューション・フォカーストな技法に代表される解決構築アプローチのどちらが効果的であるかという問いかけに対して単一の正しい回答というものは存在しない。

どちらがより優れた介入法なのか、どちらがより適切なアプローチなのかは、クライエントの自我の強度(カウンセリングへの積極性・参加意欲・自発性)や面接場面への期待によって異なってくるし、クライエントの抱えている問題の特徴や症状の深刻度によっても違ってくる。一般的に、ソリューション・フォーカスト・アプローチな面接技法が最も高い効果と実力を発揮するのは、精神障害や異常心理の問題ではなく、生活環境への不適応や人間関係の問題、人生全般の悩みの領域である。

即ち、多種多様な生活行動上の問題、恋愛や結婚・離婚に関する悩み、育児や親子関係に対する心配、就職や失業にまつわる葛藤、学校や職場での人間関係の問題、生きる意味や価値の探求といった『一般性の高い心理学的問題』『人生全般の進路や過程で生じてくる苦悩や葛藤』に対してソリューション・フォーカスト・アプローチは高いパフォーマンスを発揮することが出来るのである。

カウンセラーの専門性と体系化された手続きと介入によって特徴づけられる『問題解決アプローチ』は、どちらかというと症状改善的な心理療法に適しているアプローチといえ、カウンセラーとクライエントの良好な人間関係や長所・利点に注目したコミュニケーションに特徴づけられる『解決構築アプローチ』は、どちらかというと一般的な生活適応や人間関係についての心理相談に適したアプローチといえるが、双方共に例外は多くある。

一般にイメージされているカウンセリングのイメージに近いのはソリューション・フォーカスト・アプローチであり、医療分野における心理療法のイメージに近いのが標準化された問題解決アプローチだと考えると分かりやすい。問題解決アプローチは、問題をより良く理解してこそより効率的に問題を解決できるという科学的な因果関係の前提を持つので、現在、優勢で説得力のある精神病理学や心理療法理論の知見の影響を強く受ける。

その意味において、臨床心理学的な問題解決アプローチは、一般理論や普遍法則を個々の事例に当てはめるという『演繹的なアプローチ』の側面を持つ。反対に、カウンセリング学的な解決構築アプローチは、個々の面接事例におけるダイナミックな効果を観察して、その都度利用していこうとする『帰納的なアプローチ』の側面を持っている。しかし、心理学的アプローチの完成度と有効性を高めていく為には、どちらのアプローチを採用するにしても、演繹法と帰納法の科学的思考をバランス良く行っていかなければならないだろう。

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