犯罪心理学の犯罪原因論2:性格特徴・人格構造の要因

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犯罪の原因としての性格要因:A.マズローの欲求階層説

犯罪の原因としての性格要因:シュナイダーの精神病質


犯罪の原因としての性格要因:A.マズローの欲求階層説

犯罪行動の原因として性格特性(人格構造)や知能水準を想定する仮説は19世紀以前からある。遺伝的な知能水準の低さが『判断能力の低さ・社会適応の悪さからの犯罪』につながると考えたのは、カリカック家の犯罪の家系研究で知られるH.H.ゴダード(H.H.Goddard)であった。ゴダードは少年院に収容された非行少年の知能指数を検査して、平均的にその半数が『精神薄弱・精神遅滞(知的障害)』であり、知能が低ければ既存社会に適応できずに非行・犯罪に走りやすくなるという仮説を提唱した。

ゴダードは家系研究の影響もあって、『知能の遺伝性=同じ家族から出る犯罪者の多さ』に着目したが、現在では知能が家系で遺伝するという仮説は否定されており、ゴダードが調べた少年院での知的障害の比率も誤りであったことが分かっている。現在の犯罪学では、少年院に収容されている非行少年の平均的な知能指数は、一般の同世代の子たちよりも低いが、明確な知的障害に分類されるほど先天的に知能指数が低い(IQ50~75以下)わけではなく、勉強嫌いや学校適応の悪さ、不良仲間との交遊などが知能指数を実際よりも落としてしまっている可能性も想定されている。

成人になると、明確な知的障害のある累犯者が多くなる一方で、犯罪者と一般人の間での知能指数の有意な差は殆ど見られなくなる。現代の先進国では、児童期から知的障害児・発達障害児の発育を支援するための『特別支援学級』が普及したり、知的障害者や発達障害者の就労・生活を支援するための『社会福祉制度(就労支援・自立支援・公的扶助)』が充実しているので、かつてと比べて知能が低いから発達に偏りがあるから、社会に適応できずに犯罪に走るしかなくなるという事例が減少傾向にあるとも言われる。

イギリスの心理学者ハンス・アイゼンク(Hans Jurgen Eysenck, 1916-1997)は、犯罪者の遺伝的な性格特性としての『外向性・行動力・道徳性の欠如・社会化の困難』が犯罪につながると仮定して、犯罪者は生まれながらの遺伝的性格要因によって『社会化・道徳化するための学習(条件づけ)』が成立しづらいと考えていた。

犯罪の性格的要因としては、『欲求不満に対する耐性・適応』がないから、自分の満たされない欲求を反社会的・非合法的な手段で何とか満たそうとして犯罪を犯してしまうという『フラストレーション(欲求不満)‐攻撃仮説』に注目した考え方もある。アブラハム・マズロー(A.H.Maslow, 1908-1970)のよく知られた『欲求階層説』と照らし合わせて、それぞれの欲求を満たそうとする反社会的・非合法的な手段や行動を考えてみると、『犯罪の動機・目的』が見えやすくなることがある。

生理学的・本能的な欲求……生命維持に必要な食欲・睡眠欲などの基本的欲求。食べ物を食べたい欲求が満たされなければ、窃盗などの犯罪を起こしやすくなる。

安全・安心の欲求……危険(脅威)を回避して安全な生活や安心できる環境を守りたいという欲求。自分と敵対している相手を先制攻撃で傷つけたり、自分に不安・威圧を与えている相手を脅迫したりする犯罪を犯しやすくなる。

所属・愛情の欲求……集団に所属して自分の役割・居場所を見出したい、他者や集団に愛されたいという欲求。学校や家庭に居場所を見つけられない子供がひきこもりになったり非行に走りやすくなったりする事は多い。自分が好きな相手から愛されないことを不満に思って、ストーカー化したり殺傷事件を起こしてしまうようなケースもある。

承認欲求……他者に自分の行動や存在価値を承認(賞賛・評価)されたいと思う欲求。合法的な手段では他人に注目されず認められないことを不満に思い、派手な劇場型犯罪やマスメディアを騒がせる愉快犯(飲食物への異物混入など)・凶悪犯罪を行うことで、自分の歪んだ承認欲求(過剰な承認欲求)を満たそうとすることがある。

自己実現欲求……潜在的な可能性や本来の自己を開発して、自分の存在価値(表現欲求・社会への関与)を実現するような欲求。自分の才能・知識・可能性を駆使して今までにない完全犯罪や異常犯罪(テロリズム)を計画するなど、犯罪そのものを芸術化(ゲーム化)したり自己目的化したりする特殊な犯罪が実行されるケースがある。

