認知療法・認知理論に関係する心理評価尺度

このウェブページでは、『認知療法に関係する各種評価尺度』の用語解説をしています。

うつ病の認知療法における認知(考え方)の評価尺度

パニック障害・強迫性障害の認知療法における認知(考え方)の評価尺度


うつ病の認知療法における認知(考え方)の評価尺度

アメリカの精神科医アーロン・ベックが開発したうつ病の認知療法は『抑うつスキーマ仮説』が基盤となっているが、その抑うつスキーマ仮説では、うつ病の精神症状・身体症状は『自動思考・体系的な推論の誤り・抑うつスキーマ』の3つのレベルによって形成されると考えられている。

“自動思考”というのは、何もしなくても頭の中に自動的に浮かび上がってくる考えである。“体系的な推論の誤り”とは、うつ病の気分・感情の悪化を導くような『ネガティブで自己否定的(非論理的)な推論・解釈』のことであり『認知の歪み』と呼ばれることもある。“抑うつスキーマ”とは、無意識領域にある認知の根本的な枠組みのことであり、この抑うつスキーマの理論的枠組みがあることによってうつ病の発症リスクが高まると考えられている。

認知療法では、『自動思考・体系的な推論の誤り・抑うつスキーマ』の認知の歪みの傾向を査定するための評価尺度が作成されている。“自動思考”の内容・影響を査定するための評価尺度には以下のようなものがある。

CCL(認知チェックリスト:Cognition Check-List)

クランデル認知質問紙(CCI:Crandell Cognitions Inventory)

自動思考質問紙(ATQ:Automatic Thoughts Questionnaire)

自己言語化質問紙(SVQ:Self-Verbalization Questionnaire)

“体系的な推論の誤り”の内容・影響を査定するための評価尺度は少ないが、日本の丹野らが作成した『TES(Thinking Errors Scale)』がある。

“抑うつスキーマ”の内容・影響を査定するための評価尺度も少ないが、うつ病の再発リスクの予見・予防や心理療法の効果測定に有効なA.N.ウェイスマン『DAS(非機能的態度尺度:Dysfunctional Attitude Scale)』というものがある。

アルバート・エリスが創始した論理情動行動療法(REBT)において、気分・感情を悪化させる原因となる非合理的信念を測定するために開発された評価尺度が、R.G.ジョーンズ『IBT(Irrational Beliefs Test)』であり、日本語版の『JIBT(Japanese Irrational Beliefs Test)』という尺度も作成されている。

パニック障害・強迫性障害の認知療法における認知(考え方)の評価尺度

パニック障害(panic disorder)の症状形成メカニズムを説明する認知理論では、些細な体調・身体感覚の変化を『破滅的・破局的に解釈する信念』があり、この信念がパニック障害を発症しやすくする『不安感受性』を引き起こすとされている。

『身体感覚の違和感』を破滅的(破局的)に解釈することで不安感が強まるが、その不安感が更に身体感覚の違和感を強めていってもっと不安になってしまうといった『悪循環』が繰り返されやすくなり、その悪循環が耐久力の限界に達した時に『パニック発作(恐慌発作)』が起こると考えられる。

電車・バスなどの公共交通機関では特に『パニック発作が起きるかもしれない・パニック発作が起きたらどうしたらいいのだろう』といった“予期不安”が強まりやすい傾向がある。この予期不安を気にすれば気にするほど身体の違和感も強まっていき、最終的には自分の予期不安と身体の違和感の悪循環によって本当にパニック発作が起きてしまうのである。

パニック障害と併発しやすい疾患として『広場恐怖』というものがあるが、公共の広い空間に出かけることができない広場恐怖とは、誰にもすぐに助けを求めることができないとか衆人環視の中でパニック発作が起きたら恥ずかしいとかいうネガティブな認知との関係が深いと考えられている精神疾患である。

パニック障害の発症リスクを高める『不安感受性』を査定するための評価尺度が、『ASI(Anxiety Sensitivity Index)』と呼ばれるものである。ASIは信頼性・内的整合性が高いパニック障害の心理テストであり、16個の質問項目(5件法)から構成されていて、『認知症状への恐怖』『人前での発症への恐怖』『循環器・呼吸器・消化器の異常への恐怖』『振るえと気絶への恐怖』という4つの因子が含まれている。一般的に、重症のパニック障害には『死と発狂の恐怖』が伴っていることが多い。

強迫性障害(OCD:Obsessive-Compulsive Disorder)の症状形成メカニズムを説明する認知理論として、P.M.サルコフスキスの強迫性障害の認知理論がある。強迫性障害とは『強迫観念(繰り返し執拗に発生するバカバカしい考え・不快な感情)』『強迫行為(やめたくてもやめられない確認行為・潔癖さ・儀式的行為)』によって構成される精神疾患であり、無意味でバカバカしいと思っている思考や行動に生活行動(一日の時間)の多くを支配されることで強い苦痛・ストレスを感じやすくなる。

P.M.サルコフスキスは、強迫性障害で繰り返し湧き起こってくる無意味な強迫観念のことを『侵入思考』と呼んだが、この頭の中に自動的に入り込んでくる侵入思考は『自我異質的』であるため不快感や苦痛、煩わしさの原因となりやすい。S.J.ラックマンの研究によると、この侵入思考そのものは健常者でも約8割が経験したことのあるありふれた経験であり、大半の人は侵入思考が起こっても短時間で消えたり忘れたりするのだという。C.パードンは更に、『健常者の99%以上が今までの人生で、最低1つは侵入思考の経験をしたことがある』と述べている。

侵入思考が強迫性障害の原因になってしまう人には、『生得的な強迫性スキーマ』の存在が仮定されており、この強迫性スキーマは『自己非難・完全主義・自己コントロールの過剰・自責感』といったネガティブな自分自身を苦しめるような特性を持っている。

強迫性スキーマがあると侵入思考の存在を恥ずかしく思って自分を否定したり責めたりしやすくなるが、この『自己否定的な自動思考』が生み出す苦痛を緩和するために『完全主義的な強迫行為』が行われやすくなるのである。自己否定的な自動思考の苦痛や違和感を改善するために、強迫観念を弱めるための思考抑制も起こるが、無理矢理に強迫観念・強迫行為を押さえ込もうとすると『副作用としての侵入思考』が起こる頻度が高まってしまう。

強迫観念としての侵入思考の内容・頻度・影響を測定する評価尺度として、C.パードンらが作成した『OII(Obsessional Intrusions Inventory)』がある。強迫観念を弱めようとする思考の抑制を査定するための尺度としては、『WBSI(White Bear Suppression Inventory)』がある。強迫性スキーマの特徴・影響を査定する尺度の開発を担当しているグループとして『OCCWG(Obsessive Compulsive Cognitions Working Group)』が知られている。

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