犯罪の原因としての性格要因:シュナイダーの精神病質

ドイツの精神科医・精神医学者のクルト・シュナイダーは、以下のように『10種類の精神病質(異常性格)』を類型化して、サイコパス(精神病質)を精神病ではなくパーソナリティー障害(人格障害)に似たカテゴリーで取り扱おうとした。

シュナイダーは、この10種類の精神病質(異常性格)の特徴に当てはまっている人は犯罪を犯しやすいとしたが、大まかな性格の特徴を示しただけで、その症状(特徴)の程度がどのくらいであれば犯罪を犯しやすいのかまでは具体的に定義できなかった。冷淡・残酷で共感性が乏しい性格として、猟奇的犯罪を起こしやすい性格として、『情性欠如型』をサイコパスに近い異常性格の類型と捉えていた。

判断力の低さや浮かれた気分で軽犯罪を起こしやすいものとして『発揚型』、強迫的な苦悩や拘束感によって犯罪に走りやすいものとして『自己不確実型』、自分の怒りや衝動を抑制できずに暴力を振るって傷害事件などを起こしやすいものとして『爆発型』、自分の価値や能力を社会に認めさせようとして目立つ犯罪に駆り立てられるものとして『自己顕示型』を想定していた。『意思薄弱型(意思欠如型)』は、悪い仲間に誘われると断れずに、一緒に犯罪をしてしまいやすい優柔不断な流される性格である。

1.発揚型……明るくて快活、行動力があるが、軽躁的なハイテンションになりやすく、浮かれやすいという意味で軽薄かつ思慮の浅い性格。

2.抑うつ型……自己否定的で自分に自信が持てず、物事を悲観的に捉えることで、抑うつ感・絶望感に襲われやすい性格。

3.自己不確実型……自分の行動や存在に対して確信を持てず、日常の小さな問題や悩みに捕われて不安になってしまう性格(=敏感型の自己不確実者)。自分の定めた習慣や社会的な規則に強迫的に従ってしまい、自由な行動ができなくなってしまう性格(=強迫型の自己不確実者)。

4.狂信型……単一の理想や価値観、特定の人物などを狂信してしまい、絶対的なものとして賞賛したり、それに反する人・考えを排除しようとする柔軟さのない性格。

5.自己顕示型……優れた人物として尊敬・注目を集めたいという自己顕示欲が強く、その顕示欲を満たすために他人を利用したりヒステリックに取り乱したりすることのある性格。

6.気分易変型……気分が安定しておらず、高揚感を感じてハイになる時と抑うつ感を感じて落ち込む時をくるくると繰り返しやすい性格。

7.爆発型……自分の衝動や怒りを抑えきれず、感情を爆発させて他人と喧嘩するような短気さと暴力性を持つ性格。

8.情性欠如型……感情表現が乏しくて、他者に共感できず冷淡なところが目立ち、親密な人間関係を作ることも苦手なので、主観的幸福の実感が乏しいとされる性格。

9.意志薄弱型(意志欠如型)……自分自身の主張や欲求がはっきりせず、周囲の空気に流されやすく、他人からの誘惑・勧誘に簡単に乗ってしまう性格。

10.無力型……行動力・活発性が乏しく、心気症的な病気の不安を持っている。物事に対する意欲・興味が弱くて無力感を抱えている性格。

一般的に犯罪者に多い性格特徴として上げられるのは、『自己中心性(他者への想像力の欠如)・攻撃性(他者への怒りがすぐに暴力となる)・感情易変性(気分の浮き沈みが激しく不安定)・冷酷性(他者の苦痛や恐怖、懇願に共感しない)』などである。しかし、こういった犯罪者に多いとされる性格特徴には、わがままで自己中心的だから自己中心的、殴って暴れて暴力的だから暴力的、他人が恐怖を訴えているのに無視して殺したという冷淡さがあるから冷淡な性格といった『同語反復(トートロジー)』になってしまっている可能性もある。

犯罪の原因となる性格特性としてゴッドフレッドソンら(Gottfredson et al, 1990)が重視しているのは、自分の欲求・衝動・行動を適応的に統制することができないという『自己統制の低さ(lost of self-control)』であり、自己統制が低いことによって『間違った行動選択(犯罪行為の選択)』をすることになってしまうのだと予測した。自己統制の低さだけではなく、社会や他者に対する不信感が強かったり過去のトラウマ(心的外傷)があったりして、他者の行動や社会の対応を自分に対する悪意ある攻撃として解釈してしまう『認知の歪み』『パラノイア(偏執狂)的な被害妄想』も犯罪の要因になるというスワンソンの犯罪研究もある。

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